この記事は, 以下を目標として記したものです.
平方剰余の基礎理論, 代数学の基本定理, 対称式の基本定理
平方剰余相互法則の証明
この章では, Matt Baker (マット・ベイカー) 氏のブログ記事「Lucas 多項式を用いた平方剰余相互法則の証明」[文献 1] の内容をご紹介したいと思います. 途中で用いる Fermat の小定理および Euler の規準は, 次の章で証明を書きます.
終結式の性質
複素数を係数とするモニック多項式, \begin{align} f(x)&=x^m+a_{m{-}1}x^{m{-}1}+\cdots+a_0,,\\ g(x)&=x^n+b_{n{-}1}x^{n{-}1}+\cdots+b_0 \end{align} を一次式に分けたときの因数分解を, 次のように表します. \begin{align} f(x)&=\prod_{1\leqslant i\leqslant m}(x-\alpha_i),\\ g(x)&=\prod_{1\leqslant j\leqslant n}(x-\beta_j). \end{align}
明白に, これらの性質があります.
対称式の基本定理によると, 終結式はおよびの整数係数多項式になります. 例えば, \begin{align} \prod^{\substack{1\leqslant i\leqslant1\\1\leqslant j\leqslant2}}(\alpha_i-\beta_j)=\;&\alpha_1^2-(\beta_1+\beta_2)\alpha_1+\beta_1\beta_2\\=\;&a_0^2-b_1a_0+b_2,\\\prod^{\substack{1\leqslant i\leqslant2\\1\leqslant j\leqslant2}}(\alpha_i-\beta_j)=\;&(\alpha_1^2-(\beta_1+\beta_2)\alpha_1+\beta_1\beta_2)\\&\quad\cdot(\alpha_2^2-(\beta_1+\beta_2)\alpha_2+\beta_1\beta_2)\\=\;&\cdots. \end{align}
具体的に, 終結式を或る行列の行列式として表示することができますけれども, この場で証明する必要はありません. これを Sylvester 行列 (シルヴェスター行列) といいます.
解と係数の関係によって, およびはの多項式に表すことができる. 故に, 行列 \begin{align} A=\left[\begin{array}{ccccccc} 1&a_{m{-}1}&\cdots&\cdots&a_0&&\\ &\ddots&\ddots&&&\ddots&\\ &&1&a_{m{-}1}&\cdots&\cdots&a_0\\ 1&b_{n{-}1}&\cdots&b_0&&&\\ &\ddots&\ddots&&\ddots&&\\ &&\ddots&\ddots&&\ddots&\\ &&&1&b_{n{-}1}&\cdots&b_0 \end{array}\right] \end{align} についてはととの多項式であり, 各に関する次数は以下, 各に関する次数は以下である.
これから, 変数にを代入した場合に, 必ずになることを証明する. 為に便宜上の表記を用いる. 先ず, 仮定の式によって \begin{align} &t^m+a_{m{-}1}t^{m{-}1}+\cdots+a_0=0,\\ &t^n+b_{n{-}1}t^{n{-}1}+\cdots+b_0=0 \end{align} であるから, 列ベクトルについて, \begin{align} A\vec{x}=\vec{0} \end{align} が成りたち, この連立方程式はの二解を有する. 従って, でなければならない.
因数定理によって, 多項式は個の一次式を因数に有する. 由って \begin{align} |A|=c\prod_{\substack{1\leqslant i\leqslant m\\1\leqslant j\leqslant n}}(\alpha_i-\beta_j) \end{align} を充たす複素数が存在して, の係数からが明らかになる.
ここから, 以下二つの事実が判明します.
最後に, 多項式の合同との関係を示します.
証明. 複号がである場合, 終結式の定義を代入すれば, \begin{align} \mathrm{res}\,(g,f)&=\prod_{1\leqslant j\leqslant n}f(\beta_j)\\ &=\prod_{1\leqslant j\leqslant n}r(\beta_j)\\ &=\mathrm{res}\,(g,r). \end{align} 故に命題が成りたつ. 複号がである場合も同様である.
Lucas 多項式の性質
Lucas 多項式の定義は次の通りです.
