但だし, 𝒑 は 2 でも 5 でもない素数を表すものとします.
この記事は以下を目標として記したものです.
の乗根, 指数と対数の冪級数展開, 進数
前提
以前に本ブログにて取りあつかいました進数の理論を援用します. その上で, 一層大きな代数体である円分体の完備化を実行しなければなりません.
円分体
§ 1.1.1 を以上なる素数として固定し, 次のように, の原始乗根をと置きます. \begin{align} \zeta=\exp{\left(\frac{2\pi}{p}\sqrt{-1}\right)}. \end{align} 有理数体に新しくを添加して, 有理数およびの加減乗除*1によって造られる数, や等を全て含めた集合を, と書きます. そうしますと, 集合は体になるのみでなく, 広く知られているように次の関係式が成りたちます. \begin{align} \mathbb{Q}(\zeta)=\mathbb{Q}+\zeta\mathbb{Q}+\cdots+\zeta^{p{-}2}\mathbb{Q}. \end{align} このを円分体といいます. 円分体の要素を右辺の形式に表す方法は, それぞれにたいして, 唯だ一通りに限り存在します*2.
§ 1.1.2 次に, 番号について, 次の三条件に従い函数を導入します.
つねにであり, かつ, . また, である.
が有理数であるならば, である.
である.
詰まり, 円分体の要素 \begin{align} a_0+a_1\zeta+\cdots+a_{p{-}2}\zeta^{p{-}2} \end{align} にを乗じた結果を \begin{align} a_0+a_1\zeta^j+\cdots+a_{p{-}2}\zeta^{j(p{-}2)} \end{align} にするということです. 式中の文字はそれぞれ有理数を表してあります.
§ 1.1.3 円分体の元にたいするトレースおよびノルムとは, 次式のことをいいます. $$ \mathrm{Tr}(\alpha)=\sum_{0\lt j\lt p}\sigma_j(\alpha),\quad\mathrm{N}(\alpha)=\prod_{0\lt j\lt p}\sigma_j(\alpha). $$ これら総和と乗積とは, 函数を施しても変化の起こらない式であります. の対応が有理数を変化させることがなく, 無理数のみを変えることは容易に確かめられますので, のトレースおよびノルムの値は, 有理数体の元であるといえます. 加えて写像の性質から, トレースとノルムについての次の特性が見つけられます. \begin{align} \mathrm{Tr}(\alpha+\beta)&=\mathrm{Tr}(\alpha)+\mathrm{Tr}(\beta),\\ \mathrm{N}(\alpha\beta)&=\mathrm{N}(\alpha)\mathrm{N}(\beta). \end{align} 要約すると, トレースとノルムとが, 円分体の加法および乗法を保持するということであります.
§ 1.1.4 円分体は有理数の集合の拡大体に当たりますが, この拡大を通じて, 有理整数の範囲にもまた拡張がおこなわれます. 新しい整数の集合は, 次の式によって表されます. \begin{align} \mathbb{Z}[\zeta]=\mathbb{Z}+\zeta\mathbb{Z}+\cdots+\zeta^{p{-}2}\mathbb{Z}. \end{align} この集合は, 複素数の加法と乗法とに関して閉じたものでありますから, 環の構造を成します. これをの整数環といい, と書きます. 環の要素にたいしては, ノルムの値はの要素であり, 有理整数になります. 通常の整数と同じように, 環の元について商がに属するとき, はにより割りきれる, はの約元であるといい, \begin{align} b\mid a \end{align} と表します. そのとき, 必ず有理整数の環の上でも, ノルムの整除関係が成りたちます.
§ 1.1.5 また, におけるの約元, 即ちを充たす元を単数と呼びます. 数が単数であるための同値条件は, ノルムについての成立することであって, 単数と単数とを掛けた積は必ずまた単数になります. 円分体の元とが互いに単数倍の関係にあるとき, 二個は同伴な元といって, これをと表します. 同伴な二数の間では, 整除についての性質が著しく似るものでありますから, 殆ど区別の要がありません.
