正の整数 𝒏 が三つの平方数の和に表されるための必要充分条件は, 𝒏 から 4 を成るべく多く抽出して 𝒏 = 4ᵏℓ と書いたときに, \begin{align} \ell\not\equiv7\ \ (\mathrm{mod}.8) \end{align} になることである.
この連続記事は以下を目標として記したものです.
- 初等整数論の知識から出発し, 進数の基礎理論を解説する.
- 上の二次形式に関する局所大域原理を証明し, そこから三平方和定理を簡潔に導出する.
(2) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (2) p 進平方数, 三平方和定理 - Arithmetica 算術ノート
(3) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (3) p 進数と実数について - Arithmetica 算術ノート
(4) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (4) 局所大域原理の証明 - Arithmetica 算術ノート
序文
今回の記事の目標は, 二次不定方程式の一般論を解説することにあります. 扨て二次不定方程式というのは, 抑も整数の範囲に限って解を考える二次方程式のことをいうのであるが, それは既に本ブログにおきましても, 幾つかの特殊な型の方程式を取りあげて, 解法をご紹介したことが有りました. 最も広く名前が知られているのは, 恐らく \begin{align} x^2-dy^2=\pm1\quad\mbox{または}\quad\pm4 \end{align} という形の Pell 方程式 (ペル方程式) であり, 他にも, ある整数が〈二つの平方数の和〉に表されるか否かを表現する \begin{align} n=x^2+y^2 \end{align} の方程式があります. 二変数の例に限らず, 始めに記した三平方和の問題を表す \begin{align} n=x^2+y^2+z^2 \end{align} もまた二次不定方程式の一種です. 小さなについて三平方和の実験をすると, \begin{align} 1&=1+0+0,\\ 2&=1+1+0,\\ 3&=1+1+1,\\ 4&=4+0+0,\\ 5&=4+1+0,\\ 6&=4+1+1,\\ 7&=\\ 8&=4+4+0,\\ 9&=9+0+0=4+4+1,\\ &\ \vdots \end{align} どのに解がありどのに解がないのかは, 冒頭に Gauss-Legendre の三平方和定理 (ガウス・ルジャンドルの三平方和定理) として述べた通りで, の形に表したときにになることが三平方和の存在と同値な条件であります. の場合に解が存在しないことの証明は至って初等的である一方, 他のについて解の存在を示すことは, それよりも難しい問題になります.
今次の解説にて扱うこのような二次の不定方程式は, 有理数の世界から観察するととても複雑に見えるのでありますが, 以降に申しのべる「拡張された数」⸺ 進数の性質を使うと, 与えられた二次方程式に整数解や有理数解が存在するかしないかを調べることが簡便になります. 進数を定義する際に大切になる考え方について, 極く大雑把に説明しますと, それは例えば \begin{align} x+1=0 \end{align} という一次方程式の解をのような無限桁の数と考えるのはどうか, または二次方程式の解を敢えてとするのでなく \begin{align} \begin{cases} x=\ldots16213_{(7進法)}\\ x=\ldots50454_{(7進法)} \end{cases} \end{align} という数列に見たてるのはどうか, と記数法的に方程式を観察してみることであります. 二つ目の方程式の解については, を途中でうち切った数の自乗を並べてみると, \begin{align} 3_{(7)}^2&=12_{(7)},\\ 13_{(7)}^2&=202_{(7)},\\ 213_{(7)}^2&=46002_{(7)},\\ 6213_{(7)}^2&=54610002_{(7)},\\ 16213_{(7)}^2&=342200002_{(7)},\\ &\ \vdots \end{align} のようになることから, 桁数が多くなるにつれてに漸近してゆく様子を見ることができるので, 確かにこの数は方程式を充たしていると得心が付きます. 少し騙されたような気がしますが, 一度このように考えてみるのが善いのです.
こうした記数法のアイデアによって有限桁から無限桁に拡張された数の体系が, 「大域」たる有理数にたいして「局所」と呼ばれ, 不定方程式を解決するのに役立つという進数の理論は, 実は初等的な整数論から出発しても充分に説明のできる範囲にあります. その詳細を述べるために, 有名な進法の定理からお話しを切りだすことに致しましょう.
記数法による数の拡張
整数を一つ取って固定します. 有名な進法というのは, 次の定理に基づいて非負の整数を記す方法のことでありました.
