Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

多変数二次の不定方程式について (2)  𝒑 進平方数, 三平方和定理

〔 Gauss-Legendre の三平方和定理〕
正の整数 𝒏 が三つの平方数の和に表されるための必要充分条件は, 𝒏 から 4 を成るべく多く抽出して 𝒏 = 4ℓ と書いたときに, \begin{align} \ell\not\equiv7\ \ (\mathrm{mod}.8) \end{align} になることである.

この連続記事は以下を目標として記したものです.

  • 初等整数論の知識から出発し, \ p\ 進数の基礎理論を解説する.
  • \ \mathbb{Q}\ 上の二次形式に関する局所大域原理を証明し, そこから三平方和定理を簡潔に導出する.



前提知識

平方剰余, 空間ベクトル



(1) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (1) p 進整数とは何か - Arithmetica 算術ノート

(3) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (3) p 進数と実数について - Arithmetica 算術ノート

(4) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (4) 局所大域原理の証明 - Arithmetica 算術ノート







平方数

前回の解説で Hensel の補題までお話しを進めておりました. 今次はこの定理の応用として, \ p\ 進整数における平方数の集合\ \Box(\mathbb{Z}_p)\ の全体像を明らかにしたのちに, 主題の局所大域原理について簡易的な解釈を述べるところまで論を進めることに致します. それが終われば, いよいよこの記事も佳境というべき領域に入り, 準備が足りて, 厳密に三平方和定理を証明することができるようになる, と, 大略こういう流れで書きたいと思います.


始めに Hensel の補題の条件と主張を再確認しておきましょう.

定理 1.9 (Hensel の弱補題) \ F(x)\ \ \mathbb{Z}_p\ 係数の多項式, \ x_1\in\mathbb{Z}_p\ とし, \begin{align} F(x_1)\equiv0,\quad F'(x_1)\not\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} の成立を仮定する. そのとき\ \mathbb{Z}_p\ 上の方程式\ F=0\ \ x\equiv x_1\ \ (\mathrm{mod}.p)\ なる解\ x\in\mathbb{Z}_p\ を少なくとも一つ有する.

詰まり要約すると, る方程式に解があることを論ずるためには, \ \mathrm{mod}.p\ の初等的な合同式の解を提示すればいわけであります. 無論合同式\ F\equiv0\ \ \mathrm{mod}.p\ においてすでに解を持たなければ, そのときは\ \mathbb{Z}_p\ 上の方程式\ F=0\ は解を有しないことがいえます.


上記の Hensel の補題には自身の一般化に当たる「強補題」が知られています. 証明は前のものと同様で, Newton 法の式を使って数列\ (x_k)\ を構成するのみでありますので, 省略しても差しつかえないと思います (興味のある方は是非とも自身で証明を書いてみてください).

定理 2.1 (Hensel の強補題) \ F(x)\ \ \mathbb{Z}_p\ 係数の多項式, \ x_1\in\mathbb{Z}_p\ とし, \begin{align} v_p\left(F(x_1)\right)\gt2v_p\left(F'(x_1)\right) \end{align} の成立を仮定する. そのとき\ \mathbb{Z}_p\ 上の方程式\ F=0\ \ x\equiv x_1\ \ (\mathrm{mod}.p)\ なる解\ x\in\mathbb{Z}_p\ を少なくとも一つ有する.

\ v_p(f)\ \ f\in\mathbb{Q}_p\ \ p\ 進付値であり, \ f\ の小数展開におけるまつの番号を表し, 特に\ f\in\mathbb{Z}\ のときは〈割りきれる回数〉を表現するものでありました.


早速この定理を使って平方数の命題を始めたいと思います. あらゆる\ f\in\mathbb{Q}_p\ は, 整数\ m=v_p(f)\ \ u\in\mathbb{Z}_p^{\times}\ とに分離して, 一通りに \begin{align} f=p^mu \end{align} と書くことができますので, \ p^m\ が平方数であるための条件と, \ u\ が平方数であるための条件とをそれぞれ考えるのが自然であります.

命題 2.2 素数\ p\ について, \ u\in\mathbb{Z}_p^{\times}\ \ \mathbb{Z}_p\ 上の平方数であるための必要充分条件は, 以下の通り.
\ (1)\ \ p\neq2\ の場合, \ u\ \mathrm{mod}.p\ が平方剰余であること.
\ (2)\ \ p=2\ の場合, \ u\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.8)\ であること.

ここに記号\ \mathbb{Z}_p^{\times}\ \ \mathbb{Z}_p\ の単数の全体であり, ではその単数が何かといえば, \ p\ 進整数\ x=(\ldots a_2a_1a_0)_{(p)}\ の中でも\ a_0\neq0\ である数, いいかえると\ \mathbb{Z}_p\ の中に逆数を持つ数のことであります. そして\ p\ 進整数\ x\ にたいする\ x\ \mathrm{mod}.p^k\ とは, 剰余 \begin{align} x_k=(a_{{k}{-}{1}}\ldots a_2a_1a_0)_{(p)}\ \ \in\mathbb{Z}/p^k\mathbb{Z} \end{align} を意味します. これらの点に善くご注意ください.

