Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

ピタゴラス数月花 五通りの証明法

原始的 ピタゴラス数は 三つ組の 正なる整数 𝒂, 𝒃, 𝒄 互いに素なる ものの中 \begin{align} a^2+b^2=c^2 \end{align} (アーの自乗足す ベーの自乗 エクアト・ケーの自乗) の式 満足するを いう名なり





この記事は以下を目標として記したものです.



前提知識

特に無し.







ピタゴラス数の事

今ここに 紙と鉛筆 定規あり 紙の面には 方眼の 無限に広きを 記したり

鉛筆使い 方眼に 底辺\ 3\ に 縦\ 4\ の 直角のある 三角形 下図のごとく 書き込めば 三本線の 造りたる ごく簡易なる 形状に ある不思議なる 秘密あり

その昔 ある幾何学者 眼に留めて この三角を ふと眺め 自ら問いを 案じたり 問いにいわく いま描きたる 三本の 内未詳なる 斜め線 斜辺の長さ いくらかと

試しに定規 辺に当て 斜辺の線長 測れるに その幾何学者 立ちすくみ ただ目盛りをば 直視せり 定規を見れば くすしくも 斜辺の終点 誤差もなく 整数の\ 5\ を 指したりて それ分数にも 無理の数にも あらざる様が 確かなり

図 1 番 \ 3, 4, 5\ を 辺長となし 直角をもつ 三角形

この三角の 不思議図は 古来広きに 知れ渡り その原理また 大凡そ 四千年来 世界中 ただギリシア人 のみならず 古バビロニア 古代エジプト 古代中華を 始めとし あまの文明 知得して おのおの書記を 遺したり

直角をもつ 一般の 三角形の 辺長に 当たる正数に 名を付して 底辺\ a 高さが\ b 斜辺が\ c\ の 文字振れば \begin{align} a^2+b^2=c^2 \end{align} なる 関係式が 成立す 広く幾何学に 知られたる 三平方の 定理とは この事を指す となえなり \ a\ \ b\ とを 与えられ もし斜辺\ c\  欲しからば 上式使い 左辺より \ c^2\ を 導きて 平方根を 計算し 正しき長さ 知り得べし この等式は 数学に 最も名高き 類にして 古代ギリシア 賢人の ピタゴラスの名 かんせられ 幾何学 算術 三角法 多岐の分科の 基点なり 三平方の 式見れば ただ精巧なる のみならず 左辺右辺の 係数や 冪指数など 整いて 到るところに 乱れなく 幾何に成り立つ ことわりを いと妙妙に 表せり その妙妙の 魅惑こそ 後代学者を 集わしめ 数の学術を 栄えさせ 図形の理学 幾何をして 用途偉大の 学問に 進歩せしめし 所以なれ

その証明は 正方の 図て知るべき 明快論 苦しき計算 不要とし 定理にまさる 見栄えあり まず\ a,\ b,\ c\  辺長の 直角をもつ 三角形 平面の上に 描画して それを四個に 複製し 辺長\ a+b\ をもつ 正方形の 内方の 四隅に合わせ 設定す そのとき内部に 生ずるは 一辺\ c\ の 正方形 これを第一の 図形とす

図 2 番 第一の図形

大正方形を固定し 各所四個の 三角形 おのおの別に 動かして 第二の型に 改めん 小三角は 四つあれども 二個と二個とを 組みとして 接合すれば 長方形 辺長\ a\ と \ b\ のもの 二つを作り 移設して 異なる配置 つくるべし すなわち次の 図形なり

図 3 番 第二の図形.

図を較ぶれば 双方は 配置において 異なれど 図を囲いたる 大枠の 正方形ぞ 不変なれ いま始まりの 三角に 面積\ S\ の 文字をて 上に描きたる 二通りの 図の面積を 表すに \begin{align} c^2+4S=a^2+b^2+4S \end{align} の 式を見る 今は余分の 項\ 4S\ を 左辺右辺より 差し引けば 定理の式に 至るべし

三平方には 「逆」もあり 三角形の 辺長に 現るる数 \ a,\ b,\ c\  \ a^2+b^2=c^2\ なる 条件式を たすとき その三角は 一角に 直角もつこと 外れなし 三角形の 図におきて わずかに角度 操作して 辺長\ a,\ b\ を崩さず ただ直角を 変ずるに 辺長\ c\ は 増減し もとの長さに 回帰せず これに従い \ a^2+b^2=c^2\ とは 直角のある 場合のみ 成立すべき 式にして この命題は 明白なり (厳密の 証明法は 省略す)

図 4 番 三平方の 定理の逆

しからば当初 不思議と例えし 辺長\ 3,\ 4,\ 5\ のものも \ 3^2+4^2=5^2\ となる 手計算により 簡単に 解釈すべき 事象なり 今この理解 なお超えて 新たに問いを 立すべし \ a^2+b^2=c^2\ なる 等式充たす 数の中 小数以下に 端数なき 正なる整数 \ a,\ b,\ c\  その三つ組は いかなりや \ (3,4,5)\ を 始めとし 次に挙ぐべき \ (6,8,10) \ (5,12,13)\  その他にも 組はいかほど 多くあり いかなる規則 示すべき この等式を 成り立たしむる \ (a,b,c)\ の 各組は ピタゴラス数と 呼ばれたり

もし組\ (a,b,c)\ ありて \ a^2+b^2=c^2\ ならば 正なる整数\ k\ を取り その各辺に 乗ずるも \ (ka)^2+(kb)^2=(kc)^2\ の 式を生み 元の組より 大になる ピタゴラス数 生成す ゆえに興味の 標的は \ (a,b,c)\ の 相素なる いわば「原始的」組とすべし \ (3,4,5)\ は 原始的 \ (6,8,10)\ は 度外視す いまあらかじめ 考察の 最後に得べき 主定理を あえて明かせば この通り

定理 1 原始的なる ピタゴラス数は ことごとく \begin{align} (m^2-n^2,2mn,m^2+n^2) \end{align} または式 \begin{align} (2mn,m^2-n^2,m^2+n^2) \end{align} の 一般式に 表さる ただし以上の 記にありて \ m\ \ n\ との 整数は {}_{1)}\underline{\ m\gt n\gt0\ } 公約数の {}_{2)}相素なり {}_{3)}偶奇異なる 二数なり

条件\ 1)\ によりて \ m^2-n^2\gt0\ が 成立す \ 2)\ および \ 3)\ との 「整除」に関わる 条件は 組の間の 公約を ただ\ 1\ のみに 規約せり 三条項を 充たしたる 全部の対\ (m,n)\ につき 上記の式に 与えらる \ a,\ b,\ c\ の 三つ組の 原始的 ピタゴラス数に なることは 算術的なる 手法にて 験証すべき ところなり :

