有理数を係数とする (斉次対角) 二次方程式が非自明有理数解を持つことは, それがあらゆる素数 𝒑 について非自明 𝒑 進数解を有し, かつ非自明実数解を有することと同値である.
この連続記事は以下を目標として記したものです.
- 初等整数論の知識から出発し, 進数の基礎理論を解説する.
- 上の二次形式に関する局所大域原理を証明し, そこから三平方和定理を簡潔に導出する.
平方剰余の Legendre 記号, 中国式剰余定理 (CRT), 平方剰余の相互法則, Dirichlet の算術級数定理
(1) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (1) p 進整数とは何か - Arithmetica 算術ノート
(2) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (2) p 進平方数, 三平方和定理 - Arithmetica 算術ノート
(3) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (3) p 進数と実数について - Arithmetica 算術ノート
主定理
前回の終盤をもって, 大方三平方和と進数のエピソードは話したいだけ話しおわったような気もしますが, 進整数の定義以来, 証明を欠かさずに解説を続けてきましたので, 困難な局所大域原理の論証といえども, 決して省くわけにはいきません. この記事を掛けて証明法を纏めたいと思います.
有理数上が非自明解を有する.
あらゆるの上でが非自明解を有する (も含める).
但だし, 自明解とはゼロベクトルをいうのである.
以下, 実質の項数を数えるためにを前提とします.
𝒌 = 1
始めのの場合は非常に簡単で, 特に懸念するべきところはありません. ととの場合が肝要であり, それ場合の証明が完成すれば, のときはのものと殆ど同じ証明を組みたてることができます.
有理数上が非自明解を有する.
あらゆるの上でが非自明解を有する.
証明. の何れの体を取っても, 非自明解は存在しない. 故に非自明解の存在性は同値である.
𝒌 = 2
証明. なる有理数があるならば, これがの平方元にもなることは自明. 逆にがあらゆるにおいて平方元になるとすれば, 各素数につきは偶数であって, かつであることを要する. 故にそのとき, の素因子分解は, 或る有理数の平方である.
勿論今の命題は二乗でなくても同様に成りたちます.
有理数上が非自明解を有する.
あらゆるの上でが非自明解を有する.
証明. 方程式は \begin{align} x^2=-a_1a_2y^2 \end{align} に置きかえることができる. 或る体において, この式が非自明解を持つことは, が平方元であることに同値. 従って, 前の補題を適用すれば証明が完成する.
𝒌 = 3
について考えるべきなのは, 次の方程式の非自明解であります.
詰まりと置いて, の置換をおこないました.
Hilbert 記号
上の方程式にたいする解の存在性は, まさしく Hilbert 記号 (ヒルベルト記号) によって表現されるものであります. これからと書いたらまたはの体を表すものとして, 一々断らないことに致します.
方程式がに非自明解を持つならば,
方程式がに非自明解を持たないならば,
特にであるとき, の略記法を用いる.
ここに Hilbert 記号の特徴を箇条書きしておきます. 以下の各文字はでないものとお考えください.
- 上の方程式をで代用したならば, これの非自明解を考えることは, の解を調べるのと同じであり, Hilbert 記号は平方剰余における Legendre 記号 (ルジャンドル記号) に変わります. というのは, における単数群の平方元は, 法のでない平方剰余に対応するからであります.
の置換をおこなうと二本の方程式は同値になります.
が解になります. またも成立します.- 但だし
が解になります.
が非自明解を与えます.
次にの二次拡大体に定義されるノルムとの関係を示します. を, 体の中に自身の平方根を持たない元として, 集合 \begin{align} K(\sqrt{a})=\{x+y\sqrt{a}\mid x,\ y\in K\} \end{align} を定義します. 形式的には, これは組の集合であって, に基づいて加法乗法が定義された環であります. この集合に属する元のノルム (norm) とは, \begin{align} N(\alpha)=x^2-ay^2\ \ \in K \end{align} なる値のことをいい, とその共役との積のことであります.
