この連続記事では以下を目標として記します.
(2) の記事 :
Fp が p の倍数であるような素数 p の決定問題 (2) 完全証明 - Arithmetica 算術ノート
導入
今回の記事および次回の記事で扱う問題は, 「 Fibonacci 数がインデックスの倍数になるのはどのようなときか. 」という至って純粋な問です. 議論の複雑化を防ぐため, 以下の範囲は素数の全体に限定して話を進めていきます.
先ずは具体値で実験をして様子を探り, 証明のために必要な性質を集めていきます. 正整数に対する Fibonacci 数列とは, 次のような数列のことでした(インデックスとの関係が見やすいように表に纏めておきました).
この表を用いて, 以下の事実を確認してみてください.
- のときはの倍数ではない.
- のときはの倍数ではない.
- のときはの倍数である.
- のときはの倍数ではない.
- のときはの倍数ではない.
- のときはの倍数ではない.
......何か気づきましたか?
実は, がの倍数に成ることは滅多に有りませんが, どのようなに対しても, との何れか一方がの倍数に成っています. ここで, Euclid の互除法によって
であることが判るので, においてとの少なくとも一方がで割りきれることが証明されれば, はを約数に持たないことが導かれ, 冒頭の命題が直ちに証明されることに成ります. 由って, 以下ではにおいてとの少なくとも一方がで割りきれることの証明について考えます.
この問題の解決に取りかかるに当たり, 必ず Fibonacci 数とインデックスの関係についての考察を経ることに成ります. これら二者の関係を記述するものとして最も直接的なものは, 恐らく, をの式で表現した Fibonacci 数列の一般項でしょう. 然しながら, Fibonacci 数列の漸化式 から得られる一般項は \begin{align} F_n=\frac{\left(\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}\right)^n-\left(\dfrac{1-\sqrt{5}}{2}\right)^n}{\sqrt{5}} \end{align} という形で, の倍数か否かの判定や, を取る操作には不向きなもので在ります. 何故ならば, この式は分数や平方根, 乗といった (合同式では) 直接的に扱いにくい要素を全面に含んでいるからです. そこで今回は, これらの類似概念を上で定義し, より扱いやすい数列(但し)をにおいて構成することで, 議論を進めてゆこうと思います.
mod p 上の一般項の構成
先ず, 上の数を扱いやすくするために記号を導入します. 即ち, 整数をで「還元」したものをで表すことにします. 「還元」という言葉を使いましたが, 詳しく説明すると「で割った余りが同じ(で合同な)整数は, 全て同一の数と見なす」という考え方のことです. 例えば, のとき \begin{align} \overline{1}=\overline{6}=\overline{-4} \end{align} が成りたちます. 合同式における加法, 乗法と全く同じ原理で, の和や積を考えることができ, これをを用いて表します. 例えば, において \begin{align} \overline{2}+\overline{4}=\overline{6}&=\overline{1}\\ \overline{2}\times\overline{4}=\overline{8}&=\overline{3} \end{align} といった具合です. 個のの積をと書きあらわすのも同様で, \begin{align} \overline{a\times b}&=\overline{a}\times\overline{b}\\ \overline{a^n}&=\overline{a}^n \end{align} が成立します. 式どうしを等号で結んでいますが, 合同式における合同と同じ役割です.
導入の項において持ちだした, 今回の目標である数列も, 以降ではと表すことにします.
分数
整数の全体では除法を行うことはできませんでしたが, の世界ではどのようになるのでしょうか. の一般項を合理的に構成するためには, 上での分数は有理数上での分数と同じ役割を果たしていなければ成りません. そこで, 有理数の場合と同じ定義を用いることにします. 詰まり, に対し, を充たすようなを, あるいはと書きしるすことにします. 例えばに着目したときであったので \begin{align} \overline{4}=\frac{\overline{3}}{\overline{2}},\ \overline{2}=\frac{\overline{3}}{\overline{4}} \end{align} です. この定義におけるがにおいて恒に存在すること, そして, それが唯一であること*2を証明します.