§ 1.1.6 ここで, 整数環の数のノルムを計算してみることに致しましょう. 先ずの代わりに不定元を用いて, 多項式の計算をすると, \begin{align} &(X-\zeta)(X-\zeta^2)\cdots(X-\zeta^{p{-}1})\\=\;&\frac{X^p-1}{X-1}\\=\;&1+X+\cdots+X^{p{-}1}. \end{align} ここにを代入すればが得られます. 次に, 整数にたいして, 二数ととの関係を示すために, これらの比を考えるとき, \begin{align} \frac{1-\zeta^k}{1-\zeta}=1+\zeta+\cdots+\zeta^{k{-}1}\in\mathscr{O} \end{align} であり, また分子と分母とを交換しても, を充たす整数について, \begin{align} \frac{1-\zeta}{1-\zeta^k}=1+\zeta^k+\cdots+\zeta^{k(g-1)}\in\mathscr{O}. \end{align} 故には単数であって, それらの乗積もまた単数になります. ここから得られるのは, であります. この式は, 拡張された整数範囲の中において, 素数が冪乗に分解する様子を表しています (→完全分岐).
§ 1.1.7 然も, 分解に使われる数は, 環にあって当に素数のような役目を果たすものであります (→素元). 即ち, が円分体の整数の積を整除するとき, はととの少なくともどちらかを整除するのです. 円分体の整数\begin{align} \alpha=a_0+a_1\zeta+\cdots+a_{p-2}\zeta^{p-2}\ \ \in\mathscr{O} \end{align} を「法に従って還元した剰余」に当たる数を, \begin{align} R(\alpha)=a_0+a_1+\cdots+a_{p-2}\ \ \in\mathbb{Z} \end{align} の通りに定義します. そのとき,
つねにはの倍元であり,
つねにおよびが成りたつのが判ります.
由って, 積がの倍元であるのならば, 有理整数の上でが成立してまたはを要しますが, によると, これはととの何れかがの倍元であることを示すものです.
𝝅 進数 (𝔭 進数)
§ 1.2.1 を円分体の整数としますと, 数列 \begin{align} a,\ a/\pi,\ a/\pi^2,\ \ldots \end{align} は或る項を堺として, 左側が皆な円分体の整数に, 右側が皆な円分体の非整数になります. 何故ならば, 或る項が整数であるとするともまた整数であり, かつ対偶として, が整数でなければ, もまた整数でないからであります. ととを同時に充たす非負の整数の倍の数をと表して, これを進付値といいます. 進付値は整数のみに限らず, 他の円分体の元にたいしても, \begin{align} v_{\pi}(\alpha)=v_{\pi}(a)-v_{\pi}(b) \end{align} のように定義されるものであります*3. 但だしは例外になりますから, 特別にを形式的な値として定めます.
§ 1.2.2 ここから, 円分体の元の進絶対値が構成されます. \begin{align} |x|_{\pi}=p^{-v_{\pi}(x)}. \end{align} が素元であることに従って, 次の性質が現れます.
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§ 1.2.3 集合においても, 従来の実数と同じように, 絶対値に準拠した収束列および Cauchy 列 (コーシー列) の定義が与えられ, その完備化をおこなうことができます. 内のあらゆる Cauchy 列を集めて, その集合をとし, もってゼロ列の全体を \begin{align} \mathfrak{m}=\{(a_n)\in\mathfrak{R}\mid a_n\to0\} \end{align} と置きます. 二本の Cauchy 列ととにたいし和および積を定義して, \begin{align} x+y=(x_n+y_n),\quad xy=(x_ny_n) \end{align} とすれば, は環になるとともに, その中で部分集合が次の特徴を現します.
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がゼロ列でなければ, を充たすが存在する.
