Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

Fp が p の倍数であるような素数 p の決定問題 (2)  完全証明

Fibonacci 数列の第 𝒑 項が 𝒑 の倍数に成るような素数 𝒑 は 5 のみに限る.

この連続記事では以下を目標として記します.

  • \ {\rm mod}\ p\ や, 更に複雑な剰余の世界において分数や累乗, 平方根などの概念を定義し, Fibonacci 数列の一般項を整数論的に応用する.



前提知識

合同式, フィボナッチ (Fibonacci) 数列の一般項, 多項式の割り算, 二項定理など



(1) の記事 :

Fp が p の倍数であるような素数 p の決定問題 (1) 部分的解決 - Arithmetica 算術ノート







振りかえり

前回の記事において「\ F_p\ 素数\ p\ の倍数に成るのはどのようなときか. 」という問を立てるところから始めて, 「任意の\ p\neq5\ に対し\ F_{p+1}\ \ F_{p-1}\ の内少なくとも一方は\ p\ で割り切れるであろう. 」と予想し, 方程式\ \overline{x}^2=\overline{5}\ \ {\rm mod}\ p\ において解を持つような\ p\ についてのみ証明を与えました. \ \overline{x}^2=\overline{5}\ なる\ \overline{x}\ が存在しない場合の証明は諦めていましたが, 今回では, 別の剰余の世界に目を向けることによって, \ \overline{x}^2=\overline{5}\ の解が存在しない場合の証明をしようと思います. そのため, 以降では, \ p\ と書けば


方程式\ \overline{x}^2=\overline{5}\ \ {\rm mod}\ p\ において解を持たないような素数\ p\


を表すものとします.


では, 前回の議論の中で, 最も解決を阻んでいたと考えられる要因は何なのでしょう. それは, 紛れもなく\ 5\ 平方根\ \overline{\sqrt{5}}\ の扱いに在ります. 確かに, 一般項の構成のさいに\ \sqrt{5}\ の代役となる剰余を探すためには, 通常の\ \sqrt{5}\ と全く同様の定義を用いる必要が有りました. 所が, \ {\rm mod}\ p\ の世界においては, \ p\ の値によっては\ \overline{x}^2=\overline{5}\ となる\ \overline{x}\ が存在しない状況が生じてしまい, 単純な議論のみで解決することができなかったのです.


そこで今回の証明では, 整数の剰余の世界とは一風変わった, 別の剰余の世界において議論を進めていきたいと思います.

考えるべき問題が「\ p\ で割り切れるか否か」という問であることは変わりませんので, 新たに考える世界においても\ p\ の倍数が特別な扱いを受けることは全く同じであり, 従って剰余の構造を持っていると都合が良いのです.


問題は\ \sqrt{5}\ の代役として働く概念\ X\ をどのように定義するかということですが, 先ず, \ \sqrt{5}\ と同様に\ X^2=(5\ \mbox{に対応する数}\ )\ を充たしている必要があります. 言いかえれば, \begin{align}X^2-(5\ \mbox{に対応する数}\ ) \end{align} は零と同等なものとして認識されなければ成りません. 更に, \ X^2-(5\ \mbox{に対応する数}\ )\ に何かを掛けた積の値も, 零と同等なものに成っているはずです.


このような都合の良い\ X\ を有する世界を定義したいのですが, 新しい数の世界を定義して, その上で条件を満たす\ X\ を見つけようとしても, 前回のように上手く定義できないケース(成りたっていて欲しい条件を充たすものが存在しない状況)が生じえます. そこで, 定義が難しいであろう\ X\ を先ず置いておき, その\ X\ を基盤として新しい世界を考えるという順序に切りかえ, \ X^2-(5\ \mbox{に対応する数}\ )\ が零の役目を果たすような, \ X\ と新しい剰余構造とを探します. では, 数の全体集合が定まっていない状態で, \ X\ をどのように扱えば良いのでしょうか......



整数係数多項式の割り算

そこで, 以下では存在\ X\ を二乗すると\ 5\ になる「よくわからないもの」として扱います.