  • \ (m^2-n^2)^2+(2mn)^2=(m^2+n^2)^2\ の式 成立し
  • \ m^2-n^2\ と \ 2mn\ との 公約は \ m^2-n^2\ が 因子\ 2\ により 割り切れず また互除法の 原理にりて \ m\ \ n\ とも 相素なる 整除関係 考えば 二数の公約数は必ず \ 1\ に等しき ものにして 三つの数を ある数により 同時に整除 することは 常に不可能なればなり

\begin{align}\mbox{表 1 番 }\ (m^2-n^2,2mn,m^2+n^2)\ \mbox{ 総覧表}\\\ \end{align}\begin{align}\begin{array}{|r|ccccccc|}\hline m=&1&2&3&4&5&6&\cdots\\\hline\hline n=1& &(3,4,5)&&(15,8,17)&&(35,12,37)&\\\hline n=2& & &(5,12,13)&&(21,20,29)&&\\\hline n=3& & & &(7,24,25)&&&\\\hline n=4& & & & &(9,40,41)&&\\\hline n=5& & & & & &(11,60,61)&\\\hline \vdots&&&&&&&\ddots\\\hline \end{array} \end{align}

補題 2 正なる整数 \ a,\ b,\ c\  \ a^2+b^2=c^2\ なる 関係式の 下ならば
\ 1)\  組み\ (a,b)\  組み\ (b,c)\ と 組み\ (a,c)\  その最大公約数は 三つの間 相等し
その公約数 表すに \ d\ の記号を もってせん
 \ 2)\  とくに\ d=1\ のとき \ a\ \ b\ との 整数は 一方偶数 他方奇数 \ c\ はかならず 奇数なり

証明法. \ 1)\ 互除法の 原理によりて 理由はなはだ 自明なり \ 2)\ \ \mathrm{mod}.4\ の 平方剰余は \ 0\ \ 1\ との 二つのみ これによりては 各文字の 偶奇の事も 判明し 補題にいえる 通りなり

\Box

 

これより後は \ a^2+b^2=c^2\ にて \ a,\ b,\ c\ は 共に正 互いに素なる 三整数 とくに文字\ a\ の 奇数なる 組みを表すを 規定とす





1. 外接長方形

二辺の長さが\ 2\ \ 1\ である直角三角形を用意し, 次の図のごとく方眼上に配置することにより, \ 3:4:5\ の直角三角形を構成することができる. 辺の比率\ a:b:c\ が整数比であるような一般の直角三角形を同じように小三角形から作ることを試みよう.  

図 5. \ 3:4:5\ の直角三角形.

導出法 0. この導出法は特別であるから, 必要ならば\ a\ \ b\ とを入れ替えて, \ a\lt b\ を前提とする. 辺長\ a,\ b,\ c\ の直角三角形に外接する長方形を描いて, かつそのときに, 下図における左の二角が同等になるように設定する.

図 6. 直角三角形と外接長方形-1.

左下の直角三角形において, 斜辺を除く二辺の長さを\ ax\ および\ atx\ とするならば, おのずから外周における各線分の長さが判明する.

図 7. 直角三角形と外接長方形-2.

長方形の対辺を長さに関して比較するとき, \begin{align} \left(\begin{array}{l} at+b=ct\\ \ \\ a+c=bt. \end{array}\right. \end{align} \ X=a/c,\ Y=b/c\ と置けば, \begin{align} \left(\begin{array}{l} Xt+Y=t\\ \ \\ X+1=Yt. \end{array}\right. \end{align} ゆえに\ t\ 有理数である. これを互いに素なる正整数の比率として\ m/n\ の型に表記する. そのとき, 三辺の比率を\ a:b:c\ とする直角三角形は二辺の長さが\ m,\ n\ の小三角形を用いて構成することができ, かつ, \begin{align} a:b:c&=X:Y:1\\ &=\frac{t^2-1}{t^2+1}:\frac{2t}{t^2+1}:1\\ &=m^2-n^2:2mn:m^2+n^2. \end{align} 第一に\ m\ \ n\ とが異偶奇であるとき, 右辺の三項は互いに素なる (→後述解説) 正整数であって, \begin{align} a=m^2-n^2,\quad b=2mn,\quad c=m^2+n^2. \end{align} しかも二数は\ m\gt n\gt0\ を満足させる.

互いに素であることの根拠 : 互除法の原理によって\ m^2-n^2\ \ m\ の組および\ m^2-n^2\ \ n\ の組はそれぞれ互いに素であるから, \ 2mn\ \ m^2+n^2\ の公約数は\ 1\ \ 2\ のみに限られる. 三つ組\ m^2-n^2,\ 2mn,\ m^2+n^2\ に共有される約数は当然\ 2mn\ \ m^2+n^2\ の公約数でもあるから, これも\ 1,\ 2\ のいずれかに限られる. いま\ m^2\pm n^2\ は奇数であるから, 三数は互いに素でなければならない.

第二に\ m\ \ n\ とが共に奇であるとき, 右辺の三つの項の最大公約数は\ 2\ であるから (→上記と同様), \begin{align} a=\frac{m^2-n^2}{2},\quad b=mn,\quad c=\frac{m^2+n^2}{2} \end{align} が成り立つ. \ M=(m+n)/2,\ N=(m-n)/2\ と置換すれば, 新たなる\ M,\ N\ \ M\gt N\gt0\ を充たし, かつ (M+N=m\ が奇であることから見えるように) 偶奇の異なる整数であり, \begin{align} a=2MN,\quad b=M^2-N^2,\quad c=M^2+N^2. \end{align} この式において\ M,\ N\ は互いに素でなければならない. 以上によって定理が証明されたのである.

\Box

 





2. ディオパントスの置換法

ディオパントスは古代にあって算術学を考究し, 一個の平方数を二個の平方数の足し算に分かつための手法を編み出した. もちろん古の計算術は, ことに今の人には難解である. それを新規に改めて, 理解のたやすい知恵とするならば, ごく初等的な証明法に達することができるであろう.

導出法 1. \ a^2+b^2=c^2\ の各辺を\ c^2\ によって除すれば, 正なる有理数\ x=a/c\ \ y=b/c\ の方程式\ x^2+y^2=1\ に帰着する.

ここに\ x=qy-1\ の変数置換を施すとき, \ q\ もまた有理数なる文字であって, \begin{align} y^2+(qy-1)^2&=1,\\ (q^2+1)y^2-2qy&=0,\\ y&=\frac{2q}{q^2+1}. \end{align} また\ x\ についても, \begin{align} x=qy-1=\frac{q^2-1}{q^2+1}. \end{align} 変数\ q\ を分数に表記して, ある相素なる正整数\ m,\ n\ による\ q=m/n\ に換えるならば, \begin{align} x=\frac{m^2-n^2}{m^2+n^2},\quad y=\frac{2mn}{m^2+n^2}. \end{align} これら二つの分数は仮定によって既約である.

