Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

隣接する平方数と立方数との対について

問.  自然数の列 0, 1, 2, 3, 4, 5, ... において隣接する平方数と立方数との対を凡て挙げよ.

 

 

この記事では, 以下を目標として上記の問題を解説します.



前提知識

Euclid (ユークリッド, エウクレイデース) の互除法, 無限降下法







初等的解法

本稿においては不定方程式\ y^2=x^3\pm1\ の初等的解法をご紹介します. この方法は, 十八世紀ロシア*1の Euler (羅 Eulerus) が一七三八年の論文に載せて公開したものです.

補題 1 \ x,\ y\ 正整数なりとす. \ \gcd(x,y)=1\ \ \gcd(x,3)=1\ ならば\ x=y\ なる場合を除きて\ xy(x^2-3xy+3y^2)\ は平方数に非ず.

平方数の全体を\ \Box\ として,

証明. 前提の下\ xy(x^2-3xy+3y^2)\ が平方数であるとすれば\ x,\ y\ および\ x^2-3xy+3y^2\ は平方数である. 等式 \begin{align} x^2-3xy+3y^2=\left(x-\frac{\,m\,}{\,n\,}y\right)^2 \end{align} を充す既約分数\ m/n\ を導入すれば \begin{align} \frac{\,x\,}{\,y\,}=\frac{m^2-3n^2}{2mn-3n^2}=1+\frac{m(m-2n)}{n(2m-3n)}. \end{align} 右辺の分数は\ 3\nmid m\ ならば既約でありまた\ 3\mid m\ としても分子分母を\ 3\ に依除して既約分数を得ることができる. これら二通りの場合に就て\ x\in\Box\ \ y\in\Box\ の条件を適用することを試みる.
場合 I. \ m=3m'.
この場合\ x=3m'^2-n^2\ が平方数であることを要するけれども法\ 3\ の剰余を見ればこれは不可能である.
場合 II. \ 3\nmid m.
このとき\ x=m^2-3n^2\ \ y=2mn-3n^2\ の等式が成立つ. \ x\ は平方数であるから \begin{align} m^2-3n^2=\left(m-\frac{\,p\,}{\,q\,}n\right)^2 \end{align} を充す既約分数\ p/q\ 存在し \begin{align} \frac{\,m\,}{\,n\,}=\frac{p^2+3q^2}{2pq},\quad y=n^2\cdot\frac{p^2-3pq+3q^2}{pq}. \end{align} 右式右辺の分数が既約になるための条件を考えるとき\ (1)\ \ 3\nmid p\ ならば既約であり且\ (2)\ \ p=3p'\ のときは分子分母より\ 3\ を除すれば既約である.
第一に\ (1)\ ならば対\ (p,q)\ に関して\ pq(p^2-3pq+3q^2)\ が平方数にしてしかも各文字の定義を顧みれば\ q\leqslant pq\leqslant n\leqslant y\ であるので何れかの不等号が等号でなければ\ q\ は始の\ y\ よりも小なる正数である. そもそも等式\ q=pq=n=y\ の成立するときは\ 1=1-3q+3q^2\ であって\ q=1\ を要する. すなわ\ (p,q)=(1,1)\ を要するのであるがそのとき\ m/n=2\ が確立し\ x=0\ が結論せられる. これが不当である限りは\ q\lt y\ でありまた組\ (p,q)\ は相素にして\ p\ \ 3\ の倍数でなく\ p\neq q\ の関係がある.
第二に\ (2)\ のときもまた対\ (q,p')\ に関して\ qp'\left(q^2-3qp'+3p'^2\right)\ が平方数であり\ p'\lt pq\leqslant n\leqslant y\ \ \gcd(q,p')=1\ と共に\ \gcd(q,3)=1\ が成立つ. また仮に\ q=p'\ とすれば\ (p,q)=(3,1)\ から\ m/n=2,\ x=0\ が得られるので\ q\neq p'\ が真である. 従て状況は\ (1)\ と同じい.
以上の理屈は正の整数が下に有界であることに矛盾するので, \ x\ \ y\ 相等しからざる上は\ xy(x^2-3xy+3y^2)\ が平方数になることはない.

\Box

 

補題 2 \ x,\ y\ 正整数なりとす. 若し\ \gcd(x,y)=1\ \ \gcd(x,3)=1\ ならば\ xy(x^2+3xy+3y^2)\ は平方数に非ず.