今回の解法では, 多項式をある多項式で割った剰余を利用します. 具体的には, 変数不定\ X\ を取り, それぞれの多項式\ X^2-\overline{5}\ で割った余りを扱う, \ {\rm mod}\ X^2-\overline{5}\ の世界です. 実際, \ {\rm mod}\ X^2-\overline{5}\ における合同式では, \begin{align} X^2=(X^2-\overline{5})+\overline{5}\equiv\overline{5}\\ \end{align} であるので, 確かに変数\ X\ \ \sqrt{5}\ に見たてることができます. 多項式を定義する際は, それが整数係数なのか, 実数係数なのか, 係数の集合を明示しなければなりませんが, 今後「\ p\ の倍数か否か」を判定するに当たり\ p\ の倍数は特別な扱いを受けている方が解りやすいので, ここでは「法\ p\ の剰余」係数の多項式を使います (先ほどから数字に上線を付しているのはそのため). 二次式\ X^2-\overline{5}\ で割った余りを見ているので, この世界に登場するあらゆる多項式は, 何らかの一次式か定数で表すことができます. 例えば, \begin{align} X^3+X^2+X+\overline{1}&=(X+\overline{1})(X^2-\overline{5})+\overline{6}X+\overline{6}\\&\equiv\overline{6}X+\overline{6}\ \ ({\rm mod}\ ???)\\ X^8=(X^2)^4&\equiv\overline{5}^4\equiv\overline{625}\ \ ({\rm mod}\ ???) \end{align} といった具合です. この多項式の剰余の世界を記号で\ {\rm mod}\ p,X^2-\overline{5}\ と書きあらわすことにします. 整数に\ \mathrm{mod}\ p\ を使った上で, 変数\ X\ を添加し, 更に\ \mathrm{mod}\ X^2-\overline{5}\ を取ったということです.

一般的な表記ではありません. \ {\rm mod}\ p,X^2-\overline{5}\ の世界は, 剰余環の記号で表せば\ K=\mathbb{F}_p[X]/(X^2-\overline{5})\ \ (\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})\ で, 後に説明するように, 最初の\ p\ に関する仮定によって\ K\ は体に成ります. 故に\ \mathbb{F}_p\ の拡大体です.

具体例を挙げると, \ p=3\ のとき \begin{align} &\overline{3}X+\overline{1}\equiv\overline{0}X+\overline{1}\equiv\overline{1}\ \ ({\rm mod}\ 3,X^2-\overline{5})\\&X^2-X-\overline{1}\equiv -X+\overline{4}\equiv\overline{2}X+\overline{1}\ \ ({\rm mod}\ 3,X^2-\overline{5}) \end{align} が成りたちます.


前回と同様, 多項式\ f(X)\ \ {\rm mod}\ p,X^2-\overline{5}\ で還元したものを\ \overline{f(X)}\ と表すことにします. 例えば\ {\rm mod}\ 3,X^2-\overline{5}\ において上の式を書きかえると \begin{align} \overline{X}^2-\overline{X}-\overline{1}=-\overline{X}+\overline{4}=\overline{2}\times\overline{X}+\overline{1} \end{align} と成ります. \ {\rm mod}\ p,X^2-\overline{5}\ においても通常の合同式と同じように, 還元をしても, もとの加法や乗法の計算は保持されることが証明できます.