証明. 二次方程式\ F(x)=x^2-u=0\ \ \mathbb{Z}_p\ における解を考察する.
\ (1)\ この場合\ p\ は奇数である. 第一に\ u\ \mathrm{mod}.p\ が平方剰余であるとすれば, \ x_1^2\equiv u\ \ (\mathrm{mod}.p)\ を充足させる\ x_1\in\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\ が存在する. そのとき\ u\ が単数であることによって, \begin{align} F(x_1)\equiv0,\quad F'(x_1)=2x_1\not\equiv0. \end{align} 故に\ F(x)=0\ なる\ x\in\mathbb{Z}_p\ が存在するから\ u\ は平方数である. 第二に\ u\ \mathrm{mod}.p\ が平方非剰余であるとすれば, 合同式\ F(x)\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p)\ に解が存在しないので, 従って\ F(x)=0\ なる\ x\in\mathbb{Z}_p\ は存在しない.
\ (2)\ \ 8\ の平方剰余は\ 0,\ 1,\ 4\ の三個のみである. 故に\ u\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.8)\ とすれば, \ x_1^2\equiv u\ \ (\mathrm{mod}.8)\ を充足させる\ x_1\in\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}\ が存在する. そのとき\ u\ が単数であることによって, \begin{align} v_2\left(F(x_1)\right)\gt2v_2\left(F'(x_1)\right) \end{align} が成りたつから, \ F(x)=0\ になる\ x\in\mathbb{Z}_2\ が存在する. また\ u\not\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.8)\ ならば, \ u\in\mathbb{Z}_2^{\times}\ のためにこれは平方非剰余であって, \ x^2\equiv u\ \ (\mathrm{mod}.8)\ が解を持たない.

\Box

 

\ R\ を整数の全体あるいは\ p\ 進整数の全体とし, \ R\ 上の平方元の全体を \begin{align} \Box(R)=\{x^2\mid x\in R\} \end{align} のように定義します. 今の命題によると, \ \mathbb{Z}_p\ 上で平方数かつ単数である数の集まり \begin{align} \mathbb{S}_p=\Box(\mathbb{Z}_p)\cap\mathbb{Z}_p^{\times} \end{align} を次のように書きくだすことができます. \begin{align} \mathbb{S}_2&=8\mathbb{Z}_2+1,\\ \mathbb{S}_3&=3\mathbb{Z}_3+1,\\ \mathbb{S}_5&=(5\mathbb{Z}_5+1)\cup(5\mathbb{Z}_5+4),\\ \mathbb{S}_7&=(7\mathbb{Z}_7+1)\cup(7\mathbb{Z}_7+2)\cup(7\mathbb{Z}_7+4),\\ &\ \vdots \end{align}

繰かえしになりますけれども, \ p\ 進整数\ (\ldots a_2a_1a_0)_{(p)}\ \ p^k\ を乗じることは, 数列を左に\ k\ 項動かす操作に対応します. \begin{align} 8\mathbb{Z}_2+1&=\{(\ldots a_0000)_{(2)}+1\}\\ &=\{x\in\mathbb{Z}_2\mid x\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.8)\}. \end{align}

これらの式を観察するに, \ \mathbb{Z}\ \ \mathbb{Q}\ の平方数の場合と比べて, 集合の表示がはなはだ平易になっていることが判ります. \ \mathbb{Z}/p^k\mathbb{Z}\ の射影的極限として定義された\ p\ 進整数が剰余環にとても近しい性質をもっていること, および Hensel の補題がここに至って好い働きをしているのだといえます.

命題 2.3 \ p\ 進数\ f\neq0\ \ \mathbb{Q}_p\ の平方数であるための必要充分条件は, 適切なる\ u\in\mathbb{Z}_p^{\times}\ を用いて\ f=p^mu\ の形に表したときに, \ m\ が偶数であって, かつ\ u\ \ \mathbb{Z}_p\ の平方数になることである.

証明. \ f\ を平方数として\ p^mu=(p^nv)^2\ と置けば, \ m=2n\ は偶数であり, \ u=v^2\ は平方数である. 逆に\ n\ が偶数で\ u\ が平方数ならば, \ n=2m\ なる整数\ m\ \ u=v^2\ なる\ v\in\mathbb{Z}_p^{\times}\ があるから\ f\ \ \mathbb{Q}_p\ の平方数である.

\Box

 

次に実数体\ \mathbb{R}\ の平方数を考えます.

命題 2.4 実数\ f\neq0\ \ \mathbb{R}\ の平方数であるための必要充分条件は, \ f\gt0\ である.

この事実は後の議論で応用します. わざわざ命題として書く必要はなかったかも知れませんが, 一度ここで想起していただくことも或る程度は有意義と考えた次第であります.





局所大域原理から三平方和定理へ

以上に申しあげました\ p\ 進数の基礎理論は, 拡張された後の\ p\ 進数の諸性質を調べるばかりで, 応用上で一番大切になる, \ \mathbb{Q}_p\ から得られた情報をもと\ \mathbb{Q}\ に還元するための手段がほとんど不在でありました. ですからこれだけの命題で不定方程式を解くような方法は, ぐに思いつくところには一つもないことでありましょう. 例えば素数\ p\ を一つ取って, 方程式に\ p\ 進整数解がないから整数解がない, という風の証明をしても, それは初等的な\ \mathrm{mod}.p^k\ 合同式を使っているのと違いがないのです.



局所大域原理の主張

これに関して, ドイツの数学者 Hasse (ハッセ) が或る重大な事実を明かすことに成功して, 後世の数学界の学び手たちを猛烈に熱狂させるのとともに, \ p\ 進数という概念の価値を広く知らしめる結果となりました*1. 彼らの定理は二次形式の理論に大本があり, 本来その説明から入らなければならないのでありますが, この場で割愛してしまっても, 差しあたり問題は起こらないはずです. 故に「二次形式」の語をつか わずに書こうと思います.

