Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

双曲線に見る二元二次の不定方程式の解法 (Vieta jumping)

整数 𝒂, 𝒃 によって記述される \begin{align} xx+yy+a=bxy \end{align} の形の不定方程式は, 「二次曲線を描く」ことによって必ず解決される.

 

この記事では, 以下を目標として上記の定理を証明します.

  • 二元二次の不定方程式の初等的な解法についての一般的な事項を纏める.



前提知識

二次方程式における解と係数の関係 (Viète の公式), 平面上の二次曲線など







二元二次の不定方程式

二元二次の不定方程式とは, 整数の係数\ a\ から\ f\ によって \begin{align} axx+bxy+cyy+dx+ey+f=0 \end{align} と表現される不定方程式 (即ち, 変数\ x,\ y\ を整数に限って考える方程式) のことであり, 左辺の二次式に対して\ x,\ y\ の順に平方完成を行えば \begin{align} \left\{ \begin{array}{l} a'x'x'+b'y'y'+c'=0\\ a'x'+b'y'y'+c'=0\\ a'x'x'+b'y'+c'=0\\ a'x'+b'y'+c'=0 \end{array} \right. \end{align} の何れかの形に整理することができます. 但し, 新しい変数\ x',y'\ は, \ x,y\ の整数係数の一次式として得られるものです. 尚, 平方完成において分数が生じるときは, 分母を払って整数のみを式に置くようにします. 中央二行の方程式は平方剰余の問題に置きかえられるものであって, 例えば\ xx-4y=1\ という方程式は, 合同方程式\ xx\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.4)\ の解が\ x\equiv1\ \ (\mathrm{mod}.2)\ であることから, 解\ (x,y)=(2i+1,ii+i)\ を有することが判明します. この形の方程式は, \ y\ の項が一次までしか現れていないが故に簡単です. また最後の方程式の解法は, 二元一次の不定方程式の解法として有名です (詳細は省略します) ので, 本記事は一行目の形を取る方程式について, 解説を書いてゆきます.

詰まり, 議論の中心となる方程式は \begin{align} axx+byy+c=0 \end{align} の形です. 若しも係数\ a\ \ b\ が同符号であるなら, この方程式の解は明らかに有界の範囲内にしか存在しないので, それらを個別に代入して, 各々が解であるかを確かめることによって解決します. 例えば\ xx+yy=16\ であると, 左辺の二項が共に負でないことから, 各文字は絶対値の\ 4\ 以下なる整数として扱うことができるのです. この方程式を充たす実数の点を\ (x,y)\ 平面に打点すると, 楕円になりますから, 確かに解は有界の範囲にしか存在しないものと了解できます. 所が\ a\ \ b\ とが異符号のときは, グラフは双曲線になり, 有界の領域に収まらないがために, 他の解法が必要となります. この型の方程式には, 解を無数に持つものと一つも持たないものとが混在し, \ xx-2yy=1\ などの解ある方程式に対しては, いわゆる Pell 方程式の理論が要求されることになります. 通例であれば, Pell 方程式は二次体の整数論の力によって解決されるところでありますが, ここにて取りあつかうのは, 方程式を「平面上の双曲線」として捉えることによる, 視覚的な初等解法になります.

 

解説を明瞭にするために, 始めの項では変形した方程式\ xx+yy+a=bxy\ を考察して. 次にこの手法が一般 Pell 方程式\ xx-dyy=n\ にも応用されることを説明し, これらをもって, 二元二次不定方程式の一般論と致したいと思います.





Viète の転移法による対称二次方程式の解法

ここに名前を引いた Viète という人物は, 十六世紀に解析術の研究に貢献したかのフランソワ・ヴィエト (仏 François Viète) です. 英語ではいわゆる代数方程式の「解と係数の関係式」のことを Vieta's formulas と言うことが有りますが, これはヴィエトのラテン語名に当る Franciscus Vieta (フランシスクズ*1・ヴィエタ) から取られたものです. 因みにフランス語圏でも Formules de Viète という呼び名が最も人口に膾炙しているそうです.
命題 1 実数\ a,\ b\ によって記述された実数の二次方程式\ xx+yy+a=bxy\ は, 条件\ a\neq0\ かつ\ |b|\gt2\ の下において\ (x,y)\ 平面に双曲線を描き, しかも双曲線になるのは, この条件に適する場合のみである.

