Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

多変数二次の不定方程式について (4)  局所大域原理の証明

〔 Hasse-Minkowski の定理, 局所大域原理〕

有理数を係数とする (斉次対角) 二次方程式が非自明有理数解を持つことは, それがあらゆる素数 𝒑 について非自明 𝒑 進数解を有し, かつ非自明実数解を有することと同値である.

この連続記事は以下を目標として記したものです.

  • 初等整数論の知識から出発し, \ p\ 進数の基礎理論を解説する.
  • \ \mathbb{Q}\ 上の二次形式に関する局所大域原理を証明し, そこから三平方和定理を簡潔に導出する.



前提知識

平方剰余の Legendre 記号, 中国式剰余定理 (CRT), 平方剰余の相互法則, Dirichlet の算術級数定理



(1) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (1) p 進整数とは何か - Arithmetica 算術ノート

(2) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (2) p 進平方数, 三平方和定理 - Arithmetica 算術ノート

(3) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (3) p 進数と実数について - Arithmetica 算術ノート







主定理

前回の終盤をもって, おおかた三平方和と\ p\ 進数のエピソードは話したいだけ話しおわったような気もしますが, \ p\ 進整数の定義以来, 証明を欠かさずに解説を続けてきましたので, 困難な局所大域原理の論証といえども, 決して省くわけにはいきません. この記事を掛けて証明法をまとめたいと思います.

定理 2.5 (Hasse-Minkowski の定理, 局所大域原理) 有理数係数の二次方程式 \begin{align} F=a_1x_1^2+a_2x_2^2+\cdots+a_kx_k^2=0 \end{align} に関して, 以下は同値である.
\ (1)\ 有理数\ F=0\ が非自明解を有する.
\ (2)\ あらゆる\ \mathbb{Q}_v\ の上で\ F=0\ が非自明解を有する (v=\infty\ も含める).
だし, 自明解とはゼロベクトル\ (0,0,\ldots,0)\ をいうのである.

以下, 実質の項数を数えるために\ a_i\neq0\ を前提とします.





𝒌 = 1

始めの\ k\in\{1,2\}\ の場合は非常に簡単で, 特に懸念するべきところはありません. \ k=3\ \ k=4\ との場合が肝要であり, それ場合の証明が完成すれば, \ k\gt4\ のときは\ k=4\ のものとほとんど同じ証明を組みたてることができます.

命題 4.1 有理数係数の二次方程式 \begin{align} F=a_1x_1^2=0 \end{align} に関して, 以下は同値である.
\ (1)\ 有理数\ F=0\ が非自明解を有する.
\ (2)\ あらゆる\ \mathbb{Q}_v\ の上で\ F=0\ が非自明解を有する.

証明. \ \mathbb{Q},\ \mathbb{Q}_p,\ \mathbb{R}\ の何れの体を取っても, 非自明解は存在しない. 故に非自明解の存在性は同値である.

\Box

 





𝒌 = 2

補題 4.2 有理数\ x\neq0\ について, \ x\ \ \mathbb{Q}\ の平方元であることは, \ x\ があらゆる\ \mathbb{Q}_v\ において平方元であることに等しい.

証明. \ x=y^2\ なる有理数\ y\ があるならば, これが\ \mathbb{Q}_v\ の平方元にもなることは自明. 逆に\ x\ があらゆる\ \mathbb{Q}_v\ において平方元になるとすれば, 各素数\ p\ につき\ v_p(x)\ は偶数であって, かつ\ x\gt0\ であることを要する. 故にそのとき, \ x\ の素因子分解は, 有理数の平方である.

\Box

 

勿論今の命題は二乗でなくても同様に成りたちます.

命題 4.3 有理数係数の二次方程式 \begin{align} F=a_1x_1^2+a_2x_2^2=0 \end{align} に関して, 以下は同値である.
\ (1)\ 有理数\ F=0\ が非自明解を有する.
\ (2)\ あらゆる\ \mathbb{Q}_v\ の上で\ F=0\ が非自明解を有する.

証明. 方程式は \begin{align} x^2=-a_1a_2y^2 \end{align} に置きかえることができる. 或る体において, この式が非自明解を持つことは, \ -a_1a_2\ が平方元であることに同値. 従って, 前の補題を適用すれば証明が完成する.

\Box

 





𝒌 = 3

\ k=3\ について考えるべきなのは, 次の方程式の非自明解であります.

\begin{align} a_1x^2+a_2y^2+a_3z^2=0\quad\mbox{または}\quad ax^2+by^2=z^2. \end{align}

詰まり\ a=-a_1a_3,\ b=-a_2a_3\ と置いて, \ a_3z\mapsto z\ の置換をおこないました.



Hilbert 記号

上の方程式にたいする解の存在性は, まさしく Hilbert 記号 (ヒルベルト記号) によって表現されるものであります. これから\ K\ と書いたら\ \mathbb{Q},\ \mathbb{Q}_p\ または\ \mathbb{R}\ の体を表すものとして, 一々断らないことに致します.

定義 4.4 (Hilbert 記号) \ 0\ でない\ a,\ b\in K\ にたいして, Hilbert 記号\ (a,b)_K\ を以下によって定義する.
\ (1)\ 方程式\ ax^2+by^2=z^2\ \ K\ に非自明解を持つならば, \ (a,b)_K=1.\
\ (2)\ 方程式\ ax^2+by^2=z^2\ \ K\ に非自明解を持たないならば, \ (a,b)_K=-1.\
特に\ K=\mathbb{Q}_v\ であるとき, \ (a,b)_{\mathbb{Q}_v}=(a,b)_v\ の略記法を用いる.

ここに Hilbert 記号の特徴を箇条書きしておきます. 以下\ a,\ b,\ c\ の各文字は\ 0\ でないものとお考えください.

  • 上の方程式を\ ax^2=z^2\ で代用したならば, これの非自明解を考えることは, \ x^2=a\ の解を調べるのと同じであり, Hilbert 記号は平方剰余における Legendre 記号 (ルジャンドル記号) に変わります. というのは, \ p\neq2\ における単数群\ \mathbb{Z}_p^\times\ の平方元は, 法\ p\ \ 0\ でない平方剰余に対応するからであります.
  • \ (a,b)_K=(b,a)_K.\
  • \ (a,bc^2)_K=(a,b)_K.\
    \ cy=y'\ の置換をおこなうと二本の方程式は同値になります.
  • \ (a,1)_K=1.\
    \ (x,y,z)=(0,1,1)\ が解になります. また\ (a,b^2)_K=1\ も成立します.
  • \ (a,1-a)_K=1.\ 但だし\ a\neq1.\
    \ (x,y,z)=(1,1,1)\ が解になります.
  • \ (a,-a)_K=1.\
    \ (x,y,z)=(1,1,0)\ が非自明解を与えます.