定理 2.5 (Hasse-Minkowski の定理, 局所大域原理) 有理数係数の二次方程式 \begin{align} F=a_1x_1^2+a_2x_2^2+\cdots+a_kx_k^2=0 \end{align} に関して, 以下は同値である.
\ (1)\ 有理数\ F=0\ が非自明解を有する.
\ (2)\ あらゆる\ \mathbb{Q}_p\ の上で\ F=0\ が非自明解を持ち, かつ\ \mathbb{R}\ 上で非自明解を有する.
但だし, 自明解とはゼロベクトル\ (0,0,\ldots,0)\ をいうのである.

詰まり有理数体における解の存在証明は, それよりも解き易い (平方数の見易い) \ p\ 進数および実数の方程式に帰結することを言及しています. それで三平方和定理のような難題がいとも容易たやすく解けてしまうわけです.


定理中の\ (1)\ の条件は有理数\ \mathbb{Q}\ のみを考えるのにたいして, \ (2)\ は無数の体に関する条件をいうものであります. そのため有理数体 \begin{align} \mathbb{Q} \end{align} を大域体 (global field) と呼び, 沢山ある体 \begin{align} \mathbb{Q}_2,\ \mathbb{Q}_3,\ \mathbb{Q}_5,\ \mathbb{Q}_7,\ \ldots\ \mathbb{R} \end{align} の個々を局所体 (local field) と呼びます. 大域体の上での解と, 局所体の上での解とが対応するので, 上の定理は局所大域原理 (local-global principle) ともいわれます.


殊に不定方程式の解を発見することにおいては, 大域解よりも局所解のうほうがずっと手軽に調べられるものです. 何か一つの方程式が与えられて, (整数解でなく) 実数解を見つけよという問題を仮に想像してご覧になると, この事はわかり易いと思います. 一般的にいって, 解の範囲を拡張すると, 見つけることが容易になるのです.


然しながら Hasse-Minkowski の定理の証明は非常に険しいもので, 中国式剰余定理, 平方剰余の相互法則, Dirichlet (ディレクレ) の算術級数定理と, 整数論に知られる大定理を一挙に活用することになります. 従って, 証明の細かなことは次々回に棚上げして, 面白い三平方和定理のほうを先にご紹介しようと思います. 今は取りあえず, 〈局所〉\ \mathbb{Q}_p\ とはこういうものだと割りきってお考えください.



𝒑 進数解の存在

前述した通りに, 大域体よりも断然局所体のほうが, 平方数の集合に単純さがあります. そして局所大域原理によれば, 当面の目標である大域解の代わりに, 局所解を見つけてきても構わないのです.

補題 2.6 \ p=2\ の場合を除いて, あらゆる正の整数\ n\ にたいし, 方程式\ n=x^2+y^2+z^2\ \ \mathbb{Z}_p\ および\ \mathbb{R}\ の上の解を有する.

証明. 実数の非自明解が存在することは明らかである.
\ z=z_1\ を固定して, \ n-z_1^2=c\ とすれば, \ x^2=c-y^2.\ この方程式に\ p\ 進整数の非自明解があることを証明すればい. 但だし\ z_1\ \ c\ \ p\ によって割りきれないように選択する.
始めに\ \mathrm{mod}.p\ の解が存在することを示すために, 合同方程式 \begin{align} x^2\equiv c-y^2\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} を対象とする. \ x\ および\ y\ が集合\ \{0,1,2,\ldots,(p-1)/2\}\ の上を変動するとき, \ x^2\ \ (p+1)/2\ 通りの値を動き, \ c-y^2\ も同じである. しからば或る\ (x_1,y_1)\ において両辺は共通の剰余に値する. 前提に依れば\ (x_1,y_1)\not\equiv{\bf 0}\ であるから, 対称性に鑑みて\ x_1\not\equiv0\ を課することができる. そのとき\ c-y_1^2\ \ \mathrm{mod}.p\ \ 0\ でない平方剰余であって, \ x_{\infty}^2=c-y_1^2\ なる\ x_{\infty}\in\mathbb{Z}_p\ が存在する. ここに非自明の解\ (x_{\infty},y_1,z_1)\ を見いだすことができる.

\Box

 

補題 2.7 \ n\ を正の整数とする. \ p=2\ の場合, 方程式\ n=x^2+y^2+z^2\ \ \mathbb{Z}_2\ の上で解を持つための必要充分条件は, \ n\ \ n=4^k\ell\ の形に書いたときに, \begin{align} \ell\not\equiv7\ \ (\mathrm{mod}.8) \end{align} になることである.

証明. \ n=x^2+y^2+z^2\ ならば, 全て\ x^2,\ \ y^2,\ z^2\ \ 4^k\ により割りきれる. 何故なぜならば, 割りきれないと仮定して各辺を成るべく多く\ 4\ によって割るとき, \begin{align} 0\equiv X^2+Y^2+Z^2\ \ (\mathrm{mod}.4) \end{align} で, 平方剰余に矛盾が生ずるからである. 故に\ v_2(x)\leqslant v_2(y)\leqslant v_2(z)\ の大小関係を前提とするならば, \ k\leqslant v_2(x)であり, かつ明白に\ k\geqslant v_2(x)\ が成立するので, \ k=v_2(x)\ である.

先ず各辺を\ 4^k\ によって割り, 法\ \mathrm{mod}.8\ 合同式を考察する. \begin{align} \ell\equiv x'^2+y'^2+z'^2\ \ (\mathrm{mod}.8). \end{align} 今\ x'^2\equiv1\ であり, \ y'^2\ および\ z'^2\ \ \{0,1,4\}\ いずれかに合同である. って\ \ell\equiv1,2,3,5,6\ が成りたつのであるが, 前提によって\ \ell\ \ 4\ で割りきれないから, これは\ \ell\not\equiv7\ と同値である.