定理の主張は, 非負の整数と, 集合\begin{align} Z_N=\{0,1,2,\ldots,N-1\} \end{align} の元 (要素) から成る数列との間に一対一の対応関係が存在するということに他なりません (但だし数列は無限に続かない有限列であることを前提とします). この対応によって, 整数と数列を \begin{align} n=(a_M\ldots a_2a_1a_0) \end{align} のように同一視し, 数列の集合 \begin{align} \{(a_M\ldots a_2a_1a_0)\mid M\geqslant0,\ a_i\in Z_N\} \end{align} を非負整数の全体 \begin{align} \mathbb{Z}_{\geqslant0}=\{x\in\mathbb{Z}\mid x\geqslant0\} \end{align} として見なすことができます. その際, 数列の項は特別に桁という名称で呼ばれ, 番号は位と呼ばれます. 我々は普段, 百という数を表すときに三つの数字を羅列してのように書きますから, 数と数列との同一視というのは決して新しい視点ではないでしょう. 定理の証明は省略することに致します.
解り易くするために, これからとして通常の十進法を説明に使うことにしますけれども, 後にお話しするように, に合成数を選ぶと, 議論上の不都合を生じますので, 十進法を例とするのは本来適切ではありません. 正確に議論をおこなおうとするならばは素数であると仮定しておくのが普通です.
剰余環の準備
先程のは単なる整数の部分集合でありましたが, 以降はこれを整数の集合でなく〈の剰余〉の集合として捉えるほうが簡単になります. 即ち, 元の整数の概念を破って, の下で合同である二数は全く同じ () ものと見なし, 加法, 減法および乗法をに従っておこなうということであります. いいかえると, 整数から〈剰余〉にシフトするためには, を法として合同式の計算をしたのち, 合同式の記号をイコールに擦りかえれば善いです. 例えば〈の剰余〉の世界の上ではこのような等式が立てられます. \begin{align} 1+9=0,\quad5+6=1,\quad7\times8=6. \end{align} いわゆる可換環の理論では〈剰余〉の集合のことを \begin{align} \mathbb{Z}/N\mathbb{Z}\quad\mbox{または}\quad\frac{\mathbb{Z}}{N\mathbb{Z}} \end{align} と書きますので, この場でもこの記法を採ることに致しましょう. 詰まり, \begin{align} \mathbb{Z}/N\mathbb{Z}=\{0,1,2,\ldots,N-1\}\quad(\mbox{剰余の集合}) \end{align} で, この記号が法の剰余の全体を表すのであります.
但だし, 剰余環の元であっても, 強調のために合同式の記法を用いることが有りますので, 注意が必要です.
それから, 進法によって書かれた整数 \begin{align} a_0+a_1N+a_2N^2+\cdots \end{align} にたいしてを適用し, これをの世界に還元することは, 次以上の項を無視することに当たります. 普通の意味とは異なる言葉遣いになりますが, 本記事を通してこれを「切りすて」と呼ぶことにします. 剰余に関して説明しておくべきなのは, 凡そこれで全部であると思います.
方程式からの発想
これから考えるのは非負整数の全体を拡張して, 新しく数の概念を定義することであるから, ここで従来の「数の拡張」の方法を振りかえりながら確認してみるのが善いでしょう. 先ず負の整数の概念は, 正の整数にプラス・マイナスの符号を付けたり, あるいはから数を引いた差を作ることによって導入されたもので, 次に有理数は, 整数をでない整数により割り算した商として定義されました. これは整数係数の一次方程式の解をもって有理数を捉えたといっても同じであります. 有理数の上ではを始めとする二次方程式は解決し得ないことが判明したので, のような無理数の発見があり, 終には有理数の間の細かな隙間を埋めることにより実数の集合に到達しました. 然し今回の記数法による数の拡張は, 元来の方法とは大きく異なるものであって, 整数のような正負の符号や, 実数の大小関係, あるいはまた数直線のイメージに頼ることはせずに, 別の方法によって非負の整数を包含する新しい数の集合を構成してゆきます.
序文において, 一次方程式の解を \begin{align} x=\ldots9999 \end{align} なる無限列とし, 七進法におけるの解を \begin{align} \begin{cases} x=\ldots16213_{(7)}\\ x=\ldots50454_{(7)} \end{cases} \end{align} なる羅列とすることを提案したように, 風変わりな算術として進法に準拠した代数方程式の解法というものを考察することができます. 今回はその方法による数の拡張を出発点として設けるのであります.
