正の整数 𝑁 に対して, 次の同値が成立する.
この連続記事は, 以下を目標として記したものです.
- フィボナッチ数の判定式に対して初等的な証明を与える.
- ペル型方程式の解法について考察し, 二次体とその整数環や単数といった代数的整数論の概念に触れる.
集合, 二次方程式の解と係数の関係, 約数と倍数など
(1) の記事 :
フィボナッチ数の判定式 (1) 初等的証明 - Arithmetica 算術ノート
(2) の記事 :
フィボナッチ数の判定式 (2) 二次体とその整数 - Arithmetica 算術ノート
二次体の整数
二次体の整数の整除
さて, 前回の記事で二次体の「数」, 「整数」とは何者かということについて書きました. 今回は, 二次体の整数について倍数や約数(整除)といった「整数」どうしの関係に関する概念を定義し, 二次体の単数についての定理を用いてフィボナッチ数の判定式の別証明を与えようと思います.
整除については普通の整数の場合の定義と一緒です. すなわち, 整数倍で表せることを倍数である, 割り切れると表現し, その逆の関係を約数である, 割り切るといいます.
記号では普通の整数のときと同様に \begin{align} \beta\mid\alpha \end{align} と書きます.
後述するように, 二次体の整数環における整除性にはノルムの値が関わっているのですが, その証明をより透明化するために共役(きょうやく)というものについて考えます. の最小多項式をとおくと, 二次方程式 \begin{align} f(x)=0 \end{align} は異なるつの解を持ち, そのうちのつがです. もう一つの解をと書き表し, こののことをと対をなす数と捉え, 共役と呼ぶのでした. 二次方程式の解の公式の形を考えれば, の共役は \begin{align} \overline{\alpha}=a-b\sqrt{5} \end{align} と表せることがわかります. ただし, の最小多項式が一次式, すなわちのときはなので, 自身をその共役と定義します.
二次体における共役は, 複素数体でいうところの複素共役に対応する概念です.
証明. とおく. を確かめることは簡単である.については, \begin{align} \overline{\alpha_1\alpha_2}&=\overline{(a+b\sqrt{5})(c+d\sqrt{5})}\\ &=\overline{(ac+5bd)+(ad+bc)\sqrt{5}} \\ &=(ac+5bd)-(ad+bc)\sqrt{5},\\ \overline{\alpha_1}\ \!\overline{\alpha_2}&=\left(\overline{a+b\sqrt{5}}\right)\left(\overline{c+d\sqrt{5}}\right)\\ &=(a-b\sqrt{5})(c-d\sqrt{5})\\ &=(ac+5bd)-(ad+bc)\sqrt{5}. \end{align} ここで左辺どうしを比較すれば補題の式が得られる.
証明. 補題 3.3 よりなので, \begin{align} N(\alpha\beta)=\alpha\beta\overline{\alpha\beta}=\alpha\overline{\alpha}\beta\overline{\beta}=N(\alpha)N(\beta). \end{align}
以上の補題から, 次の性質が導けます.
証明. がで割り切れるとき, 定義よりとなる上の整数が存在する. 補題 3.4 から, この等式において両辺のノルムをとると \begin{align} N(\alpha)=N(\beta)N(\gamma) \end{align} となるが, は上の整数でありなので, はで割り切れる.
これで, における倍数, 約数の関係が捉えやすくなりました.
二次体の単数
最後の準備は, 二次体の単数と呼ばれる概念についてです.
を変形した方程式 \begin{align} \alpha\beta=\pm1\quad\ \left(\alpha=\frac{x+y\sqrt{5}}{2},\ \beta=\frac{x-y\sqrt{5}}{2}\right) \end{align} を眺めると, つのの元はかけるとになる「数」の組であり, 通常の有理数の世界でいえばの約数に相当します. このような「整数」は, 実は二次体においても非常に特別な役割を持ちあわせているのです.
上の整数である.
の約数である. すなわち, かけてとなる上の整数がある.
有理数体の世界で類似したものを考えると, 全く同じ条件に当てはめることでの単数はのつのみであるということが解るでしょう.
一方で, の世界では不思議なことに, 単数は無数に存在することが知られています.
