Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

フィボナッチ数の判定式 (2)  二次体とその整数

〔フィボナッチ数の判定式〕
正の整数 𝑁 に対して,  次の同値が成立する.     
5𝑁² ± 4 のうちいずれかが平方数 ⇔ 𝑁 はフィボナッチ数.

この連続記事は, 以下を目標として記したものです.

  • フィボナッチ数の判定式に対して初等的な証明を与える.
  • ペル型方程式の解法について考察し, 二次体\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ とその整数環や単数といった代数的整数論の概念に触れる.



前提知識

集合, 二次方程式の解と係数の関係, 合同式など



(1) の記事 :

フィボナッチ数の判定式 (1) 初等的証明 - Arithmetica 算術ノート

(3) の記事 :

フィボナッチ数の判定式 (3) 二次体の整数の整除と単数 - Arithmetica 算術ノート







目標

今回の記事は, 前回に引き続きフィボナッチ数の判定式についての内容になります. 今回から次回にかけて次の定理を証明し, 前回は天下り的に (原理を明かさずに) 提示した函数\ f\ の正体について解説してゆきます.

定理 2.1 正整数の組\ (x_n,y_n)\ が方程式\ x^2-5y^2=\pm4\ を満たす\ n\ 番目の解であることと \begin{align} \frac{x_n+y_n\sqrt{5}}{2}=\phi^n \end{align} が成立することは同値である.

ただし\ \phi\ ギリシア文字のphi(ファイ,  ピー)の小文字)は黄金比と呼ばれる値で, 二次方程式\ x^2=x+1\ の正なる解\ \displaystyle x=\frac{1+\sqrt{5}}{2}\fallingdotseq1.618\ のことです. この定理によれば, \ \phi^n\ を計算したときの表示を見ることで\ x^2-5y^2=\pm4\ \ n\ 番目の解が得られるということになります. たとえば, \begin{align} &\phi=\frac{1+\sqrt{5}}{2}\\ &\phi^2=\frac{3+\sqrt{5}}{2}\\ &\phi^3=\frac{4+2\sqrt{5}}{2}\\ &\phi^4=\frac{7+3\sqrt{5}}{2}\\ &\phi^5=\frac{11+5\sqrt{5}}{2}\\ &\phi^6=\frac{18+8\sqrt{5}}{2}\\ \end{align} であり右辺に\ (L_n+F_n\sqrt{5})/2\ の形が現れています.





二次体

さて, 前回と同様, 求めるべきは方程式\ x^2-5y^2=\pm4\ の正整数解の一般形ですが, この方程式は\ (x+y\sqrt{5})(x-y\sqrt{5})=\pm4\ と強引に因数分解し, 両辺を\ 4\ で割ると \begin{align} \alpha\beta=\pm1\quad\ \left(\alpha=\frac{x+y\sqrt{5}}{2},\ \beta=\frac{x-y\sqrt{5}}{2}\right) \end{align} と変形することができます. ここで, もし仮に\ (\alpha,\beta)\ が整数の組であれば, この等式を満たす\ \alpha,\beta\ の値は\ (\alpha,\beta)=(\pm1,\pm1)\ に限られることになりますが, 実際には無理数なので約数, 倍数の関係(整除性)から解の必要条件を絞り込むことはできません. そこで, \ 2\ つの無理数 \begin{align} \alpha=\frac{x+y\sqrt{5}}{2},\ \beta=\frac{x-y\sqrt{5}}{2} \end{align} を「整数」として扱うことができ, かつこのような「整数」どうしの間に「倍数・約数」の関係を見出せるような新しい「数」の世界に目を移すことで, 方程式の正整数解の問題を解決しようという算段をつけます. この「数」の集合が後に説明する二次体であり, その二次体の整数環と呼ばれるものがこの場合の「整数」の集合にあたります.


誤解が生じるのを防ぐために, この連続記事では原則として, 通常の有理数や整数はラテンアルファベット \begin{align} a,\ b,\ c,\ \ldots\end{align} で表し, 二次体の元や二次体の整数といった「数」や「整数」はギリシアアルファベット \begin{align}\alpha,\ \beta,\ \gamma,\ \ldots\end{align} で表記しています.



