正の整数 𝒏 が三つの平方数の和に表されるための必要充分条件は, 𝒏 から 4 を成るべく多く抽出して 𝒏 = 4ᵏℓ と書いたときに, \begin{align} \ell\not\equiv7\ \ (\mathrm{mod}.8) \end{align} になることである.
この連続記事は以下を目標として記したものです.
- 初等整数論の知識から出発し, 進数の基礎理論を解説する.
- 上の二次形式に関する局所大域原理を証明し, そこから三平方和定理を簡潔に導出する.
平方剰余, 空間ベクトル
(1) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (1) p 進整数とは何か - Arithmetica 算術ノート
(3) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (3) p 進数と実数について - Arithmetica 算術ノート
(4) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (4) 局所大域原理の証明 - Arithmetica 算術ノート
平方数
前回の解説で Hensel の補題までお話しを進めておりました. 今次はこの定理の応用として, 進整数における平方数の集合の全体像を明らかにしたのちに, 主題の局所大域原理について簡易的な解釈を述べるところまで論を進めることに致します. それが終われば, 愈々この記事も佳境というべき領域に入り, 準備が足りて, 厳密に三平方和定理を証明することができるようになる, と, 大略こういう流れで書きたいと思います.
始めに Hensel の補題の条件と主張を再確認しておきましょう.
詰まり要約すると, 或る方程式に解があることを論ずるためには, の初等的な合同式の解を提示すれば可いわけであります. 無論合同式がにおいて既に解を持たなければ, そのときは上の方程式は解を有しないことがいえます.
上記の Hensel の補題には自身の一般化に当たる「強補題」が知られています. 証明は前のものと同様で, Newton 法の式を使って数列を構成するのみでありますので, 省略しても差しつかえないと思います (興味のある方は是非とも自身で証明を書いてみてください).
はの進付値であり, の小数展開における末尾の番号を表し, 特にのときは〈割りきれる回数〉を表現するものでありました.
早速この定理を使って平方数の命題を始めたいと思います. あらゆるは, 整数ととに分離して, 一通りに \begin{align} f=p^mu \end{align} と書くことができますので, が平方数であるための条件と, が平方数であるための条件とをそれぞれ考えるのが自然であります.
ここに記号はの単数の全体であり, ではその単数が何かといえば, 進整数の中でもである数, いいかえるとの中に逆数を持つ数のことであります. そして進整数にたいするとは, 剰余 \begin{align} x_k=(a_{{k}{-}{1}}\ldots a_2a_1a_0)_{(p)}\ \ \in\mathbb{Z}/p^k\mathbb{Z} \end{align} を意味します. これらの点に善くご注意ください.
証明. 二次方程式のにおける解を考察する.
この場合は奇数である. 第一にが平方剰余であるとすれば, を充足させるが存在する. そのときが単数であることによって, \begin{align} F(x_1)\equiv0,\quad F'(x_1)=2x_1\not\equiv0. \end{align} 故になるが存在するからは平方数である. 第二にが平方非剰余であるとすれば, 合同式に解が存在しないので, 従ってなるは存在しない.
法の平方剰余はの三個のみである. 故にとすれば, を充足させるが存在する. そのときが単数であることによって, \begin{align} v_2\left(F(x_1)\right)\gt2v_2\left(F'(x_1)\right) \end{align} が成りたつから, になるが存在する. また若しならば, のためにこれは平方非剰余であって, が解を持たない.
を整数の全体あるいは進整数の全体とし, 上の平方元の全体を \begin{align} \Box(R)=\{x^2\mid x\in R\} \end{align} のように定義します. 今の命題によると, 上で平方数かつ単数である数の集まり \begin{align} \mathbb{S}_p=\Box(\mathbb{Z}_p)\cap\mathbb{Z}_p^{\times} \end{align} を次のように書きくだすことができます. \begin{align} \mathbb{S}_2&=8\mathbb{Z}_2+1,\\ \mathbb{S}_3&=3\mathbb{Z}_3+1,\\ \mathbb{S}_5&=(5\mathbb{Z}_5+1)\cup(5\mathbb{Z}_5+4),\\ \mathbb{S}_7&=(7\mathbb{Z}_7+1)\cup(7\mathbb{Z}_7+2)\cup(7\mathbb{Z}_7+4),\\ &\ \vdots \end{align}
これらの式を観察するに, やの平方数の場合と比べて, 集合の表示が甚だ平易になっていることが判ります. の射影的極限として定義された進整数が剰余環にとても近しい性質をもっていること, および Hensel の補題がここに至って好い働きをしているのだといえます.
