但し, は黄金比であり, は二次の正方行列です.
この連続記事では以下を目標として記します.
- 黄金比や Lucas 数, Fibonacci 数を含む基礎的な等式を整理し, 等式どうしの間に存在する連関を捉える.
- 二次の無理数や行列, 三角函数を用いた書きかえによって, 他の諸概念との類似性を捉える.
(2) の記事 : (準備中)
(3) の記事 : (準備中)
二次方程式, 漸化式, 二次の行列 (最後の節のみ).
(注 意) 本記事に登場する用語の中には, 元が不明である訳語や造語が含まれていることが有ります.
定義
この二次方程式の代りに, 黄金比と共役黄金比を \begin{align} \phi=\frac{1+\sqrt{5}}{2},\quad\bar\phi=\frac{1-\sqrt{5}}{2} \end{align} あるいは \begin{align} \phi+\bar\phi=1,\quad\phi\bar\phi=-1,\quad\phi>\bar\phi \end{align} という等式をもって定義することもできます.
黄金比には定義の通りという性質が有り, この両辺にを掛けると \begin{align} \phi^{n+2}=\phi^{n+1}+\phi^n \end{align} という等式が得られ, 従って \begin{align} (\phi^i)_{i\geqslant0}=1,\ \phi,\ \phi\phi,\ \ldots \end{align} という等比数列には「一つ前の項と二つ前の項を足した和は次の項に等しい」という規則性が有ります. これは, 次に定義する Lucas 数列や Fibonacci 数列の有するものと同一の規則です.
以下, などと書けば, それはなど, Fibonacci 数列の漸化式を充たす一般の数列を表すものとします. 詰まり, 数列は次の集合の任意の元を表す記号として用いることにします.
この集合は等式類の一般的な形を記述するために導入していますが, あくまでも曖昧な意味で遣うことを目的としたのであり, 一般化された数列についての説明は致しません.
とても有名な事実ですが, 後に何度も繰りかえして使うことになります.
の形のあらゆる無理数と整数に対して \begin{align} &\overline{\alpha+\beta}=\overline{\alpha}+\overline{\beta},\quad\overline{\alpha\beta}=\overline{\alpha}\,\overline{\beta}\\&\overline{n\alpha}=n\overline{\alpha},\quad\overline{\alpha^n}=\overline{\alpha}^n \end{align} が成立します. 共役を取る操作により, 例えばという漸化式はに写されるので, これら二つの等式は共役な二数を一纏めにするという考え方によって, 同一視されるようになります. 本記事においては, 互いに共役な関係に在る二つの式は片方を省略することを原則としています.
一次等式類
一次等式
例えば漸化式や後述の相互関係式 一般項などが一次等式として挙げられます.
再帰性による証明
一次等式のみならず以降の二次等式においても重要となる三項間の帰納法について, 説明の代りに, 以下の具体例を通してその技法を紹介したいと思いいます.
証明.「整数に対してこの等式が成立する」という命題をとして, 三項間の帰納法を使用する.
先ず「かつならばである」ことを確かめる. ある整数においてとが共に成立しているとき, これらに当る二つの等式 \begin{align} &(P_n\Longleftrightarrow)\quad L_n=F_{n+1}+F_{n-1},\\ &(P_{n+1}\Longleftrightarrow)\quad L_{n+1}=F_{n+2}+F_n \end{align} を合計して漸化式を用いることによって \begin{align} L_{n+2}=F_{n+3}+F_{n+1} \end{align} が得られる. これはと同値であるから, 「かつならばである」ことが証明された.
続いて「かつならばである」ことを確かめる. ある整数においてとが共に成立しているとき, これらに当る二つの等式 \begin{align} &(P_n\Longleftrightarrow)\quad L_n=F_{n+1}+F_{n-1},\\ &(P_{n-1}\Longleftrightarrow)\quad L_{n-1}=F_n+F_{n-2} \end{align} について, 第一式から第二式をさし引き, 漸化式を用いることによって \begin{align} L_{n-2}=F_{n-1}+F_{n-3} \end{align} が得られる. これはと同値であるから, 「かつならばである」ことが証明された.
加えて, およびはの通りに真であることが判る. 従っては真であり, またも真である. 故にも真であり, もまた真である. 同じように推論を続ければ, あらゆる整数に対しては真であることが得られ, 帰納法の原理によって等式の証明が完成する.
このように, 一次等式の証明は容易であり, 数列の漸化式を用いればの具体的な場合に帰結します. 然し実用するにさし当っては等式どうしの連関が極めて重要であるので, 帰納法による証明は最も基礎的な幾つかの等式に対してのみ行うように制限するべきであります.