また Hensel の補題によって, \ \ell\equiv x'^2+y'^2+z'^2\ を充たす剰余の組\ (x',y',z')\not\equiv{\bf 0}\ が存在することは, \ \ell=x'^2+y'^2+z'^2\ にたいする\ \mathbb{Z}_2\ の非自明解が存在することと同値である. 故に補題は正しい.

\Box

 

以上によって局所解に関わる部分の証明が終わりました. 二次方程式 \begin{align} x_1^2+x_2^2+x_3^2-nx_4^2=0 \end{align} にたいして局所大域原理を適用すれば, これに非自明な有理数解があることになります (加えて, 非自明解であるならば\ x_4\neq0). 次の補題で証明するように, ここから\ x^2+y^2+z^2=n\ の整数解を構成することができますので, 定理の証明が得られます.



整数解の存在

補題 2.8 (Davenport-Cassels の定理の系) \ n\ を正の整数とする. 方程式\ n=x^2+y^2+z^2\ 有理数解があるならば, 整数解もまた存在する.

有理数の三つ組\ a=(x,y,z)\ について, スカラー\ Da\ の成分が全て整数になる最小の正の整数\ D\ を, \ a\ の共通分母と呼ぶことにします.

証明. 方程式の解は, 球面\ S^2:x^2+y^2+z^2=n\ の上に存在する点である. これから, 球面に共通分母\ D\gt1\ 有理数\ a\ があると仮定して, 〈a\ よりも共通分母の小なる有理数\ b〉の構成法を示す.

Euclid 距離 (ユークリッド距離) に関して, \ |a-a'|\lt1\ の関係を充たす整数点\ a'\ を取ることができる. 何故ならば, \ |a_i-a_i'|\leqslant1/2\ を充たすように近似整数\ a_i'\ を取れば, \ |a-a'|\leqslant\sqrt{3/4}\ が成立するからである. 点\ a\ \ a'\ とを通る直線を\ L\ として, \ L\ が球面と再び交わる点を\ b\ と名付ければ, \ b\ の共通分母は必ず\ D\ よりも小であることがいえる. 実際, 球面の方程式\ |p|^2=n\ に直線の式\ p=a'+(a-a')\lambda\ を代入するとき, \begin{align} |a'|^2+2(a'\cdot a-|a'|^2)\lambda+|a-a'|^2\lambda^2=n. \end{align} \ \lambda=1\ は点\ a\ を表す解である. 解と係数の関係によって, \ b\ に対応する\ \lambda_b\ は, \begin{align} \lambda_b=\frac{|a'|^2-n}{|a-a'|^2} \end{align} であるから, \begin{align} b=a'+D(a-a')\frac{|a'|^2-n}{D|a-a'|^2} \end{align} が成りたつ. 式中の\ D(a-a')\ の成分は整数であり, また \begin{align} D|a-a'|^2=Dn-2(Da)\cdot a'+D|a'|^2\in\mathbb{Z}. \end{align} \ |a-a'|\lt1\ であったから, \ b\ \ D\ よりも小さい正整数を共通分母に有する.

同様の操作を繰りかえすことによって, ついには共通分母\ 1\ 有理数点を得ることができる. これが\ n=x^2+y^2+z^2\ の整数解を与える.

\Box

 

以上をもって三平方和定理の証明を完結させることができました.

定理 2.9 (Gauss-Legendre の三平方和定理) 正の整数\ n\ が三つの平方数の和に表されるための必要充分条件は, \ n\ \ n=4^k\ell\ の形に書いたときに, \begin{align} \ell\not\equiv7\ \ (\mathrm{mod}.8) \end{align} になることである.

証明. 方程式\ n=x^2+y^2+z^2\ は, あらゆる奇素数\ p\ にたいする\ \mathbb{Q}_p\ \ \mathbb{R}\ とにおいて解を有し, 然も\ \ell\not\equiv7\ ならば, \ \mathbb{Q}_2\ の解をも有する. ここに局所大域原理を適用すれば有理数\ (x,y,z)\ が得られて, 補題により整数解を構成することができる. \ \ell\equiv7\ の場合は, そもそも方程式が\ 2\ 進整数の解を有しないから, 整数解も存在しない.

\Box

 



四平方和定理および三角数定理

三平方和定理から, これに類似した二つの定理を導くことができます.

定理 2.10 (Lagrange の四平方和定理) あらゆる正の整数は, 四つの平方数の和に表される.

証明. 正の整数\ n\ \ 4^k(8\ell'+7)\ の形でなければ, 前の定理によって, \ n\ は三平方和と\ 0^2\ との和に表すことができる. また\ n\ \ 4^k(8\ell'+7)\ の形であっても, \begin{align} n=4^k(8\ell'+6)+4^k \end{align} により項を分ければ, 三平方和と平方数との和に表示することが可能である.

\Box

 

例を挙げると, \begin{align} 1&=1+0+0+0,\\ 2&=1+1+0+0,\\ 3&=1+1+1+0,\\ 4&=1+1+1+1=4+0+0+0,\\ 5&=4+1+0+0,\\ 6&=4+1+1+0,\\ 7&=4+1+1+1,\\ 8&=4+4+0+0,\\ 9&=4+4+1+0=9+0+0+0,\\ 10&=4+4+1+1=9+1+0+0,\\ 11&=9+1+1+0,\\ 12&=4+4+4+0=9+1+1+1,\\ &\ \vdots \end{align}

定理 2.11 (Gauss の三角数定理) あらゆる正の整数は, 三つの三角数の和に表される.

三角数というのは, 点を正三角状に並べたときの点の個数, \begin{align} 0,\ 1,\ 3,\ 6,\ \ldots\ \frac{i(i+1)}{2},\ \ldots \end{align} のことをいいます. 1796 年に Gauss は十九歳にしてこの定理の証明を成しとげて, 当時の日録にこのような一文をつづったという記録が遺されています. 今となってはとても有名な逸話であります.

