Arithmetica

フィボナッチ数と平方数, 記数法.

Arithmetica 算術ノート

n > 5 におけるベルトランの仮説の証明

〔Bertrandの仮説〕
1 より大きい整数 𝒏 に対し,  𝒏 < 𝒑 < 2𝒏 なる素数 𝒑 が存在する.

 

この記事では, 以下を目標として上記の定理を証明します.

  • Bertrandの仮説の証明における不等式評価をより緻密にし, バウンドを\ n\geq6\ まで下げた証明をまとめる.



前提知識

二項係数, ルジャンドル (Legendre) の定理(階乗数が素数\ p\ で割りきれる回数), 指数函数多項式函数の導函数など







まえおき

2018 年に,  いわゆる「Bertrandの仮説」の証明におけるバウンドを\ n\geq6\ にまで下げることに成功したという論文が,  Manoj Verma (マノジ=ヴァーマ) 氏によってarXivに投稿されていましたので,  そのアウトラインをここにまとめておきたいと思います.


本記事には横長の数式が多く含まれるので, スマートフォンの場合は画面の横向き表示を推奨します.





準備

次の項で見るように, 証明には中央二項係数\ \displaystyle{}_{2n}{\rm C}_n=\frac{(2n)!}{n!n!}\ 素因数分解における各指数の大小評価が必要になるのですが, 準備として初めに済ませておくことにします.  以下, 非零整数\ i\ 素数\ p\ に対して, \ i\ 素因数分解したときの\ p\ の冪指数, すなわち\ i\ \ p\ で割り切れる回数を\ \nu_p(i)\ で書き表すことにします.  これを\ p\ 進オーダー, あるいは\ p\ 進付値と呼びます.


中央二項係数\ c_n={}_{2n}{\rm C}_n\ \ p\ 進付値を整数部分の記号を使って表現すると

\begin{align} \nu_p(c_n)&=\nu_p\left(\frac{(2n)!}{n!n!}\right)=\nu_p({}(2n)!)-2\nu_p(n!)\\ &=\sum_{i=1}^\infty\left(\left\lfloor\frac{2n}{p^i}\right\rfloor-2\left\lfloor\frac{n}{p^i}\right\rfloor\right)=\sum_{i=1}^{r_p}\left(\left\lfloor\frac{2n}{p^i}\right\rfloor-2\left\lfloor\frac{n}{p^i}\right\rfloor\right) \end{align}

と成ります. ただし\ r_p\ \ 2n/p^i\geq1\ となる最大の\ i\ で, \ i\gt r_p\ のとき級数の中身はつねに零になります.

\ n\geq6\ を一つ取って固定します. \ 2n\ 以下の素数\ p\ について\ \nu_p(c_n)\ の評価を行うために,   \begin{align} 2\lt\sqrt{2n}\lt\frac{2}{3}n\lt n\lt 2n \end{align} という大小関係が成立することを利用して, \ p\ を大小に基づき分類します.

  • \ n\lt p\leq2n\ なる\ p\
    \qquad\ p\leq 2n\lt p^2\ より\ r_p=1\ であって, \ 1\leq2n/p\lt2\ および\ n/p\lt1\ が成り立つことから\ \nu_p(c_n)=\sum_{i=1}^1(1-2\cdot0)=1.\
     
  • \ 2n/3\lt p\leq n\ なる\ p\
    \qquad\ p\lt 2n\lt p^2\ より\ r_p=1\ であって, \ 2\leq2n/p\lt3\ および\ 1\leq n/p\lt3/2\ が成り立つことから\ \nu_p(c_n)=\sum_{i=1}^1(2-2\cdot1)=0.\
     
  • \ \sqrt{2n}\lt p\leq2n/3\ なる\ p\
    \qquad\ p\lt 2n\lt p^2\ より\ r_p=1\ であって, 任意の実数\ x\ について\ \lfloor2x\rfloor-2\lfloor x\rfloor\in\{0,1\}\ が成り立つので, \ \nu_p(c_n)\leq\sum_{i=1}^11=1.\
     
  • \ 2\leq p\leq\sqrt{2n}\ なる\ p\
    \qquad上に同じ理由によって\ \nu_p(c_n)\leq\sum_{i=1}^{r_p}1=r_p\leq\log_p(2n).\





概説

以下は私の場合の思考 (こじつけ ? ) の流れです. 必要でなければ次の項まで飛ばしてください.