証明. 上の二次方程式は \begin{align} \left(x-\dfrac{\,by\,}{\,2\,}\right)^2-\left(\dfrac{\,bb\,}{\,4\,}-1\right)y^2=-a \end{align} とも書くことができる. これが双曲線を表すためには\ (bb/4)-1\ が正であり, かつ右辺が\ 0\ でないこと, 即ち\ a\neq0\ かつ\ |b|\gt2\ が必要充分である.

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図 1. 曲線群\ xx+yy+a=bxy\ (左上から順に, \ a=-2,\ -1;\ 0;\ 1,\ 2\ , 色の濃いものから順に\ b=3,\ 4,\ 5\ , 横が\ x\ 軸, 縦が\ y\ 軸. )
命題 2 実数\ a,\ b\ によって記述された実数の二次方程式\ xx+yy+a=bxy\ が双曲線を描くとき, 双曲線上の整点 (格子点) を一つ取って, これを通る座標軸の平行線を引くと, この直線と双曲線のもう一つの交点は必ずまた整点である.

証明. 一つ目の整点を\ (x_1,y_1)\ と表す. これを通る\ x\ 軸の平行線\ y=y_1\ と双曲線のもう一方の交点の\ x\ 座標は, 双曲線の方程式において\ y=y_1\ を固定した二次方程式 \begin{align} xx+y_1y_1+a=bxy_1 \end{align} の解\ x_2\ に現れる. Viète の公式 (解と係数の関係式) によれば, \ x_1\ \ x_2\ との和は\ by_1\ に等しく整数であるから, \ x_2\ もまた整数になる. \ y\ 軸の平行線を引いても同様である.

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このように\ x\ 軸または\ y\ 軸の平行線を引き, 双曲線との交点を取ることによって行われる整点の移動を, 横転移, 縦転移と呼ぶことにします. また今考えている双曲線は直線\ x=y\ に関して対称であって, これを対称線とする対称移動も整点を整点に移すことが明白です. この変換を鏡映と名付けます.

命題 3 正の整数\ a,\ b\ によって記述された二次方程式\ xx+yy+a=bxy\ が双曲線を描くとき, この双曲線上に整点が存在するための必要充分条件は, 双曲線の\ x\geqslant y\ かつ\ \dfrac{2}{\sqrt{b+2}}\sqrt{\dfrac{a}{b-2}}\leqslant y\leqslant \sqrt{\dfrac{a}{b-2}}\ なる部分に整点が存在することである.

証明. 双曲線は原点に関して点対称であるから, 領域\ y\geqslant0\ に属する部分\ H\ のみを考える. 曲線\ H\ に接する直線の中, 座標軸と平行になる二本を描き, 加えて直線\ x=y\ \ H\ の交点\ \mathrm{A}\ を通る, 座標軸の平行線を記入する. 実際に描けば次の通りである.

図 2. 双曲線\ xx+yy+a=bxy\

曲線\ H\ を図中の五点を堺として六つの弧に分割する. 何れの弧に位置する整点も, 適切に転移を経ることによって, 必ず弧\ \mathrm{AB}\ の整点に到着しうることを論ずる.


\ \mathrm{AB}\ 上の整点 これらは既に弧\ \mathrm{AB}\ 上に在る.


\ \mathrm{AB'}\ 上の整点 一度鏡映を行うことによって, 弧\ \mathrm{AB}\ に到着する.


\ \mathrm{BC}\ 上の整点 一度横転移を行うことによって, 弧\ \mathrm{AB}\ に到着する.


\ \mathrm{B'C'}\ 上の整点 一度鏡映を行うことによって, 弧\ \mathrm{BC}\ に到着する.


\ \mathrm{C}\ よりも横軸座標が大きく, かつ対称線よりも下側の整点 横転移と鏡映とを交互に繰りかえすことによって, 弧\ \mathrm{AC}\ に至る.


\ \mathrm{C'}\ よりも横軸座標が大きく, かつ対称線よりも上側の整点 鏡映と横転移とを交互に繰りかえすことによって, 弧\ \mathrm{AC}\ に至る.


かくしてあらゆる曲線\ H\ 上の整点は, 弧\ \mathrm{AB}\ に移すことができる. 故に双曲線の上に整点が在ることは, その弧\ \mathrm{AB}\ に整点が在ることと同値である. 点\ \mathrm{A},\ \mathrm{B}\ の縦軸座標を\ a,\ b\ を用いて表記すれば, 命題が得られる.