\ \mathrm{E\Upsilon PHKA}\ \ num=\triangle{}+\triangle{}+\triangle{}\

文頭の eureka (ヘウレーカ) は古典ギリシア語で「私は発見した」を意味します. 古代ギリシアの Archimedes (アルキメデス) が, 浴槽で浮力に関する法則に気が付いたときに, ヘウレーカ, ヘウレーカと二回叫んだ*2という言いつたえがあり, Gauss はこれを真似たのでありましょう.

証明. \ n\ を正の整数とすれば, 三平方和定理によって, \begin{align} 8n+3=(2x+1)^2+(2y+1)^2+(2z+1)^2 \end{align} を充たす整数\ x,\ y,\ z\ を取ることができる. この等式を変形すれば, \begin{align} n=\frac{x(x+1)}{2}+\frac{y(y+1)}{2}+\frac{z(z+1)}{2}. \end{align} 即ち\ n\ は三つの三角数の和である.

\Box

 

こちらも例を書いておきます. \begin{align} 1&=1+0+0,\\ 2&=1+1+0,\\ 3&=1+1+1=3+0+0,\\ 4&=3+1+0,\\ 5&=3+1+1,\\ 6&=3+3+0=6+0+0,\\ 7&=3+3+1=6+1+0,\\ 8&=6+1+1,\\ 9&=3+3+3=6+3+0,\\ 10&=6+3+1=10+0+0,\\ 11&=10+1+0,\\ 12&=6+3+3=6+6+0=10+1+1,\\ &\ \vdots \end{align}


「平方数」と「四角数」とは同義であるので, 前述の四平方和定理は「あらゆる正の整数は四つの四角数の和である」とも言いかえられます. これら三角数定理, 四角数定理を拡げた命題として, 「あらゆる正の整数は\ m\ 個の\ m\ 角数の和である」という多角数定理が知られており, 既に証明もなされていますが, こちらは少し難しいので, また別の機会に証明することにします.

命題 2.12 以下の数を除くあらゆる正の整数は, 四つの正なる平方数の和に表される. \begin{align} &1,\ 3,\ 5,\ 9,\ 11,\ 17,\ 29,\ 41,\\ &2\cdot4^k,\ 6\cdot4^k,\ 14\cdot4^k\ (k\geqslant0). \end{align}

証明. \ n\leqslant7^2\ を充たす正整数\ n\ の中, 四つの正平方数に表し得ない数が \begin{align} &1,\ 3,\ 5,\ 9,\ 11,\ 17,\ 29,\ 41,\\&2,\ 6,\ 8,\ 14,\ 24,\ 32 \end{align} のみであることは簡単.

次に\ n\gt7^2\ を充たす\ 8\ の倍数でない整数\ n\ について証明する. そのために, \ 8\ で割って\ 3\ または\ 6\ 余る正の整数が三つの正平方数の和に表されることを用いる. 実際, これらは三つの平方数の和であって, かつ法\ \mathrm{mod}.8\ の剰余を見れば三つの平方数は何れも\ 8\ の倍数でない. 特に\ 0^2\ は和に含まれないことが判る. 同様に\ 32\ で除して\ 12\ または\ 24\ 余る正の整数は三つの正平方数の和に表される. 何故ならば, これの数は三つの偶平方数の和に表され, かつ\ 4\ によって除すると\ 8\ で割って\ 3\ または\ 6\ 余る正整数になるからである.

  • \ n\equiv2\ \ (\mathrm{mod}.8)\ の場合, \ n-2^2\equiv6\ \ (\mathrm{mod}.8)\ であるから, \ n\ は三つの正なる平方数と\ 2^2\ との和である.
  • \ n\equiv3\ \ (\mathrm{mod}.8)\ の場合, \ n-4^2\equiv3\ \ (\mathrm{mod}.8)\ であるから, \ n\ は三つの正なる平方数と\ 4^2\ との和である.
  • \ n\equiv4\ \ (\mathrm{mod}.8)\ のときは, \ n-1^2\equiv3\ \ (\mathrm{mod}.8)\ であるから, 上の場合と同様.
  • \ n\equiv6\ \ (\mathrm{mod}.8)\ のときは, \ n-4^2\equiv6\ \ (\mathrm{mod}.8)\ であるから, 上の場合と同様.
  • \ n\equiv7\ \ (\mathrm{mod}.8)\ のときは, \ n-1^2\equiv6\ \ (\mathrm{mod}.8)\ であるから, 上の場合と同様.
  • \ n\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.8)\ の場合, \ n\ から\ 1^2\ あるいは\ 3^2,\ 5^2,\ 7^2\ を引くことにより\ 32\ で割って\ 24\ 余る正整数が得られるので, \ n\ は三つの正なる平方数と正の平方数との和に表される.
  • \ n\equiv5\ \ (\mathrm{mod}.8)\ の場合, \ n\ から\ 1^2\ あるいは\ 3^2,\ 5^2,\ 7^2\ を引くことにより\ 32\ で割って\ 12\ 余る正整数が得られる. 故に, \ n\ は四つの正なる平方数の和である.

次に\ n\gt7^2\ \ 8\ の倍数であるとき, \ n\ が四つの正平方数の和であるための必要充分条件は, \ n/4\ が四つの正平方数の和に表されることである. 従ってこの場合\ 2,\ 6,\ 14\ あるいはそれらに\ 4\ の冪を乗じて得られる整数のみが四つの正平方数の和でない.

以上を総括すれば上述の定理が得られる.