次に\ K\ の二次拡大体に定義されるノルム\ N\ との関係を示します. \ a\in K\ を, 体\ K\ の中に自身の平方根を持たない元として, 集合 \begin{align} K(\sqrt{a})=\{x+y\sqrt{a}\mid x,\ y\in K\} \end{align} を定義します. 形式的には, これは組\ (x,y)\ の集合であって, \ \sqrt{a}^2=a\ に基づいて加法乗法が定義された環であります. この集合\ K(\sqrt{a})\ に属する元\ \alpha=x+y\sqrt{a}\ のノルム (norm) とは, \begin{align} N(\alpha)=x^2-ay^2\ \ \in K \end{align} なる値のことをいい, \ \alpha\ とそのきょうやく\ \overline{\alpha}=x-y\sqrt{a}\ との積のことであります.

補題 4.5 \ 0\ でない\ a,\ b\in K\ にたいして, \ a\ \ K\ の中に平方根を持たないならば, 以下は同値である.
\ (1)\ \ (a,b)_K=1.\
\ (2)\ 或る\ \alpha\in K(\sqrt{a})\ が存在して\ b=N(\alpha).\

証明. ず, \begin{align} ax^2+by^2=z^2 \end{align} に非自明解があることは, \begin{align} a{x'}^2+b={z'}^2 \end{align} に解があることと同値である. その理由は次の通り. 先ず\ ax^2+by^2=z^2\ の下において, 仮に\ y=0\ とすると\ \sqrt{a}\not\in K\ に矛盾するので, \ y\neq0\ であり, 各辺を\ y^2\ により割ることができる. また\ a{x'}^2+b={z'}^2\ に解があるとすれば, \ (x,y,z)=(x',1,z')\ が第一式の非自明解である. 故に上記の命題は互いに同値であって, \ (a,b)_K=1\ \ b=N(z'+x'\sqrt{a})\ の解があることと同値である.

\Box

 

補題 4.6 \ 0\ でない\ a,\ b,\ b'\in K\ にたいして, \ (a,b)_K=1\ ならば, \ (a,bb')_K=(a,b')_K\ が成りたつ.

これよりも一般的な命題として, \begin{align} (a,bb')_K=(a,b)_K(a,b')_K \end{align} が成立し,  これを乗法的な双線型性というのでありますが, この等式を完全に証明するのは少し後に回したいから, これからぐに必要になる部分的な命題をご紹介する次第であります.

証明. 先ず\ a\ \ K\ の中に平方根を持つ場合は, 両辺は共に\ 1\ になるので自明である. そうでない場合, 第一に\ (a,b')_K=1\ ならば, \ b=N(\beta),\ b'=N(\beta')\ なる表示が存在して\ bb'=N(\beta\beta')\ であるから, \ (a,bb')_K=1\ が成りたつ. また\ (a,b')_K=-1\ の場合, \ (a,bb')_K=-1\ を示すために, 仮に\ (a,bb')_K=1\ とすれば, \ b=N(\beta),\ bb'=N(\gamma)\ と書くことができて\ b'=N(\gamma/\beta).\ これは\ (a,b')_K=-1\ に矛盾する. 従って\ (a,bb')_K=-1\ である.

即ち\ (a,bb')_K=(a,b')_K\ が成りたつのである.

\Box

解説. ノルムの乗法性について
\ \alpha,\ \beta\in K(\sqrt{a})\ にたいして, 計算をすると\ \overline{\alpha\beta}=\overline{\alpha}\overline{\beta}\ となります. これを用いれば, \begin{align} N(\alpha\beta)&=\alpha\beta\overline{\alpha\beta}\\ &=\alpha\beta\overline{\alpha}\overline{\beta}\\&=N(\alpha)N(\beta). \end{align}

 



証明

次の定理は, Hilbert 記号に関する局所大域原理であります. この命題を終えれば, \ k=3\ の証明は殆ど手に入ったものと考えられるでしょう.

定理 4.7 (Hilbert 記号の局所大域原理) \ 0\ でない有理数\ a,\ b\ にたいして, 以下は同値である.
\ (1)\ \ (a,b)_{\mathbb{Q}}=1.\
\ (2)\ あらゆる\ v\ について\ (a,b)_v=1.\

Hilbert 記号の乗法性を使って, より係数の小さい方程式に帰結させることを繰かえすと, 帰納法が成立します. \ (a,bb')_{\mathbb{Q}}=1\ を充たす整数\ b'\ を成るべく小さく構成して, \ (a,b)_K\ の問題を\ (a,b')_K\ の問題に置きかえることが目標になります.

証明. \ (1)\Longrightarrow(2)\ は明らかである. その逆を論証するために, これから\ m=|a|+|b|\ に関する帰納法を用いる.


場合 1 \ m\geqslant3\ の場合.


方程式 \begin{align} ax^2+by^2=z^2 \end{align} の各\ \mathbb{Q}_p\ \ \mathbb{R}\ とにおける非自明解\ (x,y,z)\ の存在を仮定して, Hilbert 記号の計算により有理数の非自明解があることを証明する. 変数置換をおこなえば, \ a,\ b\ を無平方な整数 (1\ よりも大きい平方数を約数に有しない整数) としても構わない. また対称性により\ 0\lt|a|\leqslant |b|\ の場合のみを示しても同じである.  

前述の\ \mathbb{Q}_p\ 上の解\ (x,y,z)\ は, \ p\ 進付値について\ v_p(x)=0\ または\ v_p(y)=0\ または\ v_p(z)=0\ を充たす\ p\ 進整数として設定する.

主張 1 \ a\ \ \mathrm{mod}.|b|\ の平方剰余である.

論拠. \ m\geqslant3\ に依れば\ |b|\geqslant2\ である. \ |b|\ の素因子分解を\ |b|=\prod_{有限}p_i\ とすれば, 各\ p_i\ について方程式の解\ x,\ y,\ z\in\mathbb{Z}_{p_{i}}\ があって, \begin{align} ax^2\equiv z^2\ \ (\mathrm{mod}.p_i) \end{align} を充たす. ここから\ a\ \mathrm{mod}.p_i\ が平方剰余であることを証明する. 先ず\ a\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p_i)\ ならば明らかに\ a\ \ \mathrm{mod}.p_i\ の平方剰余である. 次に\ a\not\equiv0\ であるとき, 仮に\ p_i\mid z\ とすれば\ p_i\mid x\ であり, \ p_i^2\mid by^2\ から\ p_i\mid y\ が得られる. これは付値の仮定に反するので\ p_i\nmid z\ であり, \ p_i\nmid x.\ 故に\ a\ \mathrm{mod}.p_i\ は剰余\ z/x\ \mathrm{mod}.p_i\ の平方に合同である. 中国式剰余定理 (→後述解説) によれば, これは\ a\ \mathrm{mod}.|b|\ が平方剰余であることをいうものである.