証明. を平方数としてと置けば, は偶数であり, は平方数である. 逆にが偶数でが平方数ならば, なる整数となるがあるからはの平方数である.
次に実数体の平方数を考えます.
この事実は後の議論で応用します. 態々命題として書く必要はなかったかも知れませんが, 一度ここで想起していただくことも或る程度は有意義と考えた次第であります.
局所大域原理から三平方和定理へ
以上に申しあげました進数の基礎理論は, 拡張された後の進数の諸性質を調べるばかりで, 応用上で一番大切になる, から得られた情報を元のに還元するための手段が殆ど不在でありました. ですからこれだけの命題で不定方程式を解くような方法は, 直ぐに思いつくところには一つもないことでありましょう. 例えば素数を一つ取って, 方程式に進整数解がないから整数解がない, という風の証明をしても, それは初等的なの合同式を使っているのと違いがないのです.
局所大域原理の主張
これに関して, ドイツの数学者 Hasse (ハッセ) が或る重大な事実を明かすことに成功して, 後世の数学界の学び手たちを猛烈に熱狂させるのとともに, 進数という概念の価値を広く知らしめる結果となりました*1. 彼らの定理は二次形式の理論に大本があり, 本来その説明から入らなければならないのでありますが, この場で割愛してしまっても, 差しあたり問題は起こらないはずです. 故に「二次形式」の語を遣 わずに書こうと思います.
有理数上が非自明解を有する.
あらゆるの上でが非自明解を持ち, かつ上で非自明解を有する.
但だし, 自明解とはゼロベクトルをいうのである.
詰まり有理数体における解の存在証明は, それよりも解き易い (平方数の見易い) 進数および実数の方程式に帰結することを言及しています. それで三平方和定理のような難題がいとも容易く解けてしまうわけです.
定理中のの条件は有理数体のみを考えるのにたいして, は無数の体に関する条件をいうものであります. そのため有理数体 \begin{align} \mathbb{Q} \end{align} を大域体 (global field) と呼び, 沢山ある体 \begin{align} \mathbb{Q}_2,\ \mathbb{Q}_3,\ \mathbb{Q}_5,\ \mathbb{Q}_7,\ \ldots\ \mathbb{R} \end{align} の個々を局所体 (local field) と呼びます. 大域体の上での解と, 局所体の上での解とが対応するので, 上の定理は局所大域原理 (local-global principle) ともいわれます.
殊に不定方程式の解を発見することにおいては, 大域解よりも局所解のうほうがずっと手軽に調べられるものです. 何か一つの方程式が与えられて, (整数解でなく) 実数解を見つけよという問題を仮に想像してご覧になると, この事は解り易いと思います. 一般的にいって, 解の範囲を拡張すると, 見つけることが容易になるのです.
然しながら Hasse-Minkowski の定理の証明は非常に険しいもので, 中国式剰余定理, 平方剰余の相互法則, Dirichlet (ディレクレ) の算術級数定理と, 整数論に知られる大定理を一挙に活用することになります. 従って, 証明の細かなことは次々回に棚上げして, 面白い三平方和定理のほうを先にご紹介しようと思います. 今は取りあえず, 〈局所〉とはこういうものだと割りきってお考えください.
𝒑 進数解の存在
前述した通りに, 大域体よりも断然局所体のほうが, 平方数の集合に単純さがあります. そして局所大域原理によれば, 当面の目標である大域解の代わりに, 局所解を見つけてきても構わないのです.
証明. 実数の非自明解が存在することは明らかである.
を固定して, とすれば, この方程式に進整数の非自明解があることを証明すれば可い. 但だしはがによって割りきれないように選択する.
始めにの解が存在することを示すために, 合同方程式 \begin{align} x^2\equiv c-y^2\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} を対象とする. およびが集合の上を変動するとき, は通りの値を動き, も同じである. 然らば或るにおいて両辺は共通の剰余に値する. 前提に依ればであるから, 対称性に鑑みてを課することができる. そのときはのでない平方剰余であって, なるが存在する. ここに非自明の解を見いだすことができる.