ここに互除法を適用した. \ m\ \ n\ は互いに素なる二数であるから, \ y\ の分数が約分を生ずるのは, \ m\ \ n\ が同偶奇をもち\ m^2+n^2\ が偶数になる場合のみであり, そのときには二数とも奇数であることを要する. この前提の下で, 法\ 4\ に関する平方剰余を考慮すれば, 必然的に\ a\ は偶数であることが結論されるけれども, これは明らかに不適切である. ゆえに\ y\ を表す分数は既約であり, また\ x^2+y^2=1\ の関係があるから, \ x\ \ y\ の分母は同等である.

しからばおのおのにおける分子と分母とを比較して, \begin{align} a=m^2-n^2,\quad b=2mn,\quad c=m^2+n^2. \end{align} \ a\ は奇数であったから, \ m,\ n\ の偶奇は異である. 

\Box

 

\begin{align}\mbox{表 2. 変数}\ q\ \mbox{ 総覧表.}\\\ \end{align}\begin{align}\begin{array}{|l|l|}\hline \ (a,b,c) & \ q=(奇+奇)/偶 \\\hline (3,4,5) & (3+5)/4=2 \\ (5,12,13) & (5+13)/12=\frac{\,3\,}{\,2\,} \\ (8,15,17) & (15+17)/8=4 \\ (7,24,25) & (7+25)/24=\frac{\,4\,}{\,3\,} \\ (20,21,29) & (21+29)/20=\frac{\,5\,}{\,2\,} \\ (12,35,37) & (35+37)/12=6 \\\hline \end{array}\end{align}


上に述べたディオパントスの置換法は, 座標によって明快に捉えることができる. ここに円周を用意して, その概要を視察しよう (図 8 中の角度\ \theta\ は, 後の導出法に使用する).

図 8. 単位円周と直線\ y=t(x+1).

\ (x,y)\ の座標がかれた平面に, 単位半径の円を描き, その上に乗る有理点を考察する. 有理点または有理数点という語句は, 有理数の座標を有する点のことを意味する. この円周上の有理点を集めて, そこから特別なる一点\ (-1,0)\ を除いた集合を\ \mathcal{Q}\ の記号に表すならば, ピタゴラス数の方程式は\ \mathcal{Q}\ を表示する問題に帰着する.

ある実数\ t\ を選択し, 直線\ y=t(x+1)\ を図に加えて, これが円周と交わる点を\ P\ とする. そのとき, 明らかに点\ P\ が有理点ならば直線の傾き\ t\ も有理であり, またもし係数\ t\ が有理ならば, 交点\ P\ の座標も有理数である. 先述の計算の中に根拠があるから, これは既知の事実であろう. ゆえに二つの集合

\ \mathcal{Q}\  と \ \mathbb{Q}\

は, 要素において一対一に対応する. 換言すれば, \ \mathcal{Q}\ のそれぞれの要素は, ただ一箇所の基準点\ (-1,0)\ を除外して, 有理数\ t\ を媒介することにより, ちょうふくもなく, 欠落もなく表すことができるのである. これが第二の導出法の, 幾何学による釈義である (ただし以上の記述にあって文字\ t\ \ 1/q\ の異称である).





3. 円周上の有理数

前節において, 第一の方法の座標計算を基調とする解釈を述べたけれども, そもそも円は, 角度との相性のい図形である. この着想に依拠した場合は, 三角法の公式を用いる次の証明に到達する.

導出法 2. 与えられている点\ P\ が有理点である仮定によって, 変数\ t\ は有理である. そもそも前記した図において, 変数\ t\ は直線の傾きを表すものであったけれども, 傾き\ t\ の直線と\ x\ 軸との成す角を\ \theta\ と置いて, これををかわりに起用すれば, 点\ P\ は円周上\ x\ 軸から\ 2\theta\ の角を進めた点であって, \begin{align} x&=\cos{2\theta}\\ &=\cos^2{\theta}-\sin^2{\theta}=\frac{\cos^2{\theta}-\sin^2{\theta}}{\cos^2{\theta}+\sin^2{\theta}}\\ &=\frac{1-t^2}{1+t^2},\\&\ \\ y&=\sin{2\theta}\\ &=2\cos{\theta}\sin{\theta}=\frac{2\cos{\theta}\sin{\theta}}{\cos^2{\theta}+\sin^2{\theta}}\\ &=\frac{2t}{1+t^2}. \end{align} かくして後は, 前述のものに合流する (以降略).

\Box

 





4. 因子分解

元より数とは物を数える用途のための概念であるが, ときに図形と対照して, 幾何学的に捉えることも大いに意義を有するものである. 例えば平方数\ N^2\ *1は正整数\ N\ を一辺とする正方形の面積に現れる数であるが, その正方形に仕切り線を引いて次図のごとく書き換えると, あらゆる平方数*2が連続する奇数の和から見出だされるという事実を, 一目に観察することができる.

図 9. 平方数.

式に表せば, \begin{align}1&=1^2,\\1+3&=2^2,\\1+3+5&=3^2,\\1+3+5+7&=4^2\end{align}など. もし\ m\geqslant3\ を奇数として, \ m^2\ を連続奇数の和における終項とするならば, \begin{align} 1+3+5+\cdots+m^2 \end{align} の和は平方数である. しかも, \ m^2\ を除いた和\ 1+3+\cdots+(m-2)^2\ もまた平方数であるから, 二個の平方数を足した和が, 平方数に等しいという等式を得るのである. この方式によって, 原始的ピタゴラス数に対する無数の例が表出する.

図 10. ピタゴラス数の生成図.

さて, 一般の平方数\ c^2\ から\ a^2\ を引いた差を図の上に表して, その面積が平方であるための条件を考察する. 差を表示する図形とは, 例えば次の図に描くような「く」の字の六角形である.

図 11. 二平方の差の等式.

長方形の部分を移設して六角形を分解すれば, 長さ\ c+a\ \ c-a\ とを辺にもつ長方形に変化する. 式に記せば, \begin{align} c^2-a^2=(c+a)(c-a). \end{align} これを用いて第三の証明とする.

導出法 3. 三平方の等式に因子分解を行って, \begin{align} \frac{c+a}{2}\cdot\frac{c-a}{2}=\left(\frac{\,b\,}{\,2\,}\right)^2. \end{align} 左辺に置かれた二因子は, 互いに素なる整数である.