漸化式
漸化式
\begin{align} \begin{array}{|c|c|}\hline (\phi^i) & \phi^{n+2}=\phi^{n+1}+\phi^n\\ (L_i) & L_{n+2}=L_{n+1}+L_n\\ (F_i) & F_{n+2}=F_{n+1}+F_n\\\hline \end{array} \end{align}
符号の反転公式
符号の反転公式
\begin{align} \begin{array}{|c|c|}\hline (\phi^i) & \phi^{-n}=(-1)^n\bar\phi^n\\ (L_i) & L_{-n}=(-1)^nL_n\\ (F_i) & F_{-n}=(-1)^{n-1}F_n\\\hline \end{array} \end{align} 第一行の式は, 二次方程式における解と係数の関係式から直ちに導かれます. それ以外の二式は, Lucas 数列および Fibonacci 数列が絶対値を取ると左右対称な数列になるという事実を含意しており, しかもその符号が交互に切りかわるという規則性をも意味しています. 直接の証明としては, 次のような計算を繰りかえす帰納法が明解です. あるいは黄金比についてのという等式にの展開式 (後述) を代入することによっても導出ができます. \begin{align} &F_0=-F_0,\\ &F_{-1}=F_1,\\ &F_{-2}=F_0-F_{-1}=-F_0-F_1=-F_2,\\ &F_{-3}=F_{-1}-F_{-2}=F_1+F_2=F_3,\\ &F_{-4}=F_{-2}-F_{-3}=-F_2-F_3=-F_4,\\ &F_{-5}=F_{-3}-F_{-4}=F_3+F_4=F_5,\\ &\quad\vdots \end{align}
相互関係式, 一般項
相互関係式 (一般項)
この表は, 各マスにおいて「左に在る数列」を「上に在る数列」によって表す方法を示しています. 各等式について, 詳しく解説します.
の展開式 (基準)
先にも述べたように, 黄金比についてはという等式が成りたちます. これを利用して, より高次の三乗や四乗の数をの一次式に書きくだすと,
のような計算ができ, 再帰的に一般式はであることが判ります. を同じように計算してゆくと今度は Lucas 数が係数として現れ, もう一方の式が得られます. これらが黄金比の累乗のを基準とした展開式であり, 少し後の処で, もう一種の展開式と合わせて再掲します.
加えて一つ, より技巧的な方法として, 漸化式を \begin{align} &L_{n+2}-\bar\phi L_{n+1}=\phi(L_{n+1}-\bar\phi L_n),\\ &F_{n+2}-\bar\phi F_{n+1}=\phi(F_{n+1}-\bar\phi F_n) \end{align} と変形することによっておよびが等比数列であることを得たあと, その一般項を考えて \begin{align} &L_{n+1}-\bar\phi L_n=\phi^n(L_1-\bar\phi L_0)=\sqrt{5}\phi^n,\\ &F_{n+1}-\bar\phi F_n=\phi^n(F_1-\bar\phi F_0)=\phi^n \end{align} を導くという方法が在ります. それぞれの式は両辺にを掛け, をに擦りかえれば先に示した二つの等式と一致します.
一般項
俗に Lucas 数列および Fibonacci 数列の一般項として知られている等式です. これらは, 黄金比の累乗の基準による展開式と, その共役である等式\begin{align} \left(\begin{array}{l} \sqrt{5}\phi^n=L_n\phi+L_{n-1}\\ -\sqrt{5}\bar\phi^n=L_n\bar\phi+L_{n-1} \end{array} \right. \quad \left( \begin{array}{l} \phi^n=F_n\phi+F_{n-1}\\ \bar\phi^n=F_n\bar\phi+F_{n-1} \end{array} \right. \end{align} をの差を取ることによって簡単に得られます. これらも一次等式の一種ですので, 当然ながら帰納法によっても証明することが可能です.
