正の整数 𝑁 に対して, 次の同値が成立する.
この連続記事は, 以下を目標として記したものです.
- フィボナッチ数の判定式に対して初等的な証明を与える.
- ペル型方程式の解法について考察し, 二次体とその整数環や単数といった代数的整数論の概念に触れる.
漸化式など
(2) の記事 :
フィボナッチ数の判定式 (2) 二次体とその整数 - Arithmetica 算術ノート
(3) の記事 :
フィボナッチ数の判定式 (3) 二次体の整数の整除と単数 - Arithmetica 算術ノート
実験
としての値を具体的に計算すると次のようになり, 定理()の成立を確かめることができます.
この結果を見ると, が偶数のときはが平方数になり, が奇数のときはが平方数になるであろうと予想が付きます. ただしの二項が重複しているの場合のみ, 両方が平方数になります. さらに, 平方数になる場合についてその平方根 (正の平方根) を抽出して並べれば, \begin{align} 1,\ 3,\ 4,\ 7,\ 11,\ 18,\ 29,\ 47,\ 76,\ 123,\ \ldots \end{align} のような数列が得られますが, これはリュカ数列と呼ばれ, フィボナッチ数列と相補的な関係にある数列です. リュカ数列はフィボナッチ数列と同様に, 漸化式 \begin{align} L_1=1,\ L_2=3,\ L_{n+2}=L_{n+1}+L_n \end{align} によって定義されます.
また, が平方数であるとき, ある正の整数が存在してつまり \begin{align} x^2-5N^2=\pm4 \end{align} が成り立つので, 証明の際にはこの方程式の正整数解について考察することになります. 以降, 文字をで統一するために, をにおきかえてと書くことにします.
以上の考察から次の定理が予想されます. 次項でこの定理の初等的証明について述べたいと思います.
を代入して計算すればわかるように, 初めの個の解は以下の通りになります. \begin{align} \begin{array}{ll} (x,y)=(1,1) & (n=1)\\ (x,y)=(3,1) & (n=2)\\ (x,y)=(4,2) & (n=3)\\ (x,y)=(7,3) & (n=4)\\ (x,y)=(11,5) & (n=5)\\ (x,y)=(18,8) & (n=6)\\ (x,y)=(29,13) & (n=7)\\ (x,y)=(47,21) & (n=8)\\ (x,y)=(76,34) & (n=9)\\ (x,y)=(123,55) & (n=10)\\(x,y)=(199,89) & (n=11)\\(x,y)=(322,144) & (n=12). \end{array} \end{align}
初等的証明
証明. まずとおくとの対応は \begin{align} f\;\colon\;(x,y)\longmapsto(X,Y) \end{align} と表される. ここで以下の事項を示す.
のときはともに正整数である.
は偶数であるからとの偶奇は等しく, との偶奇も一致する. ゆえにはともに整数である. 次に, それぞれが正であることを背理法によって示す.
もし仮にとすれば \begin{align} x^2-5y^2\ge(5y)^2-5y^2=20y^2>4 \end{align} となって不適であり, 同様に, を仮定しても, によって \begin{align} x^2-5y^2\le y^2-5y^2=-4y^2\lt -4 \end{align} の評価が得られる. これは不合理である. よって
もまた方程式の解である.
代入して計算をすれば, \begin{align} X^2-5Y^2&=\left(\frac{5y-x}{2}\right)^2-5\left(\frac{x-y}{2}\right)^2\\&=\frac{-4x^2+20y^2}{4}\\&=-(x^2-5y^2)=\mp4. \end{align} すなわちもまたを満たす. 加えて, との符号がつねに異なることも明らかになった.
のとき
対偶をとってを証明する. のときすなわちであることを用いると, \begin{align} x^2-5y^2\ge(3y)^2-5y^2=4y^2\ge4. \end{align} 最後の不等号において等号が成り立つの場合を除いて, これは不適である.
ゆえに, のときにをを通じて変換すれば, 新たな解が得られるので, のいかなる解も, をいくらか演算すればの場合に帰着する. のとき, が方程式の解であるが, はによってに移されるから, 以外のあらゆる解は, 繰り返しをかける操作によってに変換されるのである.
は一対一の対応を持つ函数(全単射)なので, による解の変換を次の図のように表したとき, 途中で枝分かれが起こることはありません.
したがって, 最も小さい解から始めて矢印を逆向きにたどっていけば, すべての解を渡ることができます.
図においては, の対応に基づいた順番で, 解を \begin{align} \ldots,\ (x_3,y_3),\ (x_2,y_2),\ (x_1,y_1)=(1,1) \end{align} と表現してあります. 加えて補題の証明中に導出した不等式から, という羅列はの値について小さい順 (昇順) に並んでいることがわかります. すなわち, を次の規則:
つまりのとき, のすべての解をの値について昇順に並べて番目にあたる解をとする.
つまりのときは, の値が重複するのでを規定する.
によって定義すると, の変換は \begin{align} (x_{n+1},y_{n+1})\longmapsto(x_n,y_n) \end{align} と表されます.
これから, 補題を使って定理を証明してみせたいと思います.
証明. 補題によれば, のいかなる正整数解も, 変換を繰り返すことによってついにはに移される. さて, このによって各は一対一に対応し, かつが解であることとが解であることは同値であるから, をの逆変換によって移してゆけば, のあらゆる正整数解が得られることになるであろう.
の定義により, に対し\begin{align} \left\{ \begin{array}{l} x_{n-1}=\dfrac{5y_n-x_n}{2} \\ y_{n-1}=\dfrac{x_n-y_n}{2} \end{array} \right. \end{align} が成立する. 第一式から である. これを第二式に代入して \begin{align} \frac{x_{n-1}+2x_{n-2}}{5}&=\frac{1}{2}\left(x_n-\frac{x_n+2x_{n-1}}{5}\right) \\ 2(2x_{n-2}+x_{n-1})&=5x_n-(x_n+2x_{n-1}).\end{align}式を整理するとになり, と合わせると同様にからも得られる. ゆえにの解はによって与えられる.
また, 補題の証明中の論を見れば, との符号はつねに異なる. ここから定理の後半が得られる.
証明に用いた函数の対応は, 具体的に書き出すと次のようになります. ただし, はの逆向きの変換をする函数(逆函数)であります.
函数によってを繰り返し変換してゆくと, その像がのすべての正整数解をわたることを利用して, の漸化式を作り, 再帰的に解を表現することができたというのが, 上記証明の流れになります.
こうして定理を初等的に証明することができたわけですが, 多くの方にとっては, まだつほど疑問が残っていることでしょう. それは, なぜ \begin{align} f\;\colon\;(x,y)\longmapsto\left(\frac{5y-x}{2},\frac{x-y}{2}\right) \end{align} という函数を定義すると, 方程式に適する解を構成できたのかということです. (2) および (3) の記事では, は有理数という形の「数」に着目し, この初等的証明の背景にあるもう一つの証明法について書きたいと思います. (次の記事のリンクは, このページの上のほうに貼ってあります. )
追記 : 今回紹介した解の変換を用いる初等的解法は, 実は幾何的に解釈することができます. 詳細は次の記事をご覧ください.
https://yu200489144.hatenablog.com/entry/2021/05/30/234100