この記事は以下を目標として記しています.
- 二平方和定理に対して, 合同式論と鳩の巣原理を用いた初等的な証明を与える.
整数部分, 合同式, 鳩の巣原理など
実験
まずは, として具体的に確かめてみます. は奇素数としていたのでは考えません. \begin{align} &3=\\ &5=1^2+2^2\\ &7=\\ &11=\\ &13=2^2+3^2\\ &17=1^2+4^2\\ &19=\\ &23=\\ &29=2^2+5^2\\ &31=\\ &37=1^2+6^2\\ &41=4^2+5^2\\ &43=\\ &47=\\ &53=2^2+7^2\\ &59=\\ &61=5^2+6^2\\ &67=\\ &71=\\ &73=3^2+8^2\\ &79=\\ &83=\\ &89=5^2+8^2\\ &97=4^2+9^2 \end{align} 空白になっている箇所はどのようなつの平方数の和でも表せないということです. たとえば, を満たす整数の組は存在しません.
は奇素数としていたのでではまたはのいずれかとなりますが, 上記の結果から,
のとき, はつの平方数の和で表せる.
のとき, はつの平方数の和で表せない.
が成り立つであろうという予想を立てることができます. 以下では, とのそれぞれについて, 初等的な証明を紹介したいと思います.
(2) の証明
こちらは簡単です. いわゆる平方剰余というものに着目します.
証明. ある整数をで割ったときの余りはの通りであるが, \begin{align} &0^2=0\equiv0\ \ ({\rm mod}\ 4)\\ &1^2=1\equiv1\ \ ({\rm mod}\ 4)\\ &2^2=4\equiv0\ \ ({\rm mod}\ 4)\\ &3^2=9\equiv1\ \ ({\rm mod}\ 4) \end{align} よりをで割ったとときの余りは以外にありえない. もしを満たす整数が存在していたと仮定すると, をで割った余りはまたはであることから \begin{align} &p\equiv0+0\equiv0\ \ ({\rm mod}\ 4)\\ &p\equiv1+0\equiv1\ \ ({\rm mod}\ 4)\\ &p\equiv0+1\equiv1\ \ ({\rm mod}\ 4)\\ &p\equiv1+1\equiv2\ \ ({\rm mod}\ 4) \end{align} のいずれかになり, では不適である.
(1) の証明
の証明には少しテクニカルな方法が必要です. 無限降下法を用いる証明方法が有名かもしれませんが, ここでは鳩の巣原理を利用して証明します.
たとえばのとき, \begin{align} &2^2=4\equiv-1\ \ ({\rm mod}\ 5)\\ &3^2=9\equiv-1\ \ ({\rm mod}\ 5) \end{align} なのでが解になります.
この補題は議論の途中で必要になるものです. この補題の証明は次の項で扱います.
証明. 平面上で, で表現される正方形型の領域を考える.
ここで次の事実を確認する.
事実. 領域に含まれる格子点は個よりも多い.
図より, 格子点の個数を数えると個である. ただし, での整数部分を表している. このとき \begin{align} (\lfloor\sqrt{p}\rfloor+1)^2\gt(\sqrt{p}-1+1)^2=p \end{align}より格子点の数は個よりも多いことがわかる.
ここで補題 2 よりを満たす整数が存在するので, その解のうちのつをとおく.
領域に含まれる格子点のそれぞれに対し, 「をで割った余り」を考えると, これらはの個の値以外をとらない. ところが, 事実より格子点の数は個を上回るので, 「をで割った余り」が等しいようなつの格子点が存在する.
つまり, に含まれるつの異なる格子点であって, \begin{align} x_1+y_1r&\equiv x_2+y_2r\ \ ({\rm mod}\ p)\\ (x_1-x_2)+(y_1-y_2)r&\equiv0\ \ ({\rm mod}\ p) \end{align} を満たすようなものが存在する. とおくととなり, 両辺にをかけると \begin{align} X^2-Y^2r^2&\equiv0\ \ ({\rm mod}\ p)\\ X^2+Y^2&\equiv0\ \ ({\rm mod}\ p) \end{align} となるのではの倍数である.