互除法の原理によって, 二つの数 \begin{align} \frac{c+a}{2}\quad\mbox{と}\quad\frac{c-a}{2} \end{align} の最大公約数は, 第一数を第二に加えた \begin{align} \frac{c+a}{2}\quad\mbox{と}\quad a \end{align} の組のもつ最大公約数と同じである. いま文字\ a\ は奇であるから, \ a\ の約数は素数\ 2\ と無関係であって, 第一数に\ 2\ を乗じても最大公約数は不変である. ゆえに \begin{align} c+a\quad\mbox{と}\quad a \end{align} の組の最大公約数を考えるとき, これは\ c\ \ a\ の最大公約数と同等であるから, 前提によって\ 1\ に等しい. 従ってもとの二数は相素である.

これに鑑みて, 左辺の因子を\ m^2,\ n^2\ と表すならば, \begin{align} a=m^2-n^2,\quad b=2mn,\quad c=m^2+n^2. \end{align} しかも\ m,\ n\ は互いに素であり, かつ\ m+n=c\ は奇であることから, 異なる偶奇を有する.

\Box

 

これに加えて, 途中にあった公約数の計算もまた, 長方形の図上において観察のできる事物である. 正なる整数\ a\ \ b\ とが公約数\ d\ を有する状況は, 辺長\ a\ \ b\ の長方形の内方に, 辺長\ d\ の正方形タイルを間隙を残さず整列して, 四角全体を覆うことが可能なる場合と対応する. これは広く知られた解釈法であり, \ a\ \ b\ の公約数, 特に最大公約数を鑑定するための算術 (互除法) に対して, 幾何的意味を与えるものである.

図 12. 正方形の充填.

この解釈から, ただちに二個の事実が得られる. 第一に\ a+b\ \ a\ の間の公約数の全体は, \ a\ \ b\ の公約数の全体と一致する. なぜならば, 辺長\ a,\ a+b\ の長方形から一辺\ a\ の正方形を取り除いても, 充填性は不変であるからである. 第二に, 正数\ a\ が特に奇数である場合には, \ a\ \ b\ の間の公約数の全体は, \ a\ \ 2b\ の公約数の全体と同一である. なぜならば, 一辺が奇数\ a\ である長方形を充填しうるタイルの大きさは, 決して偶数にはならないからである. これらの事実を駆使するのによって, 導出途中に記した公約数の計算を視覚的象形に依頼することが可能になる (第一の事実を応用して公約数を算出する方法こそが, エウクレイデスの互除法である).





5. 複素整数の因子分解

複素平面上のこう点, 「複素整数」もまたこの問題に通用する.


ピタゴラス数の公式は, 平方数\ c^2\ が平方数の和であるための条件を説いたものであるが, 範囲を平方数に限らず, 広く一般の正の整数が平方数の和に表されるための条件を考えることも, 高尚なる整数論の, 楽しみとなるところである. 二個の平方\ x^2\ \ y^2\ との和に相当する正整数\ x^2+y^2\ の全体を, \begin{align} S=\{x^2+y^2\mid x,y\in\mathbb{Z},\ (x,y)\neq(0,0)\} \end{align} と記し, \ S\ に属する整数をかりに\ S\ なる数と呼ぶのならば, その例として \begin{align} 1,\ 2,\ 4,\ 5,\ 8,\ 9,\ 10,\ 13,\ 16 \end{align} が挙げられる. これらの数の性質について,

  • 数学者ブラフマグプタの恒等式,
    \begin{align} (u^2+v^2)(x^2+y^2)=(ux-vy)^2+(uy+vx)^2 \end{align}
    によって, もし整数\ a\ \ b\ とが\ S\ なる数であるならば, 積\ ab\ もまた\ S\ なる数の一個であり,
  • ピタゴラス数の公式により, 正平方数\ c^2=a^2+b^2,\ \gcd(a,b)=1\ *3\ S\ なる数であるならば, 正の整数\ c=m^2+n^2\ もまた\ S\ なる数に所属する.

これらを観るに, \ S\ なる数は定義において\ x^2\ \ y^2\ との加法を経ているにも拘わらず, あたかも合成数や半素数等の, 素因子分解に基づいて定められた数であるかのように, 互いの間で乗法的な結び付きが顕著である. しからば\ S\ なる数の本質を, 素因子分解の手法を通じて解釈しようと試みることは, 決して非合理の知恵ではない.


第一の性質のところに用いた恒等式を観察するに, 右辺の\ ux-vy\ および\ uy+vx\ は, 二つの複素数の乗算,

\begin{align} \bigl(u+v\sqrt{-1}\bigr)\bigl(x+y\sqrt{-1}\bigr)=(ux-vy)+(uy+vx)\sqrt{-1} \end{align}

に現れる実部と虚部の形である. この掛け算の前後における絶対値 (の平方) を比べれば, ブラフマグプタの恒等式を即時に得ることができる. かくして, あらゆる\ S\ なる数は一種の複素数\ x+y\sqrt{-1}\ の絶対値 (の平方) として捉えられ, その掛け算は複素数の掛け算として会得されるものであるから, 二平方和の代わりに複素数を用いるという着想が出るのである.


たとえば, \ S\ なる数\ x^2+y^2\ を因子の積に分解して \begin{align} x^2+y^2=\bigl(x+y\sqrt{-1}\bigr)\bigl(x-y\sqrt{-1}\bigr)=z^2 \end{align} とし, 実部と虚部とが整数である複素数\ x\pm y\sqrt{-1}\ をその「素因子」の積に分解するための手段を立てれば, 通常の整数のものと同じようにすべての解\ (x,y)\ を決定することができるであろう. 整数の成分を持つ\ x+y\sqrt{-1}\ の数は, 複素整数と呼ばれている.


複素整数は元来の整数の拡張であって, 多くの定理が二者の間に共通する. 例の一つに, 互いに素である通常の整数\ A,\ B\neq0\ があって, 積\ AB\ がある整数\ C\ の自乗に等しいとき, 素因子分解を考慮すれば, \ A\ および\ B\ はそれぞれ適切なる平方数と, \ 1\ の約数である整数 (すなわち\ \pm1) の積に表されると述べるものがある. この命題は「整数」の語を「複素整数」に置換しても成り立つ. ここから次のごとき導出法が得られる.

導出法 4. ピタゴラス数の等式に因子分解を行って, \begin{align} \bigl(a+b\sqrt{-1}\bigr)\bigl(a-b\sqrt{-1}\bigr)=c^2. \end{align} 左辺の二因子は, 複素整数の意味において「互いに素」である.