\Box

 

命題 2.13 以下の数を除くあらゆる正の整数は, 五つの正なる平方数の和に表される. \begin{align} 1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 6,\ 7,\ 9,\ 10,\ 12,\ 15,\ 18,\ 33. \end{align}

証明. \ 169\ 以下の数については省略. \ n\gt169\ を充たす整数\ n\ にたいして, \ n-169\ は四つ以下の平方数の和に表されるから, \ n\ は四つ以下の平方数と\ 169\ との和である. \begin{align} 169&=13^2\\ &=5^2+12^2 \\&=3^2+4^2+12^2 \\&=1^2+2^2+8^2+10^2 \end{align} であるから, \ n\ を五つの正平方数の和に表すことができる.

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命題 2.14 以下の数を除くあらゆる正の整数は, 六つの正なる平方数の和に表される. \begin{align} 1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 7,\ 8,\ 10,\ 11,\ 13,\ 16,\ 19. \end{align}

証明. 等式 \begin{align} 169&=13^2\\ &=5^2+12^2 \\&=3^2+4^2+12^2 \\&=1^2+2^2+8^2+10^2 \\&=1^2+2^2+2^2+4^2+12^2 \end{align} を用いる. 上の命題と同様.

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休憩 : 何故局所と大域が呼応するか

この章の中で証明を行うことはできませんが, 局所大域原理が成りたつことに多少でも納得が頂けるように, 簡単な考察を述べようと思います. どのように偉大な定理であっても, 幾つかの特殊な場合について是非とも実験をおこなってみることが非常に大切であります. ここでは, 項数\ k=1,\ 2,\ 3\ の場合に対応する三つの命題を検証することに致しましょう.


先ず\ k=1\ を項数とすると, 方程式は\ a_1x_1^2=0\ になりますので, 明らかに局所大域原理は成立しています.

 



𝑘 = 2 : 平方数であるための条件

次に, \ k=2\ にたいする定理を次のように書きなおします. 即ち, \begin{align} a_1x_1^2+a_2x_2^2=0,\quad x_2\neq0 \end{align} の式を, \begin{align} (a_1x_1/x_2)^2=-a_1a_2 \end{align} で代用して, \ -a_1a_2\ が平方数であるための条件を考察することにします.

補題 4.2 有理数\ x\neq0\ について, \ x\ \ \mathbb{Q}\ の平方数であることは, \ x\ があらゆる\ \mathbb{Q}_p\ \ \mathbb{R}\ とにおいて平方数であることに等しい.

証明. \ x=y^2\ なる有理数\ y\ があるならば, これが\ \mathbb{Q}_p\ および\ \mathbb{R}\ の平方数にもなることは自明. 逆に\ x\ があらゆる\ \mathbb{Q}_p\ \ \mathbb{R}\ とにおいて平方数になるとすれば, 各素数\ p\ につき\ v_p(x)\ は偶数であって, かつ\ x\gt0\ であることを要する. 故にそのとき, \ x\ の素因子分解は, 或る有理数の平方である.

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𝑘 = 3 : Legendre の定理

続いて考察するべきであるのは, 三項の二次不定方程式\ ax^2+by^2+cz^2=0\ 有理数解あるいは整数解が存在するか否かを判定することでありますが, この方程式の原初の研究は十八世紀の Lagrange (ラグランジュ) や Legendre (ルジャンドル) にまでさかのぼり, 何れかといえば, \ p\ 進数論というよりも, 古典的な二次形式の整数論由縁ゆかりのある問題であります.

定理 2.15 (Legendre の定理) \ a,\ b,\ c\ ついごとに素なる\ 0\ でない無平方数の組とする. そのとき, 方程式 \begin{align} ax^2+by^2+cz^2=0 \end{align} が非自明整数解を有するための必要充分条件は, 下の二条件が同時に成りたつことである.
\ (1)\ \ a,\ b,\ c\ は同一符号でない.
\ (2)\ \ |a|,\ |b|,\ |c|\ において, それぞれ\ -bc,\ -ca,\ -ab\ が平方剰余である.

Legendre の『数の理論の試作』第 III 章において, Lagrange の方法として紹介されているものを援用します. 但だし (4) の記事でもう一度本質的に同じ議論を述べる積りですので, 古典に興味のない方は, 読まないで先に進んでいただいても宜しいかと思います. 

証明. 解が存在するときに三条件が成りたつことは次のようにして判る. 先ず\ (1)\ は非自明実数解が存在するために必要である. また\ ax^2+by^2+cz^2=0\ の下で, \begin{align} by^2+cz^2&\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.{|a|}),\\ (by)^2&\equiv-bcz^2\ \ (\mathrm{mod}.{|a|}). \end{align} ここから\ -bc\ は平方剰余であることが知れる. 実際, \ (x,y,z)\ を三数の最大公約数が\ 1\ になるように取るとき, 仮に\ z\ \ a\ が素因子\ p\ を共有したとすると, \ (a,b,c)\ が対ごとに素であるとした前提によって\ p\mid y\ が成りたち, 更に\ a\ が無平方であることから\ p\mid x\ であって, \ p\ \ (x,y,z)\ の全部を割りきるという矛盾に陥る. 従って\ z\ \ a\ は互いに素であり, \ \mathrm{mod}.{|a|}\ における\ z\ の逆元を取れば, \begin{align} (by/z)^2\equiv-bc\ \ (\mathrm{mod}.{|a|}). \end{align} 故に\ -bc\ は平方剰余である.
反対に\ (1)\ \ (2)\ との条件が成りたつときに方程式\ ax^2+by^2+cz^2=0\ が非自明な整数解, あるいは有理数解を持つか否かについては, 少し証明を勘案する必要が有る. 先ず対称性に鑑みて\ a\gt0,\ b\gt0,\ c\lt0\ であるとし, 方程式の各辺に\ c\ を乗じてから\ x=X,\ y=Y,\ cz=Z\ を代入して \begin{align} Z^2-AX^2=BY^2,\quad X,Y,Z\in\mathbb{Q}\ \ (\ast) \end{align} の解を考察する. 但だし各係数は\ A=-ac,\ B=-bc\ を表している. \ (X,Y)\ にたいして適切なる変数変換をおこなえば, \ A\ \ B\ には無平方数を置くことができる. また\ A,\ B\ は対称であるから\ A\leqslant B\ としても差しつかえない. \ A\neq1\ と仮定して, 如何なる方程式も一方の係数が\ 1\ である方程式に帰着し得ることを証明する.