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命題 4 正の整数\ a,\ b\ によって記述された二次方程式\ xx+yy-a=bxy\ が双曲線を描くとき, この双曲線上に整点が存在するための必要充分条件は, 双曲線の\ x\geqslant y\ かつ\ 0\leqslant y\leqslant \sqrt{a}\ なる部分に整点が存在することである.

証明. 双曲線は原点に関して点対称であるから, 領域\ y\geqslant0\ に属する部分\ H\ のみを考える. 曲線\ H\ と座標軸との交点を取って, それらを通る座標軸の平行線を引けば, 図は下の通りになる.

図 3. 双曲線\ xx+yy-a=bxy\

曲線\ H\ を図中の五点を堺として五つの弧に分割する. 何れの弧に位置する整点も, 適切に転移を経ることによって, 必ず弧\ \mathrm{BC}\ の整点に到達しうることを論ずる.


\ \mathrm{BC}\ 上の整点 これらは既に弧\ \mathrm{BC}\ 上に在る.


\ \mathrm{B'C'}\ 上の整点 一度鏡映を行うことによって, 弧\ \mathrm{BC}\ に到達する.


\ \mathrm{AB'}\ 上の整点 一度横転移を行うことによって, 弧\ \mathrm{BC}\ に到達する.


\ \mathrm{C}\ よりも横軸座標が大きく, かつ対称線よりも下側の整点 横転移と鏡映とを交互に繰りかえすことによって, 弧\ \mathrm{BC}\ に至る.


\ \mathrm{C'}\ よりも横軸座標が大きく, かつ対称線よりも上側の整点 鏡映と横転移とを交互に繰りかえすことによって, 弧\ \mathrm{BC}\ に至る.


かくしてあらゆる曲線\ H\ 上の整点は, 弧\ \mathrm{BC}\ に移すことができる. 故に双曲線の上に整点が在ることは, その弧\ \mathrm{BC}\ に整点が在ることと同値である. 点\ \mathrm{B},\ \mathrm{C}\ の縦軸座標を\ a,\ b\ を用いて表記すれば, 命題が得られる.

\Box

 

上記の命題を適用して, 双曲線型の方程式を再帰的に解決することができます. 実際の計算例を示しましょう.

命題 5 二元二次の不定方程式\ xx+yy+7=6xy\ の正整数の解は \begin{align} \left( \begin{array}{l} a_1=1,\ a_2=2,\ a_{i+2}=6a_{i+1}-a_i\\ b_1=1,\ b_2=4,\ b_{i+2}=6b_{i+1}-b_i \end{array} \right. \end{align} として定義される二つの数列をもって,
\begin{align} (x,y)=(a_{i+1},a_i),\ (a_i,a_{i+1}),\ (b_{i+1},b_i),\ (b_i,b_{i+1}) \end{align}
と表される整数対の全部である.

解法. 前と同じ図を描画し, この双曲線の\ x\geqslant y\geqslant0\ なる部分\ H\ に現れる整点を列挙することを考える.

図 2. 双曲線\ xx+yy+a=bxy\

\ H\ 上の整点は, 横転移と鏡映とを交互に繰りかえすことによって, 弧\ \mathrm{AB}\ に移すことができる. 逆に, 弧\ \mathrm{AB}\ の上の整点から, 横転移と鏡映, または鏡映と横転移を交互に行えば, 弧\ H\ に乗る整点全部を渡ることも可能である. 弧\ \mathrm{AB}\ \ y\ 軸に投影した区間は, 先述の命題によれば\ \sqrt{7/8}\leqslant y\leqslant\sqrt{7/4}\ であるから, この弧\ \mathrm{AB}\ に存在する整点は\ (2,1)\ のみである. この一点から鏡映と横転移, あるいは横転移と鏡映の操作を交互に繰りかえして, 弧\ H\ の整点を巡回することを目的とする. 後者の操作は, 始めに\ (2,1)\ \ (4,1)\ に移して後に鏡映と横転移を交互に繰りかえす操作と同じである. 故に, 鏡映と横転移をこの順に行う操作\ f\ のみを用いるのが善い. 操作前の点を\ (x,y)\ とすれば, 

\ f\;\colon\;(x,y)\;\longmapsto\;(y,x)\;\longmapsto\;(6x-y,x)\

である.

