Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

多変数二次の不定方程式について (1)  𝒑 進整数とは何か

〔 Gauss-Legendre の三平方和定理〕
正の整数 𝒏 が三つの平方数の和に表されるための必要充分条件は, 𝒏 から 4 を成るべく多く抽出して 𝒏 = 4ℓ と書いたときに, \begin{align} \ell\not\equiv7\ \ (\mathrm{mod}.8) \end{align} になることである.

この連続記事は以下を目標として記したものです.

  • 初等整数論の知識から出発し, \ p\ 進数の基礎理論を解説する.
  • \ \mathbb{Q}\ 上の二次形式に関する局所大域原理を証明し, そこから三平方和定理を簡潔に導出する.



前提知識

\ N\ 進法, 合同式の逆元, 多項式微分



(2) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (2) p 進平方数, 三平方和定理 - Arithmetica 算術ノート

(3) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (3) p 進数と実数について - Arithmetica 算術ノート

(4) の記事 :

多変数二次の不定方程式について (4) 局所大域原理の証明 - Arithmetica 算術ノート







序文

今回の記事の目標は, 二次不定方程式の一般論を解説することにあります. て二次不定方程式というのは, そもそも整数の範囲\ \mathbb{Z}\ に限って解を考える二次方程式のことをいうのであるが, それはすでに本ブログにおきましても, いくつかの特殊な型の方程式を取りあげて, 解法をご紹介したことが有りました. 最も広く名前が知られているのは, 恐らく \begin{align} x^2-dy^2=\pm1\quad\mbox{または}\quad\pm4 \end{align} という形の Pell 方程式 (ペル方程式) であり, 他にも, ある整数\ n\ が〈二つの平方数の和〉に表されるか否かを表現する \begin{align} n=x^2+y^2 \end{align} の方程式があります. 二変数の例に限らず, 始めに記した三平方和の問題を表す \begin{align} n=x^2+y^2+z^2 \end{align} もまた二次不定方程式の一種です. 小さな\ n\ について三平方和の実験をすると, \begin{align} 1&=1+0+0,\\ 2&=1+1+0,\\ 3&=1+1+1,\\ 4&=4+0+0,\\ 5&=4+1+0,\\ 6&=4+1+1,\\ 7&=\\ 8&=4+4+0,\\ 9&=9+0+0=4+4+1,\\ &\ \vdots \end{align} どの\ n\ に解がありどの\ n\ に解がないのかは, 冒頭に Gauss-Legendre の三平方和定理 (ガウスルジャンドルの三平方和定理) として述べた通りで, \ n=4^k\ell\ の形に表したときに\ \ell\not\equiv7\ \ (\mathrm{mod}.8)\ になることが三平方和の存在と同値な条件であります. \ \ell\equiv7\ の場合に解が存在しないことの証明は至って初等的である一方, 他の\ n\ について解の存在を示すことは, それよりも難しい問題になります.


今次の解説にて扱うこのような二次の不定方程式は, 有理数の世界から観察するととても複雑に見えるのでありますが, 以降に申しのべる「拡張された数」⸺ \ p\ 進数の性質を使うと, 与えられた二次方程式に整数解や有理数解が存在するかしないかを調べることが簡便になります. \ p\ 進数を定義する際に大切になる考え方について, 極く大雑把に説明しますと, それは例えば \begin{align} x+1=0 \end{align} という一次方程式の解を\ x=\ldots9999\ のような無限桁の数と考えるのはどうか, または二次方程式\ x^2=2\ の解をえて\ x=\pm1.4142\ldots\ とするのでなく \begin{align} \begin{cases} x=\ldots16213_{(7進法)}\\ x=\ldots50454_{(7進法)} \end{cases} \end{align} という数列に見たてるのはどうか, と記数法的に方程式を観察してみることであります. 二つ目の方程式の解については, \ \ldots16213_{(7)}\ を途中でうち切った数の自乗を並べてみると, \begin{align} 3_{(7)}^2&=12_{(7)},\\ 13_{(7)}^2&=202_{(7)},\\ 213_{(7)}^2&=46002_{(7)},\\ 6213_{(7)}^2&=54610002_{(7)},\\ 16213_{(7)}^2&=342200002_{(7)},\\ &\ \vdots \end{align} のようになることから, 桁数が多くなるにつれて\ \ldots00002\ ぜんきんしてゆく様子を見ることができるので, 確かにこの数は方程式を充たしていると得心が付きます. 少し騙されたような気がしますが, 一度このように考えてみるのが善いのです. 

 

こうした記数法のアイデアによって有限桁から無限桁に拡張された数の体系が, 「大域」たる有理数にたいして「局所」と呼ばれ, 不定方程式を解決するのに役立つという\ p\ 進数の理論は, 実は初等的な整数論から出発しても充分に説明のできる範囲にあります. その詳細を述べるために, 有名な\ N\ 進法の定理からお話しを切りだすことに致しましょう.





記数法による数の拡張

整数\ N\geqslant2\ を一つ取って固定します. 有名な\ N\ 進法というのは, 次の定理に基づいて非負の整数を記す方法のことでありました.

定理 1.1 あらゆる非負の整数\ n\ にたいして, これを \begin{align} n=a_0+a_1N+a_2N^2+\cdots+a_MN^M,\\\ \\ a_i\in\{0,1,2,\ldots,N-1\} \end{align} の形に表示する方法は, だ一通り存在する.

定理の主張は, 非負の整数\ n\ と, 集合\begin{align} Z_N=\{0,1,2,\ldots,N-1\} \end{align} のげん (要素) から成る数列\ a=(a_i)\ との間に一対一の対応関係が存在するということに他なりません (だし数列\ a\ は無限に続かない有限列であることを前提とします). この対応によって, 整数\ n\ と数列\ a\ を \begin{align} n=(a_M\ldots a_2a_1a_0) \end{align} のように同一視し, 数列の集合 \begin{align} \{(a_M\ldots a_2a_1a_0)\mid M\geqslant0,\ a_i\in Z_N\} \end{align} を非負整数の全体 \begin{align} \mathbb{Z}_{\geqslant0}=\{x\in\mathbb{Z}\mid x\geqslant0\} \end{align} として見なすことができます. その際, 数列の項\ a_i\ は特別にという名称で呼ばれ, 番号\ i\ は位と呼ばれます. 我々は普段, 百という数を表すときに三つの数字を羅列して\ 100\ のように書きますから, 数と数列との同一視というのは決して新しい視点ではないでしょう. 定理の証明は省略することに致します. 


わかり易くするために, これから\ N=10\ として通常の十進法を説明に使うことにしますけれども, 後にお話しするように, \ N\ 合成数を選ぶと, 議論上の不都合を生じますので, 十進法を例とするのは本来適切ではありません. 正確に議論をおこなおうとするならば\ N\ 素数であると仮定しておくのが普通です. 