この場合に「公約数」についての議論をおこなうのは艱難である. 複素整数の集合にあっては, \ 2\ が「既約」でないことに注意しなくてはならない. \begin{align} 2=\bigl(1+\sqrt{-1}\bigr)\bigl(1-\sqrt{-1}\bigr). \end{align} 複素整数\ 1+\sqrt{-1}\ の「倍数」とは, 一般的に\ (1+\sqrt{-1})(x+y\sqrt{-1})\ の式に表され, 実部と虚部とが同偶奇である形の数に限られる. さて, \ a+b\sqrt{-1}\ \ a-b\sqrt{-1}\ との「最大公約数」は, \ a+b\sqrt{-1}\ \ 2a\ の「最大公約数」と同等であるが, 「素数\ 1+\sqrt{-1}\ および\ 1-\sqrt{-1}\ は第一数の「約数」に属せざるので, これは\ a+b\sqrt{-1}\ \ a\ の間の「最大公約」と同じであり, \ a\ \ b\ との「最大公約」と同じであり, それは\ 1\ の「約数」のいずれかである (実は整数の意味において互いに素ならば, 複素整数の意味においても\ a\ \ b\ は「互いに素」である*4. 後の内容を知る者は, 注釈に記した解説を参照すべし).

よって両辺の「素因子分解」を比較すれば, \ a+b\sqrt{-1}\ は適切なる整数\ m,\ n\ による

\begin{align} a+b\sqrt{-1}&=\bigl(m+n\sqrt{-1}\bigr)^2\,u\\ &=\bigl((m^2-n^2)+2mn\sqrt{-1}\bigr)\,u \end{align}

の形でなくてはならない. ここに文字\ u\ \ \pm1\ \ \pm\sqrt{-1}\ かのいずれかである. \ b\ の偶奇を考慮すれば, \begin{align} a=|m^2-n^2|,\quad b=|2mn|. \end{align} そのとき\ c\ \ m^2+n^2\ に等しい. ここから, 表示に必要である対\ (m,n)\ を選別して, 定理の内容が得られる.

\Box

 

証明の中で示された通り, すべてのピタゴラス数は複素整数\ m+n\sqrt{-1}\ を自乗することによってつくられる. たとえば, 等式 \begin{align}  \bigl(2+\sqrt{-1}\bigr)\bigl(2-\sqrt{-1}\bigr)=5 \end{align} および \begin{align} \bigl(3+2\sqrt{-1}\bigr)\bigl(3-2\sqrt{-1}\bigr)=13 \end{align} の平方から, ピタゴラス数の式 \begin{align} 3^2+4^2=5^2 \end{align} および \begin{align} 5^2+12^2=13^2 \end{align} が見出だされる.


かくて\ S\ なる数の乗法的な性質は, 複素整数を用いた解釈によって, 素因子分解を得意とするような算術家の手に落ちるのである.



\ \qquad\ast\ast\ast\




しかし複素整数の素因子分解を利用するに際しては, その結論にいかほどの正当さが認められるのかを机を叩いて議論するよりも, むしろ当初より綿密に理論を建てて, 誤解のおそれなきようにあらかじめ勘案するほうがよいというのは, すでに上の証明を通して明らかになったところである. 複素整数の基礎について, 厳密な説明を記述しよう.

ここから通常の整数はラテンアルファベットによって表記し, 実数とは限らない複素整数にはギリシアアルファベットを用いる.


複素整数の全体を, \begin{align} \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]=\left\{x+y\sqrt{-1}\;\middle|\;x,y\in\mathbb{Z}\right\} \end{align} と名付ける. \ \alpha\ \ \beta\ をこの集合の要素とすれば, 和および差\ \alpha\pm\beta, 積\ \alpha\beta, 複素共役\ \overline{\alpha},\ \overline{\beta}\ 等はすべて複素整数になる. 商\ \alpha/\beta\ は必ずしも複素整数にならない.

定理 3 \ \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\ において, 複素数の絶対値を基準とした剰余付き除法がかならず成功する. すなわち, いかなる複素整数\ \alpha,\ \beta\ (\beta\neq0)\ についても, 同じ集合にある\ \gamma,\ \rho\ が存在して, 次の二式を満足させる. \begin{align} \alpha=\beta\gamma+\rho,\quad0\leqslant|\rho|\lt|\beta|. \end{align}

図 13. 複素平面の格子.

 

証明. 定理は, \ \left|\frac{\,\alpha\,}{\,\!\beta\,}-\gamma\right|\lt1\ を充たす複素整数\ \gamma\ があることと同義である.
複素平面の格子において, 単位正方形に引いた対角線の長さはおよそ\ 1.414\ であり, その半分は\ 1\ 未満である. ゆえに, 任意の複素平面上の点, たとえば\ \alpha/\beta\ に対し, そこから距離\ 1\ 未満の領域に少なくとも一つの複素整数\ \gamma\ が存在して, 前記した不等式の通りになる. \ \Box

 

これは整数における余り付き除法の拡張である. 等式\ \alpha=\beta\gamma+\rho\ の中の\ \gamma\ が商に対応し, \ \rho\ が剰余を表している.

図 14. 整数上の除法.

\begin{align} 15=4\cdot3+3. \end{align}

図 15. 複素整数上の除法.

\begin{align} 6+6\sqrt{-1}=\bigl(2+\sqrt{-1}\bigr)\bigl(4+\sqrt{-1}\bigr)+(-1). \end{align}


通常の整数\ a\ が, 逆数\ 1/a\ もまた整数であるという性質を持つときに, これを単数と呼称することにするならば, 明白にこれは\ \pm1\ の二数のことを指している. 整数\ a\ \ b\ とが互いに単数倍の関係にあるとき, それらの整除における特性 (割る, 割られるという種の性質) は, ほとんどすべての事象について酷似する.


同様に, 自身の逆数が複素整数であるような複素整数\ \varepsilon\ は, \ \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\ 上の単数と呼ばれ, \ \pm1\ および\ \pm\sqrt{-1}\ の四数のみが当て嵌まる (なぜだろう ? ). 複素整数\ \alpha,\ \beta\ が互いに単数倍の関係にあって, \ \alpha=\varepsilon\beta, 従って\ \beta=(1/\varepsilon)\alpha\ が成り立つとき, これらは同伴であるといい, \begin{align} \alpha\sim\beta \end{align} と表記する. 同伴の関係にあるような二数は, 整除に関わる考察において, そもそも区別されるべきではない.


