Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

平方数から成る等差数列の決定問題

三つの平方数を並べて構成することのできる等差数列には 1, 25, 49 を始めとする無数の例が存在するが, 相異なる四つの平方数が等差数列を成すことは有り得ない.

 

この記事では, 以下を目標として上記の定理を証明します.

  • 平方数から成る等差数列を全把握すること.



前提知識

直線や円の方程式, 等差数列, Pythagoras (ピタゴラス) 数の表示







導入

今回扱う問題の内容は「平方数のみを項に持つ等差数列にはどのようなものがあるか ? 」という至って単純なものです. これは先日, ふと思いつき考えていたもので, 初等的な幾何の手法によっても, また無限降下法によっても解決することができ, 面白く感じたために今このような記事を執筆しています. 具体的な数字を思いうかべて, 該当する例を幾つか探してみてください.


等差数列に並べられる項の個数をその長さと呼びますが, 長さが\ 1\ \ 2\ のものについては解が明白でありますから省略, また同一の平方数のみが並ぶ等差数列も度外に置いておきましょう. 長さが\ 3\ のものとしては \begin{align} 1(=1^2),\ 25(=5^2),\ 49(=7^2) \end{align} が直ちに見つかり, 他にも \begin{align} &49(=7^2),\ 169(=13^2),\ 289(=17^2)\\ &1(=1^2),\ 841(=29^2),\ 1681(=41^2) \end{align} などが小さな範囲で存在します. これら三つ組の一般形を記述することが第一の目標と成りましょう.


そして第二は, 数字の計算においては中々発見されなかった長さ\ 4\ 以上の数列について, その不可能性を証明することにあります. こちらが今日の本題です.





解の推断

証明に取りかかる前に, 確率的な計算によって平方数から成る等差数列の長さの最大値に予想を付けてみることにしましょう. このように確率や密度の考察によって結果を推しはかることを英語で heuristic (発見的考察) というのですが, これといって相応しい訳語がないようなので, 暫定で推断と呼ぶことにします. 一般的には片仮名で ヒ ュ ー リ ス テ ィ ッ ク のように翻字されることが最も多いようです. 

問題 \ N\ を十分に大きな正の整数とします.
\ (\mathrm{a})\ \ l,\ d\ \ N\ 以下の正の整数とすると, 整数 \begin{align} 1,\ 2,\ \ldots\ N \end{align} より\ l\ 個の数を選んで, 長さ\ l\ かつ公差\ d\ の等差数列を作る方法は何通りですか. ただし, 選んだ数の並びを崩すことは考えません.
\ (\mathrm{b})\ 前の問題の答えを\ d=1\ から\ d=N\ まで総和して, 近似計算をおこない, 平易な形式に表してください. 下の問題が解けるのならば, どのような近似方法を採用しても構いません.
\ (\mathrm{c})\ 仮に, \ 1\ 以上\ N\ 以下の整数\ x\ の平方数である確率が, 全て同様に確からしく, 約\ 1/\sqrt{N}\ であるとするならば, どのようなことが言えるでしょうか.





円周上の有理点

問題 \ (x,y)\ 平面において, 円 \begin{align} \Omega:x^2+y^2=2 \end{align} の上に乗る有理点の全体を\ \mathcal{Q}\ と置きます. このとき,
\ (\mathrm{d})\ \ 2\ つの集合\ \mathbb{Q}\cup\{\infty\},\ \mathcal{Q}\ の間に全単射 (要素どうしの一対一の対応) が存在することを証明してください. ただし, \ \infty\ は何らかの単一要素を表す形式的な記号であり, \ \mathbb{Q}\ 有理数全体の集合を表しています.

手引き : 円周上の点と, 〈直線の傾き〉を対応させることが大切です.

\ (\mathrm{e})\ 相異なる非負な整数の平方\ a^2,\ b^2,\ c^2\ がこの順に等差数列を成している場合を考えます. この条件に同値変形を施して, 組\ (a,b,c)\ の一般形を記述してください.
\ (\mathrm{f})\ 相異なる非負な整数の平方\ a^2,\ b^2,\ c^2,\ d^2\ がこの順に等差数列を成すような場合は有り得ないことを証明してください.





無限降下法による証明

\ (\mathrm{g})\ また別に, Pythagoras 数の公式と無限降下法によって, 長さ\ 4\ の数列が有り得ないのを証明することはできるでしょうか. \ (a^2-4d^2)(a^2-36d^2)\ が平方数になる正整数\ a,\ d\ について考察してください.

横棒の上に数字を書いて, 整数の間の最大公約数を表すことにします. \begin{align} 322\stackrel{2}{-\!-}144. \end{align} また\ X/Y\downarrow\ は既約分数であることを示す記号です.

解答. 次の補題から始める.