剰余環の準備

先程の\ Z_{N}=\{0,1,2,\ldots,N-1\}\ は単なる整数の部分集合でありましたが, 以降はこれを整数の集合でなく〈\mathrm{mod}.N\ の剰余〉の集合として捉えるほうが簡単になります. すなわち, もとの整数\ \mathbb{Z}\ の概念を破って, \ \mathrm{mod}.N\ もとで合同である二数は全く同じ (=) ものと見なし, 加法, 減法および乗法を\ \mathrm{mod}.N\ に従っておこなうということであります. いいかえると, 整数から〈剰余〉にシフトするためには, \ N\ を法として合同式の計算をしたのち, 合同式の記号\ \equiv\ (\mathrm{mod}.N)\ をイコール\ =\ に擦りかえれば善いです. 例えば〈\mathrm{mod}.10\ の剰余〉の世界の上ではこのような等式が立てられます. \begin{align} 1+9=0,\quad5+6=1,\quad7\times8=6. \end{align} いわゆる可換環の理論では〈剰余〉の集合\ \{0,1,2,\ldots,N-1\}\ のことを \begin{align} \mathbb{Z}/N\mathbb{Z}\quad\mbox{または}\quad\frac{\mathbb{Z}}{N\mathbb{Z}} \end{align} と書きますので, この場でもこの記法を採ることに致しましょう. 詰まり, \begin{align} \mathbb{Z}/N\mathbb{Z}=\{0,1,2,\ldots,N-1\}\quad(\mbox{剰余の集合}) \end{align} で, この記号が法\ \mathrm{mod}.N\ の剰余の全体を表すのであります. 

 

但だし, 剰余環の元であっても, 強調のために合同式の記法を用いることが有りますので, 注意が必要です. 


それから, \ N\ 進法によって書かれた整数 \begin{align} a_0+a_1N+a_2N^2+\cdots \end{align} にたいして\ \mathrm{mod}.N^k\ を適用し, これを\ \mathbb{Z}/N^k\mathbb{Z}\ の世界に還元することは, \ k\ 次以上の項\ N^k,\ N^{k+1},\ \ldots\ を無視することに当たります. 普通の意味とは異なる言葉遣いになりますが, 本記事を通してこれを「切りすて」と呼ぶことにします. 剰余に関して説明しておくべきなのは, およそこれで全部であると思います.



方程式からの発想

これから考えるのは非負整数の全体\ \mathbb{Z}_{\geqslant0}\ を拡張して, 新しく数の概念を定義することであるから, ここで従来の「数の拡張」の方法を振りかえりながら確認してみるのが善いでしょう. ず負の整数の概念は, 正の整数にプラス・マイナスの符号を付けたり, あるいは\ 0\ から数を引いた差を作ることによって導入されたもので, 次に有理数は, 整数を\ 0\ でない整数により割り算した商として定義されました. これは整数係数の一次方程式\ ax=b\ の解をもって有理数を捉えたといっても同じであります. 有理数の上では\ x^2=2\ を始めとする二次方程式は解決し得ないことが判明したので, \ \sqrt{2}\ のような無理数の発見があり, ついには有理数の間の細かな隙間を埋めることにより実数の集合に到達しました. しかし今回の記数法による数の拡張は, 元来の方法とは大きく異なるものであって, 整数のような正負の符号や, 実数の大小関係, あるいはまた数直線のイメージに頼ることはせずに, 別の方法によって非負の整数を包含する新しい数の集合を構成してゆきます.


序文において, 一次方程式\ x+1=0\ の解を \begin{align} x=\ldots9999 \end{align} なる無限列とし, 七進法における\ x^2=2\ の解を \begin{align} \begin{cases} x=\ldots16213_{(7)}\\ x=\ldots50454_{(7)} \end{cases} \end{align} なる羅列とすることを提案したように, 風変わりな算術として\ N\ 進法に準拠した代数方程式の解法というものを考察することができます. 今回はその方法による数の拡張を出発点として設けるのであります.


手順. 整数係数の多項式\ F(x)\ に関する方程式\ F=0\ \ N\ 進法において解く方法は, 以下の通り.
\ (1)\ 合同式\ F\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.N)\ に解があるならば, その一つを選択して\ x_1\in\mathbb{Z}/N\mathbb{Z}\ とする. これは\ N\ 進法にすれば一桁であり\ x_1=(a_0)_{(N)}\ の形である.
\ (2)\ 合同式\ F\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.N^2)\ の解の中, \ x\equiv x_1\ \ (\mathrm{mod}.N)\ になる\ x\ があるならば, その一つを選択して\ x_2\in\mathbb{Z}/N^2\mathbb{Z}\ とする. そのとき\ x_2=(a_1a_0)_{(N)}.\
\ (3)\ 合同式\ F\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.N^3)\ の解の中, \ x\equiv x_2\ \ (\mathrm{mod}.N^2)\ になる\ x\ があるならば, その一つを選択して\ x_3\in\mathbb{Z}/N^3\mathbb{Z}\ とする. そのとき\ x_3=(a_2a_1a_0)_{(N)}.\
\ \quad\vdots\
この操作を終わりなく実行することができるならば, 仮想的な\ N\ 進法の無限列\ x_{\infty}=(\ldots a_2a_1a_0)_{(N)}\ を方程式の解と見なす. 以上の手順を\ x_k\ のあらゆる選択肢についてそれぞれ実行し, 得られる数列全部を方程式の解とする.


例えば, \ F(x)=x+1\ かつ\ N=10\ の場合を考えると,
\ (1)\ \ x+1\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.10)\ の解は\ x\equiv9\ のみ. これによって\ x_1=9\ とする.
\ (2)\ \ x+1\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.100)\ の解は\ x\equiv99\ のみ. これは十の位を切りすてると\ 99\equiv x_1\ \ (\mathrm{mod}.10)\ になるから\ x_2=99\ である.
\ (3)\ \ x+1\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.1000)\ の解は\ x\equiv999\ のみ. これは百の位を切りすてると\ 999\equiv x_2\ \ (\mathrm{mod}.100)\ になるから\ x_3=999\ である.
操作を無限に実行すれば\ x_{\infty}=\ldots9999\ を得ることができるでしょう.