しからば或る\ t\in\mathbb{Z}\ を用いて, \ a\equiv t^2\ \ (\mathrm{mod}.|b|)\ 即ち \begin{align} a+bb'=t^2 \end{align} の式を立てることができる. そのとき\ (a,bb')_\mathbb{Q}=1\ が成りたち, \ (a,bb')_v=1\ もまた成立する. 今\ (a,b)_v=1\ が前提であるから, 前の命題によって\ (a,b')_v=1.\ しかも, \ t\ の選択を改めて\ |t|\leqslant|b|/2 \ になるようにすれば, \begin{align} |b'|=\left|\frac{t^2-a}{b}\right|&\leqslant\frac{|t|^2}{|b|}+\frac{|a|}{|b|}\\ &\leqslant\frac{|b|}{4}+1\lt|b|. \end{align} ここに帰納法の仮定を適用すれば\ (a,b')_v=1\ から\ (a,b')_{\mathbb{Q}}=1\ が得られる. 従って\ (a,b)_{\mathbb{Q}}=(a,bb')_{\mathbb{Q}}=1\ である. 故に, 命題全体の証明は下記の場合 2 に帰結する.


場合 2 \ m\leqslant2\ の場合


対称性によって,  \ 0\lt|a|\leqslant |b|\ を定めても同じである. 有りるのは, \ (a,b)=(\pm1,\pm1)\ の四通りである. これらにたいする方程式\ ax^2+by^2=z^2\ を具体的に解決する.

  • \ (a,b)\neq(-1,-1)\ なる\ (a,b)\ を代入した式は, \ 1^2+0^2=1^2\ に対応する非自明有理数解を有する. 即ちあらゆる\ K\ の上に非自明解がある.
  • \ (a,b)=(-1,-1)\ を代入した式は, \ \mathbb{R}\ の上に自明解のみを有する. 即ち\ (1)\ \ (2)\ も偽である.

以上をもって, 命題が証明されたのである.

\Box

解説. 各\ i\ にたいし\ a\equiv y_i^2\ \ (\mathrm{mod}.p_i)\ なる整数\ y_i\ が存在する状況において, 連立合同式 \begin{align} \alpha\equiv y_i\ \ (\mathrm{mod}.p_i),\quad i\geqslant1 \end{align} は解\ \alpha\ \mathrm{mod}.|b|\ を持ちます. もと\ a\ \ a\equiv y_i^2\ \ (\mathrm{mod}.p_i)\ を充たす\ \mathrm{mod}.|b|\ 唯一の剰余でありましたので, \ a\equiv\alpha^2\ \ (\mathrm{mod}.|b|)\ が得られ, \ a\ \ \mathrm{mod}.|b|\ の平方剰余であることが示されます.

 

命題 4.8 有理数係数の二次方程式 \begin{align} F=a_1x_1^2+a_2x_2^2+a_3x_3^2=0 \end{align} に関して, 以下は同値である.
\ (1)\ 有理数\ F=0\ が非自明解を有する.
\ (2)\ あらゆる\ \mathbb{Q}_v\ の上で非自明解を有する.

証明. 方程式 \begin{align} a_1x_1^2+a_2x_2^2+a_3x_3^2=0 \end{align} において, \ a=-a_1a_3,\ b=-a_2a_3\ と置き, かつ\ a_3x_3=z\ の置換をおこなえば, \begin{align} ax_1^2+bx_2^2=z^2. \end{align} 故に\ F=0\ に非自明解があることは\ (a,b)_K=1\ と同値であり, Hilbert 記号の局所大域原理によって, 証明が完成する.

\Box

 





𝒌 = 4

続いて, \ k=4\ の二次形式を考察します. 四項の二次形式は \begin{align} (a_1x_2^2+a_2x_2^2)-(-a_3x_3^2-a_4x_4^2)=0 \end{align} のように分割すると, \ F=0\ を二項二次形式\ G=a_1x_1^2+a_2x_2^2\ \ H=-a_3x_3^2-a_4x_4^2\ の相等\ G=H\ によって代替することができます. すると有理数の上で\ G=H=r\ の形を実現すれば可いことになるから, ここに\ k=3\ の命題を応用する可能性というものが見えてまいります.



Hilbert の相互法則 (積公式)

然し実際に論証に乗りでてみると或る一個 (一個だけ) の素数に関して, 結論を確定できないという問題に直面します. そこで, あらかじ\ (a,b)_2,\ (a,b)_3,\ (a,b)_5,\ \ldots\ (a,b)_{\infty}\ の間に成立する相互的関係を記述しておかなければなりません. Gauss (ガウス) による平方剰余の相互法則から\ \prod_v(a,b)_v=1\ という公式を導出します.

補題 4.9 \ p\ を奇素数とする. \ a,\ b,\ c\in\mathbb{Z}_p\ にたいして, \ a\ \ b\ が共に\ p\ によって割りきれないならば, 合同方程式\ ax^2+by^2\equiv c\ \ (\mathrm{mod}.p)\ は解を有する.

証明. 移項をおこなって \begin{align} ax^2\equiv c-by^2\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} を考える. 文字\ x,\ y\ をそれぞれ集合\ \{0,1,2,\ldots,(p-1)/2\}\ の中において変動させるとき, 左辺は\ (p+1)/2\ 通りの相異なる値を取り得, 右辺も同様である. 故に, 上式を成立させる\ (x,y)\ が必ずある.

\Box

 

命題 4.10 \ p\ 進整数\ a,\ b\in\mathbb{Z}_p^{\times}\ にたいして, 以下が成りたつ.
\ (1)\ \ p\neq2\ の場合, \begin{align}(a,b)_p=1.\end{align} \ (2)\ \ p\neq2\ の場合, \begin{align} (a,p)_p=\left(\!\frac{\,a\,}{\,p\,}\!\right). \end{align} \ (3)\ \ p=2\ の場合, \begin{align} (a,b)_2=(-1)^{\frac{a-1}{2}\cdot\frac{b-1}{2}}. \end{align} \ (4)\ \ p=2\ の場合, \begin{align} (a,2)_2=(-1)^{\frac{a^2-1}{8}}. \end{align} 上式にあって, \ 2\ 進整数\ x\ にたいする\ (-1)^x\ とは, \ x\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.2)\ ならば\ +1, \ x\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.2)\ ならば\ -1\ として定義されるものである.

