この記事では, 以下を目標として上記の定理を証明します.
- 二元二次の不定方程式の初等的な解法についての一般的な事項を纏める.
二次方程式における解と係数の関係 (Viète の公式), 平面上の二次曲線など
二元二次の不定方程式
二元二次の不定方程式とは, 整数の係数からによって \begin{align} axx+bxy+cyy+dx+ey+f=0 \end{align} と表現される不定方程式 (即ち, 変数を整数に限って考える方程式) のことであり, 左辺の二次式に対しての順に平方完成を行えば \begin{align} \left\{ \begin{array}{l} a'x'x'+b'y'y'+c'=0\\ a'x'+b'y'y'+c'=0\\ a'x'x'+b'y'+c'=0\\ a'x'+b'y'+c'=0 \end{array} \right. \end{align} の何れかの形に整理することができます. 但し, 新しい変数は, の整数係数の一次式として得られるものです. 尚, 平方完成において分数が生じるときは, 分母を払って整数のみを式に置くようにします. 中央二行の方程式は平方剰余の問題に置きかえられるものであって, 例えばという方程式は, 合同方程式の解がであることから, 解を有することが判明します. この形の方程式は, の項が一次までしか現れていないが故に簡単です. また最後の方程式の解法は, 二元一次の不定方程式の解法として有名です (詳細は省略します) ので, 本記事は一行目の形を取る方程式について, 解説を書いてゆきます.
詰まり, 議論の中心となる方程式は \begin{align} axx+byy+c=0 \end{align} の形です. 若しも係数とが同符号であるなら, この方程式の解は明らかに有界の範囲内にしか存在しないので, それらを個別に代入して, 各々が解であるかを確かめることによって解決します. 例えばであると, 左辺の二項が共に負でないことから, 各文字は絶対値の以下なる整数として扱うことができるのです. この方程式を充たす実数の点を平面に打点すると, 楕円になりますから, 確かに解は有界の範囲にしか存在しないものと了解できます. 所がととが異符号のときは, グラフは双曲線になり, 有界の領域に収まらないがために, 他の解法が必要となります. この型の方程式には, 解を無数に持つものと一つも持たないものとが混在し, などの解ある方程式に対しては, いわゆる Pell 方程式の理論が要求されることになります. 通例であれば, Pell 方程式は二次体の整数論の力によって解決されるところでありますが, ここにて取りあつかうのは, 方程式を「平面上の双曲線」として捉えることによる, 視覚的な初等解法になります.
解説を明瞭にするために, 始めの項では変形した方程式を考察して. 次にこの手法が一般 Pell 方程式にも応用されることを説明し, これらをもって, 二元二次不定方程式の一般論と致したいと思います.
Viète の転移法による対称二次方程式の解法
証明. 上の二次方程式は \begin{align} \left(x-\dfrac{\,by\,}{\,2\,}\right)^2-\left(\dfrac{\,bb\,}{\,4\,}-1\right)y^2=-a \end{align} とも書くことができる. これが双曲線を表すためにはが正であり, かつ右辺がでないこと, 即ちかつが必要充分である.
証明. 一つ目の整点をと表す. これを通る軸の平行線と双曲線のもう一方の交点の座標は, 双曲線の方程式においてを固定した二次方程式 \begin{align} xx+y_1y_1+a=bxy_1 \end{align} の解に現れる. Viète の公式 (解と係数の関係式) によれば, ととの和はに等しく整数であるから, もまた整数になる. 軸の平行線を引いても同様である.
このように軸または軸の平行線を引き, 双曲線との交点を取ることによって行われる整点の移動を, 横転移, 縦転移と呼ぶことにします. また今考えている双曲線は直線に関して対称であって, これを対称線とする対称移動も整点を整点に移すことが明白です. この変換を鏡映と名付けます.
証明. 双曲線は原点に関して点対称であるから, 領域に属する部分のみを考える. 曲線に接する直線の中, 座標軸と平行になる二本を描き, 加えて直線との交点を通る, 座標軸の平行線を記入する. 実際に描けば次の通りである.
曲線を図中の五点を堺として六つの弧に分割する. 何れの弧に位置する整点も, 適切に転移を経ることによって, 必ず弧の整点に到着しうることを論ずる.
弧上の整点 これらは既に弧上に在る.
弧上の整点 一度鏡映を行うことによって, 弧に到着する.