これら故に, 剰余環 \begin{align} \mathbb{Q}_p(\zeta)=\mathfrak{R}/\mathfrak{m} \end{align} のでない各々の要素は乗法逆元を保有し, 全体として体を成します. 円分体の要素を定数列と同列に見るならば, の関係があり, 然もは距離空間として完備なものであります (→進数の記事, 命題 3.10 と同様). これを進数体と名付けます. 但だし, 進数体上の距離とは, 元々円分体に付いていた距離を拡張して, \begin{align} d_{\pi}({(x_n),(y_n)})=\lim_{n\to\infty}|x_n-y_n|_{\pi} \end{align} により導入される函数を考えるものです.
§ 1.2.4 次に, の中に \begin{align} \mathbb{Z}_p[\zeta]=\{x\in\mathbb{Q}_p(\zeta)\mid|x|_{\pi}\leqslant1\} \end{align} という領域を区切れば, § 1.2.2 の不等式のために, この集合は加法乗法について閉であり, 進数体の部分環となります. 一般の場合に倣って, これからはと記し, と表記することにしましょう. 明白に, の単数群は \begin{align} \mathcal{O}^{\times}=\{x\in\mathcal{O}\mid |x|_{\pi}=1\} \end{align} と書かれる集合に当たり, あらゆるは, 一意に \begin{align} x=\pi^nu,\quad n\in\mathbb{Z},\ u\in\mathcal{O}^{\times} \end{align} のような形式で表すことができます. \begin{align} \begin{array}{ccc} k & \subset & K \\ \cup & & \cup \\ \mathscr{O} & \subset & \mathcal{O} \end{array} \end{align}
𝒑 進対数
§ 1.3.1 進絶対値や進絶対値を基に極限や無限級数の収束, 発散を考察すれば, 遥かに実数よりも扱いよい性質が数多く発見されますが, その根源を尋ねると, 悉く強三角不等式 (§ 1.2.2) の与りがあることに気が付きます. を進数の数列とするとき, 無限級数が収束することは, 進数の集合における \begin{align} \lim{a_n}=0 \end{align} と同値であり, また実数の集合における \begin{align} \lim|a_n|_{\pi}=0 \end{align} と同値であり, \begin{align} \lim v_{\pi}(a_n)=\infty \end{align} とも同値であります. このように, 実数や複素数よりも強力な級数の収束判定法を用いることができるのであります.
§ 1.3.2 判定法によると, \begin{align} \exp_p(x)=\sum_{0\leqslant n}\frac{x^n}{n!},\quad|x|_{\pi}\lt p^{-1/(p-1)} \end{align} および \begin{align} \log_p(1-x)=-\sum_{1\leqslant n}\frac{x^n}{n},\quad|x|_{\pi}\lt1 \end{align} の無限和は, 各区間にあって収束することが解ります. これを進指数, 対数と呼称します. 詰まり, 実数や複素数の解析学に知られた指数, 対数の級数展開に似せて, 新たに進数の無限和を導入しているのに他なりません.
§ 1.3.3 ここでの上の収束級数ととに関して, その和および積の取りあつかいが詳細に解ると便利であるから, およびに当たる無限級数について, 平易に言及しておくことに致しましょう. 二個の級数が共に収束するならば, \begin{align} \sum_{0\leqslant n}(a_n+b_n) \end{align} という級数がに収束し, \begin{align} \sum_{0\leqslant n}^n\sum_{0\leqslant l\leqslant n}^la_{l}b_{n-l} \end{align} がに収束します. 和の公式は実数や複素数等にも通ずる事実である一方, 積の公式の収束性は強三角不等式 (§ 1.2.2) に基づいています.
§ 1.3.4 有名な形式的冪級数の等式*4により, 収束区間上で次の等式が成りたちます. \begin{align} &\exp_p(x+y)=\exp_p(x)\exp_p(y),\\ &\exp_p(\log_p(x))=\log_p(\exp_p(x))=x. \end{align} ここから, 二つの写像, ととは互いに逆写像の関係にあり, 一つ目の等式の反転に当たる \begin{align} \log_p(xy)=\log_p(x)+\log_p(y) \end{align} が成立します. この式は対数という概念の真に象徴的な性質でありますが, これよりも一般の場合や, 形式的冪級数を取りあつかうことにおいては, 等号が必ずしも正しくならないという大前提に, よく注意を払わなければなりません.