証明. 個の整数 \begin{align} 0a\ (=0),\ 1a\ (=a),\ 2a,\ \ldots,\ (p-1)a \end{align} を考え, これらをで割った余りが相異なることを論ずる. これらの内とがにおいて合同であったと仮定すると, その差はで割りきれなければ成らない. 所が, によりはで割りきれず, かつもで割りきれないので矛盾が生じる. 由って個の数 \begin{align} 0a\ (=0),\ 1a\ (=a),\ 2a,\ \ldots,\ (p-1)a \end{align} をで割った余りは相異なり, からまでの整数が一度ずつ現れる. その中に唯だ一つ存在すると合同なものをと置けばが成立する.
証明. 命題 1.1 より自明.
累乗
次は累乗について考えましょう. こちらは特に新しい定義が必要という訳でもなく, もともと合同式において定義されてありましたので, 必要な性質を集めてゆくことが目的に成ります. の一般項ではであった部分が, の一般項では何らかのに置きかわることに成るので, やを計算する際には, またはという形の累乗を処理する必要が有りそうです. そこで, やを法にとって具体的にを計算してみます.
- に着目したとき \begin{align} \begin{array}{c|ccccc} \ \ \overline{a} & \overline{0} & \overline{1} & \overline{2} & \overline{3} & \overline{4}\ \ \\\hline \ \ \overline{a}^{p-1} & \overline{0} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1}\ \ \\\ \ \overline{a}^{p+1} & \overline{0} & \overline{1} & \overline{4} & \overline{4} & \overline{1}\ \ \end{array} \end{align}
- に着目したとき \begin{align} \begin{array}{c|ccccccc} \ \ \overline{a} & \overline{0} & \overline{1} & \overline{2} & \overline{3} & \overline{4} & \overline{5} & \overline{6}\ \ \\\hline \ \ \overline{a}^{p-1} & \overline{0} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1}\ \ \\\ \ \overline{a}^{p+1} & \overline{0} & \overline{1} & \overline{4} & \overline{2} & \overline{2} & \overline{4} & \overline{1}\ \ \end{array} \end{align}
もう何と無く幾つかの法則性が見えてきましたが, 一応も確認しておきます.
- に着目したとき
\begin{align} \begin{array}{c|ccccccccccc} \ \ \overline{a} & \overline{0} & \overline{1} & \overline{2} & \overline{3} & \overline{4} & \overline{5} & \overline{6} & \overline{7} & \overline{8} & \overline{9} & \overline{10}\ \ \\\hline \ \ \overline{a}^{p-1} & \overline{0} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1} & \overline{1}\ \ \\\ \ \overline{a}^{p+1} & \overline{0} & \overline{1} & \overline{4} & \overline{9} & \overline{5} & \overline{3} & \overline{3} & \overline{5} & \overline{9} & \overline{4} & \overline{1}\ \ \end{array} \end{align}
以上の結果から, 素数と互いに素な整数, 詰まりなるについて \begin{align} \overline{a}^{p-1}=\overline{1} \end{align} が予想されます. の方には, これと言って著しい性質は無いように思えるかも知れませんが, なので簡約することができた, ということにしておきます.
証明. 命題 1.1 の証明中の議論から, 個の数 \begin{align} 1a\ (=a),\ 2a,\ \ldots,\ (p-1)a \end{align} をで割った余りは相異なり, からまでの整数が一度ずつ現れる. それら全ての積を考えると \begin{align} a\times2a\times\cdots\times(p-1)a\equiv 1\times2\times\cdots\times(p-1)\ \ ({\rm mod}\ p). \end{align} ここで, であるからの逆元が存在する. それを乗じて \begin{align} a^{p-1}\equiv1\ \ ({\rm mod}\ p). \end{align} 詰まりが得られる.