相互関係式
Lucas 数列と Fibonacci 数列を観察すればが零に近い範囲での成立は自明であり, そこから帰納法を用いることによって証明がなされます. あるいはで説明した黄金比の累乗の展開式を認めるならば, 黄金比に関する \begin{align} \phi^1+\phi^{-1}=\sqrt{5} \end{align} という等式にとをそれぞれ乗じて \begin{align} \left(\begin{array}{l} \sqrt{5}\phi^{n+1}+\sqrt{5}\phi^{n-1}=5\phi^n\\ \phi^{n+1}+\phi^{n-1}=\sqrt{5}\phi^n \end{array}\right. \end{align} を作り, などを代入することによって \begin{align} \left(\begin{array}{l} L_{n+1}\phi+L_n+L_{n-1}\phi+L_{n-2}=5F_n\phi+5F_{n-1},\\ F_{n+1}\phi+F_n+F_{n-1}\phi+F_{n-2}=L_n\phi+L_{n-1} \end{array}\right. \end{align} とする方法が在ります. この等式の各辺は, 有理数の部分と有理数に黄金比が掛けられた部分とに項が分別されており, の係数どうしを集めて比較すれば相互関係式が現れていることが判ります. 次の項で説明するというもう一つの展開公式を使うなら, これらの二本の相互関係式はという一本の等式から同時に導くこともできます. この相互関係式を \begin{align} 5F_n=2L_{n+1}-L_n,\quad L_n=2F_{n+1}-F_n \end{align} と変形すれば \begin{align} \begin{pmatrix}L_{n+1}\\F_{n+1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1/2&5/2\\1/2&1/2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}L_n\\F_n\end{pmatrix} \end{align} という等式が得られます. ベクトルを使って Lucas 数と Fibonacci 数を束ねると, こちらは等比列になるのですね.
φⁿ の展開公式
φⁿ の展開公式
\begin{align} \begin{array}{|c|c|}\hline (1,\phi) & \left(\begin{array}{l}\sqrt{5}\phi^n=L_n\phi+L_{n-1}\\\phi^n=F_n\phi+F_{n-1}\end{array}\right. \\\hline (1,\sqrt{5}) & \phi^n=\dfrac{L_n+F_n\sqrt{5}}{2}\\\hline \end{array} \end{align}
この表は, 黄金比の累乗を有理数によるおよびの形に表した二式を並べたものです. 各等式について, 詳しく解説します.
の展開式 (基準)
先述の項 一次等式 - 相互関係式, 一般項 - に同じです.
の展開式 (基準)
黄金比にはもう一つという定義の仕方が有りました. これを用いて黄金比の二乗, 三乗をの一次式で書くことを考えると, 具体的に
のような計算ができ, 再帰的に一般式はであることが判ります. この等式と共役を組みにして和と差を考えますとまた二つの数列の一般項に到達します.
基準の式 (の Fibonacci 数を含む方) または基準の式に \begin{align} \phi=\frac{1+\sqrt{5}}{2},\quad\sqrt{5}=2\phi-1 \end{align} を代入し, 相互関係式を適用すれば, 互いを行き来することができます.
行列表示
Lucas 数列および Fibonacci 数列の漸化式は, 行列の形で \begin{align} &\begin{pmatrix}L_{n+2}&L_{n+1}\\L_{n+1}&L_n\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&1\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}L_{n+1}&L_n\\L_n&L_{n-1}\end{pmatrix},\\ &\begin{pmatrix}F_{n+2}&F_{n+1}\\F_{n+1}&F_n\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&1\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}F_{n+1}&F_n\\F_n&F_{n-1}\end{pmatrix} \end{align} と書くこともでき, \begin{align} &\mathbf{L}_i=\begin{pmatrix}L_{i+1}&L_i\\L_i&L_{i-1}\end{pmatrix},\\ &\mathbf{F}_i=\begin{pmatrix}F_{i+1}&F_i\\F_i&F_{i-1}\end{pmatrix},\\&\Phi=\begin{pmatrix}1&1\\1&0\end{pmatrix} \end{align} のように記号を振れば \begin{align} \mathbf{L}_{n+1}=\Phi\mathbf{L}_n,\quad\mathbf{F}_{n+1}=\Phi\mathbf{F}_n \end{align} という等比列のような式形に整理されます. 勿論この左辺の形を右辺の形に置きかえる操作を繰りかえせば \begin{align} &\mathbf{L}_n=\Phi^n\mathbf{L}_0=\Phi^n\begin{pmatrix}1&2\\2&-1\end{pmatrix},\\ &\mathbf{F}_n=\Phi^n\mathbf{F}_0=\Phi^n\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}=\Phi^n \end{align} というの冪による表示が得られます. ここからおよびの記号を無くすために, 二次の単位行列をと置けば, 明らかにが成立し, 記号をこちらに替えることができるので, 結局 \begin{align} \Phi^nB=&\;L_n\Phi+L_{n-1}I,\\ \Phi^n=&\;F_n\Phi+F_{n-1}I \end{align} の二式に達することになります (但し, 行列はを書きなおしたものです). これらの式は既出の \begin{align} \sqrt{5}\phi^n=&\;L_n\phi+L_{n-1},\\ \phi^n=&\;F_n\phi+F_{n-1} \end{align} という等式に類似しており, やという行列は黄金比や平方根に対応しているのではないかという推量が働きますが, 実際に \begin{align} \Phi\Phi=\Phi+I,\quad BB=5I,\quad\Phi=\frac{I+B}{2} \end{align} といった等式が成りたつので, これらの類似性は確かであると言えます.