Fibonacci 商
本記事においては, Peter Lombaers 氏の論文 [1] の部分的な内容を解説します. 主定理が初めて明らかにされた文献は Zhi-Wei Sun (孙智伟*5) 氏と Roberto Tauraso 氏との共著論文 [7] であり, [1] は同じ級数を進対数を使ってより簡単に計算したものになります.
小定理の類似
§ 2.1.1 二次方程式の二個の根を \begin{align} \phi=\frac{1+\sqrt{5}}{2},\quad\bar\phi=\frac{1-\sqrt{5}}{2} \end{align} とし, と整数との加法, 減法, 乗法によって造られる数の全体を, 次のように書きます. \begin{align} \mathbb{Z}[\phi]&=\mathbb{Z}+\phi\mathbb{Z}\\ &=\left\{\frac{x+y\sqrt{5}}{2}\;\middle|\;\begin{array}{c}x,\ y\in\mathbb{Z},\\x\equiv y\ \ (\mathrm{mod}.2)\end{array}\right\}. \end{align} この環の上で, 各整数にたいし, \begin{align} \phi^n=\frac{L_n+F_n\sqrt{5}}{2} \end{align} を充たす整数およびを定義しましょう. 等式に依れば, \begin{align} L_{n+2}=L_{n+1}+L_n,\quad F_{n+2}=F_{n+1}+F_n \end{align} の漸化式が成立し, 然もであるから, 番号に対応するおよびは正の整数になります. 前者を Lucas 数列 (リュカ数列) といい, 後者を Fibonacci 数列 (フィボナッチ数列) といいます. 共役の式がこれと同時に成立するので, 二数列の一般項を表現する次の等式が得られます. \begin{align} L_n=\phi^n+\bar\phi^n,\quad F_n=\frac{1}{\sqrt{5}}(\phi^n-\bar\phi^n). \end{align}
§ 2.1.2 素数と番号にたいして, 全て二項係数 \begin{align} \binom{p}{i}=\frac{p!}{i!(p-i)!} \end{align} はを素因子として持ち, あらゆる整数 (およびの元) に関して \begin{align} (x+y)^p\equiv x^p+y^p\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} であります. これに依れば, 正なる整数の乗をによって割るとき, \begin{align} a^p&\equiv(1+1+\cdots+1)^p\\ &\equiv1+1+\cdots+1\equiv a\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} が成りたち, 負および零の整数にたいしてもまたになります. これが初等整数論に知られる Fermat の小定理 (フェルマの小定理) であります. このような剰余の乗の公式を, からの元に拡張することを次の目的と致しましょう.
§ 2.1.3 今の状況を代数的に俯瞰して, 乗の写像を取りあげると, これは次の特性を示していることが確かめられます.
つねにであり, かつ, . また, である.
が有理整数であるならば, である.
故に, のによる像は, \begin{align} \varphi(a+b\phi)\equiv a+b\varphi(\phi) \end{align} に表され, 式中のが如何なる値であるかが問題となります.
§ 2.1.4 この問いを解決するときに際して, 環に法を適用した剰余系, \begin{align} R=\mathbb{Z}[\phi]/p\mathbb{Z}[\phi] \end{align} の構造を調べ, その加法, 乗法に関する性質を考察しなければなりません.
§ 2.1.5 先ず第一に, 二次方程式 \begin{align} x^2-x-1\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} が解を持っている場合を考察します. 新たに写像を定義して, \begin{align} f_1(x+y\phi\ \mathrm{mod}.p)=x+y\rho_1\ \mathrm{mod}.p \end{align} という対応関係に着目するとき,
つねにであり, かつ, . また, であります.