証明. ならば, 全てはにより割りきれる. 何故ならば, 割りきれないと仮定して各辺を成るべく多くによって割るとき, \begin{align} 0\equiv X^2+Y^2+Z^2\ \ (\mathrm{mod}.4) \end{align} で, 平方剰余に矛盾が生ずるからである. 故にの大小関係を前提とするならば, であり, かつ明白にが成立するので, である.
先ず各辺をによって割り, 法の合同式を考察する. \begin{align} \ell\equiv x'^2+y'^2+z'^2\ \ (\mathrm{mod}.8). \end{align} 今であり, およびはの何れかに合同である. 由ってが成りたつのであるが, 前提によってはで割りきれないから, これはと同値である.
また Hensel の補題によって, を充たす剰余の組が存在することは, にたいするの非自明解が存在することと同値である. 故に補題は正しい.
以上によって局所解に関わる部分の証明が終わりました. 二次方程式 \begin{align} x_1^2+x_2^2+x_3^2-nx_4^2=0 \end{align} にたいして局所大域原理を適用すれば, これに非自明な有理数解があることになります (加えて, 非自明解であるならば). 次の補題で証明するように, ここからの整数解を構成することができますので, 定理の証明が得られます.
整数解の存在
有理数の三つ組について, スカラー倍の成分が全て整数になる最小の正の整数を, の共通分母と呼ぶことにします.
証明. 方程式の解は, 球面の上に存在する点である. これから, 球面に共通分母の有理数点があると仮定して, 〈よりも共通分母の小なる有理数点〉の構成法を示す.
Euclid 距離 (ユークリッド距離) に関して, の関係を充たす整数点を取ることができる. 何故ならば, を充たすように近似整数を取れば, が成立するからである. 点ととを通る直線をとして, が球面と再び交わる点をと名付ければ, の共通分母は必ずよりも小であることがいえる. 実際, 球面の方程式に直線の式を代入するとき, \begin{align} |a'|^2+2(a'\cdot a-|a'|^2)\lambda+|a-a'|^2\lambda^2=n. \end{align} は点を表す解である. 解と係数の関係によって, に対応するは, \begin{align} \lambda_b=\frac{|a'|^2-n}{|a-a'|^2} \end{align} であるから, \begin{align} b=a'+D(a-a')\frac{|a'|^2-n}{D|a-a'|^2} \end{align} が成りたつ. 式中のの成分は整数であり, また \begin{align} D|a-a'|^2=Dn-2(Da)\cdot a'+D|a'|^2\in\mathbb{Z}. \end{align} であったから, はよりも小さい正整数を共通分母に有する.
同様の操作を繰りかえすことによって, 終には共通分母の有理数点を得ることができる. これがの整数解を与える.
以上をもって三平方和定理の証明を完結させることができました.
証明. 方程式は, あらゆる奇素数にたいするととにおいて解を有し, 然もならば, の解をも有する. ここに局所大域原理を適用すれば有理数解が得られて, 補題により整数解を構成することができる. の場合は, 抑も方程式が進整数の解を有しないから, 整数解も存在しない.
四平方和定理および三角数定理
三平方和定理から, これに類似した二つの定理を導くことができます.
証明. 正の整数がの形でなければ, 前の定理によって, は三平方和ととの和に表すことができる. またがの形であっても, \begin{align} n=4^k(8\ell'+6)+4^k \end{align} により項を分ければ, 三平方和と平方数との和に表示することが可能である.
例を挙げると, \begin{align} 1&=1+0+0+0,\\ 2&=1+1+0+0,\\ 3&=1+1+1+0,\\ 4&=1+1+1+1=4+0+0+0,\\ 5&=4+1+0+0,\\ 6&=4+1+1+0,\\ 7&=4+1+1+1,\\ 8&=4+4+0+0,\\ 9&=4+4+1+0=9+0+0+0,\\ 10&=4+4+1+1=9+1+0+0,\\ 11&=9+1+1+0,\\ 12&=4+4+4+0=9+1+1+1,\\ &\ \vdots \end{align}
三角数というのは, 点を正三角状に並べたときの点の個数, \begin{align} 0,\ 1,\ 3,\ 6,\ \ldots\ \frac{i(i+1)}{2},\ \ldots \end{align} のことをいいます. 1796 年に Gauss は十九歳にしてこの定理の証明を成しとげて, 当時の日録にこのような一文を綴ったという記録が遺されています. 今となってはとても有名な逸話であります.
