この記事では, この問題に対する解答を記します. 当初の予定では長々とした解説を付する予定でしたが, 個人的見解に基づきその殆どを省略することとしました.
この問題は下の記事の演習問題ですが, ここでは元記事の内容を前提としない証明を扱います.
言いかえ
考えるべきなのはという式が整数値を取る場合ですが, この分数式は \begin{align} \left(x+\frac{\,1\,}{\,x\,}\right)\left(y+\frac{\,1\,}{\,y\,}\right)&=\frac{\,(x^2+1)(y^2+1)\,}{xy}\\ &=xy+\frac{\,x^2+y^2+1\,}{xy} \end{align} と変形することができ, 問題は「がの倍数になるのはどのような場合か」という問いに帰着します. これから, この整数問題について解説してゆきます.
実験
先ず説明のために, に小さな値を順に代入して様子をお見せしたいと思います. 下にの範囲で該当する対を挙げます.
この実験から, がの倍数のときとなるであろう, と予想を立てることができます. そこで, が正整数解を持つような整数を特定できないかを探ってみることにします.
の値
が必要であることの証明は容易です.
次はの場合に解が無いことを示します.
今から書く解法は*1, 考察するべき二次方程式が対称的であること, 即ちの入れかえに関して条件が不変であることに着想の源があります. 具体的に言えば, 対象の二次方程式が有する一つの整数解を利用して, より小さな解を構成し, いわゆる無限降下法を成立させる方法です. ほんの少し煩雑な計算になりますので, 細かい内容を追うとなると簡単ではありません. ここでは算術的な証明を一通り紹介しますが, その後に書く幾何的解釈のほうが, 本質を掴むのに適していると思います.
証明の都合上, 不等式評価を目的としての場合を除外しておきます.
続いて,
が正整数解を持つことを仮定するとき, 条件を満たすが少なくとも組存在する. その中のつをとおく.
次に, を満たす組であって, 今仮定したと同じくであるものを考察すると, 自体はを満たしませんが, 成分を逆に並べたはを満たすことが明らかに成ります. ここではより曖昧に「またはがを満たす」ことを述べます.
が方程式の解であることから自明.
整数であることはにおいてが整数であることから, 正であることはにおいてが正であることから判する.
または
は異なる実数であったから自明である.
若しを仮定すれば, 即ちによってであるから詰まりが得られる. しかしこれを満たす正整数は存在しないので仮定は誤りである. 即ち
こうしてから構成されるあるいはは条件を満たし, かつのために, これはもとの解と比べての値の小さな組である. この解に対しても同様な構成を行うと, さらにの値が小さな組が得られて, 以降も操作を限りなく繰りかえすことができる. しかし, これはによってが下界を持つことに反する.
この証明から, がにおいて正整数解を持っていたとすると, の場合もの場合もおかしなことが起こると判ったので, 解を持つという仮定は誤りであるといえます.
図解
ここで, 以上に見た無限降下法の図解を紹介しておこうと思います.
先ず, 直交座標平面において, 曲線はに関して対称な二次曲線であり, より詳しく言えば双曲線の正部分に当ります.
内側からに対応する双曲線で, の場合はそもそもなる実数が存在しないために描画されていない点にご注意ください.
ここで, 曲線 の上に整点が存在することを仮定して, に属する他の整点を構成します. 但し, 議論の都合によりは充分に原点から離れているものとします. この二次方程式のもう一つの解から作られる点はと座標が等しく, 従って, を通る軸の並行線と双曲線とが交わる点に成ります. 双曲線の形を考えれば, 元の点は領域に在る点であったので, 次のは反対にの領域の点であるはずです. これを直線に関して対称移動すると, 対称点は領域に入り, 条件を満たす組が得られます.
この操作を続けると, 新しく作られる整点は次第に双曲線の頂点に接近して, ならばここに到達し, ならば, が正のまま負の無限大へと彷徨いつづけることに成ります. これらの差異を生じているのは, 頂点の張る領域の中に整点が存在しているか否か, ということであります.
上り
の場合の等式は \begin{align} x^2+y^2+1=3xy \end{align} の形をしていますが, 先ほどの図解法によれば, この方程式のすべての解を再帰的に得ることができます. どの整点も繰りかえし変換して「左下」の点に帰着することができたので, 今度は「左下」の点から経路を遡れば善いのです. 変換の規則を見れば, 上り路が分岐することも有りませんので, 単純な漸化式によって解を記述できることまで判ります.
直線と曲線のもう一つの交点を取る.
その交点を直線に関して対称移動する.
という二つの操作を繰りかえすことによって, 点に帰結することが可能である. 逆に, 点からこの手順を行えば, 曲線上の点を一度ずつ渡ることができる.
纏めます.
Pell 方程式
この問題を Fibonacci 数の判定式についての記事の演習問題としていたのは, 当然方程式の正整数解を使っても答えを得ることができるからです. その解法は, がを割りきるとき \begin{align} x^2+y^2+1=3xy \end{align} であることを証明するところまでは同じですが, この二次式を対角化 (平方完成) して \begin{align} (2x-3y)^2-5y^2&=-4 \end{align} の Pell 方程式に帰結させる点において異なります. 今回扱った論法は (1) の記事で紹介した初等的解法と似ていますが, こんな風に, 座標平面で見ることもできたのですね.
*1:今回紹介する解法はいわゆる Viete の構成法 (Vieta jumping) に基づいています.