手順. 整数係数の多項式に関する方程式を進法において解く方法は, 以下の通り.
合同式に解があるならば, その一つを選択してとする. これは進法にすれば一桁でありの形である.
合同式の解の中, になるがあるならば, その一つを選択してとする. そのとき
合同式の解の中, になるがあるならば, その一つを選択してとする. そのとき
この操作を終わりなく実行することができるならば, 仮想的な進法の無限列を方程式の解と見なす. 以上の手順をのあらゆる選択肢についてそれぞれ実行し, 得られる数列全部を方程式の解とする.
例えば, かつの場合を考えると,
の解はのみ. これによってとする.
の解はのみ. これは十の位を切りすてるとになるからである.
の解はのみ. これは百の位を切りすてるとになるからである.
操作を無限に実行すればを得ることができるでしょう.
かつの場合も手順に従って計算するのみでありますが, の解にはの二つがあり最後は二本の無限列 \begin{align} \begin{cases} x_{\infty}=\ldots16213_{(7)}\\ x_{\infty}=\ldots50454_{(7)} \end{cases} \end{align} が得られます. 実際,
の解はのみ. 最初にを選択する.
の解はのみ. はの位を切りすてるとになるからである.
の解はのみ. はの位を切りすてるとになるからである.
以降もこの計算が続きます. 必ず二次合同式の解が得られることの証明は, 特に難しくはありませんが, この記事の最後の項に回したいと思います.
また, の場合など, 既に非負整数の範囲に解がある設定においては, 例えばの解が \begin{align} x_{\infty}=\ldots0001 \end{align} になるように, 数列の項は下の桁の部分を除いて全桁がとなって, 有限列と同一視することができます.
次はもう少し興味深い例として, 十進法における \begin{align} x^2=x \end{align} の解を実験してみましょう. は二次の多項式でありますが, 合同式を充たす剰余はの四つがあり, 通常の解の他にも二本の数列が現れることが予想されます. 実際に計算をすると, それらは \begin{align} \begin{cases} x_{\infty}=\ldots12890625\\ x_{\infty}=\ldots87109376 \end{cases} \end{align} であることが判ります. 二乗しても下の桁が不変なやなどは有りふれた例でありましょうが, これらの数字は方程式の広い意味における解の一部分として得られるわけであります.
こうして方程式の解を作る方法は恰も数の世界を拡張しているかのように見える. そこで方程式の解に現れる剰余の無限数列を総括して, 新しい「数」と呼ぶことにするのです.
𝒑 進整数
証明. 手順に従って解を構成することができる. 例えばの場合, とすればであり, とすればである.
一先ず進整数の集合を定義することができましたので, 次はこの集合に加法および乗法を導入する方法を述べましょう. 再び先程の「方程式を解く手順」と同様なる方式を用い, の順番で和または積に当たる数列を作ってゆくことにすれば, 例えば次のような足し算が考えられます. 即ち十進法の上での和を求める計算として, \begin{align} 9+9&\equiv8\ \ (\mathrm{mod}.10),\\ 99+99&\equiv98\ \ (\mathrm{mod}.100),\\ 999+999&\equiv998\ \ (\mathrm{mod}.1000),\\ &\ \vdots \end{align} という合同式の列からを導く方法であります. この計算は整数の集合における従来の加法と整合的であり, 今の例を整数の書き方に直すと, 単にの確認をしているのに過ぎないことが判ります. このように桁数が有限の場合には非負整数の足し算と一致し, 進数の演算としては, 至って自然であるといえます. 乗法についても, 加法と全く同じようにできます.
この手順を無限桁の筆算と捉えることも不可ではないのでありますが, \begin{align} \begin{array}{cr} &\ldots9999\\ +&\ldots9999\\\hline &\ldots9998 \end{array} \end{align} 筆算という概念を定式的に扱うことはできないので, ここは合同式の言葉を用いるのが宜しいでしょう.