証明. 先ず, \begin{align} ax^2+by^2=z^2 \end{align} に非自明解があることは, \begin{align} a{x'}^2+b={z'}^2 \end{align} に解があることと同値である. その理由は次の通り. 先ずの下において, 仮にとするとに矛盾するので, であり, 各辺をにより割ることができる. またに解があるとすれば, が第一式の非自明解である. 故に上記の命題は互いに同値であって, はの解があることと同値である.
これよりも一般的な命題として, \begin{align} (a,bb')_K=(a,b)_K(a,b')_K \end{align} が成立し, これを乗法的な双線型性というのでありますが, この等式を完全に証明するのは少し後に回したいから, これから直ぐに必要になる部分的な命題をご紹介する次第であります.
証明. 先ずがの中に平方根を持つ場合は, 両辺は共にになるので自明である. そうでない場合, 第一にならば, なる表示が存在してであるから, が成りたつ. またの場合, を示すために, 仮にとすれば, と書くことができて これはに矛盾する. 従ってである.
即ちが成りたつのである.
解説. ノルムの乗法性について
にたいして, 計算をするととなります. これを用いれば, \begin{align} N(\alpha\beta)&=\alpha\beta\overline{\alpha\beta}\\ &=\alpha\beta\overline{\alpha}\overline{\beta}\\&=N(\alpha)N(\beta). \end{align}
証明
次の定理は, Hilbert 記号に関する局所大域原理であります. この命題を終えれば, の証明は殆ど手に入ったものと考えられるでしょう.
Hilbert 記号の乗法性を使って, より係数の小さい方程式に帰結させることを繰かえすと, 帰納法が成立します. を充たす整数を成るべく小さく構成して, の問題をの問題に置きかえることが目標になります.
証明. は明らかである. その逆を論証するために, これからに関する帰納法を用いる.
場合 1 の場合.
方程式 \begin{align} ax^2+by^2=z^2 \end{align} の各ととにおける非自明解の存在を仮定して, Hilbert 記号の計算により有理数の非自明解があることを証明する. 変数置換をおこなえば, を無平方な整数 (よりも大きい平方数を約数に有しない整数) としても構わない. また対称性によりの場合のみを示しても同じである.
前述の上の解は, 進付値についてまたはまたはを充たす進整数として設定する.
主張 1 はの平方剰余である.
論拠. に依ればである. の素因子分解をとすれば, 各について方程式の解があって, \begin{align} ax^2\equiv z^2\ \ (\mathrm{mod}.p_i) \end{align} を充たす. ここからが平方剰余であることを証明する. 先ずならば明らかにはの平方剰余である. 次にであるとき, 仮にとすればであり, からが得られる. これは付値の仮定に反するのでであり, 故には剰余の平方に合同である. 中国式剰余定理 (→後述解説) によれば, これはが平方剰余であることをいうものである.
然らば或るを用いて, 即ち \begin{align} a+bb'=t^2 \end{align} の式を立てることができる. そのときが成りたち, もまた成立する. 今が前提であるから, 前の命題によって 然も, の選択を改めてになるようにすれば, \begin{align} |b'|=\left|\frac{t^2-a}{b}\right|&\leqslant\frac{|t|^2}{|b|}+\frac{|a|}{|b|}\\ &\leqslant\frac{|b|}{4}+1\lt|b|. \end{align} ここに帰納法の仮定を適用すればからが得られる. 従ってである. 故に, 命題全体の証明は下記の場合 2 に帰結する.
場合 2 の場合
対称性によって, を定めても同じである. 有り得るのは, の四通りである. これらにたいする方程式を具体的に解決する.
- なるを代入した式は, に対応する非自明有理数解を有する. 即ちあらゆるの上に非自明解がある.
- を代入した式は, の上に自明解のみを有する. 即ちもも偽である.
以上をもって, 命題が証明されたのである.
解説. 各にたいしなる整数が存在する状況において, 連立合同式 \begin{align} \alpha\equiv y_i\ \ (\mathrm{mod}.p_i),\quad i\geqslant1 \end{align} は解を持ちます. 元のはを充たす唯一の剰余でありましたので, が得られ, はの平方剰余であることが示されます.
有理数上が非自明解を有する.
あらゆるの上で非自明解を有する.