さて, 示したいのは開区間\ (n,2n)\ あるいは\ (n,2n]\ における素数の存在性ですが, まず扱う対象である素数の分布を評価するのが困難である以上, 直接に個数を考えるような証明方法では厳しいであろうと予想がつきます. そこで何らか簡単な整数の素因数として, 特定の大きさの素数を構成する方法をとりたいわけですが, たとえば区間\ (n,2n]\ に含まれるすべての素数の積は,  いま考えているような大きさの素数全部を素因数に持ちます.  そしてこの積の値が\ 1\ より大きければ, 直ちに定理に辿りつくことができます (連続素数の積というこの整数は,  このままでは扱いにくいのですが,  後述するような工夫をもうひとつ加えれば,  見通しのよい問題に帰着することができます).  この積を以降\ P(n,2n]\ と表記し, 同様に, ある区間\ I\subset\mathbb{R}\ に含まれる素数全部の積を\ PI\ で表すことにします.


続いて\ P(n,2n]\ の不等式評価が問題になります. 愚直に\ P(n,2n]\ を考察しようとしても, 結局これでは素数の複雑さに阻まれてしまう.  ですから\ (n,2n]\ に含まれるすべての (素数のみでなく) 整数の積 \begin{align} (n+1)(n+2)\cdots(2n-1)2n \end{align} を考え, その素因数に着目する方針をとります. 更に,  \ p\ 進オーダーの評価のしやすさを確保するために\ (n+1)(n+2)\cdots(2n-1)2n\ \ n!\ で割って \begin{align} \frac{(2n)!}{n!n!}=c_n \end{align} という二項係数を考えるようにします (二項係数の\ p\ 進オーダーは,  Legendre の定理によって評価されるのでありました).  もちろんのこと,  この整数の素因数には区間\ (n,2n]\ に属さないようなものも含まれています.  \ c_n\ の素因数の中から, 考えるべき大きさの素因数を抽出するために,  \ c_n\ 素因数分解において, 区間\ (n,2n]\ に属する素数達の部分を抽出した積を, \ Q(n,2n]\ と書くことにします.  すると先ほどのオーダー評価の結果に基づいて, (n\lt p\leq2n\ なら\ \nu_p(c_n)=1\ だから) \begin{align} P(n,2n]=Q(n,2n]=\frac{c_n}{Q[2,n]} \end{align} と変形することができるので, 示すべき命題は右辺が\ 1\ よりも大きいことと同値になります.

ここで, 左辺中辺間の等号が成立しているというのは, 数理的には (二項係数のオーダー評価をかえりみれば判る通り) 当然ならがらも, 非常にありがたいことです. この等式のお陰で, 必要十分性を欠くことなく\ P(n,2n)\gt1\ を書き換えるという予てよりの目標に達することができます.

中辺から右辺のように変形したのは,  素数に由来する数を「分子に置かない」ためです.  と言うのは,  素数の個数や素数の積といった式が「どれくらい小さいか」という議論のほうが,  「どれくらい大きいか」という議論よりもたやすいからです (元々考えていた問題は,  ある範囲での素数の個数が「\ 0\ よりも多い」ことを示さねばならないものだった).  証明すべき内容の重要な言いかえは,  おおむねこんなところです.  

ここから,  右辺の大きさを考えるために二項係数とその素因数冪についての評価を行ってみるのですが, これが以外と厳しく, 単純に思い当たるような方法では, \ n\ の適用可能な下限が三桁ほどにまで膨れ上がってしまいます. それゆえに,  厳密な評価をおこなうために細かな計算が多量要求されることは, 言を要しません.  





不等式評価

中央二項係数の下からの評価

命題 1 \ \displaystyle c_n\geq\frac{2^{2n-1}}{\sqrt{n}}\quad(n\gt0).\

証明の概略. \ n=1\ のとき等号が成立し, その後の増加の速さは左辺のほうが大きいことが示される.

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Q [2,n ] の上からの評価

続いて分母についてですが, 準備の項において中央二項係数の素因子を分類したのと同様に \begin{align} Q[2,n]=Q\left(\frac{2}{3}n,n\right]Q\left(\sqrt{2n},\frac{2}{3}n\right]Q[2,\sqrt{2n}] \end{align} と分解して考えます. \ p\in(2n/3,n]\ のとき\ \nu_p(c_n)=0\ であった事実から第一因数は何ら影響を及ぼさない(形式的には, 乗法単位元\ 1\ に等しい)ため, 結局は \begin{align} Q[2,n]=Q\left(\sqrt{2n},\frac{2}{3}n\right]Q[2,\sqrt{2n}] \end{align}という式形になります.