二次体

いくつかの定義をするところから始めましょう. 以下, 正整数の全体の集合を\ \mathbb{N}\ , 整数(有理整数)全体の集合を\ \mathbb{Z}\ , 有理数全体の集合を\ \mathbb{Q}\ で表します.

定義 2.2 \ a,b\in\mathbb{Q}\ を用いて\ a+b\sqrt{5}\ という形で表される実数の全体を\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ で表す. つまり \begin{align} \mathbb{Q}(\sqrt{5})=\{a+b\sqrt{5}\mid a,b\in\mathbb{Q}\}. \end{align}

証明は省略しますが, 任意の\ \alpha,\beta\in\mathbb{Q}(\sqrt{5})\ に対して \begin{align} &\alpha+\beta\in\mathbb{Q}(\sqrt{5}),&&\alpha-\beta\in\mathbb{Q}(\sqrt{5}), \\ &\alpha\beta\in\mathbb{Q}(\sqrt{5}),&&\frac{\alpha}{\beta}\in\mathbb{Q}(\sqrt{5})\quad(\beta\neq0) \end{align} が成り立ち, \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上で四則演算を行うことができます.


この\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ は, 集合の中でも体(たい)の一種で, 特に二次体と呼ばれるものです.


体というのは, その自身のうちで加減乗除が自由に行えるような集合で, たとえば\ \mathbb{Q}\ や実数の全体\ \mathbb{R}\ がこれにあたります. \ \mathbb{Z}\ 上では\ 1\div2\ を計算することができないので\ \mathbb{Z}\ は体ではありません. さらに, 代数学では体に加え群(ぐん)や環(かん)といった構造を主に扱います. これらはそれぞれ, 加法と減法が自由に行える集合, 加法と減法と乗法が自由に行えるような集合であり, たとえば\ \mathbb{Z}\ は加法と乗法に関して環をなします. 体であることは環であることよりも強い条件です.

厳密には, 体は単なる集合を指すのではなく, 集合と(加法, 乗法のような)演算の組(代数系, 代数構造)のことをいいます. 群, 環についても同様です. 普通の集合論よりもさらに深く集合の性質を研究するために, 足し算や掛け算のような演算を導入して, 要素の間の結び付きを観察していると考えればよいでしょう. 今回は整数論の話題ですから, なおさら演算を軽視することはできません.


次に二次という言葉の意味についてですが, これには次の性質が関係しています.


\ (1)\ \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ のあらゆる元(要素)は\ 2\ つの数\ 1,\sqrt{5}\ を単位として\ a\cdot1+b\cdot\sqrt{5}\ \ (a,b\in\mathbb{Q})\ という形で表すことができる.

\ (2)\ 逆に, 任意の\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の元\ \alpha\ について, \ \alpha=a+b\sqrt{5}\ という表し方は一通りである. すなわち, \ 1,\sqrt{5}\ のいずれかがもう片方の役割を果たすようなことは起こりえず, これらは独立した存在である. 


このことを, \ 1,\sqrt{5}\ \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の(\ \mathbb{Q}\ 上の)基底であると表現します.

この性質を満たす数の組は\ 1,\sqrt{5}\ 以外にもあるので, 他の数を基底にとってもよいです. たとえば\ -3\ \ 4\sqrt{5}\ を基底としても\ (1),(2)\ のような性質が成り立ちます. ここでは, 議論を簡略化するために, 最も簡単な\ 1\ \ \sqrt{5}\ を基底にとって話を進めることにしましょう.

有理数の全体\ \mathbb{Q}\ の(\ \mathbb{Q}\ 上の)基底は\ 1\ のみであるのに対し, \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ は加えて\ \sqrt{5}\ を基底に持っているため, \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ \ \mathbb{Q}\ を二次的に(数直線から座標平面のように)拡大してできたと考え, この拡大でできた体を二次体と呼ぶのです. イメージとしては, \begin{align} \alpha=a+b\sqrt{5} \end{align} という「数」と, \begin{align} A(a,b) \end{align} という二次元座標平面上の点を対応させてみると分かりやすいかもしれません. \ (x,y)\ 平面上の点が\ x\ 座標と\ y\ 座標という\ 2\ つの独立した成分を有しているのと同じように, \ a+b\sqrt{5}\ という「数」は\ a,b\ という\ 2\ つの有理数成分を含んでいるのです.