文頭の eureka (ヘウレーカ) は古典ギリシア語で「私は発見した」を意味します. 古代ギリシアの Archimedes (アルキメデス) が, 浴槽で浮力に関する法則に気が付いたときに, ヘウレーカ, ヘウレーカと二回叫んだ*2という言いつたえがあり, Gauss はこれを真似たのでありましょう.
証明. を正の整数とすれば, 三平方和定理によって, \begin{align} 8n+3=(2x+1)^2+(2y+1)^2+(2z+1)^2 \end{align} を充たす整数を取ることができる. この等式を変形すれば, \begin{align} n=\frac{x(x+1)}{2}+\frac{y(y+1)}{2}+\frac{z(z+1)}{2}. \end{align} 即ちは三つの三角数の和である.
こちらも例を書いておきます. \begin{align} 1&=1+0+0,\\ 2&=1+1+0,\\ 3&=1+1+1=3+0+0,\\ 4&=3+1+0,\\ 5&=3+1+1,\\ 6&=3+3+0=6+0+0,\\ 7&=3+3+1=6+1+0,\\ 8&=6+1+1,\\ 9&=3+3+3=6+3+0,\\ 10&=6+3+1=10+0+0,\\ 11&=10+1+0,\\ 12&=6+3+3=6+6+0=10+1+1,\\ &\ \vdots \end{align}
「平方数」と「四角数」とは同義であるので, 前述の四平方和定理は「あらゆる正の整数は四つの四角数の和である」とも言いかえられます. これら三角数定理, 四角数定理を拡げた命題として, 「あらゆる正の整数は個の角数の和である」という多角数定理が知られており, 既に証明もなされていますが, こちらは少し難しいので, また別の機会に証明することにします.
証明. を充たす正整数の中, 四つの正平方数に表し得ない数が \begin{align} &1,\ 3,\ 5,\ 9,\ 11,\ 17,\ 29,\ 41,\\&2,\ 6,\ 8,\ 14,\ 24,\ 32 \end{align} のみであることは簡単.
次にを充たすの倍数でない整数について証明する. そのために, で割ってまたは余る正の整数が三つの正平方数の和に表されることを用いる. 実際, これらは三つの平方数の和であって, かつ法の剰余を見れば三つの平方数は何れもの倍数でない. 特には和に含まれないことが判る. 同様にで除してまたは余る正の整数は三つの正平方数の和に表される. 何故ならば, これの数は三つの偶平方数の和に表され, かつによって除するとで割ってまたは余る正整数になるからである.
- の場合, であるから, は三つの正なる平方数ととの和である.
- の場合, であるから, は三つの正なる平方数ととの和である.
- のときは, であるから, 上の場合と同様.
- のときは, であるから, 上の場合と同様.
- のときは, であるから, 上の場合と同様.
- の場合, からあるいはを引くことによりで割って余る正整数が得られるので, は三つの正なる平方数と正の平方数との和に表される.
- の場合, からあるいはを引くことによりで割って余る正整数が得られる. 故に, は四つの正なる平方数の和である.
次にがの倍数であるとき, が四つの正平方数の和であるための必要充分条件は, が四つの正平方数の和に表されることである. 従ってこの場合あるいはそれらにの冪を乗じて得られる整数のみが四つの正平方数の和でない.
以上を総括すれば上述の定理が得られる.
証明. 以下の数については省略. を充たす整数にたいして, は四つ以下の平方数の和に表されるから, は四つ以下の平方数ととの和である. \begin{align} 169&=13^2\\ &=5^2+12^2 \\&=3^2+4^2+12^2 \\&=1^2+2^2+8^2+10^2 \end{align} であるから, を五つの正平方数の和に表すことができる.
証明. 等式 \begin{align} 169&=13^2\\ &=5^2+12^2 \\&=3^2+4^2+12^2 \\&=1^2+2^2+8^2+10^2 \\&=1^2+2^2+2^2+4^2+12^2 \end{align} を用いる. 上の命題と同様.