\ F(x)=x^2-2\ かつ\ N=7\ の場合も手順に従って計算するのみでありますが, \ x^2\equiv2\ \ (\mathrm{mod}.7)\ の解には\ x\equiv3,\ 4\ の二つがあり最後は二本の無限列 \begin{align} \begin{cases} x_{\infty}=\ldots16213_{(7)}\\ x_{\infty}=\ldots50454_{(7)} \end{cases} \end{align} が得られます. 実際,
\ (1)\ \ x^2-2\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.7)\ の解は\ x\equiv3,\ 4\ のみ. 最初に\ x_1=3\ を選択する.
\ (2)\ \ x^2-2\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.49)\ の解は\ x\equiv10,\ 39\ のみ. \ 10=13_{(7)}\ \ 7^1\ の位を切りすてると\ 13_{(7)}\equiv x_1\ \ (\mathrm{mod}.7)\ になるから\ x_2=10\ である.
\ (3)\ \ x^2-2\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.343)\ の解は\ x\equiv108,\ 235\ のみ. \ 108=213_{(7)}\ \ 7^2\ の位を切りすてると\ 213_{(7)}\equiv x_2\ \ (\mathrm{mod}.49)\ になるから\ x_3=108\ である.
以降もこの計算が続きます. 必ず二次合同式の解が得られることの証明は, 特に難しくはありませんが, この記事の最後の項に回したいと思います.


また, \ F(x)=x-1\ の場合など, すでに非負整数の範囲\ \mathbb{Z}_{\geqslant0}\ に解がある設定においては, 例えば\ x-1=0\ の解が \begin{align} x_{\infty}=\ldots0001 \end{align} になるように, 数列\ x_{\infty}\ の項はしもの桁の部分を除いて全桁が\ 0\ となって, 有限列と同一視することができます.


次はもう少し興味深い例として, 十進法における \begin{align} x^2=x \end{align} の解を実験してみましょう. \ F(x)=x^2-x\ は二次の多項式でありますが, 合同式\ x^2\equiv x\ \ (\mathrm{mod}.10)\ を充たす剰余は\ x\equiv0,\ 1,\ 5,\ 6\ の四つがあり, 通常の解\ x_{\infty}=\ldots00000,\ \ldots00001\ の他にも二本の数列が現れることが予想されます. 実際に計算をすると, それらは \begin{align} \begin{cases} x_{\infty}=\ldots12890625\\ x_{\infty}=\ldots87109376 \end{cases} \end{align} であることが判ります. 二乗しても下の桁が不変な\ 5^2=25\ \ 76^2=5776\ などは有りふれた例でありましょうが, これらの数字は方程式\ x^2=x\ の広い意味における解\ x_{\infty}\ の一部分として得られるわけであります.

 

こうして方程式の解を作る方法はあたかも数の世界を拡張しているかのように見える. そこで方程式の解に現れる剰余の無限数列を総括して, 新しい「数」と呼ぶことにするのです.



𝒑 進整数

命題 1.2 (定義の準備) あらゆる整数\ n\ にたいして, 方程式\ x-n=0\ \ N\ 進法における解が唯だ一つ存在する.

証明. 手順に従って解を構成することができる. 例えば\ N=10\ の場合, \ n=123\ とすれば\ x_{\infty}=\ldots000123\ であり, \ n=-123\ とすれば\ x_{\infty}=\ldots999877\ である.

\Box

 

定義 1.3 (N\ 進整数)\ \mathbb{Z}/N\mathbb{Z}\ の元から成りたつ無限列\ x=(\ldots a_2a_1a_0)\ \ N\ 進整数 (N-adic integer) といい, その全体を\ \mathbb{Z}_N\ の記号に表す. 即ち \begin{align} \mathbb{Z}_N=\{x=(\ldots a_2a_1a_0)\mid a_i\in\mathbb{Z}/N\mathbb{Z}\} \end{align} である. その上で, 各整数\ n\in\mathbb{Z}\ を方程式\ x-n=0\ の唯一解\ x_{\infty}=(\ldots a_2a_1a_0)\ と同一視することによって, \ \mathbb{Z}\subset\mathbb{Z}_N\ と見なす.
普通は素数\ p\ についてのみ\ p\ 進整数というものを定義します. 合成数\ N\ を選択して起こる不都合について後々説明するために, この場限りで\ N\ 進整数の語を遣うことにしています.
また, 二進数やじっしん数のように, \ N\ 進法によって表記された数のことを\ N\ 進数 (base-N\ number, \ N-ary number) 等と呼称することも有りますが, 二者は明確に異なる用語です. 従来の十進法においては, 左に向かって無限に続く数を作ることはできなかったはずです.

ひと\ N\ 進整数の集合を定義することができましたので, 次はこの集合\ \mathbb{Z}_N\ に加法および乗法を導入する方法を述べましょう. 再び先程の「方程式を解く手順」と同様なる方式を用い, \ \mathrm{mod}.N,\ N^2,\ \ldots\ の順番で和または積に当たる数列を作ってゆくことにすれば, 例えば次のような足し算が考えられます. 即ち十進法の上で\ x=y=\ldots9999\ の和\ x+y\ を求める計算として, \begin{align} 9+9&\equiv8\ \ (\mathrm{mod}.10),\\ 99+99&\equiv98\ \ (\mathrm{mod}.100),\\ 999+999&\equiv998\ \ (\mathrm{mod}.1000),\\ &\ \vdots \end{align} という合同式の列から\ x+y=\ldots9998\ を導く方法であります. この計算は整数の集合における従来の加法と整合的であり, 今の例を整数の書き方に直すと, 単に\ (-1)+(-1)=(-2)\ の確認をしているのに過ぎないことが判ります. このように桁数が有限の場合には非負整数の足し算と一致し, \ N\ 進数の演算としては, 至って自然であるといえます. 乗法についても, 加法と全く同じようにできます.


この手順を無限桁の筆算と捉えることも不可ではないのでありますが, \begin{align} \begin{array}{cr} &\ldots9999\\ +&\ldots9999\\\hline &\ldots9998 \end{array} \end{align} 筆算という概念を定式的に扱うことはできないので, ここは合同式の言葉を用いるのがよろしいでしょう.


このような加法乗法の定義を成文化するのに当たって, \ N\ 進整数\ x\ を \begin{align} a_0,\ a_1,\ a_2,\ \ldots,\quad a_i\in\mathbb{Z}/N\mathbb{Z} \end{align} なる桁の列として解釈するのではなくて, \ x_k=(a_{k{-}1}\ldots a_2a_1a_0)_{(N)}\ のように文字を束ね, \begin{align} x_1,\ x_2,\ x_3,\ \ldots,\quad x_k\in\mathbb{Z}/N^k\mathbb{Z} \end{align} という「射影的」な剰余の列として捉えることが必要になります. 射影的 (projective) というのは, 今の場合\ x_{k+1}\ かみの桁を切りすてると\ x_k\ になるということを意味する言葉であります*1. ここで, 上に記した二つの数列\ (a_i)\ (x_k)\ することにより, いずれも「N\ 進整数\ x」と呼んでよいということにすると, これに準じて\ N\ 進整数の定義は次のように書きかえられます.
「剰余の列\begin{align} x_1,\ x_2,\ x_3,\ \ldots,\quad x_k\in\mathbb{Z}/N^{k}\mathbb{Z}\end{align}の中で, \ x_{k+1}\equiv x_k\ \ (\mathrm{mod}.N^k)\ を充たすものが\ N\ 進整数である. 」