これに基づいて, 起点\ (2,1)\ および\ (4,1)\ に対応する二本の数列を \begin{align} \left( \begin{array}{l} a_1=1,\ a_2=2,\ a_{i+2}=6a_{i+1}-a_i\\ b_1=1,\ b_2=4,\ b_{i+2}=6b_{i+1}-b_i \end{array} \right. \end{align} により定義すると, これらの整数列は明らかに (狭義) 単調増加であり, 曲線\ H\ の整点は\ (a_{i+1},a_i)\ または\ (b_{i+1},b_i)\ の式によって重複無く表される. 元の双曲線は直線\ x=y\ に関して対称であるので, これらとこれらの鏡映点とが元の方程式に対する解を表すのである.

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Pell 方程式の解法


例. 方程式\ xx-3yy=4\ の解.


\ y=Y,\ \ x=X-2Y\ と置換すれば \begin{align} XX+YY-4=4XY \end{align} の対称二次式になり, この形は Viète の転移法によって解決することができます.


例. 方程式\ xx-2yy=1\ の解.


\ 4\ を法に取れば\ y\ は偶数であることが判ります. これを見て\ y=2y'\ なる整数\ y'\ を取れば, 元の式は\ xx-8y'y'=1\ に変わります. 更に\ y'=Y,\ \ x=X-3Y\ と置換すれば \begin{align} XX+YY-1=6XY \end{align} という式になります.

あるいは, 両辺に\ 4\ を乗じて\ 2x=x'\ を代入し, \begin{align} x'x'-8yy=4 \end{align} を得た後, \ y=Y,\ x'=X-3Y\ と置換して \begin{align} XX+YY-4=6XY \end{align} にするという方法も在ります.

命題 6 非零整数\ n\ \ 2\ 以上の非平方数\ d\ により記述された二次方程式\ xx-dyy=n\ は, ある適当なる正の整数\ p,\ q,\ r,\ s\ を用いて \begin{align} \left( \begin{array}{l} X=px+qy\\ Y=rx+sy \end{array} \right. \end{align} の一次変換を行うことによって, 同値な方程式\ XX+YY+A=BXY\ に変えることができる. またそのとき, 明らかに \begin{align} x,\ y\in\mathbb{Z}_{\gt0}\Longrightarrow X,\ Y\in\mathbb{Z}_{\gt0} \end{align} が成立する.

証明. 方程式\ dbb=aa-1\ を満たす正整数の組\ (a,b)\ を取る*2. 先ず上式の両辺に\ bb\ を乗じて\ bx=x'\ を代入し, \begin{align} x'x'-dbbyy=nbb \end{align} とする. ここに現れる係数\ dbb\ は平方数\ aa\ よりも\ 1\ 小さい数である. 従って\ x'=X-aY,\ \ y=Y\ と置換すれば, \begin{align} XX+YY-nbb=2aXY. \end{align} これは\ XX\ \ YY\ の係数を共に\ 1\ とする対称方程式である.

以上の変換を整理すれば, \begin{align} \left( \begin{array}{l} X=x'+ay=bx+ay\\ Y=y \end{array} \right.. \end{align} これは確かに正整数の係数による一次変換で, \ x,\ y\ が正整数であるならば, \ X,\ Y\ もまた正の整数である. (故に\ (x,y)\ の方程式を充たす正整数解は, 悉く\ (X,Y)\ の方程式の対応する正整数解として見いだすことができる. )

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証明の途中で次の事実を使いました. この補題を双曲線の観点から証明するのは難しいので, Minkowski の凸体定理と Liouville の定理を経由する方法を紹介しておきます.

補題 6-1 正の非平方数\ d\ を用いて記述された二次方程式\ xx-dyy=1\ は正の整数の解を有する.
定理 7 (Minkowski の凸体定理) \ (x,y)\ 平面上の有界領域\ D\ は, 原点対称かつ凸であるとする. 即ち, 点\ p,\ q\ がこの領域に属しているのならば \begin{align} &-p\in D,\\ &0\leqslant\alpha\leqslant1\Longrightarrow\alpha p+(1-\alpha)q\in D \end{align} である. このとき更に\ D\ の面積が\ 4\ 以上であるならば, この領域の内部または境界上に, 原点とは異なる整点 (格子点) が必ず存在する.
この命題において, 領域\ D\ は境界と内部の両方を併せて捉えるものとします.