もう一つ体の拡大の例*1を例を挙げると, 複素数体\ \mathbb{C}\ は実数\ \mathbb{R}\ の上に基底\ 1,\sqrt{-1}\ を持ちます. なぜならば, あらゆる複素数\ x+y\sqrt{-1}\ \ (x,y\in\mathbb{R})\ という形で表すことができ, その表し方は一通りに定まる(実部と虚部は互いに干渉しない)からです. 実数体から複素数体への拡大は, 実数を大小関係に基づいて並べた数直線を二本組み合わせて, 二次元の複素数平面に拡大したと捉えることができます.



二次体の整数環

すでに定義した\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ は割り算のできるものであって, 通常の有理数にあたる概念です. 次はこの世界における「整数」とはどのような数なのかということについで考えます. ここではまず初めに定義だけを述べ, なぜこのような定義を用いるのかについては補足にて説明することにいたします.


まず準備として, 最小多項式について定義しておく必要があります. 定義が複雑でわかりにくければ, 具体例を通して理解してください.

定義 2.3 複素数\ \alpha\ に対し, 次の\ 3\ つの条件を満たすような多項式\ f(x)\ のうち, 最も次数が低いものを\ \alpha\ の(\ \mathbb{Q}\ 上の)最小多項式と呼ぶ (ただし, 存在しないこともある).

\ (1)\ 方程式\ f(x)=0\ \ x=\alpha\ を解として持つ. つまり, \ f(\alpha)=0.\
\ (2)\ \ f(x)\ \ x\ に関する有理数係数の多項式である.
\ (3)\ \ f(x)\ の最高次の項の係数は\ 1\ である.

たとえば\ \alpha=\sqrt{5}\ のとき, \ x=\sqrt{5}\ を解に持つような二次方程式は無数にありますが, なかでも有理数係数で, 最高次の係数が\ 1\ なのは \begin{align} x^2-5=0 \end{align} のみです.

厳密にその理由を説明すると, \ \sqrt{5}\ と何らかの複素数\ \omega\ を解とする二次方程式であって, 最高次の係数が\ 1\ であるようなものは\ (x-\sqrt{5})(x-\omega)=0\ つまり \begin{align} x^2-(\sqrt{5}+\omega)x+\sqrt{5}\omega=0 \end{align} に表され, \ \sqrt{5}+\omega,\ \sqrt{5}\omega\ 有理数になる必要があります. まず\ \sqrt{5}\omega\ 有理数であることから\ \omega=q\sqrt{5}\ (q\in\mathbb{Q})\ ですが, そのとき\ \omega+\sqrt{5}=(q+1)\sqrt{5}\ 有理数でなければならず, \ q=-1\ がわかります. すると\ \omega=-\sqrt{5}\ で, \ \sqrt{5}\ \ \omega\ を根にもつ多項式は, 必然的に \begin{align}(x-\sqrt{5})(x+\sqrt{5})=x^2-5\end{align} になります.

そして, \ \sqrt{5}\ 無理数であることから\ \sqrt{5}\ を解に持つような有理数係数の一次方程式は存在しないので, \ \sqrt{5}\ の最小多項式\ x^2-5\ ということになります.


\ \alpha=1\ のときは, 一次方程式\ x-1=0\ \ x=1\ を解に持つので, 最小多項式\ x-1\ となります. \ x=1\ \ x^2-1=0\ \ x^3-1=0\ などの解でもありますが, 最小多項式としては次数が最小のものをとるので, これらは最小多項式ではありません.