証明. \ (1)\ \ (x_0,y_0)\ \ ax_0^2+by_0^2\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.p)\ を充足する\ \mathrm{mod}.p\ の剰余ついとする. 明白に\ (x_0,y_0)\not\equiv(0,0)\ である. 第一に\ x_0\not\equiv0\ を仮定して, Hensel の補題を適用すれば, \ (a,b)_p=1\ が得られる. \ y_0\not\equiv0\ を仮定した場合も全く同じである.
\ (2)\ 合同式 \begin{align} ax^2+py^2&\equiv z^2\ \ (\mathrm{mod}.p),\\ xz&\not\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} に解があることは, Legendre 記号に表されるところの\ (a/p)=1\ と同値であり, 然も Hensel の補題によれば, この合同式にたいする解の存在は\ (a,p)_p=1\ とも同値である. 従って上記の等式が成りたつ.
\ (3)\ 先ず\ a\ \ b\ かの何れかが\ \equiv1\ \ (\mathrm{mod}.4)\ であるとき, 例えば\ a\ がそうであるならば,

  • \ a\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.8)\ の場合, \ a\cdot1^2+b\cdot0^2\equiv1^2\ \ (\mathrm{mod}.8)\ であるから, Hensel の補題によって\ (a,b)_2=1.\
  • 次に\ a\equiv5\ \ (\mathrm{mod}.8)\ の場合, \ a\cdot1^2+b\cdot2^2\equiv1^2\ \ (\mathrm{mod}.8)\ であり, Hensel の補題によって\ (a,b)_2=1.\

逆に, \ (a,b)_2=1\ であるとき, \ ax^2+by^2=z^2\ に非自明の解\ x,\ y,\ z\in\mathbb{Z}_2\ が存在する. 今三文字の中に\ \mathbb{Z}_2^{\times}\ の元があることを仮定しても差しつかえない.

  • \ z\not\in\mathbb{Z}_2^{\times}\ の場合, \ ax^2+by^2\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.4).\ そのとき\ x^2\equiv y^2\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.4)\ であるから, \ a+b\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.4).\ 従って\ a\ \ b\ との何れかは\ \equiv1\ \ (\mathrm{mod}.4)\ を充たす.
  • また\ z\in\mathbb{Z}_2^{\times}\ の場合も, \ ax^2+by^2\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.4)\ において\ x,\ y\ の一方は\ 2\ によって割りきれるから, 例えば\ 2\mid y\ であるとして, \ ax^2\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.4).\ これは\ a\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.4)\ を示すものである.

故に\ (a,b)_2=(-1)^{(a-1)/2\cdot(b-1)/2}\ が成りたつ.
\ (4)\ \ a\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.8)\ ならば, \ a\cdot1^2+2\cdot0^2\equiv1^2\ \ (\mathrm{mod}.8)\ であって, ここに Hensel の補題を適用すれば\ (a,2)_2=1\ が得られる. 次に\ a\equiv7\ \ (\mathrm{mod}.8)\ とすれば, \ a\cdot1^2+2\cdot1^2\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.8)\ が成立して, \ (a,2)_2=1\ が生ずる. 反対に\ a\equiv3\ または\ a\equiv5\ \ (\mathrm{mod}.8)\ ならば, \ ax^2+2y^2\equiv z^2\ \ (\mathrm{mod}.8)\ に非自明なる解 (x,\ y,\ z\ の何れかが\ 2\ によって割れない解) が存在しないので\ (a,2)_2=-1\ がいえる. って\ (a,2)_2=(-1)^{(a^2-1)/8}\ の相等が成りたつ.

\Box

 

加えて, \ 0\ でない実数\ a,\ b\ について, これらの符号を\ \mathrm{sgn}\ 函数を使って表記しますと, \begin{align} (a,b)_{\infty}=(-1)^{\frac{\mathrm{sgn}(a)-1}{2}\cdot\frac{\mathrm{sgn}(b)-1}{2}} \end{align} の等式が成りたちます. 条件\ (a,b)_{\infty}=-1\ \ a\lt0\ かつ\ b\lt0\ と同値であるので, その理由は説明不要でありましょう.

定理 4.11 (Hilbert 記号の双線型性) \ K=\mathbb{Q}_v\ の場合, \ 0\ でない\ a,\ b,\ b'\in K\ にたいして, \ (a,bb')_K=(a,b)_K(a,b')_K\ が成りたつ.

証明. \ (a,b)_K=1\ または\ (a,b')_K=1\ の場合は, 補題 4.6 において既に証明済であるから, \ (a,b)_K=-1\ かつ\ (a,b')_K=-1\ の場合のみを取りあつかう.
最初に\ K=\mathbb{R}\ とすれば, \begin{align} (a,b)_{\mathbb{R}}=-1\Longleftrightarrow a\lt0\ \mbox{かつ}\ b\lt0 \end{align} であるから定理は明らかである.
次に\ K=\mathbb{Q}_p\ であり\ p\ が奇素数であるとき, 単元\ u,\ w,\ w'\in\mathbb{Z}_p^{\times}\ を用いて\ a=p^{\alpha}u,\ b=p^{\beta}w,\ b'=p^{\beta'}w'\ と置くことができる. 平方元による乗除は無関係であるので, \ \alpha,\ \beta\ および\ \beta'\ \ \{0,1\}\ と仮定しても差しつかえない. \ \alpha=\beta=0\ あるいは\ \alpha=\beta'=0\ ならば, \ (a,b)_p=1\ または\ (a,b')_p=1\ になるから考察は要しない. 残るのは以下の場合である.