このような加法乗法の定義を成文化するのに当たって, 進整数を \begin{align} a_0,\ a_1,\ a_2,\ \ldots,\quad a_i\in\mathbb{Z}/N\mathbb{Z} \end{align} なる桁の列として解釈するのではなくて, のように文字を束ね, \begin{align} x_1,\ x_2,\ x_3,\ \ldots,\quad x_k\in\mathbb{Z}/N^k\mathbb{Z} \end{align} という「射影的」な剰余の列として捉えることが必要になります. 射影的 (projective) というのは, 今の場合の上の桁を切りすてるとになるということを意味する言葉であります*1. ここで, 上に記した二つの数列とを同一視することにより, 何れも「進整数」と呼んでよいということにすると, これに準じて進整数の定義は次のように書きかえられます.
「剰余の列\begin{align} x_1,\ x_2,\ x_3,\ \ldots,\quad x_k\in\mathbb{Z}/N^{k}\mathbb{Z}\end{align}の中で, を充たすものが進整数である. 」
という合同式による定義の仕方は, 現代数学の用語においては射影的極限 (逆極限, projective limit) の一種として説明されるものであり, 射影的極限の記号を用いるならば, これを \begin{align} \mathbb{Z}_N=\varprojlim_k\;\mathbb{Z}/N^k\mathbb{Z} \end{align} と表します. 詰まり, 記号の意味は次のように定義されております.
徐々に成長してゆく環の系列と, その間にある「切りすて」の写像を素材として, 射影的極限が定義されているといえます.
即ち, \begin{align} x+y&=(x_1+y_1,\ x_2+y_2,\ x_3+y_3,\ \ldots),\\xy&=(x_1y_1,\ x_2y_2,\ x_3y_3,\ \ldots).\end{align}
およびが共に進整数 (射影的な剰余の列) であるとして, 和と積がまた射影的になることの証明は, 読者の皆な様にお任せします.
ここで一つ掛け算の例をお見せしようと思います. 進整数の環における計算例を示します.
掛け算の結果がになるというのは, の逆数が進整数範囲に存在しているということであります. 少し奇妙な予感がしますが, 割り算の詳細につきましては, 次の項で述べることに致します.
新しく定義した二つの演算でありますが, これらは従来のにおける加法乗法を延長した演算に過ぎないのであって, 整数どうしの加算, 乗算であれば, 上で計算しても上で計算しても同じ結果を与えることが証明されます. はと同様に「環」の構造を有します (はの部分環).
𝒑 進数
次に上記の上の乗法に基づいて, 進整数の商あるいは分数に当たる数を定義したいと思います. この局面でが素数である必要が生ずるのですが, その理由はとても単純であって, 例えばという環の中には「であるにも拘わらずかつ」である元が存在します. これでは仮に商の概念があったとしても, とは存在するのに積が存在しないという事態が有り得ます. 実際として \begin{align} \left(\begin{array}{l} x=2,\ 12,\ 112,\ 0112,\ 10112,\ \ldots\\ y=5,\ 25,\ 125,\ 3125,\ 03125,\ \ldots \end{array}\right. \end{align} のような進整数を適切に用意すると, \begin{align} xy&=(10,\ 300,\ 14000,\ 350000,\ \ldots)\\ &=(0,\ 0,\ 0,\ 0,\ 0,\ \ldots)=0. \end{align} でない二数の掛け算がになってしまいます. 他の合成数をに取っても同じ現象が起こり得ますので, 通常は素数のみを考えることにしているわけであります.
では, の中ならば「の場合または」が成立するのかといえば, こちらは真であることが証明されます. の場合, と置いて, 背理法を用いるためにかつになるとかつになるがあるものと仮定すれば,
の中にでない剰余が現れるので, との間に矛盾ができます. 従ってとの両方が存在するとした仮定は誤りであるから, またはでなければなりません. これで素数の場合ならば分数を定義しても問題は起こらないと判明するのであります.
ここに導入された分数に関するがいわゆる等号の公理を充たしていることの証明は, 有理数の場合と同一であります. でありましたたので \begin{align} \mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}_p \end{align} の関係があります. 分数を単なると同一視すればの関係も明らかでありましょう.
このはを拡張した集合であり, ゼロ除算を除き加減乗除が自由におこなえる構造 (体. field) を成します. また記数法の観点においては, 進数は小数の形式に表すことのできる数として解釈し得るものであります. このことを説明するために, 次の命題を用意します. あらゆる進整数は, の位に置かれた桁がでなければ, 有限桁または無限桁の逆数をもつというものであります.