より一般に, 任意の\ \alpha=a+b\sqrt{5}\ \ (a,b\in\mathbb{Q},\ b\neq0)\ に対し, \begin{align} x=a+b\sqrt{5}\ &\Longrightarrow\ (x-a)^2=(b\sqrt{5})^2\\ &\Longleftrightarrow\ x^2-2ax+a^2-5b^2=0 \end{align}より\ \alpha\ を解に持つような有理数係数の二次方程式が構成でき, \ x^2-2ax+a^2-5b^2\ \ a+b\sqrt{5}\ の最小多項式であることがわかります.


\ \alpha=a+0\sqrt{5}\ \ (a\in\mathbb{Q})\ つまり\ \alpha=a\ のときは, \begin{align} x=a\ \Longleftrightarrow\ x-a=0 \end{align} なので\ x-a\ \ a\ の最小多項式です.



これで, \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数の概念を定義することができます. 普段扱っている整数は\ \mathbb{Q}\ 上の整数ですが, \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の世界では整数はより広い意味で捉えられます.

定義 2.4 \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の元\ \alpha\ に対して, \ \alpha\ の最小多項式\ \mathbb{Z}\ 係数であるとき, \ \alpha\ \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数であるという.
このような\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数(代数体上の整数)と普通の整数の混同を避けるために, 普通の整数のほうを有理整数と呼ぶことがあります.

具体例を挙げましょう. たとえば\ \displaystyle\phi=\frac{1+\sqrt{5}}{2}\ の最小多項式は \begin{align} x^2-x-1 \end{align} で\ \mathbb{Z}\ 係数なので, \ \displaystyle\frac{1+\sqrt{5}}{2}\ \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数です. 一方, \ \displaystyle\frac{\sqrt{5}}{2}\ の最小多項式は \begin{align} x^2-\frac{\,5\,}{\,4\,} \end{align} ですが, 定数項が\ \displaystyle -\frac{\,5\,}{\,4\,}\not\in\mathbb{Z}\ なので\ \displaystyle\frac{\sqrt{5}}{2}\ \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数ではありません. 普通の整数\ n\in\mathbb{Z}\ の最小多項式\ x-n\ なので, すべて\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数に含まれます.

定義 2.5 二次体\ K=\mathbb{Q}(\sqrt{5})\ のすべての元のうち, \ K\ 上の整数の全体を\ \mathcal{O}_K\ で表し, \ K\ の整数環と呼ぶ.

整数環を表す記号\ \mathcal{O}\ はアルファベットの大文字\ O\ 筆記体です. 文献によっては, アルファベットのイタリック体\ O\ を用いたり, フラクトゥール体\ \mathfrak{o}\ を用いることがあります.


有理数\ \mathbb{Q}\ において「最小多項式が整数係数であるようなもの」を\ \mathbb{Q}\ 上の整数と定義すれば, それは従来の整数の概念と一致します. なぜならば, 有理数\ p\ \ \mathbb{Q}\ 上の最小多項式\ x-p\ で, これが整数係数になることは\ p\in\mathbb{Z}\ と同値だからです. このことに加え, 二次体上の整数が通常の整数と似通った性質を有することから, 二次体の整数環は整数の拡張概念であると考えることができます(詳しくは補足の項をご参照ください).


また, \ \mathcal{O}_K\ は整数環と呼ばれる通り「環」の一種なのですが, これは次回証明する命題, \begin{align} \alpha,\beta\in\mathcal{O}_K\ \Longrightarrow\ \alpha\pm\beta\in\mathcal{O}_K,\ \alpha\beta\in\mathcal{O}_K \end{align} により, \ \mathcal{O}_K\ 上で加法, 減法と乗法が行えること(閉じていること)からわかります. 詳しい証明は後回しにしましょう.



ところで, \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の元\ \alpha=a+b\sqrt{5}\ \ (a,b\in\mathbb{Q})\ に対し, \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数を「最小多項式\ \mathbb{Z}\ 係数であるもの」として定義しましたが, 具体的に\ a,b\ がどのような値であれば\ \alpha\ \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数になるのかについては, いまだ判明していませんでした. 我々は\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の元を\ a+b\sqrt{5}\ という形で表していたので, 「最小多項式\ \mathbb{Z}\ 係数である」という条件よりも, \ a,b\ に関する条件のほうが視覚的にわかりやすいはずでしょう.