  • \ (\alpha,\beta,\beta')=(0,1,1)\ の場合, \begin{align} (u,pwpw')_p&=(u,ww')_p=1,\\ (u,pw)_p&=(u,p)_p,\\ (u,pw')_p&=(u,p)_p. \end{align} 従って積の関係が成りたつ. 但だし途中に\ (u,w)_p=1\ \ (u,w')_p=1, および補題 4.6 の部分的乗法性を用いた.
  • \ (\alpha,\beta,\beta')=(1,0,0)\ の場合, \begin{align} (pu,ww')_p&=(p,ww')_p=(ww'/p),\\ (pu,w)_p&=(p,w)_p=(w/p),\\ (pu,w')_p&=(p,w')_p=(w'/p). \end{align} Legendre 記号の乗法性によって, これらは積の関係を充たす.
  • \ (\alpha,\beta,\beta')=(1,0,1)\ の場合, \ (a,-a)_K=1\ の性質を用いて,
    \begin{align} (pu,pww')_p&=(pu,-p^2uww')_p=(pu,-uww')_p,\\ (pu,w)_p&=(pu,w)_p,\\ (pu,pw')_p&=(pu,-p^2uw')_p=(pu,-uw')_p. \end{align}
    これは一つ前の場合に属する.
  • \ (\alpha,\beta,\beta')=(1,1,1)\ の場合, \begin{align} (pu,p^2ww')_p&=(pu,ww')_p,\\ (pu,pw)_p&=(pu,-p^2uw)_p=(pu,-uw)_p,\\ (pu,pw')_p&=(pu,-p^2uw')_p=(pu,-uw')_p. \end{align} これもまた前の場合に属する. \ (u^2,p)_p=1\ であるから, 積の等式が成りたつのである.


最後に\ K=\mathbb{Q}_2\ に関して証明するのであるが, 前もって次の等式を示しておくのがよろしい.
主張 1 単元\ u,\ w\in\mathbb{Z}_2^{\times}\ にたいして, \begin{align} (2u,w)_2=(2,w)_2(u,w)_2. \end{align} 論拠. \ (2,w)_2=1\ または\ (u,w)_2=1\ の場合は既に補題 4.6 に証明がある. 故に\ (2,w)_2=-1\ かつ\ (u,w)_2=-1を前提とする. 前の命題によれば, そのとき\ w\equiv3\ \ (\mathrm{mod}.8)\ かつ\ u\equiv3,7\ \ (\mathrm{mod}.8)\ でなければならない. 平方元による乗除は Hilbert 記号の計算に関せざるので, \ (u,w)=(3,-5)\ \ (u,w)=(-1,3)\ のみを考慮すれば可いのであるが, 方程式\ 6x^2-5y^2=z^2\ および\ -2x^2+3y^2=z^2\ は共に\ (1,1,1)\ を非自明解に有する. 由って\ (2u,w)_2=(2,w)_2(u,w)_2\ が成りたつ.
単元\ u,\ w,\ w'\in\mathbb{Z}_2^{\times}\ \ \{0,1\}\ に属する\ \alpha,\ \beta,\ \beta'\ とを用いて\ a=2^{\alpha}u,\ b=2^{\beta}w,\ b'=2^{\beta'}w'\ と表記すれば, 以下の場合が考えられる. 即ち, \ \beta\leqslant\beta'\ として

  • \ (\alpha,\beta,\beta')=(0,0,0)\ の場合, \ (u,w)_2=(u,w')_2=-1\ とすれば, \ u,\ w,\ w'\ は全て\ \equiv3\ \ (\mathrm{mod}.4)\ を充たすのであり, \begin{align} (u,ww')_2&=(-1)^{\frac{u-1}{2}\cdot\frac{ww'-1}{2}}=1. \end{align}
  • \ (\alpha,\beta,\beta')=(0,0,1)\ の場合, \begin{align} (u,2ww')_2&=(u,2)_2(u,ww')_2,\\ (u,w)_2&=(u,w)_2,\\ (u,2w')&=(u,2)_2(u,w')_2. \end{align} これは一つ前の場合に帰着する.
  • \ (\alpha,\beta,\beta')=(0,1,1)\ の場合, \begin{align} (u,4ww')_2&=(u,ww')_2,\\ (u,2w)_2&=(u,2)_2(u,w)_2,\\ (u,2w')&=(u,2)_2(u,w')_2. \end{align} これもまた前の場合に帰結する.
  • \ (\alpha,\beta,\beta')=(1,0,0)\ の場合, \begin{align} (2u,ww')_2&=(2,ww')_2(u,ww')_2,\\ (2u,w)_2&=(2,w)_2(u,w)_2,\\ (2u,w')_2&=(2,w')_2(u,w')_2. \end{align} 従って\ (2,ww')_2=(2,w)_2(2,w')_2\ を証明すれば宜しい. 補題 4.6 に属するものを除外して, \ (2,w)_2=(2,w')_2=-1\ 即ち\ w\ \ w'\ \ \equiv\pm3\ \ (\mathrm{mod}.8)\ であることを仮定すれば, \ ww'\equiv\pm1\ \ (\mathrm{mod}.8)\ となるので, \ (2,ww')_2=1\ である.
  • \ (\alpha,\beta,\beta')=(1,0,1)\ の場合,
    \begin{align} (2u,2ww')_2&=(2u,-4uww')_2=(2u,-uww')_2,\\ (2u,w)_2&=(2u,w)_2,\\ (2u,2w')_2&=(2u,-4uw')_2=(2u,-uw')_2. \end{align}
    これは一つ前の場合に帰着する.
  • \ (\alpha,\beta,\beta')=(1,1,1)\ の場合, \begin{align} (2u,4ww')_2&=(2u,ww')_2,\\ (2u,2w)_2&=(2u,-4uw)_2=(2u,-uw)_2,\\ (2u,2w')_2&=(2u,-4uw')_2=(2u,-uw')_2. \end{align} これも前の場合に帰着する.

以上によって定理が証明されたのである.

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定理 4.12 (Hilbert の相互法則, 積公式) \ 0\ でない有理数\ a,\ b\ にたいして, 以下が成りたつ.
\ (1)\ \ (a,b)_v=-1\ になる\ v\ は有限である.
\ (2)\ \ \prod_v(a,b)_v=1.\ 左辺は全素数\ \infty\ とにわたる乗積である.
普通は, 有理数体や二次体, 三次体など, 一般の数体における公式を Hilbert の相互法則といいます.

平方剰余の相互法則を遣います.

証明. \ (1)\ \ a\ とも\ b\ とも関係を有しない奇素数, 即ち\ a\ および\ b\ の分子分母を割りきらざる奇素数\ p\ については, 二つ前の命題によって\ (a,b)_p=1\ が成りたつ. 残りの\ v\ は有限であるので, \ (a,b)_v=-1\ を充たす\ v\ も有限である.
\ (2)\ \ a\ および\ b\ は無平方数であると仮定する. 先ず, \ a\ \ b\ 素数または単数である場合を証明する. 但だし\ a=1\ または\ b=1\ にたいする自明な式は除いておくべきである.

