〔フィボナッチ数の三角函数表示〕 フィボナッチ数には三角
函数に類似した性質が数多く知られており, その繋がりは以下の等式が成立することによって説明することができる. \begin{align} F_n=i^{n-1}\frac{\sin{n\vartheta}}{\sin{\vartheta}}.\end{align}
ただし, , は円周率, で, は自然対数を表すとします.
この記事では, リュカ数列およびフィボナッチ数列と三角函数の間の関係について, 以下を目標として記します.
- リュカ数, フィボナッチ数の満たす諸性質からこれらと三角函数の間の類似性を確認し, リュカ数, フィボナッチ数の一般項の三角函数表示を導く. さらに, チェビシェフ多項式との関係について考察する.
前提知識
複素三角函数, チェビシェフ (Chebyshev) 多項式など
一般項
以下, リュカ数列, フィボナッチ数列の定義域を定義漸化式により整数の全体にまで拡張して考えることにします. たとえばは \begin{align} &F_0=F_2-F_1=0\\&F_{-1}=F_1-F_0=1\\&F_{-2}=F_0-F_{-1}=-1 \end{align} のように計算されます.
まず初めに一般項を用意しておきます. 三角函数表示もをの式で表しているという意味で一般項であるといえますが, この記事では一般項とは次の指数による表記のことを指すものとします.
証明. (省略. )
三角函数に類似した性質
リュカ数列とフィボナッチ数列に関して以下のような性質が成り立つことが知られており, いずれも数学的帰納法か, あるいは一般項の代入で示すことができます.
証明. それぞれの等式の各辺に一般項を代入して整理すれば成立していることが確かめられる. すなわち,
\begin{align}2L_{m+n}&=2(\phi^{m+n}+\bar{\phi}^{m+n})\\&=(\phi^m+\bar{\phi}^m)(\phi^n+\bar{\phi}^n)+(\phi^m-\bar{\phi}^m)(\phi^n-\bar{\phi}^n)\\&=L_mL_n+5F_mF_n.\end{align}
また,
\begin{align} 2F_{m+n}&=\frac{2(\phi^{m+n}-\bar{\phi}^{m+n})}{\sqrt{5}}\\&=\frac{(\phi^m-\bar{\phi}^m)(\phi^n+\bar{\phi}^n)+(\phi^m+\bar{\phi}^m)(\phi^n-\bar{\phi}^n)}{\sqrt{5}}\\&=F_mL_n+L_mF_n. \end{align}
(追記) より簡単な証明として, 一般項から
という等式を導いておいて, これを
に代入するという方法があります.
これらの等式は加法定理と呼ばれるもので, 三角函数の加法定理 \begin{align} \cos{(x+y)}=\cos{x}\cos{y}-\sin{x}\sin{y}\\\sin{(x+y)}=\sin{x}\cos{y}+\cos{x}\sin{y} \end{align} によく似た式構造をとっていることが見て取れます.
証明. いずれも一般項または加法定理から導かれる. 計算の詳細は省略する.
式はに, 式は余弦の倍角の公式に, 式は正弦の倍角の公式にそれぞれ対応しています.
これらの等式に限らず, 一般項についても, オイラーの公式から導かれる等式およびに類似していることが分かります. このようなリュカ数, フィボナッチ数と三角函数との相互関係は次項で示す定理 3. に起因しており, この定理を用いることで他の諸性質についてもリュカ数列, フィボナッチ数列と三角函数との関連性を見ることができるようになります.
三角函数表示の導出
さて, 本題であった三角函数表示を一般項から導きましょう.
定義 4. 簡略化のため
とおく.
定理 5(三角函数表示) 以下の等式が成立する.
ここでの定義からおよびの定義域は複素数の全体としていることに注意してください.