「体」の拡大

先ほども述べたように, \ X^2-\overline{5}\ で割った余りの世界では, あらゆる多項式が何らかの一次式か定数かに表されます. 変数\ X\ の導入によって, 議論の舞台であるところの代数構造 (集合とその上の加法, 乗法の組) は \begin{align} \left\{\overline{aX+b}\mid \overline{a},\overline{b}\mbox{は (前回の) 剰余の世界の元}\right\},\ +,\ \times \end{align} という環境に「拡大」されたということです. 更に, \ \overline{X}^2\ \ \overline{5}\ に等しいことから, (仮に分数が定義されたとすると) 次のような計算ができます. \begin{align} \frac{\overline{1}}{\overline{aX+b}}&=\frac{\overline{aX-b}}{\overline{a^2X^2-b^2}}\\ &=\frac{\overline{aX-b}}{\overline{5a^2-b^2}}\\ &=\frac{\overline{a}}{\overline{5a^2-b^2}}\overline{X}+\frac{\overline{b}}{\overline{5a^2-b^2}} \end{align} ここで, 単なる\ {\rm mod}\ p\ での剰余, 今回で言う所の「定数」どうしの割り算は前回の記事で定義していたので, 上式の右辺は左辺と違って計算が可能な剰余です. 由って\ K\ にゼロ除算以外の割り算が導入できます. このように加減乗除の計算を行える規則を持った集合は体 (たい, field) と呼ばれ, ある体から, それを含む体を得ることを体の拡大と言います.

定義 2.1 \ {\rm mod}\ p,X^2-\overline{5}\ \ \overline{0}\ に等しくない剰余\ \overline{aX+b}\ に対して, その逆数を \begin{align} \frac{\overline{1}}{\overline{aX+b}}=\frac{\overline{a}}{\overline{5a^2-b^2}}X+\frac{\overline{b}}{\overline{5a^2-b^2}} \end{align} と定義し, より一般の分数は \begin{align} \frac{\overline{cX+d}}{\overline{aX+b}}=\overline{cX+d}\times\frac{\overline{1}}{\overline{aX+b}} \end{align} と考える.

ここで, 逆数の定義式の分母に現れている定数\ \overline{5a^2-b^2}\ が零に成ることを危惧されるかも知れませんが, それは有り得ません. これを確認するために, 若し \begin{align} 5a^2-b^2\equiv0\ \ ({\rm mod}\ p) \end{align} の方程式が解を持つとすれば, と考えてみましょう. \ a,b\ の内何れか一方でも\ 0\ と合同であれば他方も零に合同であるので, そのとき\ \overline{aX+b}\ が零でないという仮定に矛盾します. 故に\ a\ \ b\ も零と合同ではなく, 前回の議論から\ \mathrm{mod}\ p\ において\ a\ の「逆数」に相当する役割を持つ整数\ a'\ が存在するので, \begin{align} 5\equiv(ba')^2\ \ ({\rm mod}\ p) \end{align} の式が出来ます. これは, \ p\ を「方程式\ \overline{x}^2=\overline{5}\ \ {\rm mod}\ p\ において解を持たないような素数」としていた前提によって, 不成立であることが言えるので, 分母が零であるとした仮定は誤りです. 故に上記の定義はしっかりと「未定義の記号を今在るもので言いかえる」役割を果たしていることが判ります. 少しややこしいですが, これで定義の正当化が完了しました.

前回の議論における分数の正当化では, \ p\ 素数で, これ以上割れないことを用いて「逆数」に相当する剰余が唯だ一つ存在することを証明していました. 今回の議論も少し別の視点から見れば, \ X^2-\overline{5}\ \ {\rm mod}\ p\ で解を持たず, これ以上因数分解できない (既約である) 多項式であることが効いていたと考えることもできます.





一般項の構成



代役

分数および平方根の問題は既に解消しましたので, \ F_n\ の代わりをするような剰余の列を構成することができます.

定義 2.2 \ {\rm mod}\ p\ において\ \overline{x}^2=\overline{5}\ が解を持たないような素数\ p\ に対し, \ {\rm mod}\ p,X^2-\overline{5}\ 上の数列 (剰余列) \ \{\overline{f_n}\}\ を \begin{align} &\overline{\alpha}=\frac{\overline{1+X}}{\overline{2}},\ \overline{\beta}=\frac{\overline{1-X}}{\overline{2}},\\ &\overline{f_n}=\frac{\overline{\alpha}^n-\overline{\beta}^n}{\overline{X}} \end{align} によって定義する.

前回と同様にして, この\ \overline{f_n}\ \ F_n\ を還元したものに等しいことが証明できます.