そこで, 「\ \alpha=a+b\sqrt{5}\ の最小多項式\ \mathbb{Z}\ 係数であるための\ a,\ b\ の条件を求めよ」という問題を考えます. ただその前に, 最小多項式に現れる係数に新たな記号を振ることにしましょう.

定義 2.6 \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の元\ \alpha\ \ a+b\sqrt{5}\ \ (a,b\in\mathbb{Q})\ と表したとき, \ a+b\sqrt{5}\ \ a-b\sqrt{5}\ の和と積 \begin{align} (a+b\sqrt{5})+(a-b\sqrt{5})&=2a,\\ (a+b\sqrt{5})(a-b\sqrt{5})&=a^2-5b^2 \end{align} をそれぞれ\ \alpha\ の (\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の) トレース, ノルムと呼び, \ {\rm Tr}(\alpha), N(\alpha)\ で表す.

次回の記事で詳しく書きますが, \ \alpha=a+b\sqrt{5}\ に対して\ a-b\sqrt{5}\ のことを\ \alpha\ の共役(きょうやく)と呼び, 複素数でいうところの共役と同じような役割を果たします. 最小多項式が二次式, つまり\ b\neq0\ のとき, \ \alpha\ はある二次方程式 \begin{align} x^2-px+q,\ \ p,q\in\mathbb{Q} \end{align} の解になります. 二次方程式の解の公式の形を考えれば, もう一つの解は\ a-b\sqrt{5}\ であり, このような点から\ \alpha\ の共役は\ \alpha\ と対をなす数であると考えることができます.


このとき, 二次方程式の解と係数の関係から\ p={\rm Tr}(\alpha), q=N(\alpha)\ が成り立つので, \ \alpha=a+b\sqrt{5}\ の最小多項式は確かに \begin{align} x^2-{\rm Tr}(\alpha)x+N(\alpha) \end{align} と表せることになります.


上の例でいえば, \ \phi=(1+\sqrt{5})/2,\ \alpha=\sqrt{5}/2,\ \beta=n\ とおくと, \begin{align} &{\rm Tr}(\phi)=1,&&N(\phi)=-1\\ &{\rm Tr}(\alpha)=0,&&N(\alpha)=-\frac{5}{4}\\ &{\rm Tr}(\beta)=2n,&&N(\beta)=n^2 \end{align}

のようになります. ただし\ n\ の最小多項式は一次式\ x-n\ であって, トレースおよびノルムはあまり意味を持ちません. 有理数の場合だけは注意が必要です.


次の補題は当たり前のように見えるかも知れませんが, ここで確認することにします.

補題 2.7 \ K=\mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の元\ \alpha\ に対して, \begin{align} \alpha\in\mathcal{O}_K\ \Longleftrightarrow\ {\rm Tr}(\alpha),\ N(\alpha)\in\mathbb{Z}. \end{align}

証明. \ \alpha\ 無理数であるとき, 最小多項式は \begin{align} x^2-{\rm Tr}(\alpha)x+N(\alpha) \end{align} と表せる. 係数\ {\rm Tr}(\alpha),\ N(\alpha)\ が整数であることは, 定義 2.4 に書かれた整数の条件そのものであるから, 確かに両者は同値である.


\ \alpha\ 有理数のとき, \ \alpha\ \ \mathbb{Q}\ 上の最小多項式\ x-\alpha\ であり\ \alpha\in\mathcal{O}_K\ \ \alpha\in\mathbb{Z}\ に同値である. よってかわりに \begin{align} \alpha\in\mathbb{Z}\ \Longleftrightarrow\ {\rm Tr}(\alpha)\in\mathbb{Z},\ N(\alpha)\in\mathbb{Z} \end{align} を証明すればよい. (\Longrightarrow)は\ {\rm Tr}(\alpha)=2\alpha, N(\alpha)=\alpha^2\ により明らかである. (\Longleftarrow)について, \ {\rm Tr}(\alpha)=2\alpha\in\mathbb{Z}\ のとき\ \alpha=a/2\ なる\ a\in\mathbb{Z}\ がとれるが, \ N(\alpha)=\alpha^2=a^2/4\in\mathbb{Z}\ になるためには\ a\ が偶数であること, すなわち\ \alpha\in\mathbb{Z}\ が必要である. したがって, \ \alpha\in\mathbb{Z}\ \ \mathrm{Tr}(\alpha)\in\mathbb{Z},\ N(\alpha)\in\mathbb{Z}\ は同値.
以上によって証明が完成する.