証明. 方程式 \begin{align} a_1x_1^2+a_2x_2^2+a_3x_3^2=0 \end{align} において, と置き, かつの置換をおこなえば, \begin{align} ax_1^2+bx_2^2=z^2. \end{align} 故にに非自明解があることはと同値であり, Hilbert 記号の局所大域原理によって, 証明が完成する.
𝒌 = 4
続いて, の二次形式を考察します. 四項の二次形式は \begin{align} (a_1x_2^2+a_2x_2^2)-(-a_3x_3^2-a_4x_4^2)=0 \end{align} のように分割すると, を二項二次形式との相等によって代替することができます. すると有理数の上での形を実現すれば可いことになるから, ここにの命題を応用する可能性というものが見えてまいります.
Hilbert の相互法則 (積公式)
然し実際に論証に乗りでてみると或る一個 (一個だけ) の素数に関して, 結論を確定できないという問題に直面します. そこで, 予めの間に成立する相互的関係を記述しておかなければなりません. Gauss (ガウス) による平方剰余の相互法則からという公式を導出します.
証明. 移項をおこなって \begin{align} ax^2\equiv c-by^2\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} を考える. 文字をそれぞれ集合の中において変動させるとき, 左辺は通りの相異なる値を取り得, 右辺も同様である. 故に, 上式を成立させるが必ずある.
の場合, \begin{align}(a,b)_p=1.\end{align} の場合, \begin{align} (a,p)_p=\left(\!\frac{\,a\,}{\,p\,}\!\right). \end{align} の場合, \begin{align} (a,b)_2=(-1)^{\frac{a-1}{2}\cdot\frac{b-1}{2}}. \end{align} の場合, \begin{align} (a,2)_2=(-1)^{\frac{a^2-1}{8}}. \end{align} 上式にあって, 進整数にたいするとは, ならば, ならばとして定義されるものである.
証明. をを充足するの剰余対とする. 明白にである. 第一にを仮定して, Hensel の補題を適用すれば, が得られる. を仮定した場合も全く同じである.
合同式 \begin{align} ax^2+py^2&\equiv z^2\ \ (\mathrm{mod}.p),\\ xz&\not\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} に解があることは, Legendre 記号に表されるところのと同値であり, 然も Hensel の補題によれば, この合同式にたいする解の存在はとも同値である. 従って上記の等式が成りたつ.
先ずかかの何れかがであるとき, 例えばがそうであるならば,
逆に, であるとき, に非自明の解が存在する. 今三文字の中にの元があることを仮定しても差しつかえない.
- の場合, そのときであるから, 従ってととの何れかはを充たす.
- またの場合も, においての一方はによって割りきれるから, 例えばであるとして, これはを示すものである.
故にが成りたつ.
ならば, であって, ここに Hensel の補題を適用すればが得られる. 次にとすれば, が成立して, が生ずる. 反対にまたはならば, に非自明なる解 (の何れかがによって割れない解) が存在しないのでがいえる. 由っての相等が成りたつ.
加えて, でない実数について, これらの符号を函数を使って表記しますと, \begin{align} (a,b)_{\infty}=(-1)^{\frac{\mathrm{sgn}(a)-1}{2}\cdot\frac{\mathrm{sgn}(b)-1}{2}} \end{align} の等式が成りたちます. 条件はかつと同値であるので, その理由は説明不要でありましょう.
証明. またはの場合は, 補題 4.6 において既に証明済であるから, かつの場合のみを取りあつかう.
最初にとすれば, \begin{align} (a,b)_{\mathbb{R}}=-1\Longleftrightarrow a\lt0\ \mbox{かつ}\ b\lt0 \end{align} であるから定理は明らかである.
次にでありが奇素数であるとき, 単元を用いてと置くことができる. 平方元による乗除は無関係であるので, およびはと仮定しても差しつかえない. 若しあるいはならば, またはになるから考察は要しない. 残るのは以下の場合である.
- の場合, \begin{align} (u,pwpw')_p&=(u,ww')_p=1,\\ (u,pw)_p&=(u,p)_p,\\ (u,pw')_p&=(u,p)_p. \end{align} 従って積の関係が成りたつ. 但だし途中にと, および補題 4.6 の部分的乗法性を用いた.
