Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

ABC定理を用いたフィボナッチ累乗数の有限性の簡易証明

〔フィボナッチ累乗数の有限性〕
フィボナッチ数列中に現れる累乗数は有限個である.

この記事では以下を目標として記します.

  • ABC定理の成立を仮定して, フィボナッチ数列中に現れる累乗数が高々有限個であることを証明する.



前提知識

(ABC定理, )数学的帰納法, リュカ数列・フィボナッチ数列の一般項など







ABC定理

まずはABC定理のステートメントをここに書いておきます.

定義 1 \ a+b=c\ を満たすような互いに素な正整数\ a,b,c\ の組をabc-tripleという.
定理 2(ABC定理) \ (a,b,c)\ をabc-tripleとするとき, 任意の実数\ \epsilon\gt0\ に対して\begin{align} c\lt K(\epsilon){\rm rad}(abc)^{1+\epsilon} \end{align} を満たすような, \ \epsilon\ によって定まるある実数\ K(\epsilon)\gt0\ が存在する. ここで, \ {\rm rad}(abc)\ \ abc\ の異なる素因数の積を表す.

\ {\rm rad}\ という函数の具体例として以下を計算してみます.


\ (a,b,c)=(2,3,5)\ のとき\ {\rm rad}(abc)=2\cdot3\cdot5=30.\
\ (a,b,c)=(1,8,9)\ のとき\ {\rm rad}(abc)=2\cdot3=6.\
\ (a,b,c)=(25,144,169)\ のとき\ {\rm rad}(abc)=5\cdot2\cdot3\cdot13=390.\


イメージとしては, 「\ {\rm rad}(abc)\ を少し大きくすれば\ c\ の値を上回る. 」という感じです. \ 1+\epsilon\ 乗して少し大きくするのは, \ c\gt K{\rm rad}(abc)\ を満たすabc-triple\ (a,b,c)\ はどのような\ K\ においても存在するからです (例えば充分に大きい整数\ n\ を取って\ (1,3^{2^n}-1,3^{2^n})\ を選ぶ.  第二成分は\ 2\ \ n\ 回程割れる).





フィボナッチ累乗数は高々有限個である

\ n\ は正整数, \ L_n,\ F_n\ はそれぞれリュカ数, フィボナッチ数とします.

補題 3 任意の\ n\ に対し,

\ (1)\ \ L_n^2-5F_n^2=4\cdot(-1)^n.\
\ (2)\ \ L_n=F_{n+1}+F_{n-1}\ \ (n\ge2).\

証明. \ (1)\ \ \phi=(1+\sqrt{5})/2, \bar{\phi}=(1-\sqrt{5})/2\ とおいて一般項を代入し, \ \phi\bar{\phi}=-1\ に注意して計算すると

\begin{align} L_n^2-5F_n^2&=\phi^{2n}+2\cdot(-1)^n+\bar{\phi}^{2n}-\phi^{2n}+2\cdot(-1)^n-\bar{\phi}^{2n}\\ &=4\cdot(-1)^n. \end{align}

\ (2)\ 同様に\begin{align} L_n&=\frac{(\phi^n+\bar{\phi}^n)(\phi-\bar{\phi})}{\phi-\bar{\phi}}\\ &=\frac{\phi^{n+1}-\bar{\phi}^{n+1}+\phi^{n-1}-\bar{\phi}^{n-1}}{\phi-\bar{\phi}}\\ &=F_{n+1}+F_{n-1}. \end{align}

\Box

 

系 4 任意の\ n\ に対し, \ L_n\le3F_n.\

証明. 補題 3 より\ L_n^2\le9F_n^2\ であるから, \ L_n\le3F_n.\

\Box

 

系 5 任意の\ n\ に対し, \ F_n\le L_n.\

証明. \ n\geq2\ のとき,  補題の二番目の等式により \begin{align} L_n-F_n=F_{n+1}+F_{n-1}-F_n=2F_{n-1}\geq0. \end{align} \ n=1\ のときは自明である.  

\Box


では証明に入ります.

定理 6 ABC定理が成立するならば, フィボナッチ数列中に現れる累乗数は有限個である.

証明. \ F_n\ が累乗数となるような\ n\ をとる. \ n\ の偶奇によって場合分けし, いずれの場合も\ n\ の値に上界があることを確かめる.