同じように, もう一方の解を用いて, 写像を \begin{align} f_2(x+y\phi\ \mathrm{mod}.p)=x+y\rho_2,\ \mathrm{mod}.p \end{align} のように定義するとしても, 前と同じの特徴が現れるのが判ります. 従って, からへの二変数函数, \begin{align} g(a)=(f_1(a),f_2(a)),\quad a\in R \end{align} がの性質をもつことになります. このように二本の写像の組をもって一本の写像とするならば, による要素の結びつきは全単射 (即ち一対一の対応) をなし, 環の法則を詳らかに知るための充分な情報が手に入ります.
つねにであり, である.
加えて連立方程式 \begin{align} \left( \begin{array}{l} x+y\rho_1\equiv c\\ \ \\ x+y\rho_2\equiv d,\quad c,\ d\in\mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \end{array} \right. \end{align} はつねに唯一の解を持つから, は全単射である (は, におけるの逆元を表す).
従って, 平面における等式 \begin{align} (\rho_1,\rho_2)^p\equiv(\rho_1,\rho_2)\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} にを掛けた式から, \begin{align} \phi^p\equiv\phi\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} が得られます. するとであって, 第一の場合は乗の写像と恒等函数の一致する結論が得られるのであります.
§ 2.1.6 次に第二の場合として, \begin{align} x^2-x-1\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} に解がないことを仮定しますと, 剰余系は前の場合と違い, 体の構造を成します. 何となれば, 各々のにたいして, 共役にあたるを乗じると, \begin{align} (a+b\phi)(a+b\bar\phi)\equiv-(b^2-ab-a^2). \end{align} そのとき右辺にに属するでない剰余が見えるので, その逆元を取れば, に掛けてになる剰余を確かめることができるからであります. が体であるということは, を累乗した式から, \begin{align} \varphi(\phi)\equiv\phi\quad\mbox{または}\quad\bar\phi\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} となるのでありますが, 若しも仮にであったとすると, 合同方程式\begin{align} x^p-x\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} の解にが現れなければなりません. 小定理によって \begin{align} x^p-x\equiv x(x-1)\cdots(x-(p-1))\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} が成立しますので, 左辺がに等しいためにはがの内の何れかの元であることを要します. 無論, がこの条件に適合することはありません. でないとすれば, 必然としてになることでありましょう.
§ 2.1.7 このようにの剰余とは, 二次合同式 \begin{align} x^2-x-1\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} あるいは \begin{align} (2x-1)^2\equiv5\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} の解の有無に依存して定まり, の平方根がの内に存在するか否かを条件として決まるものであります. この二次合同式に解があるときは変数をと置き, 解のないときはを設けましょう (→平方剰余記号). そうしますと, 今の論理は \begin{align} \phi^p\equiv\frac{1+\epsilon\sqrt{5}}{2}\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} という一つの式に集約されます.
§ 2.1.8 同様の理由によってが成立するため, \begin{align} L_p\equiv1,\quad F_p\equiv\epsilon\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} が得られます. これらの合同式を Lucas 数と Fibonacci 数に関する Fermat の小定理と称します. これらの他にも, \begin{align} 2L_{p+1}&\equiv1+5\epsilon,\\ 2F_{p+1}&\equiv1+\epsilon,\\ 2L_{p-1}&\equiv-1+5\epsilon,\\ 2F_{p-1}&\equiv1-\epsilon,\\ L_{p+\epsilon}&\equiv3\epsilon,\\ F_{p+\epsilon}&\equiv1,\\ L_{p-\epsilon}&\equiv2\epsilon,\\ F_{p-\epsilon}&\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} 等があり, どれも上の二つの合同式から導くことができます.