- の場合, \begin{align} (pu,ww')_p&=(p,ww')_p=(ww'/p),\\ (pu,w)_p&=(p,w)_p=(w/p),\\ (pu,w')_p&=(p,w')_p=(w'/p). \end{align} Legendre 記号の乗法性によって, これらは積の関係を充たす.
- の場合, の性質を用いて,
\begin{align} (pu,pww')_p&=(pu,-p^2uww')_p=(pu,-uww')_p,\\ (pu,w)_p&=(pu,w)_p,\\ (pu,pw')_p&=(pu,-p^2uw')_p=(pu,-uw')_p. \end{align}これは一つ前の場合に属する.
- の場合, \begin{align} (pu,p^2ww')_p&=(pu,ww')_p,\\ (pu,pw)_p&=(pu,-p^2uw)_p=(pu,-uw)_p,\\ (pu,pw')_p&=(pu,-p^2uw')_p=(pu,-uw')_p. \end{align} これもまた前の場合に属する. であるから, 積の等式が成りたつのである.
最後にに関して証明するのであるが, 前もって次の等式を示しておくのが宜しい.
主張 1 単元にたいして, \begin{align} (2u,w)_2=(2,w)_2(u,w)_2. \end{align} 論拠. またはの場合は既に補題 4.6 に証明がある. 故にかつを前提とする. 前の命題によれば, そのときかつでなければならない. 平方元による乗除は Hilbert 記号の計算に関せざるので, とのみを考慮すれば可いのであるが, 方程式およびは共にを非自明解に有する. 由ってが成りたつ.
単元とに属するとを用いてと表記すれば, 以下の場合が考えられる. 即ち, として
- の場合, とすれば, は全てを充たすのであり, \begin{align} (u,ww')_2&=(-1)^{\frac{u-1}{2}\cdot\frac{ww'-1}{2}}=1. \end{align}
- の場合, \begin{align} (u,2ww')_2&=(u,2)_2(u,ww')_2,\\ (u,w)_2&=(u,w)_2,\\ (u,2w')&=(u,2)_2(u,w')_2. \end{align} これは一つ前の場合に帰着する.
- の場合, \begin{align} (u,4ww')_2&=(u,ww')_2,\\ (u,2w)_2&=(u,2)_2(u,w)_2,\\ (u,2w')&=(u,2)_2(u,w')_2. \end{align} これもまた前の場合に帰結する.
- の場合, \begin{align} (2u,ww')_2&=(2,ww')_2(u,ww')_2,\\ (2u,w)_2&=(2,w)_2(u,w)_2,\\ (2u,w')_2&=(2,w')_2(u,w')_2. \end{align} 従ってを証明すれば宜しい. 補題 4.6 に属するものを除外して, 即ちももであることを仮定すれば, となるので, である.
- の場合,
\begin{align} (2u,2ww')_2&=(2u,-4uww')_2=(2u,-uww')_2,\\ (2u,w)_2&=(2u,w)_2,\\ (2u,2w')_2&=(2u,-4uw')_2=(2u,-uw')_2. \end{align}これは一つ前の場合に帰着する.
- の場合, \begin{align} (2u,4ww')_2&=(2u,ww')_2,\\ (2u,2w)_2&=(2u,-4uw)_2=(2u,-uw)_2,\\ (2u,2w')_2&=(2u,-4uw')_2=(2u,-uw')_2. \end{align} これも前の場合に帰着する.
以上によって定理が証明されたのである.
平方剰余の相互法則を遣います.
証明. ともとも関係を有しない奇素数, 即ちおよびの分子分母を割りきらざる奇素数については, 二つ前の命題によってが成りたつ. 残りのは有限であるので, を充たすも有限である.
およびは無平方数であると仮定する. 先ず, とが素数または単数である場合を証明する. 但だしまたはにたいする自明な式は除いておくべきである.
- 単数と単数との対については, になるのはとのみである. 故に積公式が成立する.