\ A\ は法\ b\ に関して平方剰余であり*3, かつ法\ |c|\ に関して平方剰余である. ここから\ A\ は法\ B\ に関しても平方剰余であることがいえる. 何故ならば, 法\ b\ と法\ |c|\ のそれぞれについて\ A\equiv u^2,\ A\equiv v^2\ の整数解\ u,\ v\ が存在する状況にあって, 連立合同式 \begin{align} r&\equiv u\ \ (\mathrm{mod}.b),\\ r&\equiv v\ \ (\mathrm{mod}.|c|) \end{align} は中国式剰余定理により法\ B=b|c|\ 上の解\ r\ \mathrm{mod}.B\ を持ち, \ r^2\equiv A\ \ (\mathrm{mod}.B)\ が得られるからである. このような\ r\ を不等式\ B/2\leqslant r\leqslant B\ が成立するように取るとき, \ A\leqslant B\ を考えれば\ r^2\geqslant A\ であり, \ A\ \ 1\ と異なる無平方数であるので\ r^2\gt A\ でなければならない. 従って\ r^2-A=BC\ と置けば\ C\ は正なる整数であって, \begin{align} Z^2-(r^2-BC)X^2=BY^2. \end{align} 次に\ Z=Z'+rX\ とすれば\ Z'\ 有理数であり \begin{align} Z'^2+2rZ'X+BCX^2=BY^2. \end{align} 各辺に\ BC\ を乗じて\ X'=BCX,\ Y'=BY\ を代入すれば \begin{align} BCZ'^2+2rZ'X'+X'^2=CY'^2. \end{align} 最後に\ X'\ について平方完成することによって \begin{align} (X'+rZ')^2-(r^2-BC)Z'^2=CY'^2 \end{align} 即ち \begin{align} X''^2-AZ'^2=CY'^2 \end{align} に帰着する. ここに\ X''=X'+rZ'\ とする. 既におこなった変数置換は全て線型であるので\ (X,Y,Z)=\mathbf{0}\ ならば\ (X'',Y',Z')=\mathbf{0}\ が成りたつ. いいかえれば若しこの方程式に非自明有理数\ (X'',Z',Y')\ が見いだされるならば, 変換を逆算して元の方程式にたいする非自明有理数\ (X,Y,Z)\ が得られる. 今\ r^2-A=BC\ から\ A\ は法\ C\ に関して平方剰余であり, かつ文字\ A,\ B\ の定義から\ r^2+ac=-bcC\ であるので, \ C\ は法\ a\ の平方剰余である*4. また\ c\mid r^2\ が成りたち, \ c\ は無平方であるので, \ c\mid r\ であって, \ ac(r/c)^2+a^2=-abC\ であることから\ C\ は法\ |c|\ の平方剰余である. すると中国式剰余定理によって\ C\ は法\ A=a|c|\ の平方剰余である. 加えて\ r\ の大小に関する要請に依れば \begin{align} C=\frac{r^2-A}{B}\lt B \end{align} が成立している. 従って上の方程式は当初の\ (\ast)\ の状況にく近しいけれども, 係数の絶対値の和が真の意味において減少しているのである.
同様の議論を反復すると終には正整数\ D\ のみを係数とする \begin{align} U^2-DV^2=W^2,\quad U,V,W\in\mathbb{Q} \end{align} の問題に帰するのであるが, これは正なる解\ (U,V,W)=(D+1,2,D-1)\ を有する. 故に\ (\ast)\ は非自明解を有する.

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この定理から\ k=3\ に対応する命題を得ることができます.


今の証明の手順通りにして\ ax^2+by^2+cz^2=0\ の非自明整数解, あるいは\ ax^2+by^2=c\ 有理数解が一つ以上見つかっているとき, 方程式の全ての有理数解を求める方法が存在します. それは, \ (x,y)\ 平面上の曲線\ ax^2+by^2=c\ にたいして, 既知の有理点\ P=(x_0,y_0)\ を通る傾きが有理数の直線\ y=t(x-x_0)+y_0,\ t\in\mathbb{Q}\ を引いて, それらの交点を方程式の有理数解と見なすものです. これによって曲線上の有理点と有理数\ t\ との間に一対一の対応が生まれ, あらゆる有理数解を\ t\ を媒介変数として表示することができます (例えば下の記事の「ディオファントスの置換法」の章で解説しています).

yu200489144.hatenablog.com


このように局所大域原理が証明されたことによって, 我々は殆どの二元二次方程式の解を調べることができるようになりました. これは Legendre, Minkowski, Hasse, Hensel 達の立てたる非常に目覚ましき偉勲であるのとともに, 二次を超える次数の不定方程式⸺即ち楕円曲線の理論に向かって, 数学文明が発達してきたところの, まさに第一歩にも当たります. 楕円曲線論は, 二十世紀の数学において大いなる貢献を果たした分野なのですが, そのお話しはまたいつか別の機会に書くことができるものと思います*5.