累乗

続いては累乗の処理についてです. \ {\rm mod}\ p\ を取っていたので, 次のように\ (\overline{a}+\overline{b})^p\ を展開することができます.

命題 2.3 あらゆる整数係数の多項式(定数でも構わない)\ a,b\ に対し,  \ {\rm mod}\ p\ において\ (\overline{a}+\overline{b})^p=\overline{a}^p+\overline{b}^p\ \  が成りたつ.

証明. 二項定理を用いて展開すると \begin{align} (\overline{a}+\overline{b})^p=\sum_{i=0}^p\overline{\binom{p}{i}}\times\overline{a}^i\times\overline{b}^{p-i}\\ \left(\binom{p}{i}=\frac{p!}{i!(p-i)!}\right). \end{align} ここで, \ 1\le i\le p-1\ のとき\ \dfrac{p!}{i!(p-i)!}\ の分子の\ p\ は約分されずに残り, \ \dbinom{p}{i}\ \ p\ の倍数と成るので, \ i=0,\ p\ 以外の項は全て\ \overline{0}\ に簡約され, 右辺には\ \overline{a}^p+\overline{b}^p\ のみが留まる.

\Box


もう一つ, 次の補題を用意しておきます.

補題 2.4 \ {\rm mod}\ p,X^2-\overline{5}\ において, 方程式\ \overline{t}^p=\overline{t}\ は丁度\ p\ 個の解を持ち, それらは全て定数である.

証明. \ p\ 素数としていたから, 前回の記事にて証明した Fermat の小定理により, \ p\ 個の定数 \begin{align} \overline{0},\ \overline{1},\ \overline{2},\ \ldots,\ \overline{p-1} \end{align}は\ \overline{t}^p=\overline{t}\ の解である.

Fermat の小定理は, \ {\rm mod}\ p\ \ \overline{0}\ でない剰余\ \overline{a}\ が \begin{align} \overline{a}^{p-1}=\overline{1} \end{align} を充たすことを主張するものでした.

今考えている代数構造\ K\ は体であって割り算を行うことができ, 複素数の成す体での多項式 (複素数係数の多項式) と同様, 因数定理が成立する. 故に \begin{align} \overline{t}^p-\overline{t}=\overline{t}(\overline{t}-\overline{1})\cdots(\overline{t}-\overline{p-1}) \end{align} であるから, 方程式の解はこれらの\ p\ 個で尽くされている.

\Box


以上の二つを用いれば, 一般項の類似式に現れていた定数でない剰余 \begin{align} \overline{\alpha}=\frac{\overline{1+X}}{\overline{2}},\ \overline{\beta}=\frac{\overline{1-X}}{\overline{2}} \end{align} の累乗を計算することができます. それが次の命題です.

補題 2.5 \ {\rm mod}\ p,X^2-\overline{5}\ において, \ \overline{\alpha}^{p}=\overline{\beta}\ かつ\ \overline{\beta}^p=\overline{\alpha}\ が成りたつ.

証明. 上記の\ \overline{\alpha},\overline{\beta}\ 二次方程式\ \overline{x}^2-\overline{x}-\overline{1}=\overline{0}\ の解であることを警告する. 補題 2.3 を用いて \begin{align} &\left(\overline{\alpha}^2\right)^p+(-\overline{\alpha})^p+(-\overline{1})^p=(\overline{\alpha}^2-\overline{\alpha}-\overline{1})^p=\overline{0},\\ &\left(\overline{\beta}^2\right)^p+(-\overline{\beta})^p+(-\overline{1})^p=(\overline{\beta}^2-\overline{\beta}-\overline{1})^p=\overline{0} \end{align} あるいは \begin{align} &(\overline\alpha^p)^2-\overline\alpha^p-\overline1=\overline0,\\ &(\overline\beta^p)^2-\overline\beta^p-\overline1=\overline0 \end{align} が成立することが判る*1ので, \ \overline{\alpha},\overline{\beta},\overline{\alpha}^p,\overline{\beta}^p\ は全て \begin{align} \overline{x}^2-\overline{x}-\overline{1}=\overline{0} \end{align} の解である. 所が, 二次方程式の解は二個以下あるので, \ \overline{\alpha}^p,\overline{\beta}^p\ はそれぞれ\ \overline{\alpha},\overline{\beta}\ の何れかに等しい. 補題 2.4 から定数でない\ \overline{\alpha},\overline{\beta}\ \ p\ 乗により変化する. 従って \begin{align} (\overline{\beta}^p,\overline{\alpha}^p)=(\overline{\alpha},\overline{\beta}) \end{align} でなければ成らない.