加えて, はに含まれる格子点としていたから \begin{align} &X^2=(x_1-x_2)^2\lt\sqrt{p}^2=p\\ &Y^2=(y_1-y_2)^2\lt\sqrt{p}^2=p \end{align} よりがいえる. または異なる点としていたからがともにであることはない. よって \begin{align} 0\lt X^2+Y^2\lt2p \end{align} が成り立つが, この範囲にあるの倍数はのみなのですなわち, をつの平方数の和で表すことができた.
補題 2 の証明
最後に, 前の項で仮定した補題 2 の証明に入ります.
証明. 個の数 \begin{align} 0a,\ 1a,\ 2a,\ 3a,\ \ldots,\ (p-1)a \end{align} を考え, これらがにおいてすべて異なる値をとることを示す. もしと がにおいて合同であったとすると, その差はの倍数になるが, は仮定よりで割り切れず, またよりもの倍数になりえないので矛盾. よって, 個の数 \begin{align} 0a,\ 1a,\ 2a,\ 3a,\ \ldots,\ (p-1)a \end{align} をで割った余りを並べれば, からまでのすべてが現れる. その中にただつだけ存在する, と合同なものをとおけば, となる.
以降, このようなを「(における)の-ペア」と呼ぶことにします.
を代入すると \begin{align} &1!\equiv-1\ \ ({\rm mod}\ 2)\\ &2!\equiv-1\ \ ({\rm mod}\ 3)\\ &4!\equiv-1\ \ ({\rm mod}\ 5)\\ &6!\equiv-1\ \ ({\rm mod}\ 7) \end{align} となって, 確かに成り立っています. がこれくらい小さな値であればを計算してからで割った余りを考えてもよいのですが, たとえばの場合, を計算すると大きな値になってしまうので, 次のように工夫します. \begin{align} 10!&=1\cdot2\cdot3\cdot4\cdot5\cdot6\cdot7\cdot8\cdot9\cdot10\\ &=1\cdot(2\cdot6)\cdot(3\cdot4)\cdot(5\cdot9)\cdot(7\cdot8)\cdot10\\ &\equiv1\cdot1\cdot1\cdot1\cdot1\cdot(-1)\ \ ({\rm mod}\ 11)\\ &\equiv-1\ \ ({\rm mod}\ 11). \end{align} つまり, それぞれの因数をその-ペアと組にして, にしてしまうということです. ただし, とだけは-ペアが自分自身になるので, 分けて考える必要があります. 一般のについても全く同様です.
証明. の以外の各因数を, その-ペアと組にして計算すると \begin{align} (p-1)!\equiv1\cdot1\cdot1\cdot\cdots\cdot1\cdot(p-1)\equiv-1\ \ ({\rm mod}\ p) \end{align} となる. ただし, のそれぞれに唯一の-ペアが存在することは補題 4 からしたがう.
これで準備は完了です.
証明. が奇素数であることを前提とし, 対偶をとって
を証明する. そのために, をで割った余りについて考える.
補題 4 より, においてはそれぞれ唯一の-ペアを持ち, またとなるようなが存在しないことから-ペアが自分自身になるものはない. よって \begin{align} (p-1)!\equiv(-1)^{\frac{p-1}{2}}\ \ ({\rm mod}\ p). \end{align} 補題 5 の結果と合わせるととなるが, よりが成り立つことはないのでがいえる. これはが奇数であること, すなわちであることを表している. したがって対偶が示されたので, もとの命題も真である.
補足
実は, 補題 5 および補題 6 の逆もそれぞれ成り立つことが知られています.
定理 6 の()の証明はあまり難しくありません. 定理 7 の必要性()については, 十分性の証明のときとほとんど同じですが, -ペアが自分自身になるようなものがあるという点で少し厄介なので補填しなければなりません. これらの証明の詳細については省略しますので, 考えてみてください.
演習問題
を互いに素な整数とするとき, はで割って余る素因数を持たない.
で割って余る素数は無数に存在する.
整数がつの平方数の和で表せるために必要かつ十分な条件は, を素因数分解したときにで割って余る素因数の冪指数がすべて偶数であることである.
整数がつの三角数の和で表せるために必要かつ十分な条件は, を素因数分解したときにで割って余る素因数の冪指数がすべて偶数であることである. ただし三角数にはを含めて考えるものとする.
*1:以降に示す事実を満たすような広さの領域で, かつ後のの値の範囲をうまく限定できるような狭さの領域であるから, ということが理由です.