\Box


ここから\ a+b\sqrt{5}\ \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数であるための\ a,b\ の条件を得ることができます. まず先に結果を書きます.

命題 2.8 二次体\ K=\mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の整数環は
\begin{align} \mathcal{O}_K=\left\{\frac{x+y\sqrt{5}}{2}\;\middle|\;x,y\in\mathbb{Z},\ x\equiv y\ \ ({\rm mod}\ 2)\right\} \end{align}
と表せる.

集合の記法をつかって書きましたが, つまるところ「\ K=\mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数とは, 偶奇が同じであるような\ 2\ つの整数\ x,y\ を用いて \begin{align} \frac{x+y\sqrt{5}}{2}\quad\left(a=\frac{x}{2},\ b=\frac{y}{2}\right) \end{align} という形で表せる数のことである」という意味です. この命題も, いくつかの\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の元を取りあげて実験をすれば, だんだん確信が得られるでしょう.

証明. 簡略化のために\ \alpha=a+b\sqrt{5}=\displaystyle\frac{x+y\sqrt{5}}{2}\ として, 二通りの記号をふる.


まずは必要条件を考えて「整数」の候補を絞りこむのがよい. \ \alpha\in\mathcal{O}_K\ のとき補題 2.7 により

\begin{align} x&=2a={\rm Tr}(\alpha)\in\mathbb{Z}.\\ 5y^2&=x^2-(x^2-5y^2)=4(a^2-(a^2-5b^2))\\&=x^2-4N(\alpha)\in\mathbb{Z}. \end{align}

ここで\ y\in\mathbb{Q}\ なので, \ y=u/v\ \ (u,v\in\mathbb{Z})\ と既約分数で表示すると\ 5y^2=5u^2/v^2\in\mathbb{Z}.\ \ u,v\ は互いに素としていたから, これが整数になるためには\ 5\ \ v^2\ で割り切れなければならず, \ v^2\in\{1,5\}\ すなわち\ v=\pm1\ が確定する. よって\ y\ の分母は\ \pm1\ であり\ y\in\mathbb{Z}\ が成立する.
またこのとき\ x^2-5y^2=4(a^2-5b^2)=4N(\alpha)\ は偶数であるから

\begin{align} x^2-5y^2\equiv0\ \ ({\rm mod}\ 2)\qquad x^2\equiv5y^2\equiv y^2\ \ ({\rm mod}\ 2) \end{align}

つまり\ x\equiv y\ \ ({\rm mod}\ 2)\ になる. 以上から \begin{align} x,y\in\mathbb{Z},\ x\equiv y\ \ ({\rm mod}\ 2) \end{align} が少なくとも必要な条件である.


反対に, \ x,y\in\mathbb{Z}, x\equiv y\ \ ({\rm mod}\ 2)\ が成立していれば\ \alpha\in\mathcal{O}_K\ であること(条件の十分性)を示す. 補題 2.7 によれば\ {\rm Tr}(\alpha),\ N(\alpha)\in\mathbb{Z}\ を証明すればよいが, \ {\rm Tr}(\alpha)=2a=x\ は整数であり, ノルムについても \begin{align} N(\alpha)=a^2-5b^2=\frac{x^2-5y^2}{4} \end{align} の分子は\ x,y\ がともに奇数であっても偶数であっても\ {\rm mod}\ 4\ \ 0\ と合同になるから, 確かに\ 4\ が約分できる. というのも, 法\ 4\ においては, 偶数の二乗は常に\ 0\ と合同であり, 奇数の二乗は\ 1\ と合同だからである. よって\ \alpha\in\mathcal{O}_K\ がわかる.