  • 単数と単数との対\ (a,b)=(-1,-1)\ については, \ (a,b)_v=-1\ になるのは\ v=2\ \ v=\infty\ のみである. 故に積公式が成立する.
  • 素数と単数との対\ (a,b)=(p,-1)\ について, 第一に\ p\ が奇素数ならば, \begin{align} \prod_v(p,-1)_v&=(p,-1)_2(p,-1)_p(p,-1)_{\infty}\\ &=(-1)^{\frac{p-1}{2}}\!\left(\!\frac{-1}{p}\!\right)\\ &=1. \end{align} 第二に\ p=2\ ならば, \ (2,1-2)_v=1\ によって積公式は自明である.
  • 素数素数との対\ (a,b)=(p,q)\ について, 第一に\ p\gt q\gt2\ ならば, 平方剰余の相互法則を用いて, \begin{align} \prod_v(p,q)_v&=(p,q)_2(p,q)_p(p,q)_q(p,q)_{\infty}\\ &=(-1)^{\frac{p-1}{2}\cdot\frac{q-1}{2}}\!\left(\!\frac{\,q\,}{\,p\,}\!\right)\left(\!\frac{\,p\,}{\,q\,}\!\right)\\ &=1. \end{align} 第二に\ p\gt q=2\ ならば, \begin{align} \prod_v(p,2)_2&=(p,2)_2(p,2)_p(p,2)_{\infty}\\ &=(-1)^{\frac{p^2-1}{8}}\!\left(\!\frac{\,2\,}{\,p\,}\!\right)\\ &=1. \end{align} 第三に\ p=q\ ならば, \ (a,b)=(p,-1)\ にたいする場合の結果を適用する.
    \begin{align} \prod_v(p,p)_v=\prod_v(p,-1)_v(p,-p)_v=\prod_v(p,-1)_v=1. \end{align}

故に, 素数と単数に限って積公式が証明されたのである. これを一般に拡張せんがために, \ a\ および\ b\ を素因子の積に分解して, \begin{align} a&=\prod_{i\geqslant0}p_i,\quad p_0\in\{1,-1\},\\ b&=\prod_{j\geqslant0}q_j,\quad q_0\in\{1,-1\} \end{align} と表す. そのとき Hilbert 記号の乗法性によって, \begin{align} \prod_v(a,b)_v&=\prod_v\prod_{i,j}(p_i,q_j)_v\\ &=\prod_{i,j}\prod_v(p_i,q_j)_v\\ &=\prod_{i,j}1=1 \end{align} が成立する. 従って積公式は一般的に成りたつのである.

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反対に, Hilbert の相互法則から平方剰余の相互法則に戻すこともできます.



証明

次の補題は, 用意しておくと後の論証で役に立ちます.

補題 4.13 二項以上の\ K\ 係数二次形式\ F(x)=a_1x_1^2+\cdots+a_kx_k^2\ について, これが非自明に\ 0\ を表現し得るならば, あらゆる\ K\ の元を表し得る.

証明. \ a_1x_1^2+\cdots+a_kx_k^2=0\ かつ\ x_1\neq0\ を仮定する. \ t\ を任意の\ K\ の元として, 新たなる文字\ y_i\ を, \begin{align} y_i=\begin{cases}x_i(1+t)\quad&(i=1)\\x_i(1-t)\quad&(i\geqslant2) \end{cases} \end{align} によって定めるとき,

\begin{align} F(y)&=F(x)+F(x)t^2+2a_1x_1^2t-2a_2x_2^2t-\cdots-2a_kx_k^2t\\ &=4a_1x_1^2t. \end{align}

\ 4a_1x_1^2\ は可逆であるから, 任意の\ s\in K\ について\ F(y)=s\ を充たす\ y=(y_i)\ が存在する.

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補題 4.14 \ K\ 係数の二次方程式\ F(x)=a_1x_1^2+\cdots+a_kx_k^2=0\ が非自明解\ z\ を有するならば, 全部の解の中に, 各\ i\ について\ y_i\neq0\ を充たす解\ y\ が存在する.

証明. \ F=0\ の有する非自明解\ z=(z_1,z_2,\ldots,z_k)\ に関して, \ z_l\neq0\ と定める. 今\ z_m=0\ なる成分があると仮定して, 方程式\ F(x)=0\ \ x_m\neq0\ なる解を構成するべきである. \ F(z)\ \ a_lz_l^2\ および\ a_mz_m^2\ の和とその他の項とに分別して, 各々を一定に保持しながら, \ z_l\ および\ z_m\ を新たに定めることを考える. 平面\ K^2\ 上の二次曲線 \begin{align} p(X,Y)=a_lX^2+a_mY^2-\gamma=0,\\\gamma=a_l{z_l}^2+a_m{z_m}^2 \end{align} を考察するとき, 当然\ (X,Y)=(z_l,z_m)=(z_l,0)\ は曲線上にある. この点を通る直線\ X=tY+z_l\ \ p=0\ との交差する点 (もう一方の点) を\ (z'_l,z'_m)\ とする. 但だし傾き\ t\in K\ は, 後述の基準が充たされるように取るものである. ここから交点の座標計算をおこなえば, \begin{align} z'_m&=-\frac{2a_lt}{a_lt^2+a_m}z_l,\\ z'_l&=\frac{-a_lt^2+a_m}{a_lt^2+a_m}z_l. \end{align} \ K\ の要素は\ 5\ 個よりも多いから, 右辺の中の\ a_lt^2+a_m,\ -2a_lt,\ -a_lt^2+a_m\ が全て\ 0\ にならない\ t\ が存在する. これを前述の\ t\ の基準とする. その\ t\ にたいする\ (z'_l,z'_m)\ は, \ 0\ を成分に持たない\ p=0\ 上の点であり, \begin{align} z'_i=\begin{cases}z'_i&(i=l,\ m)\\z_i&(i\neq l,\ m)\end{cases} \end{align} により定義される\ z'=(z'_1,\ldots,z'_k)\ は, \ z\ よりも少ない個数の\ 0\ を成分に有するような\ F=0\ の解である. この操作を反復すれば, 終には全ての\ i\ に関して\ y_i\neq0\ を充たす解\ y\ が得られる.

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それでは証明に入りましょう.

命題 4.15 有理数係数の二次方程式 \begin{align} F=a_1x_1^2+a_2x_2^2+a_3x_3^2+a_4x_4^2=0 \end{align} に関して, 以下は同値である.
\ (1)\ 有理数\ F=0\ が非自明解を有する.
\ (2)\ あらゆる\ \mathbb{Q}_v\ の上で非自明解を有する.