弧上の整点 一度横転移を行うことによって, 弧に到着する.
弧上の整点 一度鏡映を行うことによって, 弧に到着する.
点よりも横軸座標が大きく, かつ対称線よりも下側の整点 横転移と鏡映とを交互に繰りかえすことによって, 弧に至る.
点よりも横軸座標が大きく, かつ対称線よりも上側の整点 鏡映と横転移とを交互に繰りかえすことによって, 弧に至る.
かくしてあらゆる曲線上の整点は, 弧に移すことができる. 故に双曲線の上に整点が在ることは, その弧に整点が在ることと同値である. 点の縦軸座標をを用いて表記すれば, 命題が得られる.
証明. 双曲線は原点に関して点対称であるから, 領域に属する部分のみを考える. 曲線と座標軸との交点を取って, それらを通る座標軸の平行線を引けば, 図は下の通りになる.
曲線を図中の五点を堺として五つの弧に分割する. 何れの弧に位置する整点も, 適切に転移を経ることによって, 必ず弧の整点に到達しうることを論ずる.
弧上の整点 これらは既に弧上に在る.
弧上の整点 一度鏡映を行うことによって, 弧に到達する.
弧上の整点 一度横転移を行うことによって, 弧に到達する.
点よりも横軸座標が大きく, かつ対称線よりも下側の整点 横転移と鏡映とを交互に繰りかえすことによって, 弧に至る.
点よりも横軸座標が大きく, かつ対称線よりも上側の整点 鏡映と横転移とを交互に繰りかえすことによって, 弧に至る.
かくしてあらゆる曲線上の整点は, 弧に移すことができる. 故に双曲線の上に整点が在ることは, その弧に整点が在ることと同値である. 点の縦軸座標をを用いて表記すれば, 命題が得られる.
上記の命題を適用して, 双曲線型の方程式を再帰的に解決することができます. 実際の計算例を示しましょう.
解法. 前と同じ図を描画し, この双曲線のなる部分に現れる整点を列挙することを考える.
弧上の整点は, 横転移と鏡映とを交互に繰りかえすことによって, 弧に移すことができる. 逆に, 弧の上の整点から, 横転移と鏡映, または鏡映と横転移を交互に行えば, 弧に乗る整点全部を渡ることも可能である. 弧を軸に投影した区間は, 先述の命題によればであるから, この弧に存在する整点はのみである. この一点から鏡映と横転移, あるいは横転移と鏡映の操作を交互に繰りかえして, 弧の整点を巡回することを目的とする. 後者の操作は, 始めにをに移して後に鏡映と横転移を交互に繰りかえす操作と同じである. 故に, 鏡映と横転移をこの順に行う操作のみを用いるのが善い. 操作前の点をとすれば,
である.
これに基づいて, 起点およびに対応する二本の数列を \begin{align} \left( \begin{array}{l} a_1=1,\ a_2=2,\ a_{i+2}=6a_{i+1}-a_i\\ b_1=1,\ b_2=4,\ b_{i+2}=6b_{i+1}-b_i \end{array} \right. \end{align} により定義すると, これらの整数列は明らかに (狭義) 単調増加であり, 曲線の整点はまたはの式によって重複無く表される. 元の双曲線は直線に関して対称であるので, これらとこれらの鏡映点とが元の方程式に対する解を表すのである.
Pell 方程式の解法
例. 方程式の解.
と置換すれば \begin{align} XX+YY-4=4XY \end{align} の対称二次式になり, この形は Viète の転移法によって解決することができます.
例. 方程式の解.
を法に取ればは偶数であることが判ります. これを見てなる整数を取れば, 元の式はに変わります. 更にと置換すれば \begin{align} XX+YY-1=6XY \end{align} という式になります.
あるいは, 両辺にを乗じてを代入し, \begin{align} x'x'-8yy=4 \end{align} を得た後, と置換して \begin{align} XX+YY-4=6XY \end{align} にするという方法も在ります.
証明. 方程式を満たす正整数の組を取る*2. 先ず上式の両辺にを乗じてを代入し, \begin{align} x'x'-dbbyy=nbb \end{align} とする. ここに現れる係数は平方数よりも小さい数である. 従ってと置換すれば, \begin{align} XX+YY-nbb=2aXY. \end{align} これはとの係数を共にとする対称方程式である.