\ x_{k+1}\equiv x_k\ という合同式による定義の仕方は, 現代数学の用語においては射影的極限 (逆極限, projective limit) の一種として説明されるものであり, 射影的極限の記号を用いるならば, これを \begin{align} \mathbb{Z}_N=\varprojlim_k\;\mathbb{Z}/N^k\mathbb{Z} \end{align} と表します. 詰まり, 記号の意味は次のように定義されております.

\begin{align} \varprojlim_k\;\mathbb{Z}/N^k\mathbb{Z}=\{(x_1,\ x_2,\ x_3,\ \ldots)\mid x_k\in\mathbb{Z}/N^{k}\mathbb{Z},\ x_{k{+}1}\equiv x_k\ \ (\mathrm{mod}.N^k)\}. \end{align}

じょじょに成長してゆく環\ \mathbb{Z}/N^k\mathbb{Z}\ の系列と, その間にある「切りすて」の写像を素材として, 射影的極限が定義されているといえます.

定義 1.4\ N\ 進整数\ x=(x_1,\ x_2,\ x_3,\ \ldots)\ \ y=(y_1,\ y_2,\ y_3,\ \ldots)\ にたいして, 和\ x+y\ および積\ xy\ を成分ごとに計算する方法によって定義する (→環の直積). 減法も同様である.
即ち, \begin{align} x+y&=(x_1+y_1,\ x_2+y_2,\ x_3+y_3,\ \ldots),\\xy&=(x_1y_1,\ x_2y_2,\ x_3y_3,\ \ldots).\end{align}
\begin{align} &(9+9,\ 99+99,\ 999+999,\ \ldots)\\=\;&(8,\ 98,\ 998,\ \ldots). \end{align}

\ x\ および\ y\ が共に\ N\ 進整数 (射影的な剰余の列) であるとして, 和\ x+y\ と積\ xy\ がまた射影的になることの証明は, 読者の皆な様にお任せします.


ここで一つ掛け算の例をお見せしようと思います. \ 3\ 進整数の環\ \mathbb{Z}_3\ における計算例を示します.

\begin{align} &(\ldots00002)_{(3)}\times(\ldots11112)_{(3)}\\ =\;&(2_{(3)},\ 02_{(3)},\ 002_{(3)},\ \ldots)\times(2_{(3)},\ 12_{(3)},\ 112_{(3)},\ \ldots)\\ =\;&(4_{(3)},\ 24_{(3)},\ 224_{(3)},\ \ldots)\\ =\;&(11_{(3)},\ 101_{(3)},\ 1001_{(3)},\ \ldots)\\ \equiv\;&(1_{(3)},\ 01_{(3)},\ 001_{(3)},\ \ldots)\\=\;&1. \end{align}

掛け算の結果が\ 1\ になるというのは, \ 2=(\ldots00002)_{(3)}\ の逆数が\ 3\ 進整数範囲\ \mathbb{Z}_3\ に存在しているということであります. 少し奇妙な予感がしますが, 割り算の詳細につきましては, 次の項で述べることに致します.


新しく定義した二つの演算でありますが, これらは従来の\ \mathbb{Z}\ における加法乗法を延長した演算に過ぎないのであって, 整数どうしの加算, 乗算であれば, \ \mathbb{Z}_N\ 上で計算しても\ \mathbb{Z}\ 上で計算しても同じ結果を与えることが証明されます. \ \mathbb{Z}_N\ \ \mathbb{Z}\ と同様に「環」の構造を有します (\mathbb{Z}\ \ \mathbb{Z}_N\ の部分環).



𝒑 進数

次に上記の\ \mathbb{Z}_N\ 上の乗法に基づいて, \ N\ 進整数の商あるいは分数に当たる数を定義したいと思います. この局面で\ N\ 素数である必要が生ずるのですが, その理由はとても単純であって, 例えば\ \mathbb{Z}_{10}\ という環の中には「xy=0\ であるにもかかわらず\ x\neq0\ かつ\ y\neq0」である元\ x,\ y\ が存在します. これでは仮に商の概念があったとしても, \ 1/x\ \ 1/y\ は存在するのに積\ 1/(xy)=1/0\ が存在しないという事態が有り得ます. 実際\ x,\ y\ として \begin{align} \left(\begin{array}{l} x=2,\ 12,\ 112,\ 0112,\ 10112,\ \ldots\\ y=5,\ 25,\ 125,\ 3125,\ 03125,\ \ldots \end{array}\right. \end{align} のような\ 10\ 進整数を適切に用意すると, \begin{align} xy&=(10,\ 300,\ 14000,\ 350000,\ \ldots)\\ &=(0,\ 0,\ 0,\ 0,\ 0,\ \ldots)=0. \end{align} \ 0\ でない二数の掛け算が\ 0\ になってしまいます. 他の合成数\ N\ に取っても同じ現象が起こり得ますので, 通常は素数\ N=p\ のみを考えることにしているわけであります.


では, \ \mathbb{Z}_p\ の中ならば「xy=0\ の場合\ x=0\ または\ y=0」が成立するのかといえば, こちらは真であることが証明されます. \ xy=0\ の場合, \ x=(\ldots a_2a_1a_0)_{(p)},\ y=(\ldots b_2b_1b_0)_{(p)}\ と置いて, 背理法を用いるために\ a_m\neq0\ かつ\ a_i=0\ (0\leqslant i\lt m)\ になる\ m\geqslant0\ \ b_n\neq0\ かつ\ b_i=0\ (0\leqslant i\lt n)\ になる\ n\geqslant0\ があるものと仮定すれば,

\begin{align} xy=(\ &(a_0)_{(p)}(b_0)_{(p)},\\&(a_1a_0)_{(p)}(b_1b_0)_{(p)},\\&(a_2a_1a_0)_{(p)}(b_2b_1b_0)_{(p)},\\&\ldots\qquad\qquad)\end{align}

の中に\ 0\ でない剰余が現れるので, \ xy=0\ との間に矛盾ができます. 従って\ m\ \ n\ の両方が存在するとした仮定は誤りであるから, \ x=0\ または\ y=0\ でなければなりません. これで素数の場合ならば分数を定義しても問題は起こらないと判明するのであります.

定義 1.5 (p\ 進数)\ p\ 進整数から成る分数を\ p\ 進数 (p-adic number) といって, その全体を \begin{align} \mathbb{Q}_p=\left\{\frac{\,x\,}{\,y\,}\;\middle|\;x,y\in\mathbb{Z}_p,\ y\neq0\right\} \end{align} の記号に表す. 即ちその要素は\ \mathbb{Z}_p\ の元を二個並べた組であって, \ xy'=x'y\ ならば, \ x/y=x'/y' と定められるものである.