証明. \ D\ を原点を中心として相似比\ 1/2\ 倍に縮小した領域を\ \dfrac{\,1\,}{\,2\,}D\ と書く. この図形\ \dfrac{\,1\,}{\,2\,}D\ を複製し, 平行移動を行って原点の他の各格子点にも配置すれば, これらの領域は必ず交わりを持つ. 何故ならば, 若し交わりが存在しないとすれば, \ \dfrac{\,1\,}{\,2\,}D\ を平行移動した図形全部を併せた領域の内, 正方形\ 0\leqslant x\leqslant1,\ 0\leqslant y\leqslant1\ に内包される部分の総面積は, 明らかに\ 1\ 未満になるけれども, これは元の\ D\ の面積が\ 4\ 以上である仮定に矛盾するのである. 故に共通部分を有するような二つの領域が在って, その領域は\ \dfrac{\,1\,}{\,2\,}D\ を平行移動した図形として\ \dfrac{\,1\,}{\,2\,}D+m,\ \dfrac{\,1\,}{\,2\,}D+n\ の式に表される. 共通部分に存在する点\ r\ を一つ取れば \begin{align} r=\dfrac{\,1\,}{\,2\,}p+m=\dfrac{\,1\,}{\,2\,}q+n \end{align} になる\ D\ の点\ p,\ q\ が在り, \begin{align} \dfrac{\,1\,}{\,2\,}q-\dfrac{\,1\,}{\,2\,}p=m-n \end{align} が成立する. 両辺の表す点を改めて\ r'\ と書くことにすれば, これは\ q\ \ -p\ の中点であるから\ D\ に属し, 右辺に依ればしかも整点である. 今\ m\neq n\ であるから, \ r'\ は原点と異なる.

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定理 8 正の非平方数\ d\ を用いて記述された不等式 \begin{align} \left|x-\sqrt{d}y\right|\lt\frac{1}{y} \end{align} に対する整数の解\ (x,y)\ は無数に存在する.

証明. 各正の整数\ n\ に対し, \begin{align} \left|x-\sqrt{d}y\right|\leqslant\frac{1}{n},\quad|y|\leqslant n \end{align} によって表される領域を考えるとき, これは平行四辺形であり, その面積は\ 4\ に等しい. この事実と Minkowski の凸体定理によれば, この領域には原点の他にも整点があり, その点の座標について\ |x-\sqrt{d}y|\gt0\ が成りたつ. \ n\ は限界を持たないから, 今の議論を繰りかえして, 元の不等式の解になる整点を無数に見つけることができる. 詰まり, 既知の解\ (x,y)\ と比べて\ |x-\sqrt{d}y|\ の値 (これは常に正の数で\ 0\ になることはない) が小となるように, 大きな数\ n\ を選び, 新しい解を構成するのである. \ \sqrt{d}\ 無理数であり, 分数の形に書かれることは無いから, 最後に不等号を等号に変えると, 定理の式が得られる. 

\Box

 

補題 6-1 正の非平方数\ d\ を用いて記述される二次方程式\ xx-dyy=1\ は正整数の解を有する.

証明. 定理 8 によって, 不等式\ |x-\sqrt{d}y|\lt1/y\ を充たす整数\ (x,y)\ が無数に存在する. この不等式の解\ (x,y)\ は, 必ず \begin{align} |xx-dyy|\lt\left|\frac{x}{y}+\sqrt{d}\right|\lt2\sqrt{d}+1 \end{align} を充たす. 右辺の値は有限であるから, ある正の整数\ m\ を適切に選べば, 二次方程式\ xx-dyy=\pm m\ が無数の解を持つようになる. 更に, \ \pm m\ の少なくも一方に対して方程式は無数の解を持つから, \ xx-dyy=m'\ がある整数\ m'\ について無数の解を有すると言ってよい. (先に以降の方針を説明する. 後に示す等式によると, この方程式の解があるならば, \ xx-dyy=m'm'\ の解が得られる. しかもその中に, \ x\ \ y\ の共に\ m'\ の倍数である組みが存在する. ここにおいて両辺を\ m'm'\ によって除すれば, 元の方程式の解に至るのである. ) 扨て, 鳩の巣原理によると, 二次方程式\ xx-dyy=m'\ の異なる解\ (s,t),\ (u,v)\ であって \begin{align} s\equiv u,\ t\equiv v\ \ (\mathrm{mod}.m') \end{align} を充たす二組を得ることができる. \ ss-dtt=m'\ \ uu-dvv=m'\ の各辺を掛けて, \begin{align} m'm'&=(ss-dtt)(uu-dvv)\\ &=(su-dtv)^2-d(sv-tu)^2 \end{align} の等式を立てれば, 明らかに\ sv-tu\ \ m'\ の倍数である. そのとき\ su-dtv\ もまた\ m'\ の倍数であるから, この等式の両辺を\ m'm'\ により割って \begin{align} \left(\frac{su-dtv}{m'}\right)^2-d\left(\frac{sv-tu}{m'}\right)^2=1 \end{align} としても, 各括弧の中は整数のままに保たれる. ここから\ xx-dyy=1\ なる正の整数\ x,\ y\ を得ることができる.