命題 2 \ Q[2,\sqrt{2n}]\lt(2n)^{\pi(\sqrt{2n})}\quad(n\gt0).\

ただし, \ x\in\mathbb{R}\ に対する\ \pi(x)=\#\{p:{\rm prime}\mid p\leq x\}\ 素数計数函数とします.


証明. \ p\in[2,\sqrt{2n}]\ のとき\ \nu_p(c_n)\leq \log_p{2n}\ から \begin{align} Q[2,\sqrt{2n}]&\lt\underbrace{2^{\log_2{2n}}\times3^{\log_3{2n}}\times5^{\log_5{2n}}\times\cdots}_{\pi(\sqrt{2n})\ \textit{factors}}\\&=(2n)^{\pi(\sqrt{2n})}. \end{align}

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命題 3
\ \displaystyle Q\left(\sqrt{2n},\frac{2}{3}n\right]\lt2^{(4n)/3-2-\pi(\sqrt{2n})}\cdot n^{-1}\quad(n\geq6).\
補題 3-1 \ \displaystyle P[2,n]\lt\frac{4^n}{6n}\quad(n\geq4).\


証明. まず, 次の不等式を用意する. \begin{align} P(n,2n-1]=P(n,2n]\lt2^{2n-3}. \end{align} 左辺と中辺の相当は言うまでもないが, 中辺と右辺の大小については, たとえば次のようにして証明される. すなわち, 二項係数\ {}_{2n-1}{\rm C}_{n-1}\ は任意の\ p\in(n,2n-1]\ の倍数であるから, \begin{align} P(n,2n-1]\leq{}_{2n-1}{\rm C}_{n-1}=\frac{c_n}{2} \end{align} が成立する. ここで, 命題 1 と全く同様な手法によって, \ n\geq5\ の際に不等式\ c_n\lt4^{n-1}\ の成立が確かめられるので, \begin{align} P(n,2n-1]\lt2^{2n-3} \end{align} である.

さて, 示すべき不等式 \begin{align} P[2,n]\lt\frac{4^n}{6n} \end{align} を示すにあたって, 先ほど見たような\ n\ から\ 2n-1,2n\ の場合を導く再帰性に着目し, 次の数学的帰納法を適用する.

  • \ n\in\{5,6,7,8\}\ において命題が成立する.
  • \ n\ で命題が成立するならば, \ 2n-1,2n\ のときも成立する.
\ n=4\ から始めることができないは, 先ほど用意した不等式が\ n\geq5\ を定義域としていたからです.


\ n\in\{5,6,7,8\}\ のときには具体的に確かめられる. 次に\ P[2,n]\lt\dfrac{4^n}{6n}\ を仮定すると \begin{align} P[2,2n-1]&=P[2,n]P(n,2n-1]\\ &=\frac{4^n}{6n}\cdot2^{2n-3}=\frac{4^{2n-1}}{12n}\lt\frac{4^{2n-1}}{12n-6}\\ P[2,2n-1]&=P[2,2n]\\ &\lt\frac{4^{2n-1}}{12n}\lt\frac{4^{2n}}{12n} \end{align} のように\ 2n-1,2n\ の場合にも成立する. よって\ n\geq5\ のときは正しく, また\ n=4\ のときもよい. 以上によって補題は示された.

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補題 3-2 \ \displaystyle P[2,x]\lt\frac{4^x}{6x}\quad(x\geq4).\


証明. 前の補題を実数\ x\geq4\ に拡張することを考える. 示すべき不等式の右辺\ 4^x/(6x)\ \ x\ に関する導函数 \begin{align} \frac{4^x}{6x^2}(x\ln{4}-1) \end{align} は恒等的に正であるから, 元の函数は狭義において単調増加であり, \begin{align} P[2,x]=P[2,\lfloor x\rfloor]\lt\frac{4^{\lfloor x\rfloor}}{6\lfloor x\rfloor}\lt\frac{4^x}{6x}. \end{align}

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命題 3 の証明. \ \sqrt{2n}\lt p\leq(2n)/3\ なる\ p\ に対し\ \nu_p(c_n)\leq1\ であったから \begin{align} Q\left(\sqrt{2n},\frac{2}{3}n\right]\leq P\left(\sqrt{2n},\frac{2}{3}n\right]=\frac{P\left[2,\frac{2}{3}n\right]}{P[2,\sqrt{2n}]} \end{align} と変形することができる. \ n\geq6\ のとき\ (2n)/3\geq4\ に留意して補題の式を用いると \begin{align} \frac{P\left[2,\frac{2}{3}n\right]}{P[2,\sqrt{2n}]}&\lt\frac{4^{\frac{2}{3}n}}{6\cdot\frac{2}{3}n}\cdot\frac{1}{2^{\pi(\sqrt{2n})}}\\&=2^{(4n)/3-2-\pi(\sqrt{2n})}\cdot n^{-1} \end{align} となる.