もし複素整数\ \alpha\ \ \beta\ との間に, \begin{align} \alpha=\beta\gamma,\quad\gamma\in\mathbb{Z}[\sqrt{-1}] \end{align} を満たす\ \gamma\ が存在するという関係があるならば, \ \alpha\ \ \beta\ によって割り切れると定義し, \ \beta\ \ \alpha\ を割り切ると定義する. \ \alpha\ \ \beta\ の倍元であるとか, 逆に\ \beta\ \ \alpha\ の約元であるという表現も用いられる. 通常の整数と同じように, ある数\ \alpha\ の倍元は一般式に表すことのできるものであるが, 他方の約元といえば, \ 1,\ \sqrt{-1}\ \ \alpha\ のような自明なものを除いては, \ \alpha\ によって多様であって, 見付けることは困難である.


もし複素整数\ \alpha\ の約元が, 単数および\ \alpha\ と同伴な複素整数の八個のみであるならば, 通常の素数のような意図をもって, それを\ \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\ の既約元と呼称する. 明らかに, 零や単数はこのうちには含まれない.

 

これから複素整数の「既約元分解」を考えるのであるが, 論の立てようはすべて整数のものと同一であって, 下記において「複素整数」と書かれたところを「整数」の語に書き換えれば, 整数に関する素因子分解の説明を読むことができる. まずはいくつか基礎の命題を確かめることをもって, 証明の準備とする.

定義 4 複素整数\ \alpha,\ \beta,\ \ldots,\ \gamma\ を用いて \begin{align} \left\{\alpha\xi+\beta\eta+\cdots+\gamma\zeta\;\middle|\;\xi,\eta,\ldots,\zeta\in\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\right\} \end{align} と書かれる集合を\ \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\ の格子と呼ぶ. この集合を表すのに\ (\alpha,\beta,\ldots,\gamma)\ の記号を用いる.

以上は記述を易しくするための定義である.

補題 5 いかなる複素整数\ \alpha,\ \beta,\ \ldots,\ \gamma\ についても, ある複素整数\ \theta\ が存在し, \begin{align} (\alpha,\beta,\ldots,\gamma)=(\theta). \end{align} とくにすべての格子は集合\ \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\ と相似である.

 

証明. 格子\ I=(\alpha,\beta,\ldots,\gamma)\ に属する点の中, 原点を除いて最も原点に近い点を\ \theta\ とし, \ \zeta\ を任意に打点された\ I\ の要素とする. もし最寄りの点がいくつか複数あるならば, それらの中からどれでも任意に一つを選んでよい. さて\ \zeta\ \ \theta\ によって割るとき, \begin{align} \zeta=\theta\gamma+\rho,\quad0\leqslant|\rho|\lt|\theta| \end{align} の式が成り立つけれども, そのとき\ \rho=\zeta-\theta\gamma\ はまた\ I\ の要素であるから, かりに\ |\rho|\gt0\ とすれば, これは\ \theta\ が最寄りの点であることに矛盾する. ゆえに\ |\rho|=0\ を要するので, \ \zeta\ \ \theta\ の倍元である. しかも\ \theta\ の倍元はすべて集合\ I\ に所属するので, \ I\ \ \theta\ の倍元全体は, 集合として相等しい.
複素数の乗算は, 原点を基準とする拡大移動と回転移動とを意味する. しからば\ I\ \ \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\ と相似になることも明らかである. \ \Box

 

補題 6 \ \alpha,\ \beta,\ \pi\ を複素整数とし, \ \pi\ は既約元であるとする.
\ (A)\ 格子\ (\pi)\ を部分集合として包含する格子は, 全体\ (1)=\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\ \ (\pi)\ 自身のみである.
\ (B)\ もし\ \alpha\ \ \pi\ の倍元でないならば, 合同式 \begin{align} \alpha\xi\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.\pi) \end{align} を満足させる複素整数\ \xi\ がかならず存在する.
\ (C)\ もし\ \alpha\beta\ \ \pi\ によって割り切れるならば, \ \alpha\ \ \beta\ のうち一方は, \ \pi\ によって割り切れる.
この性質を有する数を素元という.
\ (D)\ 逆に\ \omega\ \ (C)\ の性質をもつならば, \ \omega\ は既約元である.
従って既約元であるための条件と素元であるための条件とは同値である.

\ (C)\ の命題は, 既約元分解の一意性にはなはだ大きく寄与するもので, エウクレイデスの補題と呼ばれる. この節における最後の証明準備である.


公倍元, 公約元, 合同, 互いに素 (または相素) といった言葉遣いは, 整数のものと同義である. 複素整数を単なる整数に置換すれば, 補題はすべて既知であろう. 整数と複素整数のいずれにおいても, 既約元の全体と素元の全体は集合として一致している. すべての証明を終えた後には, 二個はまったく同じ概念になるのである.

 

証明. \ (A)\ かりに格子\ J=(\alpha)\ \ I=(\pi)\ を含むとするならば, \ \pi=\alpha\gamma\ を成り立たしめる複素整数\ \gamma\ が存在する. しかれども\ \pi\ は既約であるから, 定義によってその約数は\ 1\ または\ \pi\ と同伴であって, \ \alpha,\ \gamma\ のいずれか一方は単数でなければならない. もし\ \alpha\ が単数であるならば\ J=(1)=\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\ であり, また\ \gamma\ が単数である場合は, \ \pi\ \ \alpha\ が同伴であるので\ I=J\ が成立する. まさに補題文の通りである.
\ (B)\ 新たに格子\ J_0=(\alpha,\pi)\ を考える. \ I=(\pi)\ との関係について \begin{align} I\subseteq J_0\subseteq\mathbb{Z}[\sqrt{-1}] \end{align} であって, かつ\ \alpha\ \ \pi\ の倍元でないので, \ I\ \ J_0\ は等しくはない. ゆえに\ (A)\ に述べたことによって\ J_0=\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\ が成立し, 整数\ 1\ \ J_0\ に所属する. すなわち \begin{align} \alpha\xi+\pi\eta=1 \end{align} なる複素整数\ \xi\ \ \eta\ が存在し, \ \pi\ を法として\ \alpha\xi\equiv1\ が成り立つ.
\ (C)\ \ \alpha\beta\ \ \pi\ によって割り切れ, かつ\ \alpha\ \ \pi\ により割り切れないと仮定する. そのとき, \begin{align} \alpha\beta\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.\pi) \end{align} であるが, 各辺に先述の\ \xi\ を乗ずれば, \begin{align} \beta\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.\pi). \end{align} ゆえに\ \beta\ \ \pi\ によって割り切れる.
\ (D)\ \ (C)\ の性質を持つ\ \omega\ に対して, \ \omega=\alpha\beta\ を満たす複素整数\ \alpha, \beta\ を考える. 明白に\ \omega\ \ \alpha\beta\ を整除するので\ \alpha\ または\ \beta\ を割り切る. かりに\ \alpha\ が割り切れるとして\ \alpha=\omega\alpha'\ と置けば, \ 1=\alpha'\beta\ であってかならず\ \beta\ は単数である. また\ \beta\ \ \omega\ によって割り切れるとしても\ \alpha\ が単数になることを要する. ゆえに\ \omega\ は既約である. \ \Box

 

\ x,\ y\ を整数とするとき, 四個の複素整数 \begin{align} \begin{array}{rr} x+y\sqrt{-1},\quad&-y+x\sqrt{-1},\\-x-y\sqrt{-1},\quad&y-x\sqrt{-1} \end{array} \end{align} は互いに同伴の関係にあり, しかも\ x+y\sqrt{-1}\ を直角毎に回転させて得られる位置関係にある. その四数の中において, 偏角\ -45^{\circ}\ よりも大きく\ 45^{\circ}\ 以下であるものを真なる複素整数と名付け (どのような図になるか ? ), そこに例外の\ 0\ を添加して, 真なる複素整数の全体とする. あらゆる複素整数は, 少なくとも一個の真なる複素整数と同伴であり, かつ真なる複素整数の集合中に互いに同伴である二数は含まれない.