休憩 : 何故局所と大域が呼応するか
この章の中で証明を行うことはできませんが, 局所大域原理が成りたつことに多少でも納得が頂けるように, 簡単な考察を述べようと思います. どのように偉大な定理であっても, 幾つかの特殊な場合について是非とも実験をおこなってみることが非常に大切であります. ここでは, 項数の場合に対応する三つの命題を検証することに致しましょう.
先ずを項数とすると, 方程式はになりますので, 明らかに局所大域原理は成立しています.
𝑘 = 2 : 平方数であるための条件
次に, にたいする定理を次のように書きなおします. 即ち, \begin{align} a_1x_1^2+a_2x_2^2=0,\quad x_2\neq0 \end{align} の式を, \begin{align} (a_1x_1/x_2)^2=-a_1a_2 \end{align} で代用して, が平方数であるための条件を考察することにします.
証明. なる有理数があるならば, これがおよびの平方数にもなることは自明. 逆にがあらゆるととにおいて平方数になるとすれば, 各素数につきは偶数であって, かつであることを要する. 故にそのとき, の素因子分解は, 或る有理数の平方である.
𝑘 = 3 : Legendre の定理
続いて考察するべきであるのは, 三項の二次不定方程式に有理数解あるいは整数解が存在するか否かを判定することでありますが, この方程式の原初の研究は十八世紀の Lagrange (ラグランジュ) や Legendre (ルジャンドル) にまで遡り, 何れかといえば, 進数論というよりも, 古典的な二次形式の整数論に由縁のある問題であります.
は同一符号でない.
法において, それぞれが平方剰余である.
Legendre の『数の理論の試作』第 III 章において, Lagrange の方法として紹介されているものを援用します. 但だし (4) の記事でもう一度本質的に同じ議論を述べる積りですので, 古典に興味のない方は, 読まないで先に進んでいただいても宜しいかと思います.
証明. 解が存在するときに三条件が成りたつことは次のようにして判る. 先ずは非自明実数解が存在するために必要である. またの下で, \begin{align} by^2+cz^2&\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.{|a|}),\\ (by)^2&\equiv-bcz^2\ \ (\mathrm{mod}.{|a|}). \end{align} ここからは平方剰余であることが知れる. 実際, を三数の最大公約数がになるように取るとき, 仮にとが素因子を共有したとすると, が対ごとに素であるとした前提によってが成りたち, 更にが無平方であることからであって, がの全部を割りきるという矛盾に陥る. 従ってとは互いに素であり, におけるの逆元を取れば, \begin{align} (by/z)^2\equiv-bc\ \ (\mathrm{mod}.{|a|}). \end{align} 故には平方剰余である.
反対にととの条件が成りたつときに方程式が非自明な整数解, あるいは有理数解を持つか否かについては, 少し証明を勘案する必要が有る. 先ず対称性に鑑みてであるとし, 方程式の各辺にを乗じてからを代入して \begin{align} Z^2-AX^2=BY^2,\quad X,Y,Z\in\mathbb{Q}\ \ (\ast) \end{align} の解を考察する. 但だし各係数はを表している. にたいして適切なる変数変換をおこなえば, とには無平方数を置くことができる. または対称であるからとしても差しつかえない. と仮定して, 如何なる方程式も一方の係数がである方程式に帰着し得ることを証明する.