いいかえれば, の単数群 (逆数を有する元の全体, 乗法群) が \begin{align} \mathbb{Z}_p^\times=\{x\in\mathbb{Z}_p\mid a_0\neq0\} \end{align} に等しいということであります. 整数の環の単数群がという唯った二つの要素から成る集合であったことに比べると, 進整数にはとても多くの単数が存在している様子を感ずることができます. 前に掛け算のところで説明した具体例から, 例えば次の等式が得られます. \begin{align} \mathbb{Z}_3\ni\ \ \frac{\,1\,}{\,2\,}=(\ldots11112)_{(3)}. \end{align}
証明. は簡単である. 実際, の逆数をとすれば, \begin{align}x_1y_1\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.p)\end{align} になるからは必然である.
次にを示すのであるが, そのためには, 逆数を具体的に提示しなければならない. 合同式系 \begin{align} \begin{array}{l} x_ky_k\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.p^k) \end{array},\quad k=1,\ 2,\ 3,\ \ldots \end{align} を充たすを考えるとき, のためにであるから, 合同式における逆元の定理によってが各に一つ存在する. かくして剰余の列を構成するとき, を還元すればが得られ, \begin{align} x_ky_{k{+}1}\equiv x_ky_k\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.p^k). \end{align} ここからが明らかになる. 即ちが証明されるのである.
進数について, 分母から成るべく多くを抽出して \begin{align} y=p^n(\ldots b_{n+2}b_{n+1}b_n)_{(p)}=p^ny' \end{align}とする変形を考えます. ここにおけるを乗じる計算は, 上の演算の定義によると, 数列を項ずらす操作であります. このように変形をするとがを充たし, 分数を進整数との冪の商, \begin{align} f=\frac{1}{p^n}\cdot\frac{x}{y'},\quad \frac{x}{y'}\in\mathbb{Z}_p \end{align} の形に表示することを得ます.
この式は, 数列を負の向きに項シフトしたものがである, とも読むことができるので, 進数を \begin{align} f=(\ldots a_2a_1a_0\;.\;a_{{-}1}a_{{-}2}\ldots a_{-n})_{(p)} \end{align} のように表記するのは決して不自然ではありません. これを進数の小数展開といいます. また同様の手順によって, あらゆるの元は, \begin{align} f=p^nu,\quad n\in\mathbb{Z},\ u\in\mathbb{Z}_p^\times \end{align} の形式に唯だ一通りの方法で表すことができます. というのも, が進整数であるときは下の部分のをなくすように数列を右向きにずらし, 分数の場合も上の考察に従ってを括れば, 数列を左向きに動かすことができるからです. いわば最も低い位を小数点
に合わせる操作ということができるでしょう. 以降, 上に定義した整数をと表すことにします. これはの進付値 (-adic valuation) と呼ばれるものであり, 特に整数の範囲においては〈により割りきれる回数〉を表す函数として解釈されます. に関しては特別にを定義しておく必要が有ります.
Hensel の補題
続いて, 整数係数の多項式につき, 方程式 \begin{align} F(x)=0 \end{align} がの中に解を持つための条件を取りあつかいたいと思います. 前節においては, をの上で解いたり, の二次方程式をの上で解いたり, それから逆数に関する説明のところでの式を充たす進整数についての考察を致しましたが, これら三本の方程式には確かに解が存在していました. 然し, 必ずしも多項式にたいして方程式の進整数解が存在するとは限らないもので, 例えばとを選んだ場合, 抑も \begin{align} F\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.3) \end{align} の合同式に解がないので, 当然にしても解がありません. またとを選んでも, \begin{align} \begin{array}{l@{}c@{}l} x^2-5\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.5)&\Longrightarrow&x\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.5),\\ x^2-5\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.25)&\Longrightarrow&x\equiv{解無シ}\end{array} \end{align} という風になって進整数解を得ることができない. どうも方程式の進整数解の有無を支配している原理は, 全く混沌という類いではないにしても, 今すぐには解決の埒が明きそうにありません. 方程式に解があるかないかという疑問は大変重要なものであるので, これに関して規則性を調べなければならないのでありますが, その前に少しだけ微積分学における Newton 法 (ニュートン法) の説明をしたほうが善いでしょう.
Newton 法
次の命題で紹介するのは, 多項式に関する Taylor 展開 (テイラー展開) であります.