定理 7 あらゆる\ 0\ でない複素整数\ \alpha\ は, 一個の単数と有限個の真なる既約元との積に分解し, \begin{align} \alpha=\varepsilon\pi_1\pi_2\cdots\pi_N. \end{align} しかも乗法の順序を除いては, 分解はかならず一通りである.

 

証明. 始めに分解が存在することを論ずるために, 既約元分解を持たざる複素整数があると仮定して, その中において絶対値の最小なる\ \alpha_0\ を選択する. もし\ \alpha_0\ が既約元ならば, 適切なる単数を括って\ \alpha_0\ の分解が得られる. すなわち\ \alpha_0\ は既約ではない. しからば単数ならざる複素整数\ \beta,\ \gamma\ が存在し, \begin{align} \alpha_0=\beta\gamma \end{align} を成立せしめ, これら\ \beta,\ \gamma\ の絶対値は\ 1\ よりも大きく\ |\alpha_0|\ よりも小である. したがって当初の仮定によれば\ \beta,\ \gamma\ は単数と既約元の積に分解する複素整数であって, \ \alpha_0=\beta\gamma\ についても既約元分解が存在するが, これは明らかに非合理である. よって仮定は誤りであって, 非零な複素整数の既約元分解はかならず一個存在する.
次に一意性を示すために, 二通り以上の相異なる既約元分解を有する複素整数があるとして, 絶対値の最小である\ \alpha_1\ を選択する. \ \alpha_1\ の二通りの既約元分解に記号を付して, \begin{align} \alpha_1&=\varepsilon\pi_1\pi_2\cdots\pi_N\\&=\varepsilon'\pi'_1\pi'_2\cdots\pi'_{N'} \end{align} と表すとき, 中辺における\ \pi_1\ は右辺の積を割り切るから, いずれか一個の\ \pi'_s\ \ \pi_1\ によって割り切れる. \ \pi'_s=\pi_1\delta\ と置けば, \ \pi'_s\ が既約であることにより, \ \delta\ は単数であって\ \pi_1\sim\pi'_s\ であることが判ずる. 更に真なる複素整数の性質によれば\ \pi_1=\pi'_s\ である. 上式の各辺をこれによって割れば, \begin{align} \frac{\alpha_1}{\pi_1}&=\varepsilon\pi_2\pi_3\cdots\pi_N\\&=\varepsilon'\pi'_1\pi'_2\cdots\pi'_{s-1}\pi'_{s+1}\cdots\pi'_{N'}. \end{align} そのとき, 複素整数\ \alpha_1/\pi_1\ の絶対値は\ \alpha_1\ の絶対値を下回る. \ \alpha_1\ の絶対値を最小とした仮定によって, 中辺と右辺は積の順序を度外視すれば同じであるが, もとの\ \alpha_1\ の二通りの分解は, その各辺に\ \pi_1=\pi'_s\ を乗じたものであって, 乗法の順序を無視するならば同一の方法を示している. 上記の議論は仮定との矛盾に陥るので, 一意的でないとした仮定は誤りである. \ \Box

 

既約元分解の例としては,

\begin{align} 1&=1,\\ 2&=-\sqrt{-1}\bigl(1+\sqrt{-1}\bigr)^2,\\ 3&=3,\\ 4&=-\bigl(1+\sqrt{-1}\bigr)^4,\\ 5&=\bigl(2+\sqrt{-1}\bigr)\bigl(2-\sqrt{-1}\bigr),\\ 6&=-\sqrt{-1}\bigl(1+\sqrt{-1}\bigr)^2\cdot3,\\ 7&=7,\\ 8&=\sqrt{-1}\bigl(1+\sqrt{-1}\bigr)^6,\\ 9&=3^2,\\ 2+\sqrt{-1}&=2+\sqrt{-1},\\ 3+4\sqrt{-1}&=\bigl(2+\sqrt{-1}\bigr)^2,\\ 4+3\sqrt{-1}&=\sqrt{-1}\bigl(2-\sqrt{-1}\bigr)^2,\\ 7+\sqrt{-1}&=-\sqrt{-1}\bigl(1+\sqrt{-1}\bigr)\bigl(2+\sqrt{-1}\bigr)^2. \end{align}
補題 8 複素整数の意味において互いに素である零でない二数\ \alpha\ \ \beta\ の組について, 積\ \alpha\beta\ がある複素整数\ \gamma\ の平方に等しいとき, \ \alpha\ および\ \beta\ は, それぞれ適切なる複素整数の平方に単数を乗じた積である.

詰まり\ \alpha\beta=\gamma^2\ の下において, \ \alpha,\ \beta\ がそれぞれある平方元と同伴であることを述べているのに過ぎない.

 

証明. 等式 \begin{align} \alpha\beta=\gamma^2 \end{align} を主題とする. 任意の複素整数の既約元\ \pi\ に関して, \ \alpha,\ \beta,\ \gamma\ おのおのの既約元分解における\ \pi\ の総数を数えるとき, \begin{align} v_{\alpha}+v_{\beta}=2v_{\gamma}. \end{align} ただし記号\ v_{\alpha}\ 等によってその個数を表している. \ \alpha\ \ \beta\ が互いに素であるとした前提は, \ v_{\alpha}=0\ のときに\ v_{\beta}\neq0\ を要して, また\ v_{\beta}=0\ の場合に\ v_{\alpha}\neq0\ を要することに他ならない. 右辺に置かれた\ 2v_{\gamma}\ はつねに偶数であるから, \ v_{\alpha}\ \ v_{\beta}\ とは (0\ に等しい場合も含めて) かならず偶数である. すなわち二数\ \alpha,\ \beta\ は平方元と同伴である. \ \Box

 



演習問題

問. \ p\ 素数とし, \ 0\ 以上\ p-1\ 以下の整数の三つ組\ (x,y,z)\ より次の合同式を充たすものを集めて, その総数を\ N_p\ と置く. \ N_p\ \ p\ 多項式によって表せ. \begin{align} x^2+y^2\equiv z^2\ \ (\mathrm{mod}.p). \end{align}

 

\ N_p=p^2.\

問. 不定方程式\ a^2+b^2=2c^2\ の原始的な正整数解を決定せよ. 重複あるいは過剰, 欠落のある表示法は無用である.