を代入すると, 通常の Lucas 数が得られます.
\begin{align}\begin{array}{cc}\mbox{表 1.}\ L_n(x)\\\ \\\begin{array}{|r|c|}\hline \vdots\ &\vdots\\ -3&-x^3-3x\\ -2&x^2+2\\ -1&-x\\ 0&2\\ 1&x\\ 2&x^2+2\\ 3&x^3+3x\\ 4&x^4+4x^2+2\\ 5&x^5+5x^3+5x\\ \vdots\ &\vdots \\\hline\end{array}\end{array}\end{align}
幾つか簡単な性質を挙げます. 証明の大部分は帰納法によります.
- が成りたつ.
- の次数はに等しい.
- が偶数であるならばが成りたち, 奇数であるならばが成りたつ. 換言すれば, 偶数にたいする, および奇数にたいするは, 必ずの多項式である.
- の場合, はモニック多項式である.
- の末尾項の係数は, が偶数であるならばに等しく, 奇数であるならばに等しい. 特に, 奇数にたいして \begin{align} L_n(x)/x=H_n(x^2) \end{align} と置けば, の正負によらずが成りたつ.
- 特性多項式の二つの根を, \begin{align} \alpha&=\frac{x+\sqrt{x^2+4}}{2},\\ \beta&=\frac{x-\sqrt{x^2+4}}{2} \end{align} と置けば, あらゆる整数において \begin{align} L_n=\alpha^n+\beta^n \end{align} が成りたつ.
証明. 二項定理によって,
ならばはによって割りきれ, また Fermat の小定理によって, が成りたつ. 故に, \begin{align} L_p\equiv x^p\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} である.
を奇素数としてをに書きかえると, \begin{align} H_p\equiv x^{(p-1)/2}\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} の合同式になり, 右辺に Euler の規準の形が現れます.
証明. 一般項の表示式によって, \begin{align} L_mL_n&=\alpha^{m+n}+\alpha^{m}\beta^n+\alpha^n\beta^m+\beta^{m+n}. \end{align} またであるので,
故に両辺は等しい多項式である.
今の恒等式は, 余弦函数 \begin{align} \cos{(x)}=\frac{e^{\sqrt{-1}x}+e^{-\sqrt{-1}x}}{2} \end{align} について成立する積和等式と同じ形をしています. \begin{align} \cos{(x+y)}+\cos{(x-y)}=2\cos{(x)}\cos{(y)}. \end{align}
相互法則の証明
証明. の場合のみを証明しても同じである. に関する帰納法を適用する.
ならば, であり, が定数になるから明白. 次に, \begin{align} L_n\pm L_{|n-2m|}=L_{n-m}L_m \end{align} 即ち \begin{align} H_n\pm H_{|n-2m|}=L_{n-m}(\sqrt{x})H_m \end{align} の等式によれば, \begin{align} \mathrm{res}\,(H_m,H_n)=\pm\mathrm{res}\,(H_m,H_{|n-2m|}) \end{align} が成りたつ. 上式のは奇数であり, かつと互いに素である. 然も \begin{align} |n-2m|=\begin{cases}n-2m\lt n\\2m-n\lt2n-n=n\end{cases} \end{align} の大小関係が成立するので, 帰納法の仮定によって, である.
証明. 法に従って, \begin{align} \mathrm{res}\,(H_p,H_q)&\equiv\mathrm{res}\,(x^{(p-1)/2},H_q)\\ &\equiv H_q(0)^{(p-1)/2}\\ &\equiv q^{(p-1)/2}\equiv\left(\!\frac{\,q\,}{\,p\,}\!\right). \end{align} 但だし最後に Euler の規準を用いた. はに属するから, である.
証明. の場合は明らかである. そうでないとき, 補題 1.10 を用いて, \begin{align} \left(\!\frac{\,p\,}{\,q\,}\!\right)&=\mathrm{res}\,(H_q,H_p)\\ &=(-1)^{\frac{p-1}{2}\cdot\frac{q-1}{2}}\mathrm{res}\,(H_p,H_q)\\ &=(-1)^{\frac{p-1}{2}\cdot\frac{q-1}{2}}\left(\!\frac{\,q\,}{\,p\,}\!\right). \end{align} 即ち定理が証明されたのである.
また, 第一補充則 \begin{align} \left(\!\frac{-1}{p}\!\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}} \end{align} を Euler の規準から導出することができるのは, 周知されている通りです. 第二補充則 \begin{align} \left(\!\frac{\,2\,}{\,p\,}\!\right)=(-1)^{\frac{p^2-1}{8}} \end{align} の新しい証明法は思いつかないので, 今回は保留としておきます.