未解決問題 : Wall 予想
§ 2.2.1 以上なる整数に関して, の素因子を除く素数における \begin{align} q_p(a)=\frac{a^{p-1}-1}{p}\ \ \in\mathbb{Z} \end{align} の商を Fermat 商と呼びます. 取りわけの場合, がもう一度により割れてになるとき, を Wieferich 素数 (ヴィーフェリッヒ素数) といい, 最小の二つの数であるととの例が有名であります. この Fermat 商の話題に倣い, Lucas 数や Fibonacci 数についても \begin{align} q_p(L)=\frac{L_p-1}{p},\ \ q_p(F)=\frac{F_{p-\epsilon}}{p}\ \ \in\mathbb{Z} \end{align} という商を考えて, これがの倍数になり得るか否かを論題にすることは極めて自然なことでありましょう. 整数を Fibonacci 商といい, を充たす素数を Fibonacci-Wieferich 素数*6といいます. Fibonacci-Wieferich 素数が (抑も) 存在するか否かは当今未知の問題でありますが (→Wall 予想), 少なくともの範囲において, そのような素数は不在であることが検証されてあります (文献 [2]).
§ 2.2.2 若し Wall 予想が解決されると, 素数冪の法における Fibonacci 数列の周期長の等式や, 各にたいする進付値の表示式, Fibonacci 数列に現れる累乗数の定理に, それを前提とした初等的証明が与えられることになります (文献 [3][4][5][6]).
主定理
§ 2.3.1
\begin{align}\frac{F_{p-\epsilon}}{p}\equiv\frac{\,1\,}{\,5\,}\!\sum_{0\lt n\lt p}\!\frac{(-1)^{n{-}1}}{n}\binom{2n}{n}\ \ (\mathrm{mod}.p)\end{align}
⸺中央二項係数から成りたつ上記の交代和は, 妖しくも, 至って自然な形式の内に Fibonacci 商を表し, 級数算術の妙々さを感じさせるものであります.
勿論この有限級数をに依らずに簡約することは困難でありますが, 剰余に還元することによって, Fibonacci 数論における重要な商を引きいだすことができるのであります. 合同式が成立することの根幹的な理由は, 大凡そ次の無限級数の等式に求めることができ, 更にこの等式の本居の部分を探りますと, それは単なる対数函数の定義式を広げたものに過ぎないことが判ります. \begin{align} \log_p{\bigl(\mathrm{N}(1-\alpha)\bigr)}=-\sum_{1\leqslant n}\frac{\mathrm{Tr}(\alpha^n)}{n}. \end{align} ここに色々なを代入して, 各々の辺にを適用すると, 幾種類もの有限級数の式を見つけることができます. 実数や複素数を項として級数の計算をおこなうときは, 大抵或る無限和の収束値からその部分和の値を取りだすことをもって, 殆ど不可能な計算と捉えるのであるけれども, 距離空間を進数や進数に移すならば, 事情異なり, 無限和を有限に戻すための手続きが用意されているのであります.
§ 2.3.2 ここで, 形式的冪級数の計算によって \begin{align} \log{\Bigl(\frac{1+\sqrt{1-4x}}{2}\Bigr)}=-\frac{\,1\,}{\,2\,}\sum_{1\leqslant n}\frac{x^n}{n}\binom{2n}{n} \end{align} なる等式を造ることができますが, 進数体においても, また実数体においても, 級数が発散を起こすためにを代入することはできません (詳細は略).
証明
§ 3.1 をの範囲の進数として, 次の等式を証明しましょう. \begin{align} \log_p{\bigl(\mathrm{N}(1-\alpha)\bigr)}=-\sum_{1\leqslant n}\frac{\mathrm{Tr}(\alpha^n)}{n}. \end{align} と置けば, 各整数にたいするはによって割りきれ, 従っての倍元になるから, はに属し, その対数が定義されます. これに基づいてを右辺の形に変えることは, 決して複雑な操作ではありません. $$ \begin{array}{cl} &\displaystyle\log_p{\bigl(\mathrm{N}(1-\alpha)\bigr)}\\ =\!\!\!\!\!\!\;&\displaystyle\log_p\prod_{0\lt j\lt p}\left(1-\sigma^j\alpha\right)\\ =\!\!\!\!\!\!\;&\displaystyle\sum_{0\lt j\lt p}\log_p{\left(1-\sigma^j\alpha\right)}\\ =\;\!\!\!\!\!\!&\displaystyle-\sum_{1\leqslant n}\frac{\mathrm{Tr}(\alpha^n)}{n}. \end{array} $$ このに \begin{align} \alpha_0=-(1-\zeta)(1-\zeta^{-1})=\pi^2/\zeta \end{align} を代入して, 各辺に置かれたノルムおよびトレースの簡約をおこなうことを次の目標と致しましょう.