以上の変換を整理すれば, \begin{align} \left( \begin{array}{l} X=x'+ay=bx+ay\\ Y=y \end{array} \right.. \end{align} これは確かに正整数の係数による一次変換で, が正整数であるならば, もまた正の整数である. (故にの方程式を充たす正整数解は, 悉くの方程式の対応する正整数解として見いだすことができる. )
証明の途中で次の事実を使いました. この補題を双曲線の観点から証明するのは難しいので, Minkowski の凸体定理と Liouville の定理を経由する方法を紹介しておきます.
証明. を原点を中心として相似比倍に縮小した領域をと書く. この図形を複製し, 平行移動を行って原点の他の各格子点にも配置すれば, これらの領域は必ず交わりを持つ. 何故ならば, 若し交わりが存在しないとすれば, を平行移動した図形全部を併せた領域の内, 正方形に内包される部分の総面積は, 明らかに未満になるけれども, これは元のの面積が以上である仮定に矛盾するのである. 故に共通部分を有するような二つの領域が在って, その領域はを平行移動した図形としての式に表される. 共通部分に存在する点を一つ取れば \begin{align} r=\dfrac{\,1\,}{\,2\,}p+m=\dfrac{\,1\,}{\,2\,}q+n \end{align} になるの点が在り, \begin{align} \dfrac{\,1\,}{\,2\,}q-\dfrac{\,1\,}{\,2\,}p=m-n \end{align} が成立する. 両辺の表す点を改めてと書くことにすれば, これはとの中点であるからに属し, 右辺に依ればしかも整点である. 今であるから, は原点と異なる.
証明. 各正の整数に対し, \begin{align} \left|x-\sqrt{d}y\right|\leqslant\frac{1}{n},\quad|y|\leqslant n \end{align} によって表される領域を考えるとき, これは平行四辺形であり, その面積はに等しい. この事実と Minkowski の凸体定理によれば, この領域には原点の他にも整点があり, その点の座標についてが成りたつ. は限界を持たないから, 今の議論を繰りかえして, 元の不等式の解になる整点を無数に見つけることができる. 詰まり, 既知の解と比べての値 (これは常に正の数でになることはない) が小となるように, 大きな数を選び, 新しい解を構成するのである. は無理数であり, 分数の形に書かれることは無いから, 最後に不等号を等号に変えると, 定理の式が得られる.
証明. 定理 8 によって, 不等式を充たす整数が無数に存在する. この不等式の解は, 必ず \begin{align} |xx-dyy|\lt\left|\frac{x}{y}+\sqrt{d}\right|\lt2\sqrt{d}+1 \end{align} を充たす. 右辺の値は有限であるから, ある正の整数を適切に選べば, 二次方程式が無数の解を持つようになる. 更に, の少なくも一方に対して方程式は無数の解を持つから, がある整数について無数の解を有すると言ってよい. (先に以降の方針を説明する. 後に示す等式によると, この方程式の解があるならば, の解が得られる. しかもその中に, との共にの倍数である組みが存在する. ここにおいて両辺をによって除すれば, 元の方程式の解に至るのである. ) 扨て, 鳩の巣原理によると, 二次方程式の異なる解であって \begin{align} s\equiv u,\ t\equiv v\ \ (\mathrm{mod}.m') \end{align} を充たす二組を得ることができる. との各辺を掛けて, \begin{align} m'm'&=(ss-dtt)(uu-dvv)\\ &=(su-dtv)^2-d(sv-tu)^2 \end{align} の等式を立てれば, 明らかにはの倍数である. そのときもまたの倍数であるから, この等式の両辺をにより割って \begin{align} \left(\frac{su-dtv}{m'}\right)^2-d\left(\frac{sv-tu}{m'}\right)^2=1 \end{align} としても, 各括弧の中は整数のままに保たれる. ここからなる正の整数を得ることができる.
演習問題
など.
百四段目.
の場合にの解が空になることを証明し, かつ, 方程式がに帰結することを説明せよ.
以外のの解を二分木 (二進木, binary tree) に表す方法を提示せよ.
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この問題の解説記事 :
𝒏 + 1/𝒏 の形の数に関する問題 - Arithmetica 算術ノート
*1:十六世紀フランスのラテン語発音については, こちらのサイトを参考にした. http://www.mab.jpn.org/data_lib/music_dic/med_latin_j.html#frenc_latin
*2:この方程式に対する解の存在性については後述.