証明. はの値によってとが入れ替わるのでの偶奇に着目し場合分けする.を計算すると
\begin{align} \cos{n\vartheta} = \cos{\left(\frac{n\pi}{2}+in\ln{\phi}\right)} &= \left\{ \begin{array}{ll} (-1)^{(n+1)/2}\sin{(in\ln{\phi})} & (n:{\rm odd}) \\ (-1)^{n/2}\cos{(in\ln{\phi})} & (n:{\rm even}) \end{array} \right.\\&\\ &= \left\{ \begin{array}{ll} \displaystyle i^{n+1}\cdot\frac{e^{-n\ln{\phi}}-e^{n\ln{\phi}}}{2i} & (n:{\rm odd}) \\ \displaystyle i^n\cdot\frac{e^{-n\ln{\phi}}+e^{n\ln{\phi}}}{2} & (n:{\rm even}) \end{array} \right.\\&\\ &=\frac{1}{2}\cdot \left\{ \begin{array}{ll} i^n(\phi^{-n}-\phi^n) & (n:{\rm odd}) \\ i^n(\phi^{-n}+\phi^n) & (n:{\rm even}) \end{array} \right.\\&\\ &=\displaystyle\frac{1}{2}\cdot \left\{ \begin{array}{ll} i^{n+2}(\phi^n+\bar{\phi}^n) & (n:{\rm odd}) \\ i^n(\phi^n+\bar{\phi}^n) & (n:{\rm even}) \end{array} \right. \end{align}
ただし最後の等号でであることを用いた. ここで, が奇数のときより, が偶数のときよりであることを用いると \begin{align} \cos{n\vartheta}=\frac{\phi^n+\bar{\phi}^n}{2i^n}=\frac{L_n}{2i^n}. \end{align}これを整理すれば式が得られる. についても同様にすると,
\begin{align}\sin{n\vartheta} = \sin{\left(\frac{n\pi}{2}+in\ln{\phi}\right)} &= \left\{ \begin{array}{ll} (-1)^{(n-1)/2}\cos{(in\ln{\phi})} & (n:{\rm odd}) \\ (-1)^{n/2}\sin{(in\ln{\phi})} & (n:{\rm even}) \end{array} \right.\\&\\ &= \left\{ \begin{array}{ll} \displaystyle i^{n-1}\cdot\frac{e^{-n\ln{\phi}}+e^{n\ln{\phi}}}{2} & (n:{\rm odd}) \\ \displaystyle i^n\cdot\frac{e^{-n\ln{\phi}}-e^{n\ln{\phi}}}{2i} & (n:{\rm even}) \end{array} \right.\\&\\ &=\frac{1}{2}\cdot \left\{ \begin{array}{ll} i^{n-1}(\phi^{-n}+\phi^n) & (n:{\rm odd}) \\ i^{n-1}(\phi^{-n}-\phi^n) & (n:{\rm even}) \end{array} \right.\\&\\ &=\displaystyle\frac{1}{2}\cdot \left\{ \begin{array}{ll} i^{n-1}(\phi^n-\bar{\phi}^n) & (n:{\rm odd}) \\ i^{n+1}(\phi^n-\bar{\phi}^n) & (n:{\rm even}) \end{array} \right.\end{align}
が奇数のとき, が偶数のときであるから \begin{align} \sin{n\vartheta}=\frac{\phi^n-\bar{\phi}^n}{2i^{n-1}}=\frac{\sqrt{5}F_n}{2i^{n-1}}. \end{align} よって 特にのときとなるから \begin{align}F_n=i^{{n}-1}\frac{\sin{n\vartheta}}{\sin{\vartheta}} \end{align} も成立することがわかる.
(追記) 等式
を用いると, 計算はかなり簡略されます (が, チェビシェフ
多項式に関する知識が必要になります) : \begin{align} L_n-F_n\sqrt{5}&=2(-1)^n\phi^{-n}\\ &=2(-1)^ne^{-n\ln\phi}\\ &=2i^ne^{in(\pi/2+i\ln\phi)}\\ &=2i^n\cos{n\vartheta}-2i^{n-1}\sin{n\vartheta}. \end{align} 但し, \begin{align} \cos{\vartheta}=-\frac{i}{2},\quad\sin{\vartheta}=\frac{\sqrt{5}}{2}. \end{align} ここにおいて, 三角
函数の
倍角の公式の式形 (チェビシェフ
多項式) を考えると, 常に
は
有理数,
は
有理数と
の積である. これに基づき, 両辺を比較すれば三角
函数表示が得られる.
この三角函数表示を用いることで, 三角函数の加法定理をフィボナッチ数列の加法定理(命題 2 )に変換することができます. たとえばを認めれば
\begin{align} 2F_{m+n}&=\sqrt{5}i^{m+n-1}(\sin{m\vartheta}\cos{n\vartheta}+\cos{m\vartheta}\sin{n\vartheta})\\ &=\frac{\sqrt{5}}{2}i^{{m}-{1}}\sin{m\vartheta}\cdot 2i^n\cos{n\vartheta} +2i^m\cos{m\vartheta}\cdot\frac{\sqrt{5}}{2}i^{{n}-{1}}\sin{n\vartheta}\\ &=F_mL_n+L_mF_n \end{align}
となって命題 2 の式を証明することができました.