ただし \begin{align} P[2,\sqrt{2n}]=\underbrace{2\times3\times5\times\cdots}_{\pi(\sqrt{2n})\ \textit{factors}}\gt2^{\pi(\sqrt{2n})} \end{align} であることを用いました.
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仕上げの不等式

以上の議論から

\begin{align} P(n,2n)&=Q(n,2n)=\frac{c_n}{Q[2,n]}\\&=\frac{c_n}{Q[2,\sqrt{2n}]Q\left(\sqrt{2n},\dfrac{2n}{3}\right]Q\left(\dfrac{2n}{3},n\right]} \\ &\gt\frac{2^{2n-1}}{\sqrt{n}}\cdot\frac{1}{(2n)^{\pi(\sqrt{2n})}}\cdot\frac{n}{2^{(4n)/3-2-\pi(\sqrt{2n})}}\\ &=2^{(2n)/3+1}n^{1/2-\pi(\sqrt{2n})} \end{align}

という不等式が得られ, 右辺が\ n\geq6\ においてつねに\ 1\ 以上であることが示されれば, 証明が完了することになります. 素数計算函数に対する大小評価は難しいので, 素数の定義から容易に導かれる次の不等式を応用します. \begin{align} \pi({\sqrt{2n}})&\leq\#\{k:{\rm odd}\mid 3\leq k\leq\sqrt{2n}\}\\&\leq\#\{k:{\rm even}\mid 2\leq k\leq 1+\sqrt{2n}\}\\&=\left\lfloor\frac{1+\sqrt{2n}}{2}\right\rfloor\leq\frac{1+\sqrt{2n}}{2}. \end{align}

この不等式において評価を少しだけ緩めました.

したがって, 示すべきなのは \begin{align} &P(n,2n)\gt2^{(2n)/3+1}n^{-\sqrt{2n}/2}\gt1\\ \Longleftrightarrow\;&\sqrt{2n}^{\sqrt{2n}}\lt2^{(2n)/3+1+\sqrt{2n}/2}\\ \Longleftrightarrow\;&(\sqrt{2n})^6\lt2^{2\sqrt{2n}+3+6/\sqrt{2n}} \end{align} が成立することである.  これは, 次の命題から明らかになります.

命題 4 \ \displaystyle x^6\lt2^{2x+3+6/x}\quad(x\gt0).\
補題 4-1 \ 0.691\lt\ln{2}\lt0.694.\

証明. 次の等式を用いる.

\begin{align} \begin{cases} \displaystyle\ \ \ \ln(1+x)=x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}-\frac{x^4}{4}+\int_0^x\frac{t^4}{1+t}{\rm d}t\\\displaystyle -\ln(1-x)=x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}+\frac{x^4}{4}+\int_0^x\frac{t^4}{1-t}{\rm d}t \end{cases}. \end{align}

\ x=1/3\ を代入し辺々足し合わせると \begin{align} \ln{2}&=2\left(\frac{1}{3}+\frac{1}{3\cdot3^3}\right)+E\\ &=0.6913\cdots+E,\\ E&=\int_{o}^{\frac{1}{3}}\frac{2t^4}{1-t^2}{\rm d}t \end{align} となり, 定積分の含まれる誤差項は \begin{align} 0&\lt\int_0^{\frac{1}{3}}\frac{2t^4}{1-t^2}{\rm d}t\\ &\lt\int_0^{\frac{1}{3}}\frac{2t^4}{1-(1/3)^2}{\rm d}t=\frac{9}{8}\cdot2\cdot\frac{1}{5}\cdot\frac{1}{3^5}\lt0.002 \end{align} と評価されるから, \ 0.691\lt\ln{2}\lt0.694\ である.