Euler の規準の証明
をおよびを初期値に持つ Fibonacci 数列としますと, 後述の命題により, あらゆる素数について \begin{align} F_{p-\left(\!\frac{\,5\,}{\,p\,}\!\right)}\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} という合同式が成りたちます. 上に書いたは, 法の下でが平方剰余であるか否かを表現する Legendre 記号です. こちらの定理は, 有名な Fermat の小定理, 詰まりをの倍数でない整数とした場合に \begin{align} a^{p-1}-1\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} が成立することの類似として捉えられます.
Fibonacci 数列を一般化するために, およびを任意の整数としまして, 漸化式 \begin{align} U_0=0,\ U_1=1,\ U_{n+2}=PU_{n+1}-QU_n \end{align} により整数列を定義します. これに対応する特性多項式 \begin{align} X^2-PX+Q \end{align} にたいする二つの根を, \begin{align} \alpha=\frac{P+\sqrt{\Delta}}{2},\quad\beta=\frac{P-\sqrt{\Delta}}{2},\\\Delta=P^2-4Q\neq0 \end{align} と置けば, 一般項を \begin{align} U_n=\frac{\alpha^n-\beta^n}{\alpha-\beta} \end{align} の形に表示することができます. ここで若し比がの冪根になれば, 列は意外にもを含むので, 普通はの冪根でないことを要請しますが, ここでは要請が破れても構わないものとします. このは第二種 Lucas 数列と呼ばれる Fibonacci 数列の一般化であります. これから, 奇素数について成りたつ二つの事実を証明して, そこから Euler の規準を導出する過程をお見せしたいと思います.
- (事実 1) 平方剰余の記号について, の下でである.
- (事実 2) の冪剰余について, ならばであり, ならばである.
判別式は, を除いたあらゆるの倍数を取り得るので, 後述しますように, ここからの証明が得られます.
平方剰余記号に関する事実
ここでは組みあわせ論を使って, 前記の事実 1 を示したいと思います. 以後, を法とするときの剰余の全体を, \begin{align} \mathbb{F}_p=\{0,1,2,\ldots,p-1\} \end{align} と表記します. 本来は整数の部分集合ではありませんが, 今だけ整数の集まりと解釈して頂いても問題は生じません.
明らかに, 法の下では周期数列になります. そこで, 次の条件を充たす正の整数の中で, 最も小さいものをと書くことにします.
条件. 或るでないが存在して, 法の下でかつが成りたつ.
がそのような条件を充たすなら, 当然あらゆる整数においてになります.
証明. 帰納法によって, ととの間に成りたつ次の等式を確認することができる (ととに要注意). \begin{align} \left(\begin{array}{l}w_n={a}U_{n+1}+(b-aP)U_n\\\ \\(b^2-Pab+Qa^2)U_n=-aw_{n+1}+bw_n\end{array}\right.. \end{align} 従って, がと互いに素であるとき, かつであり, が成りたつ.
実際はがの素因子である場合にも正しい式になりますが, 証明は致しません.
証明. の要素二個から成る対を集めた集合として, \begin{align} \mathcal{L}_p=\{(a,b)\mid b^2-Pab+Qa^2\not\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p)\} \end{align} を定義する. であるとき, はを除いた個の剰余対から成りたつ集合である. であるとき, 二次合同式 \begin{align} E:\ x^2-Px+Q\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p)\end{align} が二つの異なる解を有するので, その二解をと置く. その場合, に関する前提のためにである.
集合に関して, 次の事実を示す.
事実. であることは, 或るの解が存在して, が公比の幾何数列になることと同値である.
論拠. 自明な場合を始めに除外して, かつとする. 第一にの場合, 集合の定義から, であることを要する. 幾何数列はと同じ漸化式, 即ち \begin{align} r_k^{n+2}-Pr_k^{n+1}+{Q}r_k^n\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p)\end{align} を充たすので, 帰納的にが成りたつ. 第二に, が公比の幾何数列である場合, の漸化式によってであるから, を得る. (論拠終)
次に, 上の関係 (同値関係) を, 次の通りに規定する.