- 素数と単数との対について, 第一にが奇素数ならば, \begin{align} \prod_v(p,-1)_v&=(p,-1)_2(p,-1)_p(p,-1)_{\infty}\\ &=(-1)^{\frac{p-1}{2}}\!\left(\!\frac{-1}{p}\!\right)\\ &=1. \end{align} 第二にならば, によって積公式は自明である.
- 素数と素数との対について, 第一にならば, 平方剰余の相互法則を用いて, \begin{align} \prod_v(p,q)_v&=(p,q)_2(p,q)_p(p,q)_q(p,q)_{\infty}\\ &=(-1)^{\frac{p-1}{2}\cdot\frac{q-1}{2}}\!\left(\!\frac{\,q\,}{\,p\,}\!\right)\left(\!\frac{\,p\,}{\,q\,}\!\right)\\ &=1. \end{align} 第二にならば, \begin{align} \prod_v(p,2)_2&=(p,2)_2(p,2)_p(p,2)_{\infty}\\ &=(-1)^{\frac{p^2-1}{8}}\!\left(\!\frac{\,2\,}{\,p\,}\!\right)\\ &=1. \end{align} 第三にならば, にたいする場合の結果を適用する.
\begin{align} \prod_v(p,p)_v=\prod_v(p,-1)_v(p,-p)_v=\prod_v(p,-1)_v=1. \end{align}
故に, 素数と単数に限って積公式が証明されたのである. これを一般に拡張せんがために, およびを素因子の積に分解して, \begin{align} a&=\prod_{i\geqslant0}p_i,\quad p_0\in\{1,-1\},\\ b&=\prod_{j\geqslant0}q_j,\quad q_0\in\{1,-1\} \end{align} と表す. そのとき Hilbert 記号の乗法性によって, \begin{align} \prod_v(a,b)_v&=\prod_v\prod_{i,j}(p_i,q_j)_v\\ &=\prod_{i,j}\prod_v(p_i,q_j)_v\\ &=\prod_{i,j}1=1 \end{align} が成立する. 従って積公式は一般的に成りたつのである.
反対に, Hilbert の相互法則から平方剰余の相互法則に戻すこともできます.
証明
次の補題は, 用意しておくと後の論証で役に立ちます.
証明. かつを仮定する. を任意のの元として, 新たなる文字を, \begin{align} y_i=\begin{cases}x_i(1+t)\quad&(i=1)\\x_i(1-t)\quad&(i\geqslant2) \end{cases} \end{align} によって定めるとき,
は可逆であるから, 任意のについてを充たすが存在する.
証明. の有する非自明解に関して, と定める. 今なる成分があると仮定して, 方程式のなる解を構成するべきである. をおよびの和とその他の項とに分別して, 各々を一定に保持しながら, およびを新たに定めることを考える. 平面上の二次曲線 \begin{align} p(X,Y)=a_lX^2+a_mY^2-\gamma=0,\\\gamma=a_l{z_l}^2+a_m{z_m}^2 \end{align} を考察するとき, 当然は曲線上にある. この点を通る直線ととの交差する点 (もう一方の点) をとする. 但だし傾きは, 後述の基準が充たされるように取るものである. ここから交点の座標計算をおこなえば, \begin{align} z'_m&=-\frac{2a_lt}{a_lt^2+a_m}z_l,\\ z'_l&=\frac{-a_lt^2+a_m}{a_lt^2+a_m}z_l. \end{align} の要素は個よりも多いから, 右辺の中のが全てにならないが存在する. これを前述のの基準とする. そのにたいするは, を成分に持たない上の点であり, \begin{align} z'_i=\begin{cases}z'_i&(i=l,\ m)\\z_i&(i\neq l,\ m)\end{cases} \end{align} により定義されるは, よりも少ない個数のを成分に有するようなの解である. この操作を反復すれば, 終には全てのに関してを充たす解が得られる.
それでは証明に入りましょう.
有理数上が非自明解を有する.
あらゆるの上で非自明解を有する.
二次形式を二項と二項に分けて, の局所大域原理を応用することが目標になります.
証明. 各係数のは整数であるとしても差しつかえない.