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命題 4 の証明. 示すべき不等式において, 左辺と右辺それぞれの自然対数の差 \begin{align} m(x)=\left(2x+3+\frac{6}{x}\right)\ln{2}-6\ln{x} \end{align} の\ x\ に関する導函数は \begin{align} m'(x)=\left(2-\frac{6}{x^2}\right)\ln{2}-\frac{6}{x} \end{align} である. \ m'\ の零点を\ \alpha,\beta\ とおき, \ x=4.9,\ 5.0\ および\ x\to+0\ として微分係数の正負を見ると \begin{align} m'(4.9)&=\left(2-\frac{6}{24.01}\right)\ln{2}-\frac{6}{4.9}\\ &\lt\left(2-\frac{6}{24.5}\right)\frac{30}{43}-\frac{60}{49}\\ &=\frac{86}{49}\times\frac{30}{43}-\frac{60}{49}=0,\\ m'(5.0)&=\left(2-\frac{6}{25}\right)\ln{2}-\frac{6}{5}\\ &\gt\left(2-\frac{6}{25}\right)\frac{20}{29}-\frac{6}{5}\\ &=\frac{2}{5\times29}(88-87)\gt0,\\ \lim_{x\to +0}m'(x)&=-\infty. \end{align}

\begin{align} \frac{30}{43}&=0.697\cdots\\ \frac{20}{29}&=0.689\cdots \end{align}

となるから, \ \alpha,\beta\ は共に実数であって, うちいずれかは開区間\ (4.9,5.0)\ に. もう一方は\ (-\infty,0)\ に属する. したがって\ x\gt0\ のとき, \ m\ \ (4.9,5.0)\ において極小となるから, この区間において最小となる.

よって\ x\in(4.9,5.0)\ の場合に証明できれば充分であるが, この区間内における右辺の最小値と左辺の最大値を比較すると \begin{align} 2^{2x+3+6/x}&\gt2^{2\times4.9+3+6/4.9}\\ &\gt2^{9.8+3+1.2}=2^{14}\\ &\gt5^6\gt x^6. \end{align}

\ x\ 函数\ 2^{2x+3+6/x}\ \ x\gt\sqrt{3}\ において単調増加です. 開区間\ (4.9,5.0)\ における両辺の増減がさほど大きくないということもあって, このような小数第一位程度の評価で済ますことができるのです.

以上によって命題は示された.

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定理 5(Bertrandの仮説) 整数\ n\gt1\ に対し, \ n\lt p\lt2n\ なる素数\ p\ が存在する.

証明. 以上の議論によって\ n\geq6\ の場合は既に示された. \ n\lt6\ の場合は具体的に確かめられる.

\Box






演習問題

問. \ p_n\ を昇順で\ n\ 番目に当たる素数とするとき, \ n\ge5\ において次の不等式が成り立つことを示せ. \begin{align} p_1p_2\cdots p_n\gt p_{n+1}^2. \end{align}

 

問. 階乗数でも累乗数でもある整数をすべて挙げよ. すなわち, 整数上の不定方程式\ a!=b^c\ を, \ a\geq0,\ \ b\gt0,\ \ c\geq2\ の範囲において解決せよ.

 

\ 1\ のみ.





参考文献

[1] Manoj Verma (2018), "Proof of Bertrand's Postulate for \ n\geq6\ ", CoRR.





[tex: ]


ALIA VERITAS AD ALIAM SEMPER VIAM STERNIT
ひとつの真理の考究は, かならずまたひとつの真理への道を拓く


フィボナッチ数とは, 黄金比の冪を √5 を用いて表示したときに, 無理数部に現れる分数の二倍である.

\begin{align} (F_n)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 5,\ 8,\ 13,\ 21,\ 34,\ 55,\ 89,\ 144,\ 233,\ 377,\ 610,\ 987,\ \\&1597,\ 2584,\ 4181,\ 6765,\ 10946,\ 17711,\ 28657,\ 46368,\ 75025,\ \ldots. \end{align}



平方数とは, 或る整数の平方に等しい数である.

\begin{align} (n^2)_{n\geqslant0}=\;&0,\ 1,\ 4,\ 9,\ 16,\ 25,\ 49,\ 64,\ 81,\ 100,\ 121,\ 144,\ 169,\ 196,\ 225,\ 256,\ \\&289,\ 324,\ 361,\ 400,\ 441,\ 484,\ 529,\ 576,\ 625,\ \ldots. \end{align}



pic-Arithmetica

算 術 ノ ー ト

Arithmētica はラテン語の第一変化名詞で, 算術や初等的な整数論を意味します. 当ブログでは, 算術と整数論, 特にフィボナッチ数や平方数に関する事柄, 面白いと感じた問題, そして数論における定理について, 気ままに記事を投稿します. 記事の内容に関する誤植や新しい発見などが有りましたら, 私の Twitter アカウント (@Numerus_A) までご報告頂けますと幸いに思います.

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