ここに導入された分数に関する\ =\ がいわゆる等号の公理を充たしていることの証明は, 有理数の場合と同一であります. \ \mathbb{Z}\subset\mathbb{Z}_p\ でありましたたので \begin{align} \mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}_p \end{align} の関係があります. 分数\ x/1\ を単なる\ x\ と同一視すれば\ \mathbb{Z}_p\subset\mathbb{Q}_p\ の関係も明らかでありましょう.

定義 1.6 \ p\ 進数\ f=x/y,\ g=u/v\ の和および積を, \begin{align} f+g=\frac{xv+yu}{yv},\quad fg=\frac{xu}{yv} \end{align} によって定義する.

この\ \mathbb{Q}_p\ \ \mathbb{Z}_p\ を拡張した集合であり, ゼロ除算を除き加減乗除おこなえる構造 (たい. field) を成します. また記数法の観点においては, \ p\ 進数は小数の形式に表すことのできる数として解釈し得るものであります. このことを説明するために, 次の命題を用意します. あらゆる\ p\ 進整数は, \ p^0\ の位に置かれた桁が\ 0\ でなければ, 有限桁または無限桁の逆数をもつというものであります.

命題 1.7 \ p\ 進整数\ x=(\ldots a_2a_1a_0)_{(p)}\ にたいして, \begin{align} \frac{\,1\,}{\,x\,}\in\mathbb{Z}_p\Longleftrightarrow a_0\neq0. \end{align}

いいかえれば, \ \mathbb{Z}_p\ の単数群 (逆数を有する元の全体, 乗法群) が \begin{align} \mathbb{Z}_p^\times=\{x\in\mathbb{Z}_p\mid a_0\neq0\} \end{align} に等しいということであります. 整数の環\ \mathbb{Z}\ の単数群が\ \mathbb{Z}^{\times}=\{\pm1\}\ という唯った二つの要素から成る集合であったことに比べると, \ p\ 進整数にはとても多くの単数が存在している様子を感ずることができます. 前に掛け算のところで説明した具体例から, 例えば次の等式が得られます. \begin{align} \mathbb{Z}_3\ni\ \ \frac{\,1\,}{\,2\,}=(\ldots11112)_{(3)}. \end{align}

証明. \ \Longrightarrow\ は簡単である. 実際, \ x=(x_1,\ x_2,\ x_3,\ \ldots)\ の逆数を\ y=(y_1,\ y_2,\ y_3,\ \ldots)\ とすれば, \begin{align}x_1y_1\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.p)\end{align} になるから\ a_0=x_1\neq0\ は必然である.

次に\ \Longleftarrow\ を示すのであるが, そのためには, 逆数を具体的に提示しなければならない. 合同式系 \begin{align} \begin{array}{l} x_ky_k\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.p^k) \end{array},\quad k=1,\ 2,\ 3,\ \ldots \end{align} を充たす\ y=(y_k)\ を考えるとき, \ a_0\neq0\ のために\ x_k\not\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p)\ であるから, 合同式における逆元の定理によって\ y_k\in\mathbb{Z}/p^k\mathbb{Z}\ が各\ k\ に一つ存在する. かくして剰余の列\ (y_k)\ を構成するとき, \ x_{k+1}y_{k+1}\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.p^{k{+}1})\ を還元すれば\ x_ky_{k+1}\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.p^k)\ が得られ, \begin{align} x_ky_{k{+}1}\equiv x_ky_k\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.p^k). \end{align} ここから\ y_{k{+}1}\equiv y_k\ \ (\mathrm{mod}.p^k)\ が明らかになる. 即ち\ y\in\mathbb{Z}_p\ が証明されるのである.

\Box

 

\ p\ 進数\ f=x/y\ について, 分母\ y=(\ldots b_n00\ldots0)_{(p)}\ \ (b_n\neq0)\ から成るべく多く\ p\ を抽出して \begin{align} y=p^n(\ldots b_{n+2}b_{n+1}b_n)_{(p)}=p^ny' \end{align}とする変形を考えます. ここにおける\ p^n\ を乗じる計算は, \ \mathbb{Z}_p\ 上の演算の定義によると, 数列を\ n\ 項ずらす操作であります. このように変形をすると\ y'\ \ 1/y'\in\mathbb{Z}_p\ を充たし, 分数\ f\ \ p\ 進整数と\ p\ の冪の商, \begin{align} f=\frac{1}{p^n}\cdot\frac{x}{y'},\quad \frac{x}{y'}\in\mathbb{Z}_p \end{align} の形に表示することを得ます. 


この式は, 数列\ x/y'\ を負の向きに\ n\ 項シフトしたものが\ f\ である, とも読むことができるので, \ p\ 進数を \begin{align} f=(\ldots a_2a_1a_0\;.\;a_{{-}1}a_{{-}2}\ldots a_{-n})_{(p)} \end{align} のように表記するのは決して不自然ではありません. これを\ p\ 進数の小数展開といいます. また同様の手順によって, あらゆる\ \mathbb{Q}_p\ の元\ f\ は, \begin{align} f=p^nu,\quad n\in\mathbb{Z},\ u\in\mathbb{Z}_p^\times \end{align} の形式に唯だ一通りの方法で表すことができます. というのも, \ f\ \ p\ 進整数であるときは下の部分の\ 0\ をなくすように数列を右向きにずらし, 分数の場合も上の考察に従って\ p\ くくれば, 数列を左向きに動かすことができるからです. いわば最も低い位を小数点

に合わせる操作ということができるでしょう. 以降, 上に定義した整数\ n\ \ v_p(f)\ と表すことにします. これは\ f\ \ p\ (p-adic valuation) と呼ばれるものであり, 特に整数の範囲においては〈p\ により割りきれる回数〉を表す函数として解釈されます. \ f=0\ に関しては特別に\ v_p(0)=\infty\ を定義しておく必要が有ります.

昔は付値のことを「賦値」と書いていたと聞きます. 成るべく簡単な漢字を遣おうという時代の潮流の中で, だんだん「付」の漢字がてられるようになりました. 二つはそれぞれ, 要素に付属する値, 要素に与えられた値という意味であって大差はありません. 他にも「べき」と「べき」(どちらの漢字も覆うための布), 「かんすう」と「かんすう」 (数のはこ*2と数の関係), 「きょうやく」と「きょうやく」(くびきで繋がれた数と同じ役割を持つ数), 「線型」と「線形」(型か形か) 等があります.