二次形式を二項と二項に分けて, \ k=3\ の局所大域原理を応用することが目標になります.

証明. 各係数の\ a_i\ は整数であるとしても差しつかえない.
\ (1)\Longrightarrow(2)\ は明白. \ (2)\ と仮定して, \ (1)\ を証明するために, 式\ F\ を分割して \begin{align} F&=G-H,\\ G&=a_1x_1^2+a_2x_2^2,\\ H&=-a_3x_3^2-a_4x_4^2 \end{align} の変形をする. 体\ \mathbb{Q}_v\ における\ F=0\ の非自明解を\ \beta\ とすれば, \begin{align} a_1\beta_1^2+a_2\beta_2^2=-a_3\beta_3^2-a_4\beta_4^2\stackrel{\mathrm{def.}}{=}b_v. \end{align} 前の二個の補題によって, 解\ \beta\ \ \beta_i\neq0\ を要請し, かつ\ b_v\neq0\ を仮定することができる (若しも\ b_v=0\ ならば, 別の\ v\ 進数を一つ選択して\ b_v\ と置く). この状況の下において, 或る一つの有理数\ r\ を定めて, \begin{align} G(x_1,x_2)=rx_5^2,\quad H(x_3,x_4)=rx_6^2 \end{align} の非自明\ v\ 進数解を構成する.
集合\ S\ を \begin{align} S=\{p\in\mathrm{primus}\mid p\mid a_1a_2a_3a_4\}\cup\{2\} \end{align} によって定義し, 各\ v\in S\ にたいして, \ b_v\ \ v\ によって割りきれる回数を\ \lambda_v\ と表す. 先ず整数\ r\ が連立合同式 \begin{align} r&\equiv b_2\ \ (\mathrm{mod}.2^{3+\lambda_2}),\\ r&\equiv b_v\ \ (\mathrm{mod}.v^{1+\lambda_v}),\quad v\in S\setminus\{2\} \end{align} を充たすものとすれば, \ G(x_1,x_2)=rx_5^2\ \ H(x_3,x_4)=rx_6^2\ とに非自明\ v\ 進数解が存在する (この\ v\ \ S\ の元に限らない). 何故ならば,

  • \ v\in S\ の場合. 上の合同式のために, \ v\ が奇素数ならば\ r/b_v\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.v)\ であるから, \ r/b_v\ \ \mathbb{Z}_v\ の平方元である. また\ v=2\ であっても, \ r/b_2\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.8)\ が成りたつので\ r/b_2\ \ 2\ 進平方数である. 故に \begin{align} G(\beta_1,\beta_2)=H(\beta_3,\beta_4)=r\beta_5^2 \end{align} なる\ \beta_5\in\mathbb{Q}_v\ がある.
  • \ v\not\in S\cup\{\infty\}\ かつ\ v\nmid r\ ならば, \ G(x_1,x_2)=rx_5^2\ および\ H(x_3,x_4)=rx_6^2\ は, 係数が全て\ v\ によって割りきれない方程式であるから, 非自明なる\ v\ 進数解が存在する.
  • \ v=\infty\ の場合について, \ r\ は未確定の整数であったけれども, 上の連立合同式にたいする解の中から\ b_{\infty}r\gt0\ になるように\ r\ を選べば, 非自明解がある.
  • \ v\not\in S\cup\{\infty\}\ かつ\ v\mid r\ の者については, これに該当する\ v\ が複数あると, 論がはなはだ面倒である. 再び, 連立合同式にたいする解の中から適切なる\ r\ を選べば (もちろんそのとき\ b_{\infty}r\gt0\ も成りたつように選ぶのである), 後述の通りに\ v\not\in S\ かつ\ v\mid r\ を充たす素数\ v\ が, 唯だ一つに限って存在する状況を実現することができる. 然らば Hilbert の相互法則によって, この場合を考慮する必要はなくなる.

由って \begin{align} G(x_1,x_2)-rx_5^2=0,\quad H(x_3,x_4)-rx_6^2=0 \end{align} の方程式は, 各\ v\ においてそれぞれ非自明\ v\ 進数解を持つのであり, \ k=3\ の結果によって, 非自明有理数解を有する. これは\ G(x_1,x_2)=H(x_3,x_4)=r\ に非自明有理数解があることを示すものである.

\ x_5=0\ または\ x_6=0\ の場合は, 二つ前の補題 4.13 により, \ \neq0\ である解を代わりに取ることができて, 上記の通りになります.

従って, \ F=0\ は非自明有理数解を有する.
最後に整数\ r\ の存在性を論ずる. 前述の連立合同式について, \ r_0\ を解の一つであるとし, 整数\ M\ を法\ 2^{3+\lambda_2},\ \ldots\ の最小公倍数とする. 第一に\ b_{\infty}\gt0\ の場合, \ d=\gcd(r_0,M)\ と置いて, 算術級数 \begin{align} \frac{\,1\,}{\,d\,}(r_0+M\mathbb{Z}) \end{align} を見れば, Dirichlet の算術級数定理 (ディレクレの算術級数定理) によって, これに属する素数\ r'\ が少なくとも一つ存在する. これを用いて\ r=dr'\ と表される整数\ r\ は, 明らかに連立合同式の解であり, かつ\ r\ の素因子の中, \ S\ に属しない素数\ r'\ の一個のみである. 第二に\ b_{\infty}\lt0\ の場合は, 算術級数 \begin{align} \frac{\,1\,}{\,d\,}(-r_0+M\mathbb{Z}) \end{align} の中の素数\ r'\ を取れば, \ r=-dr'\ が同じ条件を満足させる. 即ち上に述べた証明は, 確かに成立しているのである.

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𝒌 > 4

先程と殆ど同じであるので, 不要なところは省きながら証明を書きましょう.

命題 4.16 \ k\gt4\ ならば, 有理数係数の二次方程式 \begin{align} F=a_1x_1^2+a_2x_2^2+\cdots+a_kx_k^2=0 \end{align} に関して, 以下は同値である.
\ (1)\ 有理数\ F=0\ が非自明解を有する.
\ (2)\ あらゆる\ \mathbb{Q}_v\ の上で非自明解を有する.

証明. 或る\ k-1\ について命題が成立することを仮定する. 各係数の\ a_i\ は整数であるとしても差しつかえない.