\Box

 





証明

以上の結果を使って\ \overline{f_{p+1}}\ を計算します.

定理 2.6 \ {\rm mod}\ p\ において, 方程式\ \overline{x}^2=\overline{5}\ が解を持たないとき, \ F_{p+1}\ \ p\ の倍数である.

証明. \ {\rm mod}\ p,X^2-\overline{5}\ 上で考える. 補題 2.5 から \begin{align} \overline{\alpha}^{p+1}=\overline{\alpha}\overline{\beta}=\overline{\beta}^{p+1} \end{align} であるので,  

\begin{align} \overline{F_{p+1}}&=\overline{f_{p+1}}\\ &=\frac{\overline{\alpha}^{p+1}-\overline{\beta}^{p+1}}{\overline{X}}=\overline{0}. \end{align}

由って\ F_{p+1}\ \ p\ の倍数である.

\Box


Legendre の記号を用いるとこれまでの結果は次のように纏められ,  Fibonacci 数列の隣りあう二項が互いに素であったことから,  問題は解決されたことに成ります.  但し, Legendre 記号\ \left(\frac{5}{p}\right)\ は,  \ p=5\ のとき零,  \ p\neq5\ のとき方程式\ \overline{x^2}=\overline{5}\ \ p\ を法として解を持つなら\ 1\ ,  そうでないなら\ -1\ を取ると定義されます.  

定理 2.6 任意の素数\ p\neq5\ に対し, \displaystyle\ F_{p-\left(\frac{5}{p}\right)}\ \ p\ の倍数である.
系 2.7 \ F_p\ \ p\ の倍数になるような素数\ p\ \ p=5\ のみに限る.

全体を通して見れば, この\ p=5\ 黄金比\ \sqrt{5}\ に由来していたということに成ります. 更に, 平方剰余の相互法則という Legendre と Gauss による定理を適用すると \begin{align} \left(\frac{5}{p}\right)=\left(\frac{p}{5}\right)= \begin{cases} 1&(p\equiv1,4\ \ ({\rm mod}\ 5))\\ -1&(p\equiv2,3\ \ ({\rm mod}\ 5)) \end{cases} \end{align} が成りたつことが判るので,

\ (1)\ \ p\equiv1,4\ \ ({\rm mod}\ 5)\ のとき\ F_{p-1}\ \ p\ の倍数である.
\ (2)\ \ p\equiv2,3\ \ ({\rm mod}\ 5)\ のとき\ F_{p+1}\ \ p\ の倍数である.

のように書くこともできます.

相互法則について少し説明をしておくと, これは, あらゆる奇素数の組\ (p,q)\ について「\ {\rm mod}\ p\ において\ \sqrt{q}\ に相当する剰余が存在するか否か」ということと「\ {\rm mod}\ q\ において\ \sqrt{p}\ に相当する剰余が存在するか否か」ということの間に, 単純明解なる関係が存在しているということを主張する定理です. これもまた面白いです.





別解

Euler の規準を使った証明

以下, 幾つかの代数的整数論の知識を仮定します.


本文においては\ \mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\ 上で\ \sqrt{5}\ の代役となる元を探す方法を取りましたが, 二次体\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の整数環を用いれば, 黄金比をそのまま整数として扱うことができます. \ K=\mathbb{Q}(\sqrt{5})\ と置くと, \ K\ の元のうち代数的整数であるものの全体(整数環)は \begin{align} \mathcal{O}_K=\left\{\frac{x+y\sqrt{5}}{2}\;\middle|\;x,y\in\mathbb{Z},x\equiv y\ \ ({\rm mod}\ 2)\right\} \end{align} と表すことができます.