Hensel の補題

続いて, 整数係数の多項式\ F(x)\ につき, 方程式 \begin{align} F(x)=0 \end{align} が\ \mathbb{Z}_p\ の中に解を持つための条件を取りあつかいたいと思います. 前節においては, \ x+1=0\ \ \mathbb{Z}_{10}\ の上で解いたり, \ x^2-2=0\ 二次方程式\ \mathbb{Z}_7\ の上で解いたり, それから逆数に関する説明のところで\ 2x=1\ の式を充たす\ 3\ 進整数\ x\ についての考察を致しましたが, これら三本の方程式には確かに解が存在していました. 然し, 必ずしも多項式\ F(x)\ にたいして方程式\ F=0\ \ p\ 進整数解が存在するとは限らないもので, 例えば\ F(x)=x^2-2\ \ \mathbb{Z}_3\ を選んだ場合, 抑も \begin{align} F\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.3) \end{align} の合同式に解がないので, 当然\ \mathbb{Z}_3\ にしても解がありません. また\ F(x)=x^2-5\ \ \mathbb{Z}_5\ を選んでも, \begin{align} \begin{array}{l@{}c@{}l} x^2-5\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.5)&\Longrightarrow&x\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.5),\\ x^2-5\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.25)&\Longrightarrow&x\equiv{解無シ}\end{array} \end{align} という風になって\ 5\ 進整数解を得ることができない. どうも方程式の\ p\ 進整数解の有無を支配している原理は, 全く混沌という類いではないにしても, 今すぐには解決のらちが明きそうにありません. 方程式に解があるかないかという疑問は大変重要なものであるので, これに関して規則性を調べなければならないのでありますが, その前に少しだけ微積分学における Newton 法 (ニュートン法) の説明をしたほうが善いでしょう.



Newton 法

次の命題で紹介するのは, 多項式に関する Taylor 展開 (テイラー展開) であります.

 

最初に, 少し退屈なお話しかも知れませんが, 多項式という概念について幾つかの事項を確認しておこうと思います. 抑も論理的な文脈において, 多項式\ f\ とは数列 \begin{align} a_0,\ a_1,\ \ldots\ a_d,\ 0,\ 0,\ 0,\ \ldots \end{align} のことを指し, 形式的記号\ x\ および\ +\ を遣って \begin{align} f=f(x)=a_0+a_1x+\cdots+a_dx^d \end{align} のように表記します. \ x\ 不定元あるいは変数と呼ばれていますが, 要するに計算の利便性を担保するために用意された単なる目印であると考えると善いです. 二つの多項式\ f,\ g\ に関してそれらの全ての係数が一致するとき, \ f\ \ g\ は等しいといいます. そして, 多項式の和\ f+g\ とは各々の多項式の対応する係数を足しあわせたもので, 多項式の積\ fg\ は分配律と指数法則 \begin{align} &A(B+C)=AB+AC,\\&(A+B)C=AC+BC, \\&x^mx^n=x^{m+n} \end{align} を仮定した際にいわゆる「展開」の操作によって得られる積のことであります. これらの多項式の演算は全て, \ x\ に具体的な数を当てはめた際に矛盾が生じないように定義されておりますので, 特段憶えるのに苦労を要するものではないかと思います. 更に, 記号\ f'\ \ f''\ は, 多項式\ x^n\ \ nx^{n-1}\ に置きかえるような形式的微分の結果を表します. 二変数以上の多項式についても同様であります. 

 

それでは, \ F(x)\ を実数係数または\ p\ 進数係数の多項式として, Taylor 展開の命題を述べることに致しましょう.

命題 1.8 次の多項式の等式が成りたつ. 即ち各辺を展開したときの\ t^mx^n,\ m,\ n\geqslant0\ の係数は全ての指数について一致する.
\begin{align} F(x)=F(t)+F'(t)(x-t)+\frac{\,F''(t)\,}{\,2!\,}(x-t)^2+\cdots. \end{align}
加えて\ F\ の係数が整数 (または\ p\ 進整数) であるとするならば, 係数\ F^{(n)}(t)/n!\ のそれぞれは\ t\ に関する整数係数 (または\ p\ 進整数係数) の多項式である.

例えば三次式\ F(x)=x^3\ を選んで等式を立てると, \begin{align} x^3=t^3+3t^2(x-t)+3t(x-t)^2+(x-t)^3. \end{align} これは\ (t+(x-t))^3\ を展開したものですから確かに両辺の多項式が一致しています. 命題の式を和の記号を遣って書くならば, \ F\ \ n\ 微分\ F^{(n)}\ として, \begin{align} F(x)=\sum_{n=0}^{d}\frac{F^{(n)}(t)}{n!}(x-t)^n. \end{align} ここに\ d\ 多項式\ F\ の次数を表してあります.

 

\ F\ の係数が通常の整数であるときは, \ x\ および\ t\ に実数 (あるいは複素数) を代入することができます. そのとき右辺の和を途中で打ちきると\ x=t\ の付近における\ F(x)\ の近似式が得られることから, 定理の式を\ F\ \ t\ 周りでの Taylor 展開といいます. 先程の\ x^3\ の例においては, 例えば\ 1\ に近い実数\ x\ に関して \begin{align} x^3\approx1+3(x-1) \end{align} が凡その精度で成立しています. これは, 三次函数\ y=x^3\ のグラフの\ x=1\ における接線を使って一次近似をおこなった場合の式と合一であります. 

証明. \ F\ の次数を\ d\ と置き, \ x\ に関する多項式除算によって \begin{align} F(x)=c_d(x-t)^d+\cdots+c_1(x-t)+c_0 \end{align}

なる\ c_i=c_i(t)\ を定義する. 即ち, 始めに\ F(x)\ \ (x-t)^d\ により除して, その剰余を次に\ (x-t)^{d-1}\ によって除算し, 剰余が定数になるまで除法を続けるのである. そのとき, 係数\ c_i\ \ x\ を含まず, 若し\ F\ が整数係数を有するならば, \ t\ に関する整数係数多項式になる. これは, \ F\ の係数に\ p\ 進整数を考慮しても同じである. 等式\ c_i=F^{(i)}(t)/i!\ の成りたつ事実は, 上の等式を\ x\ について繰りかえし形式的に微分して, 順次に\ x=t\ を代入すれば証明することができる (省略).

\Box

 

これを踏まえて, Taylor 展開の知見に基づいた場合の Newton 法の理論をご説明します. 函数\ y=F(x)\ のグラフを\ (x,y)\ 平面の上に描いて, これが\ x\ 軸と交差する点の\ x\ 座標, 即ち\ F=0\ の実数解\ \alpha\ が存在するものを考えます. そして今\ \alpha\ の近似値として, 或る\ x_0\ が判明しているという設定をしましょう. 始めに曲線\ y=F(x)\ の点\ (x_0,F(x_0))\ における接線を引き, これが\ x\ 軸と交わる点の座標を\ x_1\ とします. その次に\ x_1\ にたいして全く同じ事をおこなって\ x_2\ を得たあと, 同様に\ x_3,\ x_4,\ \ldots\ などを構成してゆきます. 以上の操作を図にしてみると, 充分に大きい番号\ k\ については, \ x_k\ が始めの近似値よりも\ \alpha\ に接近しているいわば優良な近似であることが予想されます.