§ 3.2 先ずのノルムに関して, \begin{align} &\mathrm{N}(1-\alpha_0)\\ =\;&\mathrm{N}(3-\zeta-\zeta^{-1})\\ =\;&\mathrm{N}(\zeta-3+\zeta^{-1})\\ =\;&\mathrm{N}(\zeta^2-3\zeta+1)\\ =\;&\mathrm{N}(\zeta^4-3\zeta^2+1)\\ =\;&\mathrm{N}({(\zeta^2-\zeta-1)(\zeta^2+\zeta-1)})\\ =\;&\mathrm{N}(\zeta^2-\zeta-1)^2. \end{align} 二乗を外して計算すると, \begin{align} &\mathrm{N}(\zeta^2-\zeta-1)\\ =\;&\mathrm{N}({(\phi-\zeta)(\bar\phi-\zeta)})\\ =\;&\frac{\phi^p-1}{\phi-1}\frac{\bar\phi^p-1}{\bar\phi-1}\\ =\;&\phi^p+\bar\phi^p=L_p. \end{align} 以上によって, \begin{align} \mathrm{N}(1-\alpha_0)=L_p^2 \end{align} が得られました.
§ 3.3 次にトレースの式を整理すれば,
特にの場合, 上式は \begin{align} \mathrm{Tr}(\alpha_0^n)=\binom{2n}{n}(-1)^np \end{align} にまで約まります.
§ 3.4 扨て, 既に示しましたように \begin{align} \log_p{\bigl(\mathrm{N}(1-\alpha_0)\bigr)}=-\sum_{1\leqslant n}\frac{\mathrm{Tr}(\alpha_0^n)}{n} \end{align} の式が成立しています. 各辺を無限和のまま簡約することは難しいので, これらを部分和に変えることを試みるべきであります. 無限級数の定義に依れば, 或る大整数において
の不等式が成りたちます. 絶対値の中にある内容は有理数でありますが, 抑もの上で有理数が, 即ちによって割りきれるときには, 有理数体においても, その既約分数の分子がにより整除されなければなりません. 故に,
不要な項を取りはらうために, 各項の進付値を評価すると, \begin{align} &v_p\left(\frac{(\mathrm{N}(1-\alpha_0)-1)^n}{n}\right)\\ =\;&nv_p(L_p^2-1)-v_p(n)\\ \geqslant\;&n-v_p(n)\\ \geqslant\;&2\quad(n\geqslant2) \end{align} および, \begin{align} &v_p\left(\frac{\mathrm{Tr}(\alpha_0^n)}{n}\right)\\ =\;&\frac{1}{p-1}v_{\pi}\left(\mathrm{Tr}(\alpha_0^n)\right)-v_p(n)\\ \geqslant\;&\frac{n}{p-1}v_{\pi}(\alpha_0)-v_p(n)\\ =\;&\frac{2n}{p-1}-v_p(n)\\ \gt\;&1\quad(n\geqslant p) \end{align} の結果が得られるので, \begin{align} \mathrm{N}(1-\alpha_0)-1\equiv-\sum_{0\lt n\lt p}\frac{\mathrm{Tr}(\alpha_0^n)}{n}\ \ (\mathrm{mod}.p^2). \end{align} 言いかえれば, \begin{align} L_p^2-1\equiv p\sum_{0\lt n\lt p}\frac{(-1)^{n{-}1}}{n}\binom{2n}{n}\ \ (\mathrm{mod}.p^2). \end{align} でありますから, 最後は \begin{align} \frac{L_p-1}{p}\equiv\frac{\,1\,}{\,2\,}\sum_{0\lt n\lt p}\frac{(-1)^{n{-}1}}{n}\binom{2n}{n}\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} の合同式に到達します.