最初に, 少し退屈なお話しかも知れませんが, 多項式という概念について幾つかの事項を確認しておこうと思います. 抑も論理的な文脈において, 多項式とは数列 \begin{align} a_0,\ a_1,\ \ldots\ a_d,\ 0,\ 0,\ 0,\ \ldots \end{align} のことを指し, 形式的記号およびを遣って \begin{align} f=f(x)=a_0+a_1x+\cdots+a_dx^d \end{align} のように表記します. は不定元あるいは変数と呼ばれていますが, 要するに計算の利便性を担保するために用意された単なる目印であると考えると善いです. 二つの多項式に関してそれらの全ての係数が一致するとき, とは等しいといいます. そして, 多項式の和とは各々の多項式の対応する係数を足しあわせたもので, 多項式の積は分配律と指数法則 \begin{align} &A(B+C)=AB+AC,\\&(A+B)C=AC+BC, \\&x^mx^n=x^{m+n} \end{align} を仮定した際にいわゆる「展開」の操作によって得られる積のことであります. これらの多項式の演算は全て, に具体的な数を当てはめた際に矛盾が生じないように定義されておりますので, 特段憶えるのに苦労を要するものではないかと思います. 更に, 記号やは, 多項式をに置きかえるような形式的微分の結果を表します. 二変数以上の多項式についても同様であります.
それでは, を実数係数または進数係数の多項式として, Taylor 展開の命題を述べることに致しましょう.
例えば三次式を選んで等式を立てると, \begin{align} x^3=t^3+3t^2(x-t)+3t(x-t)^2+(x-t)^3. \end{align} これはを展開したものですから確かに両辺の多項式が一致しています. 命題の式を和の記号を遣って書くならば, の階微分をとして, \begin{align} F(x)=\sum_{n=0}^{d}\frac{F^{(n)}(t)}{n!}(x-t)^n. \end{align} ここには多項式の次数を表してあります.
の係数が通常の整数であるときは, およびに実数 (あるいは複素数) を代入することができます. そのとき右辺の和を途中で打ちきるとの付近におけるの近似式が得られることから, 定理の式をの周りでの Taylor 展開といいます. 先程のの例においては, 例えばに近い実数に関して \begin{align} x^3\approx1+3(x-1) \end{align} が凡その精度で成立しています. これは, 三次函数のグラフのにおける接線を使って一次近似をおこなった場合の式と合一であります.
証明. の次数をと置き, に関する多項式除算によって \begin{align} F(x)=c_d(x-t)^d+\cdots+c_1(x-t)+c_0 \end{align}
なるを定義する. 即ち, 始めにをにより除して, その剰余を次にによって除算し, 剰余が定数になるまで除法を続けるのである. そのとき, 係数はを含まず, 若しが整数係数を有するならば, に関する整数係数多項式になる. これは, の係数に進整数を考慮しても同じである. 等式の成りたつ事実は, 上の等式をについて繰りかえし形式的に微分して, 順次にを代入すれば証明することができる (省略).
これを踏まえて, Taylor 展開の知見に基づいた場合の Newton 法の理論をご説明します. 函数のグラフを平面の上に描いて, これが軸と交差する点の座標, 即ちの実数解が存在するものを考えます. そして今の近似値として, 或るが判明しているという設定をしましょう. 始めに曲線の点における接線を引き, これが軸と交わる点の座標をとします. その次ににたいして全く同じ事をおこなってを得たあと, 同様になどを構成してゆきます. 以上の操作を図にしてみると, 充分に大きい番号については, が始めの近似値よりもに接近しているいわば優良な近似であることが予想されます.
簡単な計算により, の漸化式として \begin{align} x_k=x_{{k}{-}{1}}-\frac{F(x_{{k}{-}{1}})}{F'(x_{{k}{-}{1}})} \end{align} が成りたつことが判ります. 今分子に現れたが既に或る程度に近いことを仮定しますと, がいえます. ここで Taylor 展開の式, \begin{align} F(x_k)=F(x_{{k}{-}{1}})+F'(x_{{k}{-}{1}})(x_{k}-x_{{k}{-}{1}})+R,\\R\approx0 \end{align} を立て, 上の漸化式を持ちこむと, \begin{align} F(x_k)=R\approx0. \end{align} 誤差は程度の大小しかありませんから, 極限を取ればきっとになるはずです. これで一応, Taylor 展開を使いながら, Newton 法による近似の正確性を示すことができたのであります. 評価のしかたが大雑把ではありますが, 次の節に入ってこの解釈法が大切になるので, 上のグラフをよく記憶に留めておいてください.