図 1. Newton 法

簡単な計算により, \ x_k\ の漸化式として \begin{align} x_k=x_{{k}{-}{1}}-\frac{F(x_{{k}{-}{1}})}{F'(x_{{k}{-}{1}})} \end{align} が成りたつことがわかります. 今分子に現れた\ F(x_{k{-}1})\ が既に或る程度\ 0\ に近いことを仮定しますと, \ x_k\approx x_{k-1}\ がいえます. ここで Taylor 展開の式, \begin{align} F(x_k)=F(x_{{k}{-}{1}})+F'(x_{{k}{-}{1}})(x_{k}-x_{{k}{-}{1}})+R,\\R\approx0 \end{align} を立て, 上の漸化式を持ちこむと, \begin{align} F(x_k)=R\approx0. \end{align} 誤差\ R\ \ (x_k-x_{k-1})^2\ 程度の大小しかありませんから, 極限を取ればきっと\ F(x_k)\to0\ になるはずです. これで一応, Taylor 展開を使いながら, Newton 法による近似の正確性を示すことができたのであります. 評価のしかたがおおざっではありますが, 次の節に入ってこの解釈法が大切になるので, 上のグラフをよく記憶に留めておいてください.



Hensel の補題

非負整数から\ p\ 進整数への拡張の仕方を説明したとき, 方程式\ F=0\ の解が \begin{align} x=(\ldots a_2a_1a_0)_{(p)} \end{align} なる形であることを仮定して, \ a_0\ より順次に桁を決定する方式を導入しました. この\ a_0\ \ F=0\ の〈近似解〉に見たて, \ x_k=(a_{k-1}\ldots a_2a_1a_0)_{(p)}\ の列を\ x_{\infty}\ に漸近してゆく収束列と思いこむならば, ここに Newton 法との類比を捉えることができると思います. 我々は実際に, Taylor 展開の近似観を\ p\ 進数に応用することによって, 或る条件の下において方程式\ F=0\ \ p\ 進整数の解が存在することの, 明快な証明法を見いだすことができるのです. その存在定理は Hensel の補題 (ヘンゼルの補題) と呼ばれます.

定理 1.9 (Hensel の弱補題) \ F(x)\ \ \mathbb{Z}_p\ 係数の多項式とし, \ x_1\in\mathbb{Z}_p\ を前提とする. 若し\ F\ および\ x_1\ が \begin{align} F(x_1)\equiv0,\quad F'(x_1)\not\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p) \end{align} の条件を充たすならば, \ \mathbb{Z}_p\ 上の方程式\ F=0\ は, \ x\equiv x_1\ \ (\mathrm{mod}.p)\ なる解\ x\in\mathbb{Z}_p\ を少なくとも一つ有する.

扨て未定義であった記法について一点を補足しますと, \ p\ 進整数を\ \mathrm{mod}.p\ により還元した\ x\ \mathrm{mod}.p\ とは, \ x=(x_1,\ x_2,\ x_3,\ \ldots)\ のように\ p\ 進整数を表示したときの\ x_1\in\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\ を意味するものとします. 高いべき\ x\ \mathrm{mod}.p^k\ も同じ定義で, 下\ k\ 桁を取りだした羅列を表します.

当初は\ F\ \ \mathbb{Z}\ 係数で\ x_1\in\{0,1,\ldots,p-1\}\ である場合のみを想像していましたが, 定理の主張はその一般化に当たります.

証明. 帰納法によって, 各正の整数\ k\ について以下の条件を満足させる\ x_k\in\mathbb{Z}_p\ があることを証明する. \begin{align} \left(\begin{array}{l} F(x_k)\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p^k),\\\ \\ F'(x_k)\not\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p),\\\ \\ x_k\equiv x_{k{-}1}\ \ (\mathrm{mod}.p^{k{-}1})\quad(k\gt1\,\mbox{の場合}). \end{array} \right. \end{align} \ k=1\ の場合は前提における\ x_1\ が適例である.
\ x_1\ から或る\ x_{{k}{-}{1}}\ までの存在を仮定し, 次の公式によって, 新規に\ x_k\ を構成する. \begin{align} x_k=x_{{k}{-}{1}}-\frac{F(x_{{k}{-}{1}})}{F'(x_{{k}{-}{1}})}\ \ \in\mathbb{Z}_p. \end{align} 今\ F'(x_{{k}{-}{1}})\ \ \not\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p)\ であるから, これが分母にあっても, 確かに\ x_k\in\mathbb{Z}_p\ が成りたつのである. 先ず帰納法の仮定によれば, \begin{align} x_k\equiv x_{{k}{-}{1}}\ \ (\mathrm{mod}.p^{k{-}1}) \end{align} が成立する. 次に Taylor 展開の式,

\begin{align} F(x_k)=F(x_{{k}{-}{1}})+F'(x_{{k}{-}{1}})(x_{k}{-}x_{{k}{-}{1}})+\frac{F''(x_{{k}{-}{1}})}{2}(x_{k}{-}x_{{k}{-}{1}})^2+\cdots \end{align}

を考えれば, \ \mathrm{mod}.p^k\ に従って \begin{align} F(x_k)\equiv F(x_{{k}{-}{1}})+F'(x_{{k}{-}{1}})(x_{k}{-}x_{{k}{-}{1}})\equiv0. \end{align} また法\ \mathrm{mod}.p\ において, \begin{align} F'(x_k)\equiv F'(x_{{k}{-}{1}})\equiv\cdots\equiv F'(x_1)\not\equiv0 \end{align} が成りたつ. 故に各\ k\ について前述の条件通りの\ x_k\in\mathbb{Z}_p\ を構成することができる. しからば, 射影的に\ k\to\infty\ として得られる, \begin{align} x=(x_1\ \mathrm{mod}.p,\ x_2\ \mathrm{mod}.p^2,\ \ldots)\in\varprojlim\mathbb{Z}/p^k\mathbb{Z} \end{align} の\ p\ 進整数が方程式の解である.

\Box

 

Taylor 展開を使わずに Hensel の補題を論ずることも可能ではありますが, 今の証明方法を用いる意義は, \ x_k\ を構成的に, 計算のできる形式において示しているところにあります. 実際に微分を使いながら\ x^2=2\ の方程式を\ \mathbb{Z}_7\ の上で解くと, 近似の仕様をよく理解できるのではないかと思います.