話しの切りがいいので, 今回はこの辺りで終わりにしようと思います. 次回は\ p\ 進数のもう一つの定義の仕方を解説する予定をしております. 私が一番強い感激を受けた定理もあるので, 楽しく記事が書けるものと信ずるところです.





余談 15 の定理と 290 の定理

以上の二次形式論との関連で, 先日, 「或る与えられた二次形式が全ての正整数を表しるか否か」を鑑定する方法があるという話しを小耳に挟みまして, ちらりと調べてみることにしました. 文献を見たところ, 私のためにはとても新規的な情報がありましたので, ついでにご紹介しようと思います.


ここでは, \ x\ は整数成分のベクトル\ (x_1,x_2,\ldots,x_k)\ を表すものとします.

定理 2.16 (15 の定理) 二次形式 \begin{align} Q(x)=\sum_{i,j}Q_{i,j}x_ix_j,\quad Q_{i,j}=Q_{j,i} \end{align} は, 以下の条件を充たすとする.
\ (1)\ \ Q_{i,j}\in\mathbb{Z}.\
\ (2)\ \ x\neq{\bf 0}\Longrightarrow Q(x)\gt0.\
若し\ Q(x)\ が \begin{align} 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 6,\ 7,\ 10,\ 14,\ 15 \end{align} の全部を表し得るならば, あらゆる正の整数を表し得る.
定理 2.17 (290 の定理) 二次形式 \begin{align} Q(x)=\sum_{i,j}Q_{i,j}x_ix_j,\quad Q_{i,j}=Q_{j,i} \end{align} は, 以下の条件を充たすとする.
\ (1)\ つね\ Q(x)\in\mathbb{Z}.\
\ (2)\ \ x\neq{\bf 0}\Longrightarrow Q(x)\gt0.\
若し\ Q(x)\ が \begin{align} &1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 6,\ 7,\ 10,\ 13,\ 14,\ 15,\\ &17,\ 19,\ 21,\ 22,\ 23,\ 26,\ 29,\ 30,\ 31,\ 34,\\ &35,\ 37,\ 42,\ 58,\ 93,\ 110,\ 145,\ 203,\ 290 \end{align} の全部を表し得るならば, あらゆる正の整数を表し得る.

証明は, それぞれ [Manjul Bhargava, "On the Conway-Schneeberger Fifteen Theorem" (2000), Quadratic forms and their applications (PDF)] および [Manjul Bhargava & Jonathan Hanke, "Universal quadratic forms and the 290-Theorem" (2011), PDF] に載っています.





演習問題

問.正なる整数\ r\ であって, \ r\ 以上のあらゆる整数が\ r\ 個の正なる平方数の和に表されるものは存在するか.

 

存在しない.

 

問. 無平方なる正の整数\ d\ について, 不定方程式\ x^2-dy^2=1\ が正の有理数解を有することを証明せよ. また, 方程式\ x^2-dy^2=-1\ が正の有理数*6を有するための\ d\ 必要充分条件を答えよ.

 

問. あらゆる正なる整数は二つの三角数と二つの平方数との和に表されることを証明せよ.

 

問.\ x\ および\ y\ を整数として, \ x^2-y^2,\ x^2+y^2,\ x^2-2y^2,\ x^2+2y^2\ のそれぞれの表し得る素数を全て決定せよ.

 

問.\ x,\ y,\ z\ を整数として, \ x^2+y^2+2z^2\ の形に表し得ない正整数を全て決定せよ. 例えば\ 200\ 以下の範囲においては, 次の十五数である. \begin{align} &14,\ 30,\ 46,\ 56,\ 62,\ 78,\ 94,\ \\&110,\ 120,\ 126,\ 142,\ 158,\ 174,\ 184,\ 190. \end{align}

 

\ 4^k(16l+14),\ k,l\geqslant0.

 

問. \ r\ を正なる整数とする. \ 2\ 以上の整数\ n\ について, \ r\ 項の非負\ n\ 乗数の和, \begin{align} x_1^n+x_2^n+\cdots+x_r^n,\quad x_i\geqslant0 \end{align} に表示される整数を\ r\ \ n\ 乗和と呼び, それらを総称して\ r\ 項和と呼ぶ. 各\ r\ にたいし, \ r\ 項和に該当しない非負整数は無数に存在するか否かを決定せよ.

 

\ r\leqslant3\ の場合は無限にあり, \ r\geqslant4\ の場合, 有限である (正確にいえば, 一つも存在しない).

 





(3) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (3) p 進数と実数について - Arithmetica 算術ノート

(4) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (4) 局所大域原理の証明 - Arithmetica 算術ノート





*1:当時は, \ p\ 進数が受容されるまでもう少し時間が掛かりましたけれども.

*2:その後, 自分の発見を人々に報せるために服を着ないままシラクサの街を駆けまわった !

*3:前提によって\ -ac\ は法\ b\ の平方剰余である. 文字\ A\ \ -ac\ から平方因子\ \delta^2\ を括ったものであるが, \ \delta\ は (-ac\ を割りきることから) \ b\ とは互いに素であるので, \ A\ が法\ b\ の平方剰余であることが判る.

*4:\ -bc\ は法\ a\ の下で逆元を持つ.

*5:私の勉強の事もありますので, 楕円曲線の記事は大分先になるとは思いますが.

*6:ここを「整数解」にしないのには明確な理由がある. 例えば, \ d=34\ とするとき\ -1\ は法\ 34\ の平方剰余であるけれども方程式\ x^2-34y^2=-1\ は整数解を有しない.

[tex: ]


ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



pic-Arithmetica

算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

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