§ 3.5 およびを任意の整数とし, およびという等式に二つの数列の定義に当たる式を代入しますと, 次の恒等式が得られます. \begin{align}&2L_{m+n}=L_mL_n+5F_mF_n,\\&2F_{m+n}=L_mF_n+F_mL_n,\\&L_n^2-5F_n^2=4(-1)^n. \end{align} 特にである場合, \begin{align} L_{p-\epsilon}^2\equiv4\ \ (\mathrm{mod}.p^2) \end{align} 即ち \begin{align} L_{p-\epsilon}\equiv2\epsilon\ \ (\mathrm{mod}.p^2). \end{align} これに依ると \begin{align} 2L_p&=L_{\epsilon}L_{p-\epsilon}+5F_{\epsilon}F_{p-\epsilon}\\&\equiv2+5F_{p-\epsilon}\ \ (\mathrm{mod}.p^2) \end{align} でありますから, \begin{align} 2\frac{L_p-1}{p}\equiv5\frac{F_{p-\epsilon}}{p}\ \ (\mathrm{mod}.p). \end{align} 故に, \begin{align} \frac{F_{p-\epsilon}}{p}\equiv\frac{\,1\,}{\,5\,}\sum_{0\lt n\lt p}\frac{(-1)^{n{-}1}}{n}\binom{2n}{n}\ \ (\mathrm{mod}.p). \end{align} かくして定理は証明されるのであります.
§ 3.6 本記事においてはの有限級数のみを取りあつかったのでありますが, これを拡張して, の合同式を得ることができます. 詳細につきましては文献 [1] をご参照下さい.
文献
[1] P. Lombaers, "Generalizations of Wolstenholme's Theorem via the -adic Logarithm", INTEGERS, Vol.20 (2020), #A42; pp.1-15; INTEGERS link.
[2] A.-S. Elsenhans & J. Jahnel, "The Fibonacci sequence modulo – An investigation by computer for " (2010), CoRR (arXiv); pp.1-27; arXiv link.
の範囲における Fibonacci-Wieferich 素数を検索した方法と結果, および Wall 予想を言いかえた幾つかの同値命題が述べられている.
[3] D. D. Wall, "Fibonacci Series Modulo ", Amer. Math. Monthly, Vol.67 (1960), No.6; pp.525-532; JSTOR link.
における Fibonacci 数の周期的性質, および Wall 予想が述べられている.
[4] T. Lengyel, "The Order of the Fibonacci and Lucas Numbers", Fibonacci Quart., Vol.33 (1995), No.3; pp.234-239; F.Q. link.
Fibonacci 数列の進付値の計算が詳細に述べられている.
[5] V. Andrejić, "On Fibonacci Powers", Publikacije Elektrotehničkog Fakulteta. Serija Matematika, No.17 (2006); pp.38–44; JSTOR link.
Wall 予想と Fibonacci 累乗数の関係が述べられている.
[6] Arpan Saha & C. S. Karthik, "A Few Equivalences of Wall-Sun-Sun Prime Conjecture" (2011), CoRR (arXiv); pp.1-11; arXiv link.
Wall の予想を言いかえた幾つかの同値命題が述べられている.
[7] Z. W. Sun & R. Tauraso, "New congruences for central binomial coefficients", Adv. in Appl. Math., Vol.45 (2010), No.1; pp.125-148; ScienceDirect link.
Fibonacci 商や Fermat 商を含む合同式が述べられている.
*1:ゼロによる除算は例外であるから考えない.
*2:多項式は有理数係数の範囲において既約であって (✽), の最小多項式を成しているから, は次の無理数であり, は上線型独立である. (✽) については, Eisenstein の既約判定法によってが上既約であり, かつ Dedekind の補題によって上既約なる多項式は上も既約であることを考えれば, 明白である.
*3:このの一意性を証明するためには § 1.2.2 (2) の等式を用いる. が素元であることに由来する性質といわなければならない.