は明白. と仮定して, を証明するために, 式を分割して \begin{align} F&=G-H,\\ G&=a_1x_1^2+a_2x_2^2,\\ H&=-a_3x_3^2-a_4x_4^2 \end{align} の変形をする. 体におけるの非自明解をとすれば, \begin{align} a_1\beta_1^2+a_2\beta_2^2=-a_3\beta_3^2-a_4\beta_4^2\stackrel{\mathrm{def.}}{=}b_v. \end{align} 前の二個の補題によって, 解にを要請し, かつを仮定することができる (若しもならば, 別の進数を一つ選択してと置く). この状況の下において, 或る一つの有理数を定めて, \begin{align} G(x_1,x_2)=rx_5^2,\quad H(x_3,x_4)=rx_6^2 \end{align} の非自明進数解を構成する.
集合を \begin{align} S=\{p\in\mathrm{primus}\mid p\mid a_1a_2a_3a_4\}\cup\{2\} \end{align} によって定義し, 各にたいして, がによって割りきれる回数をと表す. 先ず整数が連立合同式 \begin{align} r&\equiv b_2\ \ (\mathrm{mod}.2^{3+\lambda_2}),\\ r&\equiv b_v\ \ (\mathrm{mod}.v^{1+\lambda_v}),\quad v\in S\setminus\{2\} \end{align} を充たすものとすれば, ととに非自明進数解が存在する (このはの元に限らない). 何故ならば,
- の場合. 上の合同式のために, が奇素数ならばであるから, はの平方元である. またであっても, が成りたつのでは進平方数である. 故に \begin{align} G(\beta_1,\beta_2)=H(\beta_3,\beta_4)=r\beta_5^2 \end{align} なるがある.
- かつならば, およびは, 係数が全てによって割りきれない方程式であるから, 非自明なる進数解が存在する.
- の場合について, は未確定の整数であったけれども, 上の連立合同式にたいする解の中からになるようにを選べば, 非自明解がある.
- かつの者については, これに該当するが複数あると, 論が甚だ面倒である. 再び, 連立合同式にたいする解の中から適切なるを選べば (勿論そのときも成りたつように選ぶのである), 後述の通りにかつを充たす素数が, 唯だ一つに限って存在する状況を実現することができる. 然らば Hilbert の相互法則によって, この場合を考慮する必要はなくなる.
由って \begin{align} G(x_1,x_2)-rx_5^2=0,\quad H(x_3,x_4)-rx_6^2=0 \end{align} の方程式は, 各においてそれぞれ非自明進数解を持つのであり, の結果によって, 非自明有理数解を有する. これはに非自明有理数解があることを示すものである.
従って, は非自明有理数解を有する.
最後に整数の存在性を論ずる. 前述の連立合同式について, を解の一つであるとし, 整数を法の最小公倍数とする. 第一にの場合, と置いて, 算術級数 \begin{align} \frac{\,1\,}{\,d\,}(r_0+M\mathbb{Z}) \end{align} を見れば, Dirichlet の算術級数定理 (ディレクレの算術級数定理) によって, これに属する素数が少なくとも一つ存在する. これを用いてと表される整数は, 明らかに連立合同式の解であり, かつの素因子の中, に属しない素数はの一個のみである. 第二にの場合は, 算術級数 \begin{align} \frac{\,1\,}{\,d\,}(-r_0+M\mathbb{Z}) \end{align} の中の素数を取れば, が同じ条件を満足させる. 即ち上に述べた証明は, 確かに成立しているのである.
𝒌 > 4
先程と殆ど同じであるので, 不要なところは省きながら証明を書きましょう.
有理数上が非自明解を有する.
あらゆるの上で非自明解を有する.
証明. 或るについて命題が成立することを仮定する. 各係数のは整数であるとしても差しつかえない.
は明白. からを証明するために, 多項式を分割して \begin{align} F&=G-H,\\ G&=a_1x_1^2+a_2x_2^2,\\ H&=-a_3x_3^2-\cdots-a_kx_k^2 \end{align} の変形をする. 体におけるの非自明解をとすれば, \begin{align} a_1\beta_1^2+a_2\beta_2^2=-a_3\beta_3^2-\cdots-a_k\beta_k^2\stackrel{\mathrm{def.}}{=}b_v. \end{align} 補題により解にはを要請し, かつを仮定することができる.