定義. に属するおよびについて, 或るでないと整数とが存在して, において \begin{align} w_0^{(a,b)}\equiv sw_t^{(a',b')},\ w_1^{(a,b)}\equiv sw_{t+1}^{(a',b')} \end{align} が成りたつとき, と記す.
加えて, の中で, 或る要素との関係にある全部の要素を一つの類に纏めて, これを \begin{align} [a,b]=\{(x,y)\in \mathcal{L}_p\mid(x,y)\sim(a,b)\} \end{align} とし, そのときに生ずる類の総数を, によって表す. かくして, の要素は種の類に分別される.
にたいして, 次の等式を証明する.
の要素が右辺の形に表されることは, 定義から自明である. 反対に, 右辺の集合の要素がに属することを示すためには, それがに属することを示すべきである. 若し或るがに属しない対であるとすれば, 前述の事実によって, 非負の整数に関してであるが, これはを導くので, に矛盾する. 従って, 上記の相等が成りたつ.
然らば, 各類の要素数はで一定であり, の要素数に関して \begin{align} \# \mathcal{L}_p=(p-1)t(0,1)k. \end{align} 第一にである場合は, に属しない剰余対の総数はであるから, 要素数はと表され, が得られる. 故に, である.
第二にである場合は, であり, これととを合わせて, が得られる. 即ち, 何れの場合も, 定理が示されたのである.
比率の組みあわせ論的な意味が明らかになる点は, この証明法のおもしろい特徴であると思います.
証明. について定理 2.3 を適用すれば, \begin{align} \frac{a^{p-1}-1^{p-1}}{a-1}\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p). \end{align} ここから Feramt の小定理が得られる.
冪剰余に関する事実
これから一般項の式を整数範囲で応用するので, 二項展開を施してを消すための計算をします.
を掛ければ, 各辺は整数になります.
証明. における二項係数の性質, \begin{align} \binom{p}{i}&\equiv\begin{cases}1&(i=0,\ p)\\0&(0\lt i\lt p)\end{cases},\\&\\ \binom{p+1}{i}&\equiv\begin{cases}1&(i=0,\ 1,\ p,\ p+1)\\0&(1\lt i\lt p) \end{cases} \end{align} を用いる. 前述の等式によれば, 法の下で, \begin{align} U_p&\equiv\!\!\sum_{0\leqslant j\leqslant(p-1)/2}\!\!\binom{p}{2j+1}P^{p-2j-1}\Delta^j\\ &\equiv\Delta^{\frac{p-1}{2}},\\ 2U_{p+1}&\equiv\!\!\sum_{0\leqslant j\leqslant(p-1)/2}\!\!\binom{p+1}{2j+1}P^{p-2j}\Delta^j\\ &\equiv P+P\Delta^{\frac{p-1}{2}}. \end{align} 第一にであるとき, は明白である. 第二にである場合も, 漸化式を用いると, \begin{align} -2QU_{p-1}&=2(U_{p+1}-PU_p)\\ &\equiv P-P\Delta^{\frac{p-1}{2}}\equiv0. \end{align} 故に命題が成立する.
Euler の規準の証明
証明. を始めに除外する. それ以外のにたいして, と置けば, \begin{align} \left(\!\frac{\,\Delta\,}{\,p\,}\!\right)&=\left(\!\frac{P^2-4Q}{p}\!\right)=\left(\!\frac{4a}{p}\!\right)=\left(\!\frac{\,a\,}{\,p\,}\!\right),\\ \Delta^{\frac{p-1}{2}}&=4^{\frac{p-1}{2}}a^{\frac{p-1}{2}}\equiv a^{\frac{p-1}{2}} \end{align} であり, かつおよびはによって割りきれない整数である. 故に, の絶対最小剰余をと書くならば, \begin{align} U_{p-\left(\!\frac{\,a\,}{\,p\,}\!\right)}\equiv U_{p-(a\mid p)}\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p). \end{align} ここにおいて, 若し仮にとすれば, 漸化式によってが導かれるけれども, これは不合理である. 故に上記の合同式から, \begin{align} \left(\!\frac{\,a\,}{\,p\,}\!\right)=(a\mid p) \end{align} の相等が得られて, 定理の証明が完成する.
文献
[1] Matt Baker, "Quadratic Reciprocity via Lucas Polynomials," Matt Baker's Math Blog, 2020. ブログサイト (参照 2022-9-3).