証明. (条件の十分性)かつのとき, \begin{align} \alpha\overline{\alpha}=N(\alpha)=\pm1 \end{align} により, 逆数は共役の倍(複号同順)に等しい. 定義からはと同じ二次方程式の解であるので, すなわち符号違いのもの元である. よってはの単数である.
(条件の必要性)の単数に対しては自明. また, の逆数に関してであり, 両辺のノルムを比較すると \begin{align} N(\alpha)N(1/\alpha)=N(1)=1. \end{align} によりであるから, はの約数になるのでが成立する.
ここで再びの正整数解の話に戻りますと, \begin{align} \alpha\beta=\pm1\ \ \left(\alpha=\frac{x+y\sqrt{5}}{2},\ \beta=\frac{x-y\sqrt{5}}{2}\right) \end{align} により, よってはの整数です. 右辺がのいずれであっても, それぞれ \begin{align} \alpha(\pm\beta)=1\\ \end{align} あるいは \begin{align} (\pm\alpha)\beta=1 \end{align} と変形することによっては単数であることが判ります. そこで, の単数には具体的にどのような元があるのかを調べます.
証明. がの整数のとき \begin{align} \alpha=\frac{x_1+y_1\sqrt{5}}{2},\ \beta=\frac{x_2+y_2\sqrt{5}}{2},\\\ x_1\equiv y_1,\ x_2\equiv y_2\ \ ({\rm mod}\ 2) \end{align} なるが存在し, このとき \begin{align} \alpha\beta=\frac{(x_1x_2+5y_1y_2)+(x_1y_2+x_2y_1)\sqrt{5}}{4}. \end{align} 右辺の値をとおくと,
なのであとはを示せばよいが, これは
であることから従う. よってもの整数である.
がの単数のとき, 定義からにおいてはの整数である. これらの等式を掛けあわせると \begin{align} 1=(\alpha\beta)(\alpha^{-1}\beta^{-1}) \end{align} となるが, によりの整数どうしの積およびはまた整数になるので, はの約数, すなわち単数である.
(別証明)がの単数のとき, によりはの整数である. さらに, \begin{align} |N(\alpha\beta)|=|N(\alpha)||N(\beta)|=1\cdot1=1 \end{align} よりなので, 命題 3.8 によればはの単数である.
とおくと
であってはの単数です. の単数は他にも無数にありますが, その中でもはより大きい最小の単数であり, このような単数を基本単数といいます. がのより大きい最小の単数である理由については, これまでの考察も踏まえて, 考えてみてください(→注釈*1).
証明. まず補題 3.8 によると, 単数どうしの掛け算は単数を与えるから, 上に揚げた数が単数であることがわかる. この他に単数がないことを示すために, すべてのに対してとの間に単数が存在しないことを証明する. をの正の単数とする. このとき, によると \begin{align} \phi^n\le\varepsilon\lt\phi^{n+1} \end{align} を満たすがただ一つ存在する. 両辺をで割ると \begin{align} 1\le\varepsilon\phi^{-n}\lt\phi. \end{align} 補題 3.8 により単数どうしを掛け合わせるとまた単数となるので, は単数である. ここで仮にであったとするとがより大きい最小の単数であったことに反する. よって, つまりが成り立つ.
またが負の単数のときは, 単数どうしの積が正の単数であるから, すでに示したことによって, となるの存在がわかる.
ただし, 証明中で用いた記号はギリシアアルファベットのepsilon(イプシロン, エプシロン)の小文字です.
また
なのでの単数は無数に存在していることがわかりました.
以上で準備は完了です. あとはこれまでの内容をまとめ上げれば定理 2.1 が得られます.
もう一つの証明
証明. をの正整数解とすると \begin{align} \alpha\overline{\alpha}=\pm1\ \ \left(\alpha=\frac{x+y\sqrt{5}}{2}\right). \end{align} が成立する. これはと書いても同じである. ここで, をで還元すると \begin{align} x^2-5y^2\equiv0\ \ ({\rm mod}\ 2)&&x\equiv y\ \ ({\rm mod}\ 2) \end{align} になるのでは二次体の整数である. さらに, からはの単数であり, からなので \begin{align} \alpha=\frac{x+y\sqrt{5}}{2}=\phi^n \end{align} なるが定まる. また逆に, このようなが存在するならば, であり, であるから, はペル型方程式の正の整数解である.