平方根
最後に平方根についてです. 分数のときと同様, 一般項の構成において通常のと同様な役割を持たせる必要があるので, 通常のの定義をそのまま輸入してくるのが無難です.
「その内の一つ」と書いたのは, がを充たすならば, \begin{align} (\overline{p}-\overline{a})^2=\overline{(-a)}^2=\overline{a}^2=\overline{5} \end{align} によりも二乗してに成るからです. 有理数の世界で言う所の, 方程式の解がの二つであることと似ていますね. 今回はこれらを区別する理由が無いので, 何れか片方をと書くことにしています.
わざわざ「が存在するならば」といって注釈を加えましたが, これは, 存在しないケイスが存在するからです. 分数のときは(ならば)なるが必ず存在することが言えたのですが, 平方根については, の値によっての解が存在しないということも起こりえます. 例えばのとき, \begin{align} \overline{0}^2=\overline{0},\ &\overline{1}^2=\overline{1},\ \overline{2}^2=\overline{4},\ \overline{3}^2=\overline{2},\ \\ &\overline{4}^2=\overline{2},\ \overline{5}^2=\overline{4},\ \overline{6}^2=\overline{1} \end{align} なので, どのようなを取ってもと成ります. 何らか代数的な方法によってこの問題を解消することもできるのですが, 今回は諦めることにしましょう. の解が存在しない場合の証明については, 次回の記事で扱います.
部分的解決
以上で定義したものを用いて, 上での Fibonacci 数列の一般項を構成します.
詰まる所, この数列は
- の世界ではをで割った余りと全く同じ値を取る.
- の世界の数のみで構成されており, 合同式の計算ができる.
という都合の良い性質を兼ね備えているということです.
証明の要訣は, が上でと同じ漸化式を充たしていることを確認することです.
証明. の定義から, は方程式 \begin{align} (\overline{2}\times\overline{x}-\overline{1})^2=\overline{5}\qquad\overline{x}^2=\overline{x}+\overline{1} \end{align} を充たす解である. このときおよびの両辺にそれぞれを乗じると \begin{align} \overline{\alpha}^{n+2}&=\overline{\alpha}^{n+1}+\overline{\alpha}^n\\ \overline{\beta}^{n+2}&=\overline{\beta}^{n+1}+\overline{\beta}^n \end{align} と成る. 第一式から第二式を辺々引き, その両辺をで割ると \begin{align} \frac{{\overline{\alpha}}^{n+2}-{\overline{\beta}}^{n+2}}{\overline{\sqrt{5}}}=\frac{{\overline{\alpha}}^{n+1}-{\overline{\beta}}^{n+1}}{\overline{\sqrt{5}}}+\frac{{\overline{\alpha}}^n-{\overline{\beta}}^n}{\overline{\sqrt{5}}} \end{align} 詰まりが成りたつ. 更に, 計算により \begin{align} \overline{f_1}=\frac{\overline{\alpha}-\overline{\beta}}{\overline{\sqrt{5}}}=\frac{\overline{\sqrt{5}}}{\overline{\sqrt{5}}}=\overline{1}\\ \overline{f_2}=\frac{{\overline{\alpha}}^2-{\overline{\beta}}^2}{\overline{\sqrt{5}}}=\frac{\overline{\sqrt{5}}}{\overline{\sqrt{5}}}=\overline{1} \end{align} が確かめられるので, はをで還元したものである.
証明. 命題 1.6 の数列を用いて計算すると, において \begin{align} \overline{F_{p-1}}&=\overline{f_{p-1}}=\frac{\overline{\alpha}^{p-1}-\overline{\beta}^{p-1}}{\overline{\sqrt{5}}}\\ &=\frac{\overline{1}-\overline{1}}{\overline{\sqrt{5}}}=\overline{0} \end{align} と成る. 但し, 二行目の初めの等号で Fermat の小定理(定理 1.4 )を用いた.
次回の記事では, 法における方程式が解を持たない場合の証明を紹介しようと思います.