Hensel の補題
非負整数から進整数への拡張の仕方を説明したとき, 方程式の解が \begin{align} x=(\ldots a_2a_1a_0)_{(p)} \end{align} なる形であることを仮定して, より順次に桁を決定する方式を導入しました. このをの〈近似解〉に見たて, の列をに漸近してゆく収束列と思いこむならば, ここに Newton 法との類比を捉えることができると思います. 我々は実際に, Taylor 展開の近似観を進数に応用することによって, 或る条件の下において方程式に進整数の解が存在することの, 明快な証明法を見いだすことができるのです. その存在定理は Hensel の補題 (ヘンゼルの補題) と呼ばれます.
扨て未定義であった記法について一点を補足しますと, 進整数をにより還元したとは, のように進整数を表示したときのを意味するものとします. 高い冪のも同じ定義で, 下桁を取りだした羅列を表します.
当初はが係数でである場合のみを想像していましたが, 定理の主張はその一般化に当たります.
証明. 帰納法によって, 各正の整数について以下の条件を満足させるがあることを証明する. \begin{align} \left(\begin{array}{l} F(x_k)\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p^k),\\\ \\ F'(x_k)\not\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.p),\\\ \\ x_k\equiv x_{k{-}1}\ \ (\mathrm{mod}.p^{k{-}1})\quad(k\gt1\,\mbox{の場合}). \end{array} \right. \end{align} の場合は前提におけるが適例である.
から或るまでの存在を仮定し, 次の公式によって, 新規にを構成する. \begin{align} x_k=x_{{k}{-}{1}}-\frac{F(x_{{k}{-}{1}})}{F'(x_{{k}{-}{1}})}\ \ \in\mathbb{Z}_p. \end{align} 今はであるから, これが分母にあっても, 確かにが成りたつのである. 先ず帰納法の仮定によれば, \begin{align} x_k\equiv x_{{k}{-}{1}}\ \ (\mathrm{mod}.p^{k{-}1}) \end{align} が成立する. 次に Taylor 展開の式,
を考えれば, に従って \begin{align} F(x_k)\equiv F(x_{{k}{-}{1}})+F'(x_{{k}{-}{1}})(x_{k}{-}x_{{k}{-}{1}})\equiv0. \end{align} また法において, \begin{align} F'(x_k)\equiv F'(x_{{k}{-}{1}})\equiv\cdots\equiv F'(x_1)\not\equiv0 \end{align} が成りたつ. 故に各について前述の条件通りのを構成することができる. 然らば, 射影的にとして得られる, \begin{align} x=(x_1\ \mathrm{mod}.p,\ x_2\ \mathrm{mod}.p^2,\ \ldots)\in\varprojlim\mathbb{Z}/p^k\mathbb{Z} \end{align} の進整数が方程式の解である.
Taylor 展開を使わずに Hensel の補題を論ずることも可能ではありますが, 今の証明方法を用いる意義は, を構成的に, 計算のできる形式において示しているところにあります. 実際に微分を使いながらの方程式をの上で解くと, 近似の仕様をよく理解できるのではないかと思います.
Hensel の補題によりますと, 或る方程式にたいする内の解を上の解に持ちあげることができ, 反対に, 進整数の解を剰余解に還元することもできます. 持ちあげ, 還元という用語はとても便利ですから, 今後も遣うことが有るはずです.
進数論の輪郭ができてきたところで, 今回の記事を綴じておくとしましょう. 次回 (2) では, Hensel の補題の応用として, 進整数における平方数の全像を明らかにします. それから三平方和定理の証明もご覧に入れたいと思います.
演習問題
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およびは二次方程式の解であることを示せ.
ととの等式が成立することを示せ.
の進整数の解はの四個のみであることを証明せよ.
個.
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同型でない.
がに属することを示せ. また, を満足させる最小の正整数を答えよ.
剰余環の単元群は或る巡回群と同型であることを示せ. の場合は既知のものとして構わない.
(2) の記事 :
多変数二次の不定方程式について (2) p 進平方数, 三平方和定理 - Arithmetica 算術ノート