証明. 前提の下\ xy(x^2+3xy+3y^2)\ が平方数であるとすれば\ x,\ y\ および\ x^2+3xy+3y^2\ は平方数である. 等式 \begin{align} x^2+3xy+3y^2=\left(x-\frac{\,m\,}{\,n\,}y\right)^2 \end{align} を充す既約分数\ m/n\ を導入すれば \begin{align} \frac{\,x\,}{\,y\,}=\frac{m^2-3n^2}{2mn+3n^2}=-1+\frac{m(m+2n)}{n(2m-3n)}. \end{align} 右辺の分数は\ 3\nmid m\ ならば既約でありまた\ 3\mid m\ としても分子分母を\ 3\ に依除して既約分数を得る可る.
場合 I. \ m=3m'. 省略.
場合 II. \ 3\nmid m.
このとき\ x=m^2-3n^2\ \ y=2mn+3n^2\ の等式が成立つ. \ x\ は平方数であるから \begin{align} m^2-3n^2=\left(m-\frac{\,p\,}{\,q\,}n\right)^2 \end{align} を充す既約分数\ p/q\ 存在し \begin{align} \frac{\,m\,}{\,n\,}=\frac{p^2+3q^2}{2pq},\quad y=n^2\cdot\frac{p^2+3pq+3q^2}{pq}. \end{align} 省略.
ここから無限降下法に依て矛盾が起る. 故に\ xy(x^2+3xy+3y^2)\ が平方数になることはない.

\Box

 

定理 3 如何なる有理数の立方数も, 例外\ -1,\ 0,\ 8\ を除却しては, 或る有理数の平方数に対して唯だ\ 1\ のみを不足することを得ず. また\ 1\ を除きたる如何なる有理数の立方数も, 或る有理数の平方数に対して唯だ\ 1\ のみを超越することを得ず.

証明. まず\ y^2=x^3+1\ の方程式を\ x,y\gt0\ に対して解く. \ x=a/b\ みたす相素なる正整数\ a,\ b\ を取れば\ b(a+b)(a^2-ab+b^2)\ が平方数である. ここに\ a+b=c\ の置換を行えば\ \gcd(b,c)=1\ であって \begin{align} cb(c^2-3bc+3b^2)\in\Box. \end{align} \ 3\nmid c\ とすれば補題に依て\ x\gt0\ なる解がなくまた\ c=3c'\ としても\ bc'(b^2-3bc'+3c'^2)\in\Box\ が成立して\ (b,c')\ の組と\ (b,3)\ の組はそれぞれ互に素である. はたしてしからば解は\ b=c'\ 即ち\ x=2\ の場合に限て存在し\ (y^2,x^3)=(9,8)\ のみが得られる. 故に\ y^2=x^3+1\ に対する有理数解は\ (1,0),\ (0,-1),\ (9,8)\ の三個のみである. \ y^2=x^3-1\ の式も同様である.

\Box

 

前述の\ c^2-3bc+3b^2=(c-\frac{\,m\,}{\,n\,}b)^2\ に用いた手法について, 最後に補足を加えようと思います. この型の置換は, 古くはアレクサンドリアの Diophantos (羅 Diophantus) が発明し, いわゆる Pythagoras 数の問題を考察するのに際して応用したところから始まって, 近世の Fermat と Euler が彼の著者である『算術』の中から会得し, 多くの整数問題に応用したことが知られています. 特に有理数上の\ x^2+y^2=1\ の方程式を\ x=\frac{\,m\,}{\,n\,}y-1\ の置換によって解く方法は現代に至っても尚有名であって, 本ブログでは, ピタゴラス数の記事における一番目の導出法として説明したことがあります.

yu200489144.hatenablog.com





もう一つの解法

詳細は省略しますが, 複素整数の範囲において \begin{align} y^2+1=(y+\sqrt{-1})(y-\sqrt{-1}) \end{align} の分解を施すことによって, 方程式\ y^2+1=x^3\ を解決することもできます.\ y^2-1=x^3\ の式は, 初等的考察によって三次方程式\ a^3-2b^3=\pm1\ に帰結し, 三次体\ \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})\ にたいして単数定理を適用すれば, 上記の手法よりも簡単になります. 別に楕円曲線を用いた解法も知られています.





演習問題

問. 正整数\ n\ を用いて \begin{align} \frac{\,1\,}{\,2\,}n(n+1)\quad(=1+2+3+\cdots+n) \end{align} の式に表される整数を正の三角数という.
\ (1)\ 正の三角数に当てはまる平方数の倍の数を凡て挙げよ.
\ (2)\ 正の三角数に当てはまる平方数は無数に存在することを証明せよ.
\ (3)\ 正の三角数に当てはまる立方数を凡て挙げよ.

 

\ (1)\ なし. \ (3)\ \ 1\ のみ.





文献

[1] [E098] Leonhard Euler, “Theorematum quorundam arithmeticorum demonstrationes”, Commentarii academiae scientiarum Petropolitanae 10 (1738-1747); pp.125-146.





*1:スイスのバーゼルに生れ, 生涯で二度サンクトペテルブルクに赴任した.

[tex: ]


ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



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算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

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