今は法に関して平方剰余であり*3, かつ法に関して平方剰余である. ここからは法に関しても平方剰余であることがいえる. 何故ならば, 法と法のそれぞれについての整数解が存在する状況にあって, 連立合同式 \begin{align} r&\equiv u\ \ (\mathrm{mod}.b),\\ r&\equiv v\ \ (\mathrm{mod}.|c|) \end{align} は中国式剰余定理により法上の解を持ち, が得られるからである. このようなを不等式が成立するように取るとき, を考えればであり, はと異なる無平方数であるのででなければならない. 従ってと置けばは正なる整数であって, \begin{align} Z^2-(r^2-BC)X^2=BY^2. \end{align} 次にとすればは有理数であり \begin{align} Z'^2+2rZ'X+BCX^2=BY^2. \end{align} 各辺にを乗じてを代入すれば \begin{align} BCZ'^2+2rZ'X'+X'^2=CY'^2. \end{align} 最後にについて平方完成することによって \begin{align} (X'+rZ')^2-(r^2-BC)Z'^2=CY'^2 \end{align} 即ち \begin{align} X''^2-AZ'^2=CY'^2 \end{align} に帰着する. ここにとする. 既におこなった変数置換は全て線型であるのでならばが成りたつ. いいかえれば若しこの方程式に非自明有理数解が見いだされるならば, 変換を逆算して元の方程式にたいする非自明有理数解が得られる. 今からは法に関して平方剰余であり, かつ文字の定義からであるので, は法の平方剰余である*4. またが成りたち, は無平方であるので, であって, であることからは法の平方剰余である. すると中国式剰余定理によっては法の平方剰余である. 加えての大小に関する要請に依れば \begin{align} C=\frac{r^2-A}{B}\lt B \end{align} が成立している. 従って上の方程式は当初のの状況に極く近しいけれども, 係数の絶対値の和が真の意味において減少しているのである.
同様の議論を反復すると終には正整数のみを係数とする \begin{align} U^2-DV^2=W^2,\quad U,V,W\in\mathbb{Q} \end{align} の問題に帰するのであるが, これは正なる解を有する. 故には非自明解を有する.
この定理からに対応する命題を得ることができます.
今の証明の手順通りにしての非自明整数解, あるいはの有理数解が一つ以上見つかっているとき, 方程式の全ての有理数解を求める方法が存在します. それは, 平面上の曲線にたいして, 既知の有理点を通る傾きが有理数の直線を引いて, それらの交点を方程式の有理数解と見なすものです. これによって曲線上の有理点と有理数との間に一対一の対応が生まれ, あらゆる有理数解をを媒介変数として表示することができます (例えば下の記事の「ディオファントスの置換法」の章で解説しています).
このように局所大域原理が証明されたことによって, 我々は殆どの二元二次方程式の解を調べることができるようになりました. これは Legendre, Minkowski, Hasse, Hensel 達の立てたる非常に目覚ましき偉勲であるのとともに, 二次を超える次数の不定方程式⸺即ち楕円曲線の理論に向かって, 数学文明が発達してきたところの, 当に第一歩にも当たります. 楕円曲線論は, 二十世紀の数学において大いなる貢献を果たした分野なのですが, そのお話しはまたいつか別の機会に書くことができるものと思います*5.
話しの切りがいいので, 今回はこの辺りで終わりにしようと思います. 次回は進数のもう一つの定義の仕方を解説する予定をしております. 私が一番強い感激を受けた定理もあるので, 楽しく記事が書けるものと信ずるところです.
余談 15 の定理と 290 の定理
以上の二次形式論との関連で, 先日, 「或る与えられた二次形式が全ての正整数を表し得るか否か」を鑑定する方法があるという話しを小耳に挟みまして, ちらりと調べてみることにしました. 文献を見たところ, 私のためにはとても新規的な情報がありましたので, 序にご紹介しようと思います.
ここでは, は整数成分のベクトルを表すものとします.
若しが \begin{align} 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 6,\ 7,\ 10,\ 14,\ 15 \end{align} の全部を表し得るならば, あらゆる正の整数を表し得る.
恒に
若しが \begin{align} &1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 6,\ 7,\ 10,\ 13,\ 14,\ 15,\\ &17,\ 19,\ 21,\ 22,\ 23,\ 26,\ 29,\ 30,\ 31,\ 34,\\ &35,\ 37,\ 42,\ 58,\ 93,\ 110,\ 145,\ 203,\ 290 \end{align} の全部を表し得るならば, あらゆる正の整数を表し得る.
証明は, それぞれ [Manjul Bhargava, "On the Conway-Schneeberger Fifteen Theorem" (2000), Quadratic forms and their applications (PDF)] および [Manjul Bhargava & Jonathan Hanke, "Universal quadratic forms and the -Theorem" (2011), PDF] に載っています.
演習問題
存在しない.
.
の場合は無限にあり, の場合, 有限である (正確にいえば, 一つも存在しない).
(3) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (3) p 進数と実数について - Arithmetica 算術ノート
(4) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (4) 局所大域原理の証明 - Arithmetica 算術ノート