 

\ a=m^2+2mn-n^2,\ b=|m^2-2mn-n^2|,\ c=m^2+n^2. ただし\ m,\ n\ \ m\gt n\gt0\ を充たし, 互いに素にして, 偶奇の異なる二整数を表す.

問. 不定方程式\ a^2+b^2=3c^2\ の正整数解を決定せよ. (同上. )

 

解なし.

問. 三次正方行列\ P\ を \begin{align} P=\left(\begin{array}{ccc}1&-2&2\\2&-1&2\\2&-2&3\end{array}\right) \end{align} の通りに定義する. \ P\ の乗算によって, 原始的ピタゴラス数の組\ (x,y,z)^{\top}\ は原始的ピタゴラス数に写されることを証明せよ.
また, 原始的ピタゴラス数の公式に基づいて, 行列\ P\ を用いる理由を述べよ.

 

問. 二つの平方数の和に表される整数の全体から\ 0\ を除いて集合\ S\ とし, その要素を\ S\ なる数と名付ける.
\ (1)\ \ S\ なる数の複素整数上における既約元分解に共通する特徴を述べよ. ただし分解は真の既約元による一意的分解のみを想定する.
\ (2)\ また\ 0\ でない複素整数\ \alpha\ が通常の整数であるための条件はどうか.
\ (3)\ (通常の整数の意味において) 相素なる正の整数\ a,\ b\ についてもし\ ab\ \ S\ なる数であるならば, \ a\ および\ b\ もまた\ S\ なる数であることを示せ.
\ (4)\ \ x,\ y\ を互いに素なる正の整数とする. \ S\ なる数\ x^2+y^2\ の (整数上の) 素因子分解において, \ 4\ の倍数よりも\ 3\ 大きい素数は現れないことを証明せよ.

 

\ (1)\ 通常の整数にあらざる既約元が自身の共役数を同伴し, かつ通常の整数に属する既約元が, おのおの偶数個ずつ現れること. \ (2)\ 通常の整数にあらざる既約元が自身の共役数を同伴していること.

問. 本記事の第四章においては, 複素整数の定義から説き起こして, その体系における既約元分解の存在性と一意性を論じた. 素元分解よりも既約元分解が便利である理由を, 実用の面に着目して簡潔に述べよ.

 

ある複素整数が素元であることを論ずるよりも, 既約元であることを証明することのほうが簡単であるから.

問. 平面上の三角形の中, 一個の内角が\ 120^{\circ}\ であり, かつ辺の長さがすべて整数であるものを考察する. 三辺のうち最も長いものの長さを\ L\ とするならば, \ L\ は正整数\ m,\ n\ を用いた\ m^2+3n^2\ の形式によって表されることを証明せよ.

 

問. 不定方程式\ a^{-1}+b^{-1}=c^{-1}\ の原始的な正整数解を決定せよ. 重複あるいは過剰, 欠落のある表示法は無用である.

 

\ x=m(m+n),\ y=n(m+n),\ z=mn. ただし\ m,\ n\ は互いに素なる正の整数を表す.

問. 加えて不定方程式\ a^{-2}+b^{-2}=c^{-2}\ の原始的な正整数解を決定せよ. (同上. )

 

\ a=m^4-n^4,\ b=2mn(m^2+n^2),\ c=2mn(m^2-n^2)\ または\ (a,b)\ を置換した組. ただし\ m,\ n\ \ m\gt n\ を充たし, 互いに素で, 偶奇の異なる正整数を表す.

問. 不定方程式\ a^2+b^2+c^2=d^2\ の原始的な正整数解\ (a,b,c,d)\ について, 組\ (a,b,c)\ は二個の偶数と一個の奇数から成りたつことを示せ. かりに\ b\ および\ c\ が偶であるとして, \ b\lt c\ を課するならば, あらゆる解が \begin{align} a&=(m^2+n^2-D^2)/D,\\b&=2m,\\c&=2n,\\d&=(m^2+n^2+D^2)/D \end{align} の式によって一意的に表現されることを証明せよ. ただし\ m,\ n\ \ 0\lt m\lt n\ を充たす整数を表し, \ D\ \ \sqrt{m^2+n^2}\ よりも小さい\ m^2+n^2\ の正の約数を表している.

 

問. 不定方程式\ x^4+y^4=z^4\ の正整数解を決定せよ.

 

解なし.

問. 不定方程式\ x^3+y^3=z^3\ の正整数解について知るところを述べよ.

 

解なし. オイラーが 1770 年に公表した初等解は誤りであったが, 別に正確な初等解法が知られている. 現代においては二次体\ \mathbb{Q}(\sqrt{-3})\ の整数 (アイゼンシュタイン整数) を導入して\ z^3-y^3\ を因子分解する手法が最も普遍的である.

問. 二つの正平方数を選択して, それらの和および差がまた正の平方数となるようにすることは不可能である. これを証明せよ.  (Fibonacci『平方の書』の命題より)

 

問. 相異なる平方数から成りたつ等差数列の長さは最大で幾らか.

 

\ 3.\

この問題の解説記事 : 

平方数から成る等差数列の決定問題 - Arithmetica 算術ノート

問. 自然数\ 0,\ 1,\ 2,\ 3,\ \ldots\ において隣接する平方数と立方数 (または立方数と平方数) の対をすべて挙げよ.

 

\ (0,1),\ (8,9).\

この問題の解説記事 : 

隣接する平方数と立方数との対について - Arithmetica 算術ノート





*1:\ 0\ を除く.

*2:同上.

*3:記号\ \gcd(\mbox{-},\mbox{-})\ は最大公約数を表す.

*4:整数\ a,\ b\ が互いに素であると仮定する. \ \delta\ \ (a,b)\ の任意の「公約数」とすれば, ある複素整数\ \alpha\ および\ \beta\ について \begin{align} a=\alpha\delta,\quad b=\delta\beta. \end{align} 従って \begin{align} a^2 = |\alpha|^2|\delta|^2,\quad b^2=|\beta|^2|\delta|^2 \end{align} が成り立つ. ここから\ |\delta|^2=1\ が得られる.

[tex: ]


ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



pic-Arithmetica

算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

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