\Box

 





演習問題

問. \ 11\ から\ 20\ までの十個の整数について, 次の等式が成立する. \begin{align} 11\times12=13+14+15+\cdots+19+20. \end{align} 正の整数\ m\ \ n\ であって, \ m+2\ 以上\ m+n+1\ 以下の整数の総和と積\ m(m+1)\ が等しくなるようなものをこの他に見いだせ.

 

\ (m,n)=(164,120)\ など.

問. \ (x,y)\ 直交座標平面において, 二組の直角双曲線 \begin{align} xx-xy-yy=\pm1 \end{align} の上に乗るような整点 (格子点) の座標は, 絶対値が Fibonacci 数であること, および各整点の原点からの距離は Fibonacci 数の平方根であることを証明せよ.

 

問. ある正の整数\ n\ を用いて\ n(3n-1)/2\ の式に表される整数を五角数と云う. 五角数の内, かつ平方数でもあるようなものを昇順に並べて数列\ (x_i)_{i\gt0}\ となすとき, 次の漸化式が成立することを示せ. \begin{align} x_{n+3}-x_n=99(x_{n+2}-x_{n+1}). \end{align}
問. パスカルの三角形の十五段目には, 次のような部分列が現れ, 等式\ 1001+2002=3003\ が見つけられる. パスカルの三角形において横向きに現れる部分列\ a,\ b,\ c\ であって, \ a+b=c\ を満たすようなものが次に現れるのは何段目か. \begin{align} 1,\ 14,\ 91,\ 364,\ 1001,\ 2002,\ 3003,\ 3432,\ \ldots \end{align}

 

百四段目.

問. \ k\ を正なる整数として, 不定方程式 \begin{align} M_k\;\colon\;xx+yy+zz=kxyz,\quad x\leqslant y\leqslant z \end{align} の正整数の解を考察する.
\ (1)\ \ k\not\in\{1,3\}\ の場合に\ M_k\ の解が空になることを証明し, かつ, 方程式\ M_1\ \ M_3\ に帰結することを説明せよ. 
\ (2)\ \ (1,1,1),\ (1,1,2)\ 以外の\ M_3\ の解を二分木 (二進木, binary tree) に表す方法を提示せよ.

 

問. \ 3\ 以上の整数\ v\ を選択して, \ v\ 角数の列 \begin{align} 1,\ v,\ 3v-3,\ 6v-8,\ 10v-15,\ \ldots \end{align} の中に\ v^3+1\ に等しい項が現れるようにせよ.

 

\ v=3,\ 12.

問. 正なる整数\ n\ に対して, その数に自身の逆数を加えた和\ n+(1/n)\ \ a_n\ と書く. 即ち \begin{align} &a_1=1+\frac{\,1\,}{\,1\,}=2,\\ &a_2=2+\frac{\,1\,}{\,2\,}=2.5,\\ &a_3=3+\frac{\,1\,}{\,3\,}=3.333\ldots,\\ &a_4=4+\frac{\,1\,}{\,4\,}=4.25,\\ &a_5=5+\frac{\,1\,}{\,5\,}=5.2 \end{align} であり, 積\ a_2a_5\ \ 2.5\times5.2=13\ の整数になる. 然らば, 如何なる正の整数\ x,\ y\ において\ a_xa_y\ は整数になるか. 該当する対を全て挙げよ.

 

\ (x,y)=(1,1),\ (F_{2n-1},F_{2n+1}),\ (F_{2n+1},F_{2n-1}) \ (n\ は正整数).\

この問題の解説記事 :

𝒏 + 1/𝒏 の形の数に関する問題 - Arithmetica 算術ノート

問. 二数\ a,\ b\ は, \ ab+1\ \ aa+bb\ を割りきるような正の整数であるとする. このとき比\ (aa+bb)/(ab+1)\ は平方数であることを証明せよ. (国際数学オリンピックの問題より)





*1:十六世紀フランスのラテン語発音については, こちらのサイトを参考にした. http://www.mab.jpn.org/data_lib/music_dic/med_latin_j.html#frenc_latin

*2:この方程式に対する解の存在性については後述.

[tex: ]


ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



pic-Arithmetica

算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

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