補題. 次式を充す正整数\ a,\ d\ は存在しない. \begin{align} (a^2-4d^2)(a^2-36d^2)\in\Box,\ a\stackrel{1}{-\!-}d,\ 2\nmid a. \end{align}

条件の下\ a^2-4d^2\ \ a^2-36d^2\ は互に素であり共に平方数であることを要する. 故に Pythagoras 数の定理に依て \begin{align} \left(\begin{array}{l}2d=2uv,\ \&\ 6d=2xy\\a=u^2+v^2=x^2+y^2\\u\stackrel{1}{-\!-}v,\ x\stackrel{1}{-\!-}y\end{array}\right. \end{align} を充す正整数\ u,\ v,\ x,\ y\ があり, \ 2\ を法として\ u\equiv v+1\ および\ x\equiv y+1\ を充す. これら\ u,\ x\ の偶奇はそれぞれ任意である. ここから\ a\ および\ d\ を消去すれば \begin{align} 3uv=xy,\ &\ u^2+v^2=x^2+y^2. \end{align} 新たに\ 3uv=xy=3pqrs\ の式を立てるべく各文字の因数分解を定めて次様にする. \begin{align} u=pq,\ v=rs,\ \&\ x=3pr,\ y=qs \end{align} または \begin{align} u=pq,\ v=rs,\ \&\ x=pr,\ y=3qs. \end{align} 但し上記\ p,\ q,\ r,\ s\ は次の関係を充しているとする.

二通りに就て四式を\ u^2+v^2=x^2+y^2\ に持込む事を試みる. 始に偶奇の表を示す.

\begin{align} \begin{array}{c||c|c} & 2\mid u & 2\nmid u \\ & 2\nmid v & 2\mid v \\\hline\hline 2\mid x & 2\mid p & 2\mid r \\ 2\nmid y & 2\nmid qrs & 2\nmid pqs \\\hline 2\nmid x & 2\mid q & 2\mid s \\ 2\mid y & 2\nmid prs & 2\nmid pqr \end{array}\end{align} 第一の場合式に曰く \begin{align} p^2q^2+r^2s^2=9p^2r^2+q^2s^2 \end{align} 即ち \begin{align} p^2(q^2-9r^2)=s^2(q^2-r^2). \end{align} \ u\ \ x\ の偶奇を選び \begin{align} q^2-9r^2\equiv q^2-r^2\not\equiv0\ \ (\mathrm{mod}.2) \end{align} とするならば \begin{align} p^2/s^2\downarrow\;=(q^2-r^2)/(q^2-9r^2)\downarrow \end{align} であって \begin{align} \pm p^2=q^2-r^2,\ \pm s^2=q^2-9r^2. \end{align} 今偶奇の選択を\ 2\nmid u\ かつ\ 2\mid x\ に確定すれば\ r=2r'\ であって \begin{align} (q^2-4r'^2)(q^2-36r'^2)\in\Box. \end{align} 而も\ q\ は奇数であり\ q\stackrel{1}{-\!-}r'\ を充す. 今 \begin{align} a=u^2+v^2\gt u=pq\geqslant q \end{align} であるから\ (q,r')\ \ (a,d)\ と同一の条件を充しかつ第一成分に関して始の組よりも小である. 然らば同様の理屈を反復して得られる系列 \begin{align} a\longmapsto q\longmapsto\cdots\to-\infty \end{align} は正整数から成る列であるにも拘わらず限りなく減少して極まる所を持たない. これは非合理であるので解は存在しないことが言える. 留保していた第二の場合も同様. 終


相異なる四個の平方数\ A^2,\ B^2,\ C^2,\ D^2\ が若し等差数列を成すならばこれらは偶奇に関して合一である. 故に四数を互に素なる奇数となしてその公差を\ 4d\ と置き \begin{align} &A^2=a-6d,\ B^2=a-2d,\\ &D^2=a+6d,\ C^2=a+2d \end{align} とすれば\ a\stackrel{1}{-\!-}d\ かつ\ 2\nmid a\ の式を得るけれども, 補題に依ると斯くが如きは不可能である.

\Box

 





もう一つの法則性 ?

この法則性とというのは, いわゆる\ \sqrt{2}\ の近似分数列 \begin{align} \frac{1}{1},\ \frac{3}{2},\ \frac{7}{5},\ \frac{17}{12},\ \frac{41}{29},\ \frac{99}{70},\ \frac{239}{169},\ \frac{577}{408},\ \ldots \end{align} に関する性質なのですが...... この列を見ていると, さきほど考えていた数字が目に入ってきませんか*1.





*1:こちらは, 先日私の友人に教えてもらったものです. 全ての組を拾えてはいないものの, 純粋な平方数の疑問に Pell 数列の等式が関わっているという背景は, とても感慨深いところが有ると思います.

[tex: ]


ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



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算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

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