以上により \begin{align} \alpha\in\mathcal{O}_K\ \Longleftrightarrow\ x,y\in\mathbb{Z},\ x\equiv y\ \ ({\rm mod}\ 2) \end{align} が得られたので, 命題の式は正しい.

\Box


この命題から, 方程式\ x^2-5y^2=\pm4\ の整数解であるような\ (x,y)\ に対して \begin{align} \alpha=\frac{x+y\sqrt{5}}{2},\ \beta=\frac{x-y\sqrt{5}}{2} \end{align} は\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数であることが示されます. なぜならば, \ x^2-5y^2=\pm4\ \ {\rm mod}\ 2\ で還元すると\ x^2\equiv y^2\ \ ({\rm mod}\ 2)\ すなわち\ x\equiv y\ \ ({\rm mod}\ 2)\ になるからです.



ここまで, 有理数を拡張した数の世界における「整数」とは何かという問いかけに対して「最小多項式\ \mathbb{Z}\ 係数であるような数を整数とすべきだ」という一般的な定義を述べ, 二次体\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の場合に, それがどのようになるかを論じてきました. そして今, 題目の方程式 \begin{align} x^2-5y^2=\pm4 \end{align} が \begin{align} \alpha\beta=\pm1 \end{align} という方程式と実質で同じであることが明らかになったのです. 次回では, この\ \alpha\ \ \beta\ の「\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数」としての性質などを詳しく調べて, 目標であった命題 2.1 の証明, およびフィボナッチ数の判定式の別証明を述べようと思います.





補足

なぜ「整数」と呼べるか

二次体\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の整数は, 定義 2.4 において「最小多項式\ \mathbb{Z}\ 係数であるようなもの」と定義したのでありますが, このような\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の元を「整数」と呼ぶのは, 普通の整数と似た性質を持っていて, その意味での拡張概念であると考えることができるからです.


\ ({\rm P}1)\ \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ 上の整数どうしの和・差・積はまた\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の整数であるが, 商はつねに整数であるとは限らない.
今回の記事の命題 2.8 から和・差・商については直ちに示すことができます. 積については次回の記事で証明を行います.


\ ({\rm P}2)\ \ a+b\sqrt{5}\ \ (a,b\in\mathbb{Q})\ \ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の整数ならば, \ a-b\sqrt{5}\ も整数である.
本文中でも紹介しましたが, \ a+b\sqrt{5}\ \ a-b\sqrt{5}\ のような\ \sqrt{5}\ の符号違いの関係を共役(きょうやく)といいます. すでに述べたように, 共役はもとの数と対をなすものであって, 互いに共役の関係にある二数はほとんど同じ性質を持っているべきです. 共役の定義や性質については次回の記事で詳しく記します.


そして, 二次体の整数が通常の整数の拡張概念であるためには, 次が必要です.


\ ({\rm P}3)\ 有理数\ \mathbb{Q}\ についても同様に定義すると, その整数環は\ \mathbb{Z}\ となる.


最後の条件は,


\ ({\rm P}4)\ 以上の条件を満たす集合の中で, もっとも広いものが整数環である.

 

単純に\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の元のうち\ a+b\sqrt{5}\ \ (a,b\in\mathbb{Z})\ の形のものを\ \mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の整数と呼ぶことにしても\ ({\rm P}1)\ から\ ({\rm P}3)\ までの条件は成立しますが, ここで問題になるのは\ ({\rm P}4)\ の条件です. 実は, この定義では\ ({\rm P}4)\ の性質は満たされておらず, つまり, 整数環の範囲をまだ拡張できる余地が存在します. もっとも広い集合が何であるかを考えるために, 内容を整理して, 条件\ ({\rm P}1)\ から\ ({\rm P}3)\ の成立のために必要十分な (同値な) 条件を導いてみることにしましょう.