\ (1)\ \ n\ が奇数のとき
補題 3 より\ L_n^2+4=5F_n^2\ であり, \ L_n^2,\ 4,\ 5F_n^2\ の最大公約数を\ d\ とおくと\ \displaystyle\frac{L_n^2}{d},\ \frac{4}{d},\ \frac{5F_n^2}{d}\ は互いに素になるので, この組はabc-tripleである.

実は, \ d\ \ 4\ の約数で, \ L_n^2,\ 5F_n^2\ \ 2\ で偶数回だけ割り切れることから\ d\in\{1,4\}\ がいえますが, 証明を完結するにあたって\ d\ の具体的な値は大して重要なものではありません.

このとき\ \epsilon=1/4\ として定理 2 を適用すると, \begin{align} \frac{5F_n^2}{d}\le K{\rm rad}\left(\frac{L_n^2}{d}\cdot\frac{4}{d}\cdot\frac{5F_n^2}{d}\right)^{5/4} \end{align} を満たす正実数\ K\ が存在する. ここで, \begin{align} {\rm rad}\left(\frac{L_n^2}{d}\cdot\frac{4}{d}\cdot\frac{5F_n^2}{d}\right)&\le{\rm rad}(L_n^2)\cdot2\cdot5{\rm rad}(F_n^2)\\ &=10{\rm rad}(L_n){\rm rad}(F_n) \end{align} ここで\ F_n\ は累乗数より\ {\rm rad}(F_n)\le\sqrt{F_n}\ が成り立つので

\begin{align} {\rm rad}\left(\frac{L_n^2}{d}\cdot\frac{4}{d}\cdot\frac{5F_n^2}{d}\right)&\le10L_n\sqrt{F_n}\\ &\le10\cdot3F_n\cdot\sqrt{F_n}=30F_n^{3/2}. \end{align}

よって, \begin{align} \frac{5F_n^2}{d}\le K\cdot\left(30F_n^{3/2}\right)^{5/4}.\end{align} 定数の部分をまとめて\ K'\ とおいて整理すると \begin{align} F_n^2\le K'F_n^{15/8}&& F_n^{1/8}\le K'\\\end{align} となって, \ n\ の値は有限個に限定された.


\ (2)\ \ n\ が偶数のとき

先ほどと同様に, 補題 3 から得られる式\ 5F_n^2+4=L_n^2\ に着目して議論を進めるのですが, \ 5F_n^2\ \ L_n^2\ が入れ替わっただけなので, 途中までは先ほどと全く同様になります.

\ 5F_n^2+4=L_n^2\ なので, 上の議論とほぼ全く同様にして,

\begin{align} \frac{L_n^2}{d}\le K{\rm rad}\left(\frac{L_n^2}{d}\cdot\frac{4}{d}\cdot\frac{L_n^2}{d}\right)^{5/4}\le K\cdot\left(30F_n^{3/2}\right)^{5/4} \end{align}

なる実数\ K\gt0\ の存在が示される. 定数の部分をまとめて\ K'\ とおいて補題 5 を用いると \begin{align} L_n^2\le K'F_n^{15/8}\le K'L_n^{15/8} \end{align} 整理すると\ L_n^{1/8}\le K'\ となって, この場合も\ n\ の値には上界が存在する.

\Box

 

同様な証明方法を用いて次の定理も示すことができます.  

定理 7 ABC定理が成立するならば, リュカ数列中に現れる累乗数は有限個である.





補足

フィボナッチ累乗数

今回はABC定理の仮定のもとでフィボナッチ累乗数が高々有限個であることを証明しましたが, 実は, フィボナッチ累乗数は \begin{align} 1,\ 8,\ 144 \end{align} の\ 3\ つのみであることが2004年に「モジュラー」の手法によって証明されています.  特にフィボナッチ平方数が\ 1\ \ 144\ のみであるという事実はとても有名なので, このブログでもいつか証明を紹介したいと思っています.  追記 : 書きました ! 

https://yu200489144.hatenablog.com/entry/2021/06/01/215825



 





参考文献

[1] Andrew Granville (2005), "Featured Article." F. Q. (The Fibonacci Quarterly), Vol.43, No.01; pp.3-14.

[2] Waldschmidt, Michel (2015), "Lecture on the \ abc\ conjecture and some of its consequences." Springer Proc. Math. Stat. 98. Basel: Springer; pp.211–230.





[tex: ]


ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



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算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

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