この行列にの記号を振っているのは, その見た目がなにとなくと似ているからです (似ています). 何かもっと好いアイデアが有りましたら教えてくださると幸いです.
この定義に依れば, \begin{align} \overline{X+Y}=\overline{X}+\overline{Y},\quad\overline{XY}=\overline{Y}\,\overline{X} \end{align} が成立します. 以降も黄金比のときと同じく, 共役を取ることによって同一のものとなる二つの等式は何方か片方のみを書くようにします.
次の表は, 各恒等式に類似する行列等式を配列したものです.
対して次の表は, 行列との対応関係を前提としたさいに, 本質的に同等である等式を横に並べたものです. 右の列中の各等式を成分に直して計算すれば, 左の列の等式が得られます (尚, 両辺にを乗じた式で成分を比較して得られる等式も, 左の列では併記しています. ).
(1) の記事の内容はここまでです. 続く (2), (3) の記事では, 二次の等式類や三角函数との類似性などについて解説したいと思います.
補足
扨て本文においては Fibonacci 数の計算に用いられる線型な恒等式を具体的に記したのであるが, モダンな代数的整数論の立場においては, 代わりに次のような説明がなされるであろう: 先ず, 複素数列から成りたつこの集合,
は, 数列の (一般項の) 加法およびスカラー倍について閉であり, 複素数をスカラーとする二次元のベクトル空間である. 例えば, 幾何数列の組 \begin{align} ({(\phi^i),(\bar\phi^i)}) \end{align} を基底とすることができる. また Lucas 数列と Fibonacci 数列とを用いた \begin{align} &({(\phi^i),(F_i)}),\ ({(\phi^i),(L_i)}),\ \\&({(L_i),(L_{i-1})}),\ ({(F_i),(F_{i-1})}) \end{align} なども基底として適合する.
加えて, 行列表示に現れた二次正方行列はある解釈の下では, 倍函数, 即ちに対してを与える函数に類似している. 二つの上のベクトル空間 \begin{align} \mathbb{Q}(\phi)&=\{a\phi+b\mid a,b\in\mathbb{Q}\},\\ \mathbb{Q}^2&=\left\{\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix}\;\middle|\;a,b\in\mathbb{Q}\right\} \end{align} は, 対応関係, \begin{align} \varphi\;\colon\;\mathbb{Q}(\phi)\longrightarrow\mathbb{Q}^2;\ a\phi+b\longmapsto\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix} \end{align} によって本質的に等価*1であるが, における一次函数に対応する側の写像は, なるベクトルの一次変換である. 即ち, 写像 \begin{align} \begin{array}{ccc}\mathbb{Q}(\phi) & \stackrel{f_{\phi}}{\longrightarrow} & \mathbb{Q}(\phi) \\&&\\ a\phi+b & \longmapsto & (a+b)\phi+a \end{array} \end{align} が, 同型写像を通じて \begin{align} \begin{array}{cccc} \mathbb{Q}^2 & \stackrel{f_{\Phi}}{\longrightarrow} & \mathbb{Q}^2 \\&&\\ \begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix} & \longmapsto & \begin{pmatrix}a+b\\a\end{pmatrix} \end{array} \end{align} に翻訳せられる. これを一つの可換図式に示すならば次の通りになる.
は行列の転置であり, また線分で集合と元の所属関係を表している. かくのごときを写像の表現行列と呼称する. ある与えられた規則の計算 (線型写像) を座標平面上の一次変換に翻訳しているところが「表現」という用語の本懐なのであって, ここに以外の空間を用いるのは, 話の意図が汲みとり辛くなるから悪い.
環論的にいうならば, 二つの環*2 \begin{align} \mathbb{Q}(\phi)&=\{a\phi+b\mid a,b\in\mathbb{Q}\},\\ \mathbb{Q}(\Phi)&=\{a\Phi+bI\mid a,b\in\mathbb{Q}\} \end{align} は, 環の同型と呼ばれる種の対応関係, \begin{align} \psi\;\colon\;\mathbb{Q}(\phi)\longrightarrow\mathbb{Q}(\Phi);\ a\phi+b\longmapsto a\Phi+bI \end{align} のために同じと見なすことが可能である.
演習問題
七個.