Hensel の補題によりますと, 或る方程式にたいする\ \mathrm{mod}.p\ 内の解を\ \varprojlim\mathbb{Z}/p^k\mathbb{Z}\ 上の解に持ちあげることができ, 反対に, \ p\ 進整数の解を剰余解に還元することもできます. 持ちあげ, 還元という用語はとても便利ですから, 今後も遣うことが有るはずです.

図 2. 持ちあげと還元





\ p\ 進数論の輪郭ができてきたところで, 今回の記事をじておくとしましょう. 次回 (2) では, Hensel の補題の応用として, \ p\ 進整数における平方数の全像を明らかにします. それから三平方和定理の証明もご覧に入れたいと思います.

図 3. 二進法の系図\ \mathbb{Z}_2\
所で二進法展開の「二階版」として彼の Zeckendorf の定理 (ゼッケンドルフの定理) に基づいた記数法が知られていまして, こちらは Fibonacci tree と呼ばれる樹状の図形に描くことができます. 然し,  \ p\ 進整数とは違って, 見易い環構造というものを持った対象ではありません. その何が面白いのかと申しますと, また別の事由があるものであります. 





演習問題

問. あらゆる整数係数の二次方程式は, \ p\ 進法に従って高々二個の解を有することを示せ.

 

問. \ 2\ から\ 20\ までの整数\ N\ の内, 二次方程式\ x^2+1=0\ \ N\ 進整数解を持つものを全て挙げよ.

 

\ 5,\ 11,\ 17.

問. \ 10\ 進整数 \begin{align} 1+\ldots22223\times\ldots44443 \end{align} は循環列であるが, その循環節は何か. また, \ 10\ 進小数の積 \begin{align} 0.22222\ldots\times0.44444\ldots \end{align} の循環節は何か.

 

\ 123456790,\ 098765432.

問. \ 10\ 進整数\ x=(x_1,\ x_2,\ x_3,\ \ldots)\ \ y=(y_1,\ y_2,\ y_3,\ \ldots)\ を \begin{align} x_1&\equiv5\ \ (\mathrm{mod}.10),\\ y_1&\equiv6\ \ (\mathrm{mod}.10) \end{align} および \begin{align} x_{k{+}1}&\equiv x_k-\frac{x_k^2-x_k}{2x_k-1}\ \ (\mathrm{mod}.10^{k{+}1}),\\ y_{k{+}1}&\equiv y_k-\frac{y_k^2-y_k}{2y_k-1}\ \ (\mathrm{mod}.10^{k{+}1}) \end{align} の漸化式によって定義する.
\ (1)\ \ x\ および\ y\ 二次方程式\ z^2=z\ の解であることを示せ.
\ (2)\ \ x+y=1\ \ xy=0\ との等式が成立することを示せ.
\ (3)\ \ z^2=z\ \ 10\ 進整数の解は\ 0,\ 1,\ x,\ y\ の四個のみであることを証明せよ.

 

問. \ \mathbb{Z}_p\ には\ 1\ \ p-1\ 乗根が\ p-1\ 個属することを示せ.

 

問. \ p\ を奇素数とする. あらゆる平方数を\ p^2\ によって割るとき, その剰余として出現し得る数は何個あるか.

 

\ \frac{\,1\,}{\,2\,}p(p-1)+1\ 個.

問. \ k\ を正なる整数とする. 剰余環\ \mathbb{Z}_p/p^k\mathbb{Z}_p\ は如何なる型の環になるか.

 

\ \mathbb{Z}/p^k\mathbb{Z}.

問. 環の同型\ \mathbb{Z}_p\cong\mathbb{Z}[\,\!\![t]\,\!\!]/(t-p)\ を示せ. ここに\ \mathbb{Z}[\,\!\![t]\,\!\!]\ は整数を係数とする形式的冪級数の環である.

 

問. \ \mathbb{Q}_p\ \ \mathbb{Q}_q\ が同型であるための\ p,\ q\ 必要充分条件を答えよ.

 

\ p=q.\

問. \ \mathbb{Z}_4\ \ \mathbb{Z}_2\times\mathbb{Z}_2\ は同型か.

 

同型でない.

問. \ \mathbb{Z}_{10}\ の構造を\ \mathbb{Z}_2\ および\ \mathbb{Z}_5\ を用いて表せ.

 

\ \mathbb{Z}_{10}\cong\mathbb{Z}_2\times\mathbb{Z}_5.\

問. \ \mathbb{Q}_p\ の自己同型写像\ f\ は恒等函数のみであることを示せ. 即ち, 写像\ f\;\colon\;\mathbb{Q}_p\longrightarrow\mathbb{Q}_p\ が若し次の条件を充たすならば, 常に\ f(x)=x\ が成りたつことを証明せよ.
\ (1)\ \ f\ 全単射である.
\ (2)\ 如何なる\ x,\ y\in\mathbb{Q}_p\ についても\ f(x+y)=f(x)+f(y)\ かつ\ f(xy)=f(x)f(y). また\ f(1)=1.

 

問. \ p\ を奇素数, \ e\geqslant1\ を整数として, 次式により有理数\ f\ を定義する. \begin{align} f=1+p+\frac{\,1\,}{\,2!\,}p^2+\cdots+\frac{\,1\,}{\,(2e)!\,}p^{2e}. \end{align} そのとき,
\ (1)\ \ f\ \ \mathbb{Z}_p\ に属することを示せ. また, \ f^i\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.p^e)\ を満足させる最小の正整数\ i\ を答えよ.
\ (2)\ 剰余環の単元群\ (\mathbb{Z}/p^e\mathbb{Z})^{\times}\ は或る巡回群と同型であることを示せ. \ e=1\ の場合は既知のものとして構わない. 

 

\ (1)\ \ i=p^{e{-}1}.\

問. 有理数の列\ (u_i)_{i\in\mathbb{Z}}\ が, 或る整数\ r\geqslant1\ 有理数\ a_{r-1},\ \ldots\ a_1,\ a_0\ において次の漸化式を充たしているとする. \begin{align} u_{i+r}=a_{r-1}u_{i+r-1}+\cdots+a_1u_{i+1}+a_0u_i. \end{align} そのとき零点の全体\ \{i\in\mathbb{Z}\mid u_i=0\}\ は有限集合であるか, 若しくは算術数列の和集合であることを証明せよ.

 





(2) の記事 : 

多変数二次の不定方程式について (2) p 進平方数, 三平方和定理 - Arithmetica 算術ノート





*1:一般には, 写像の言葉を遣った広い定義が使用されるが, ここに書くのは控える.

*2:豆知識が重複するようであるが, この函数という漢語は一説において英語 function の中国語での音訳であると語られることがある. 然し中国学に詳しい学者の解説を聞くと, (当時の) 函の字は hán のごとき発音であって fun とは異なるとか, 説の広がり方が不可解であるという点で, 音訳起源は誤説として捉えられているという.

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ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



pic-Arithmetica

算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

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