\ (1)\Longrightarrow(2)\ は明白. \ (2)\ から\ (1)\ を証明するために, 多項式\ F\ を分割して \begin{align} F&=G-H,\\ G&=a_1x_1^2+a_2x_2^2,\\ H&=-a_3x_3^2-\cdots-a_kx_k^2 \end{align} の変形をする. 体\ \mathbb{Q}_v\ における\ F=0\ の非自明解を\ \beta\ とすれば, \begin{align} a_1\beta_1^2+a_2\beta_2^2=-a_3\beta_3^2-\cdots-a_k\beta_k^2\stackrel{\mathrm{def.}}{=}b_v. \end{align} 補題により解\ \beta\ には\ \beta_i\neq0\ を要請し, かつ\ b_v\neq0\ を仮定することができる.
集合\ S\ を \begin{align} S=\{p\in\mathrm{primus}\mid p\mid a_1a_2\cdots a_k\}\cup\{2\} \end{align} によって定義し, 各\ v\in S\ にたいして, \ b_v\ \ v\ によって割りきれる回数を\ \lambda_v\ と表す. 整数\ r\ が連立合同式 \begin{align} r&\equiv b_2\ \ (\mathrm{mod}.2^{3+\lambda_2}),\\ r&\equiv b_v\ \ (\mathrm{mod}.v^{1+\lambda_v}),\quad v\in S\setminus\{2\} \end{align} を充たすとすれば, \ G(x_1,x_2)=ry^2\ \ H(x_3,\ldots,x_k)=rz^2\ とに非自明\ v\ 進数解が存在する (この\ v\ \ S\ の元に限らない). 何故ならば,

  • \ v\in S\ の場合. 上の合同式のために, \ v\ が奇素数ならば\ r/b_v\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.v)\ であるから, \ r/b_v\ \ \mathbb{Z}_v\ の平方元である. また\ v=2\ であっても, \ r/b_2\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.8)\ が成りたつので\ r/b_2\ \ 2\ 進平方数である. 故に \begin{align} G(\beta_1,\beta_2)=H(\beta_3,\ldots,\beta_k)=r\gamma^2 \end{align} なる\ \gamma\in\mathbb{Q}_v\ がある.
  • \ v\not\in S\cup\{\infty\}\ かつ\ v\nmid r\ ならば, \ G(x_1,x_2)=ry^2\ および\ H(x_3,\ldots,x_k)=rz^2\ は, 係数が全て\ v\ によって割りきれない方程式であるから, 非自明なる\ v\ 進数解が存在する.
  • \ v=\infty\ の場合について, \ r\ は未確定の整数であったけれども, 上の連立合同式にたいする解の中, \ b_{\infty}r\gt0\ になるように\ r\ を選べば, 非自明解がある.
  • \ v\not\in S\cup\{\infty\}\ かつ\ v\mid r\ ならば, 連立合同式にたいする解の中から適切なる\ r\ を選べば (もちろんそのとき\ b_{\infty}r\gt0\ も成りたつように選ぶのである), 前述と同様に\ v\not\in S\ かつ\ v\mid r\ を充たす素数\ v\ が唯だ一つに限って存在する. 然らば Hilbert の相互法則によって, \ G(x_1,x_2)=ry^2\ の非自明解が得られる. また\ H(x_3,\ldots,x_k)=rz^2\ には, 係数が\ v\ によって割りきれない項が三つ以上含まれるので, 非自明\ v\ 進数解が存在する.

由って \begin{align} G(x_1,x_2)-ry^2=0,\quad H(x_3,\ldots,x_k)-rz^2=0 \end{align} の方程式は, 各\ v\ にたいしてそれぞれ非自明\ v\ 進数解を持つのであり, \ k=3\ および\ k-1\ の結果によって, 非自明有理数解を有する. 従って, \ F=0\ は非自明有理数解を有する.
\ k=4\ のときは既に証明済であるので, \ k\gt4\ において局所大域原理は正しい.

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このような二次形式の局所大域原理は, 有理数体のみならず, あらゆる数体の上で成立することが知られています. 然し有理数体であっても, 三次形式に関しては必ずしも成りたつものではありません.





Legendre の定理の証明

前々回に証明した Legendre の定理について, 最後に別証明を付けたいと思います.

定理 4.17 (Legendre の定理) \ a,\ b,\ c\ ついごとに素なる整数の組みとする. そのとき, 方程式 \begin{align} ax^2+by^2+cz^2=0 \end{align} が非自明整数解を有するための必要充分条件は, 下の二条件が同時に成りたつことである.
\ (1)\ \ a,\ b,\ c\ は同一符号でない.
\ (2)\ \ |a|,\ |b|,\ |c|\ において, それぞれ\ -bc,\ -ca,\ -ab\ が平方剰余である.

証明. 非自明解があるときに二条項が真になることは明白. 逆を証明するために, 局所解を構成して, \ k=3\ の局所大域原理を適用することを考える. \ (1)\ が成立するならば\ \mathbb{R}\ 上の非自明解が存在し, また\ (2)\ を仮定とすれば, \ \mathbb{Q}_2\ を除く\ \mathbb{Q}_p\ における非自明解が得られる (命題 4.10 等). 加えて\ \mathbb{Q}_2\ の上の方程式にも, Hilbert の相互法則によれば非自明解がある. 故に方程式には非自明なる局所解が存在するので, 大域解が存在する. 大域解は分母を払えば整数解である.

\Box

 

Hensel は当初, 函数論における級数展開の手法を数論に持ちこむために, \ p\ 進数の概念を導入しました. 二次形式論における既成の結果を\ p\ 進理論と交差させたのは, Hensel の下で数学を修めた Hasse の業績であります. Hasse は Legendre の定理を\ p\ 進的に解釈することを目指して, \ k=3\ にたいする局所大域原理に到達し, そこからいくかの一般化を経まして, 数体上の局所大域原理が獲得されたものといいます. この史実を考えたならば, Legendre の二次形式論もまた数学史上の一たいようと評さなければならないでしょう.





参考文献

[1] 雪江明彦 (2013)『整数論 1 初等整数論から\ p\ 進数へ』日本評論社.

[2] ノイキルヒ, J (1992)『代数的整数論』(足立恒雄監修・梅垣敦紀訳) 丸善出版株式会社.

[3] Jean-Pierre Serre (1973), "A Course in Arithmetic", Graduate Texts in Mathematics, Vol.7, Springer-Verlag.

[4] コンウェイ, J. H (1997)『目で見る二次形式』(細川尋史訳) 丸善出版株式会社.

[5] 加藤文元, 中井保行 (2016)『天に向かって続く数』日本評論社.

[6] ルジャンドル, A-M (1798)『数の理論』(高瀬正仁訳) 海鳴社.





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ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



pic-Arithmetica

算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

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