ここで, 三角函数表示の式中に現れたに注目すると, これらは倍角の公式を用いて展開すればの (少なくとも) 複素整数係数の多項式で表すことができそうです. そこで, チェビシェフ多項式を導入し, 上記の式を変形してみます. 以下, をそれぞれ第一種, 第二種のチェビシェフ多項式とします. すなわち, \begin{align} &T_n(\cos{z})=\cos{nz}\\&U_n(\cos{z})=\frac{\sin{nz}}{\sin{z}} \end{align} です.
証明. 定理 5 より \begin{align} &L_n=2i^{n}T_n(\cos{\vartheta})=2i^nT_n\left(-\frac{i}{2}\right),\\ &F_n=i^{n-1}U_n(\cos{\vartheta})=i^{n-1}U_n\left(-\frac{i}{2}\right). \end{align}
チェビシェフ多項式による表示の整数論への応用については演習問題を参照してください.
一般化
これで三角函数によって記述された特殊な等式を具体化し, リュカ数, フィボナッチ数に関する等式に変換することができるようになりました. 以下では逆に, リュカ数やフィボナッチ数の定義の自由度をだけ増やして一般化した数列を考えることで, 三角函数に関する等式を導出してみたいと思います.
定義 7. 複素数に対し,
-リュカ数列
,
-
フィボナッチ数列を漸化式
\begin{align} &L_{k,0}=2,\ L_{k,1}=k,\ L_{k,n+2}=kL_{k,n+1}+L_{k,n}\\&F_{k,0}=0,\ F_{k,1}=1,\ F_{k,n+2}=kF_{k,n+1}+F_{k,n} \end{align}
により定義する.
共通の特性方程式の解を \begin{align} \omega_k=\frac{k+\sqrt{k^2+4}}{2},&&\overline{\omega_k}=\frac{k-\sqrt{k^2+4}}{2} \end{align} とおくと, 一般項は \begin{align} L_{k,n}=\omega_k^n+\overline{\omega_k}^n,&&F_{k,n}=\frac{\omega_k^n-\overline{\omega_k}^n}{\omega_k-\overline{\omega_k}} \end{align} となります. これらはリュカ数列, フィボナッチ数列の一般項においてをに置き換えたものですので, 三角函数表示の導出過程の計算については先ほどと全く同様です.
証明. (省略. )
定義によると, を動かしたときのの値域は複素数の全体です. よって, 任意の複素数についてになるが少なくともつ存在するので, に関する等式をを用いた式に変換することができます. についても同様です.
証明. についての数学的帰納法で証明する. の場合は具体的に確かめられる. 次に, 三項間の数学的帰納法によって \begin{align} L_{k,n}=F_{k,n+1}+F_{k,n-1} \end{align} が得られるので, この等式との場合のの式を用いると
\begin{align} &(-1)^{n+1}\left(1+\sum_{j=1}^{n+1}(-1)^jL_{2j}\right)\\ =&-(-1)^n\left(1+\sum_{j=1}^{n}(-1)^jL_{2j}+(-1)^{n+1}L_{k,2n+2}\right)\\ =&-F_{k,2n+1}+L_{k,2n+2}=F_{k,2n+3}\\ \end{align}
となる. よって, 任意のについて等式は成立する.
の式に三角函数表示を代入すると
\begin{align} \frac{(-1)^n\sin{(2n+1)\vartheta_k}}{\sin{\vartheta_k}}=(-1)^n\left(1+\sum_{j=1}^n2\cos{2j\vartheta_k}\right). \end{align}
両辺をで割ってと置き換えれば, が任意の複素数をとり得ることから証明が完了する.
演習問題
問. を
の正の倍数,
を整数とするとき,
を
で割った余りは幾らになるか.
問. 任意の整数
に対して,
および
を
の
有理数係数
多項式の形に表せ. 但し,
や
は
に依存する数であるが, ここでは特別に独立した定数と見なすという視点の下で考える.
文献
[1] Asuka Tsukimi, "Fibonacci数", もちもちモチーフ.