まず\ K=\mathbb{Q}(\sqrt{5})\ の元\ \alpha=a+b\sqrt{5}\ \ (a,b\in\mathbb{Q})\ \ K\ 上で整数のとき, 条件\ ({\rm P}2)\ により\ \overline{\alpha}=a-b\sqrt{5}\ も整数である必要があります. このとき, \ ({\rm P}1)\ から\ \alpha,\overline{\alpha}\ の和・積は\ K\ 上の整数であるので \begin{align} \begin{cases} {\rm Tr}(\alpha)=\alpha+\overline{\alpha}=2a\in\mathcal{O}_K\\ N(\alpha)=\alpha\overline{\alpha}=a^2-5b^2\in\mathcal{O}_K \end{cases} \end{align} となります. ここで条件\ ({\rm P}3)\ に着目すると, \ \mathbb{Q}\ \ K\ に対し整数環が同様に定義されるということは, \begin{align} \mathbb{Z}&=(\mathbb{Q}\ の元のうち,\ 条件\ p\ を満たすもの\ ) \\\ \mathcal{O}_K&=(K\ の元のうち,\ 条件\ p\ を満たすもの\ ) \end{align} となるような共通の条件\ p\ が存在しているはずです.

本文の内容によれば条件\ p\ の正体は「最小多項式\ \mathbb{Z}\ 係数である. 」ということになります.

このとき, 条件\ p\ を満たす数の全体の集合を\ P\ とすると, \ \mathbb{Z}=\mathbb{Q}\cap P, \mathcal{O}_K=K\cap P\ なので \begin{align} \mathcal{O}_K\cap\mathbb{Q}&=(P\cap K)\cap\mathbb{Q}\\ &=P\cap(K\cap\mathbb{Q})\\ &=P\cap\mathbb{Q}\qquad(\;\because K\supset\mathbb{Q})\\ &=\mathbb{Z} \end{align} になります. 先ほど述べた\ \alpha+\overline{\alpha}=2a\in\mathcal{O}_K, \alpha\overline{\alpha}=a^2-5b^2\in\mathcal{O}_K\ において, \ a,b\in\mathbb{Q}\ なので\ \alpha+\overline{\alpha}, \alpha\overline{\alpha}\ \ \mathbb{Q}\ \ \mathcal{O}_K\ の両方に属することになり, したがって\ \mathbb{Z}\ に属します. よって, \ {\rm Tr}(\alpha)=\alpha+\overline{\alpha}, N(\alpha)=\alpha\overline{\alpha}\ が普通の整数であることが, 条件\ ({\rm P}1)\ から\ ({\rm P}3)\ が満たされるために少なくとも必要ということになります.


逆にトレースとノルムが普通の整数であることを整数の定義とすれば, \ ({\rm P}1)\ から\ ({\rm P}3)\ のすべての条件が成立していることもわかるので, これらは同値な条件であるといえます. したがって, 条件\ ({\rm P}1)\ から\ ({\rm P}3)\ の成立とトレース, ノルムが整数であることは同値であり, 条件\ ({\rm P}4)\ も満たされていることがわかりました.


そして補題 2.7 で示したように, \ {\rm Tr}(\alpha)\ \ N(\alpha)\ が整数であることは, \ \alpha\ の最小多項式\ \mathbb{Z}\ 係数であることと同値ですから, 「最小多項式\ \mathbb{Z}\ 係数であるような元の全体」が, 条件\ ({\rm P}1)\ から\ ({\rm P}3)\ が満たされるために必要かつ十分ということになります. そのため, 本文中ではこの条件を定義として扱っていたというわけです. このように, 最小多項式が存在して, それが整数係数になるような複素数のことを代数的整数 (algebraic integer) と呼びます. 二次体の整数は, 二次体の要素のうち, 代数的整数でもあるような数のことを指しているといえます. 式に書くならば, \begin{align} \mathcal{O}_K=K\cap\overline{\mathbb{Z}}. \end{align} ただし\ \overline{\mathbb{Z}}\ は代数的整数の全体の集合を表します.





*1:この例は代数体ではありませんが.

[tex: ]


ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



pic-Arithmetica

算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

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