最後にをの形にするために少しの計算を行います.
証明. に関する三項間の帰納法で示す.
の成立を仮定するとき, 等式の両辺にを乗じて \begin{align} \phi^{n+2}&=\phi^{n+1}+\phi^n\\ &=\frac{L_{n+1}+F_{n+1}\sqrt{5}}{2}+\frac{L_n+F_n\sqrt{5}}{2}\\ &=\frac{L_{n+2}+F_{n+2}\sqrt{5}}{2} \end{align} となるので, の場合も成り立つ. あとはの場合を確かめるのみであるが, \begin{align} &\phi=\frac{1+\sqrt{5}}{2}=\frac{L_1+F_1\sqrt{5}}{2}\\ &\phi^2=\frac{3+\sqrt{5}}{2}=\frac{L_2+F_2\sqrt{5}}{2} \end{align} であるから正しい.
証明. 定理 2.1, 命題 3.10 によって自明である.
リュカ数列およびフィボナッチ数列の単調増加性, つまり
という大小の序列を考えれば, が番目の解であることも容易にわかります.
種明かし
(1)の記事において, のある正整数解からつ前の解を生み出す函数 \begin{align} f\;\colon\;(x,y)\longmapsto\left(\frac{5y-x}{2},\frac{x+y}{2}\right) \end{align} を扱いましたが, なぜこのようにを定義するとうまくいくのかという理由については紹介できませんでした. 実は, この変換は定理 2.1 を用いれば簡単な計算で導出することができます.
の正整数解をとると, 定理 2.1 から \begin{align} \frac{x_{n}+y_n\sqrt{5}}{2}\cdot\frac{1+\sqrt{5}}{2}=\frac{x_{n+1}+y_{n+1}\sqrt{5}}{2} \end{align} が成立し, 両辺をで割ると
つまり \begin{align} x_{n}=\frac{5y_{n+1}-x_{n+1}}{2},\ y_n=\frac{x_{n+1}-y_{n+1}}{2} \end{align} となって, の式形が現れました.
一般のペル方程式と二次体
ここまで方程式の正整数解について考えてきましたが, より一般に, 平方数であるような約数をの他に持たない正整数を用いて \begin{align} x^2-dy^2=\pm1\quad\mbox{または}\quad\pm4\ \end{align} の形で表される方程式をペル方程式といいます. 厳密にいうと, のときは \begin{align} x^2-dy^2=\pm4 \end{align} を考え, のときは \begin{align} x^2-dy^2=\pm1 \end{align} を考えて, これをを係数とするペル方程式と名付けます*2. ここからは, 多少の一般化をまじえながら, 二次体の整数と単数について復習してみることにしましょう.
説明を振り出しに戻します. まずを《以外に平方数の約数を持たない》ような (正または負の) 整数とします. 有理数との加減乗除によって作られる数の全体を \begin{align} \mathbb{Q}(\sqrt{d})=\{a+b\sqrt{d}\mid a,b\in\mathbb{Q}\} \end{align} と表し, これを二次体と呼ぶのでした. 特にのときは実二次体といい, のときには虚二次体といいます. 実二次体は虚数を含みませんが, 虚二次体には少なくとも一つ虚数が含まれます(例えば).
このような一般の二次体をとおくと, 上の整数とは, の要素のうち(上の)最小多項式が整数係数であるものとして定義され, その全体はと表されます. このを表す公式は少し複雑で, をで割ったときの余りによって二種類に分かれ, のときは \begin{align} \mathcal{O}_K=\left\{\frac{x+y\sqrt{d}}{2}\;\middle|\;x,y\in\mathbb{Z},\ x\equiv y\ (\mathrm{mod}\ 2)\right\} \end{align} という集合になり, のときは \begin{align} \mathcal{O}_K=\{x+y\sqrt{d}\mid x,y\in\mathbb{Z}\} \end{align} という集合になります. 証明は命題 2.8 のときと同様なので, 興味のある方は考察してみるとよいでしょう.
が環になること, つまり加法, 減法と乗法について閉じていることも, 前と同じように証明ができます(についての場合分けが必要ですが).