集合を \begin{align} S=\{p\in\mathrm{primus}\mid p\mid a_1a_2\cdots a_k\}\cup\{2\} \end{align} によって定義し, 各にたいして, がによって割りきれる回数をと表す. 整数が連立合同式 \begin{align} r&\equiv b_2\ \ (\mathrm{mod}.2^{3+\lambda_2}),\\ r&\equiv b_v\ \ (\mathrm{mod}.v^{1+\lambda_v}),\quad v\in S\setminus\{2\} \end{align} を充たすとすれば, ととに非自明進数解が存在する (このはの元に限らない). 何故ならば,
- の場合. 上の合同式のために, が奇素数ならばであるから, はの平方元である. またであっても, が成りたつのでは進平方数である. 故に \begin{align} G(\beta_1,\beta_2)=H(\beta_3,\ldots,\beta_k)=r\gamma^2 \end{align} なるがある.
- かつならば, およびは, 係数が全てによって割りきれない方程式であるから, 非自明なる進数解が存在する.
- の場合について, は未確定の整数であったけれども, 上の連立合同式にたいする解の中, になるようにを選べば, 非自明解がある.
- かつならば, 連立合同式にたいする解の中から適切なるを選べば (勿論そのときも成りたつように選ぶのである), 前述と同様にかつを充たす素数が唯だ一つに限って存在する. 然らば Hilbert の相互法則によって, の非自明解が得られる. またには, 係数がによって割りきれない項が三つ以上含まれるので, 非自明進数解が存在する.
由って \begin{align} G(x_1,x_2)-ry^2=0,\quad H(x_3,\ldots,x_k)-rz^2=0 \end{align} の方程式は, 各にたいしてそれぞれ非自明進数解を持つのであり, およびの結果によって, 非自明有理数解を有する. 従って, は非自明有理数解を有する.
のときは既に証明済であるので, において局所大域原理は正しい.
このような二次形式の局所大域原理は, 有理数体のみならず, あらゆる数体の上で成立することが知られています. 然し有理数体であっても, 三次形式に関しては必ずしも成りたつものではありません.
Legendre の定理の証明
前々回に証明した Legendre の定理について, 最後に別証明を付けたいと思います.
は同一符号でない.
法において, それぞれが平方剰余である.
証明. 非自明解があるときに二条項が真になることは明白. 逆を証明するために, 局所解を構成して, の局所大域原理を適用することを考える. が成立するならば上の非自明解が存在し, またを仮定とすれば, を除くにおける非自明解が得られる (命題 4.10 等). 加えての上の方程式にも, Hilbert の相互法則によれば非自明解がある. 故に方程式には非自明なる局所解が存在するので, 大域解が存在する. 大域解は分母を払えば整数解である.
Hensel は当初, 函数論における級数展開の手法を数論に持ちこむために, 進数の概念を導入しました. 二次形式論における既成の結果を進理論と交差させたのは, Hensel の下で数学を修めた Hasse の業績であります. Hasse は Legendre の定理を進的に解釈することを目指して, にたいする局所大域原理に到達し, そこから幾度かの一般化を経まして, 数体上の局所大域原理が獲得されたものといいます. この史実を考えたならば, Legendre の二次形式論もまた数学史上の一大要と評さなければならないでしょう.
参考文献
[1] 雪江明彦 (2013)『整数論 1 初等整数論から進数へ』日本評論社.
[2] ノイキルヒ, J (1992)『代数的整数論』(足立恒雄監修・梅垣敦紀訳) 丸善出版株式会社.
[3] Jean-Pierre Serre (1973), "A Course in Arithmetic", Graduate Texts in Mathematics, Vol.7, Springer-Verlag.
[4] コンウェイ, J. H (1997)『目で見る二次形式』(細川尋史訳) 丸善出版株式会社.
[5] 加藤文元, 中井保行 (2016)『天に向かって続く数』日本評論社.
[6] ルジャンドル, A-M (1798)『数の理論』(高瀬正仁訳) 海鳴社.