以前の記事でより詳しく解説しています.

\ \mathcal{O}_K\ 上の合同式\ \alpha,\beta,p\in\mathcal{O}_K\ に対し \begin{align} \alpha\equiv\beta\ \ ({\rm mod}\ p)\ \Longleftrightarrow\ p\mid\alpha-\beta \end{align} と定義すると, \ p\ が有理素数のとき二項定理により\ (\alpha+\beta)^p\equiv\alpha^p+\beta^p\ \ ({\rm mod}\ p)\ が成りたちます. このように定義すれば,  Fibonacci 数列の一般項および Fermat の小定理,  平方剰余に関する Euler の規準によって,


\ \left(\dfrac{5}{p}\right)=1\ のとき

\begin{align} \sqrt{5}F_{p-1}&=\phi^{p-1}-\overline{\phi}^{p-1}\\ &\equiv\frac{1}{\phi}\cdot\frac{1+\sqrt{5}^p}{2^p}-\frac{1}{\overline{\phi}}\cdot\frac{1-\sqrt{5}^p}{2^p}\\ &\equiv\frac{-1+\sqrt{5}}{2}\cdot\frac{1+5^{\frac{p-1}{2}}\sqrt{5}}{2}+\frac{1+\sqrt{5}}{2}\cdot\frac{1-5^{\frac{p-1}{2}}\sqrt{5}}{2}\\ &\equiv\frac{-1+\sqrt{5}}{2}\cdot\frac{1+\left(\dfrac{5}{p}\right)\sqrt{5}}{2}+\frac{1+\sqrt{5}}{2}\cdot\frac{1-\left(\dfrac{5}{p}\right)\sqrt{5}}{2}\\ &\equiv0\ \ ({\rm mod}\ p). \end{align}


\ \left(\dfrac{5}{p}\right)=-1\ のときも同じようにして

\begin{align} \sqrt{5}F_{p+1}&=\phi^{p+1}-\overline{\phi}^{p+1}\\ &\equiv\phi\cdot\frac{1+\sqrt{5}^p}{2^p}-\overline{\phi}\cdot\frac{1-\sqrt{5}^p}{2^p}\\ &\equiv\frac{1+\sqrt{5}}{2}\cdot\frac{1+5^{\frac{p-1}{2}}\sqrt{5}}{2}-\frac{1-\sqrt{5}}{2}\cdot\frac{1-5^{\frac{p-1}{2}}\sqrt{5}}{2}\\ &\equiv\frac{1+\sqrt{5}}{2}\cdot\frac{1+\left(\dfrac{5}{p}\right)\sqrt{5}}{2}-\frac{1-\sqrt{5}}{2}\cdot\frac{1-\left(\dfrac{5}{p}\right)\sqrt{5}}{2}\\ &\equiv0\ \ ({\rm mod}\ p). \end{align}


と計算することができます.





演習問題

問. \ L_p\ \ p\ の倍数になるような素数\ p\ を全て決定せよ.

 

存在しない.
問. 如何なる素数\ p\ を取っても, Fibonacci 数列の各項を\ p\ で割った余りの列は有限の周期を持つ. この事実を証明し, 周期の長さが\ p-1\ または\ 2(p+1)\ の約数であることを証明せよ.
問.正の整数\ n\ について\ F_n\ \ n\ の倍数であるとする. そのとき\ n\ \ 1\ であるか, 然もなければ\ 5\ または\ 12\ の倍数であることを証明せよ.





参考文献

[1] D.D.Wall (1960), "FIBONACCI SERIES MODULO \ m\ ". American Mathematical Monthly, Vol. 67, No. 6; pp. 525-532.





*1:\ 2\ を法とする場合は前回で証明しましたので,  今回扱っている\ p\ は奇数であることに注意してください.  

[tex: ]


ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



pic-Arithmetica

算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

読者になる