上の整数のうち, の約数に当たるものを単数といいます. すなわち, 上の整数が単数であるとは, \begin{align} \alpha\beta=1 \end{align} を満たす上の整数が存在することです. 単数どうしの掛け算は必ずまた単数になります. 更に, 単数の逆数はまた単数になります.
虚二次体での具体例を挙げると, の単数は \begin{align} \pm1,\ \pm\sqrt{-1} \end{align} の四数のみになります. またの単数は \begin{align} \pm1,\ \frac{\pm1\pm\sqrt{-3}}{2} \end{align} の六数のみであり, それ以外の虚二次体については, 単数はの二数のみになります.
また実二次体の方の単数は, ある一つの単数が存在して \begin{align} \pm\varepsilon^n\ (n\in\mathbb{Z}) \end{align} の式に表されます.
を実二次体の整数とすると, これが単数であることは, に対して定義されるノルム \begin{align} N(\alpha)=\alpha\overline{\alpha} \end{align} がになることです.
まとめると, ベル方程式は《与えられた実二次体においてすべての単数を求める問題》と同じであり, かつ, すべての単数は基本単数から成り立ちます. したがって, 基本単数が見つかれば, ペル方程式は解決するのです. では基本単数をどのように見つけるかというと, そのときは一度もとのペル方程式に立ち戻って, 小さい方の値から正整数解を探していくのがよいです(あるいは少し技巧的に連分数を使う解き方もあります).
先取りのようになりますが, 一般的なことを書くと, このように整数の世界を拡張した際には, 新しい世界において「単数」(の約数に当たる数)と「素数」(整数の積分解においてアトムとなる数)がどのような集合を成しているかを考察しておく必要があって, それらを完璧に克服するとようやく, 二次体の上で自在に整数を扱うことができるのです. 二次体上の素数ならびに素因数分解についても, また本ブログで解説できれば嬉しいです.
演習問題
七個.
上の整数の定義を述べよ. またが上の整数であるためのの必要十分条件を答えよ.
上の整数の全体は加法, 減法, 乗法について閉じていることを示せ.
の単数の定義を述べ, 単数をすべて求めよ.
の要素であって(上のモニックな)最小多項式が整数係数であるような数. 同値条件は略. であって, を満たすが存在するもの.
等式において, 左辺を分解して \begin{align} (2+\sqrt{5})(2-\sqrt{5})=-1 \end{align} とし, この式を累乗することを考える. それぞれの正の整数について, の乗を計算してが得られたとする. すると共役の性質から, すべてのについてが成り立つ. よってであるから, 正整数解は無数に存在する. 数列は (狭義) 単調増加なので解が重複することもない.
百四段目.
この事実を証明せよ (前の問題が参考になる).
法の剰余のなす集合をとして, 個のマスからなる平面の上に, 曲線 \begin{align} C_p=\{(x,y)\mid x^2-5y^2=\pm4\ (\mathrm{mod}.p)\} \end{align} を描く. に含まれる点の個数は, 上記の周期の長さに一致することを示せ.
一周期に含まれる剰余の個数は最大でいくらか.
四個.
この問題の解説記事 :
フィボナッチ数列に現れる 2 の冪と 5 の冪の決定問題 - Arithmetica 算術ノート
この問題の解説記事 :
(𝒙 + 1/𝒙)(𝒚 + 1/𝒚) が整数になるような正整数 𝒙, 𝒚 の決定問題 - Arithmetica 算術ノート
を満たす整数成分の行列 (行ベクトル) が存在することを示せ.
上の問いに基づいて, 代数的整数の全体が「環」をなす理由をわかりやすく説明すること.
参考文献
[1] 高木貞治 (1931), 『初等整数論講義』, 共立出版.
[2] Raymond E. Whitney (1972), "Advanced Problems and Solutions." The Fibonacci Quarterly, Vol. 10, No. 04; pp. 413-421.
[3] Tianxin Cai, Deyi Chen, Yong Zhang (2013, 2014), "Perfect Numbers and Fibonacci Primes." International Journal of Number Theory, Vol. 11, No. 01; pp. 159-169.
[4] David Singmaster (1975), "Repeated Binomial Coefficients and Fibonacci Numbers." The Fibonacci Quarterly, Vol. 13, No. 4; pp. 295-298.